それはお風呂をいただく為に階段を下りようとした時でした。 廊下の角から小さな話し声が聞こえてきました。 「綾香さま、今夜も私の部屋で……」 「え、ええ……わかってるわよ」 「じゃあ、お待ちしておりますから……」 あ、あの大人しいセリオさんが…… なんて大胆な…… でも、常日頃、怪しげな関係を噂されている二人ですから…… その夜、私は悪いと思いつつ隣の部屋に聞き耳をたててしまいました。 パァン…… 最初に聞こえてきたのはそんな音でした。 「あっ……違います」 パシィン! 「こ、こう?」 「そうではなく……今のは痛いだけです。もっとソフトに」 「じゃ、じゃあ……」 ペチッ…… 「んっ……今度はもう少し強く……」 ペシッ 「そうではありません……」 スパァーン! 「これくらいです」 「……セリオ……上手いものね」 「綾香さまももう少し慣れてください」 「セリオさん、すごいですー」 い、いつの間にか、マルチさんまで。 もう我慢できません。 来栖川家の次期党首として、邸内の風紀の乱れを許すわけには行かないのです。 「だから姉さん、いったい何の話なのよ」 翌朝、私は居間で三人を問い詰めていました。 憤怒に燃える仁王のような形相をたたえて。 だのに綾香ったら、平然としているのです。 「芹香様、本日は御機嫌がよろしいようで・・・」 「ほんとうですー」 ロボまでもが。 あ、あなたたち! さ、昨夜いったい何をしてたんですか! と、尋ねると。 綾香はきょとんとした顔で、 「ツッコンでただけよ」 私は激怒して叫んでいました。 何をー?! どこにーっ?! 少しの間があって、セリオさんが頷きながら、 「芹香様……それこそ正にツッコミです」 とだけ呟きました。