機械婦警12&13(ゲームセンターまるち) 投稿者:AE 投稿日:12月26日(金)18時33分




「機械婦警12&13(ゲームセンターまるち)」         by AE
                           2003.12.26


  <今までのあらすじ>

     時は未来。
     所は地球。
     道理すら歪むロボット社会に、
     愛機トゥデイを駆る、この女子(おなご)。 

      (背景:月面にメット無しで立つ、二つの人影)

     銀河系最大の破壊者であり、冒険家、量産マルチ&セリオ。
     だが、人は彼女らを・・・「機械婦警12&13」と呼ぶ!





「こーどもーのーころはーーそーらーをーとべーたーよーーー」

   などと思わず口ずさんでしまう今日このごろ。
   みなさんはいかがお過ごしでいらっしゃいますか?
   僕はとってもラッキーです。
   なんてったって、降って湧いたような休日様が明日に控えておいでなのです。

”ここ一カ月、休んでないんでしょう?
 ちょっとした撮影があるから、行ってらっしゃい。
 二三枚写したらそのまま帰って、明日は休んでかまわないわよ。”

   ありがとう、編集長。
   この職に着いてからというもの、休日のありがたさは身に染みておりますです。
   原稿集めて取材して写真とってコラージュして怪我をするしかない僕には、身に余る光栄です。

   そんな僕は月刊誌の編集者をやって生計を立てているのです。
   月刊「ロボメディア」という雑誌。
   「ロボットの雑誌」ではなく、最近流行りだした「ロボットが読む雑誌」だ。
   なんじゃそりゃあ?などと昔の人間は思うかもしれないが、現在では承知の事実。
   自律権を得たロボットが、人間と一緒に働いたりケンカしたり結婚したりしている社会。
   まあ、なかなか過ごし易い世界ではある。幸せだ。
   あああ。
   明日休めるというだけで、この人生観の変りよう。
   道行くネコにすら笑いかけてしまうほどの幸福感。
   ネコは逃げるが、そんなことはどうでも良い。
   とにかく、今日の仕事にかける意気込みも湧いて来るってもんだ。
   で、またまたラッキーなことに、編集長が選んでくれた今回の現場ってのが、もう!

「レトロなゲームセンターの取材」

   これほど僕にぴったりの仕事も無いのではないだろうか?!
   自慢じゃないが、古いゲームにゃチョットうるさいぜ。がやがや。
   僕はROMコレクターなのだ。
   家庭用筐体だって、任○堂のファミコン(ゴムボタン)は言うに及ばず、古くは光速船まで持っている。
   二十世紀からのビデオゲームの事なら何でも聞いてくれ、ってところだな。
   まあ、『どこにでもいる只の』ゲーム好きな一青年とでも思ってくれ。
   当然、これから行くゲーセンだって知っている・・・っていうか通っていた。
   もっとも学生の頃の話で、ここ数年は忙しくて忙しくてこの駅で降りる事もなかったんだが。
   バス停の近くにあるこの店は、なんでも半世紀以上続いている老舗らしい。
   たしかに、その品揃えはただごとではない。二十世紀の筐体まで完動しているのだから。
   まだあるかな、まだ遊べるかな、などと期待と不安に背を押され、僕は懐かしいゲーセンへの
   坂道を歩いて行ったのだった。

      ・

      ・

      ・

      ・

   で、到着した。
   店内に入る前に、辺りを見回す。店の外は記憶と全く変わりが無い。
   おお、あのバス停の脇のネコプリなんか子供の頃のまんまだぞ。
   これは中も期待できるな、と拳を握り締めて自動ドアをくぐる。
   ぷーん、と漂う喫茶店の香り。何なんでしょうね、この香りは。
   大抵の喫茶店に必ず染み着いている、懐かしい香り。
   入口からの風景は、大型筐体と人ごみの嵐だ。
   お決まりのエアホッケーとか最新型の体感型ゲームに、若い衆が興じている。
   その人ごみを避けて、たしかこっちだったような・・・と、店の奥を目指した。
   そして、背丈ほどの観葉植物の鉢の向こう側を覗くと・・・

   ああ。

   広がる、テーブル筐体の間!
   あれだよ、あれ。座ると膝が邪魔でガニマタでプレイせざるを得ないヤツ。
   かがんで読んだ、ガラス板とテーブルの間に挟み込まれたインスト。
   それなりの数のプレイヤーに、観客。懐かしい、FM音源にビープ音。
   店内の片隅に設けられたこの一区画で、ゲームのご先祖様たちは元気に僕を迎えてくれた。
   定番のインベーダーも、「スペースフィーバー」とか「インビンコ」とか、亜流品まで揃えられているし、
   あのク○イジークライマーや・・・おお、B−wingまで健在だ。ザビガ人は?
   格闘モノなんか、ひとつのメーカーごとにひとつの筐体が与えられており、
    過去の全てのソフトが遊べるようになっている。
   仕事は後回しだ!
   ホロ3Dとかの派手なゲームは趣味じゃない。ひさしぶりにご先祖様に遊んでもらおうか・・・

   と、名作コーナーに足を踏み入れた時のことだった。

   僕は、周囲の若きゲーマーたちの雰囲気がオカシイことに気がついた。
   無理に”何か”を無視しようと努力している。
   白昼堂々とアダルトビデオの撮影があったりすると、周囲の人間はこんな感じになる。
   (↑どういう例えだ?)
   そんな電波を発している中心に・・・・・・怪しげな人影があったのだ!
   人影は二人。 僕の方からは背中しか見えない。
   ロボットだということは耳カバーですぐにわかった。
   ロボットがここに来ること自体は珍しくもなんともない。
   ただ、その二人の服装にアッケにとられた僕は、視線を動かすことができなくなった。
   それがまずかった。
   突然振り向いた、赤い髪のロボットの方と視線が合ってしまったのだ!

「──おや、あなたは」

   ヘビににらまれたカエルのように動けなくなる、僕。
   赤い髪のロボットは、ざむざむ、と僕の方へ近づいて来る。
   低身の緑髪のロボットも振り向き、彼女に続く。
   二人とも両手を前で合わせて、かしこまった姿勢で。
   その服装のせいで、顔は隠れてよく見えなかった。
   先月に折った、肋骨が痛む。
   僕の肉体は迫り来る恐怖を予知していたのだ。
   僕はははかかか身体ににききき緊急避難をししし指令したたた。

   がしぃぃぃぃっ!

   遅かったらしい。
   顔を背けた僕の両肩が、ほぼ同時に優しく掴まれる。

「すみません・・・」
「ちょっと・・・」

   なにもしてません、なにも知りません、許してください、と遺伝子が泣き叫ぼうとするのを、
   古きゲーマーのプライドがかろうじて止めた。

「な、な、な、何か御用でしょうか?」

   最小旋回角10度で僕の首がパルス的にデジタル回転し、近づいた二人の顔を視野に捉える。
   あ。間近で見ると結構可愛い。
   緑髪の方なんか、この場で包んでお持ち帰りしたいくらいだ。

   ・・・などと騙されてはいけない!!

「おひさしぶりです」
「奇遇ですね」

   そこに居たのは前世紀を生き抜き、機械婦警となったメイドロボットいやさ破壊神、
   HM−12マルチ様&HM−13セリオ様の御二方様だったのだ!

「拝謁の栄に服し、恐悦至極に存じ奉りじゃあ僕は仕事がありますのでこれで」
「ますます奇遇です」
「私たちも仕事で来ているのです」

   なに?! と、ここで聞き耳を立ててしまうのが雑誌編集者兼ライターのサガなのだろう。
   婦警が仕事で来ている・・・なにか事件の匂いがする。それもロボットがらみの。
   それは僕にとってメシのタネに他ならない。
   逃げ腰だった僕は振り向いてセリオさんの耳カバーにささやいた。

「い、いったいどのような?」
「それは秘密です」

   セリオさんが言う。

「そう、秘密捜査なのです」

   マルチさんが続ける。

「捜査、というのが秘密なのです、マルチさん」
「すみません」

   しゅん、と無表情のままうつむくマルチさん。

「じつは」

   セリオさんの方が僕の耳に唇を近づけてささやいた。
   シャンプーの香りがしたりなんかして、ちょっとドキドキものだ。

「このゲームセンターに関する良からぬ噂を耳にしまして」
「怪しげなアーケードコピーROMの売買がどうとかこうとか」

   ぎく。
   いや、決して作者がやましい事をしているわけではないのですったら。
   と、お二方が懐から差し出したその手には、警察手帳(?)があった。
   ロボット婦警の証しだ。見せるのがクセになっているらしい。
   でも、POLICEの上にBRAVEとか油性マジックで書き加えないで下さい、頼むから。

「それで潜入捜査を行うことになったのです」
「なったのです」

   マルチさんが復唱する。

「「ぜひ、捜査に協力願いたいのですが」」

   当然協力してくれますよねぇ・・・セリオさんの無表情はそう訴えている。
   こくこく、と僕はうなずいた。
   断ると厄介なコトになりそうだったし、タナボタで記事のネタになるかもしれないし。
   良し、と快諾する前に。僕は先程から聞きたくて聞きたくてタマらなかった質問を発した。勇気を出して。

「ところで、お二人のその格好はなんなのでしょうか・・・?」
「まる三日間かかって製作した、潜入用擬装コスチュームです」

   セリオさんの答えに納得できない僕は、二人の”擬装”を注意深く観察した。
   マルチさんの方はジーパンに真っ赤なジャンパー。頭には真っ赤なアポロキャップ、
   その正面には「両目が(☆ ☆)で、叫んでいるクマの顔」という怪しげなマーク。
   ちゃんと刺繍してある。
   セリオさんの方は、なんと、学ランだ。
   サラシを巻いた裸の上半身に、龍虎の裏刺繍の入った長ランを羽織り、ダボっとしたズボン。
   サラシで潰れたバストの谷間に魂が吸い込まれるのは決して僕だけではあるまい。
   などと考えながら視線を上げると、学生帽の後ろがボロボロに破れている。
   そこから漏れるポニーテールと、綺麗なうなじがちょっとセクシー、と感じた時、
   長ランの襟元から覗く龍虎にガンを飛ばされた。
   でも、なぜ、鉄ゲタ? と、僕はセリオさんの足元に視線を落とす。

「磁力で壁を登ることができます」

   ・・・だから?

「ゲームセンターと呼称される遊戯場での正装」

   マルチさんが自分の姿を見回しながら、

「のはずですよね」

   アゼンとしている僕にたずねた。

「かつ、最も目立たない服装と資料から判断いたしましたが」
「・・・学ランが?」

   セリオさんの答えに、僕は思いっきり不服そうに言う。

「みなさんも着用しているではありませんか」

   返せなかった。
   いやまあ確かに遠巻きにしている学生は、学ラン姿が多かった。
   だが、もちろん彼らの裏地には龍も虎も住んではいないだろう。

「おかげで、すんなりと何事も無く潜入できたわけです」

   えへん、というトーンでセリオさんが続ける。無表情で。
   僕は、僕たち三人を遠巻きにうかがっているゲーマーたちに気づく。


”アブないぜ、あいつら・・・”
”近寄らない方が身のためだな・・・”


   大正解です、みなさん。あなたがたゲーマーの野性本能は実に鋭い。
   しかし、僕は同類ではありません。サトルなんて名前じゃないんです。

「じゃ、じゃあ、僕はプレイしたいのが向こうにあるから」

   じゃっ、と爽やかに微笑みながら最新機種のコーナーへ向けて避難する、僕。
   その袖が、つんつん、と引っ張られた。
   マルチさんが、(輝かないが)つぶらな瞳で僕を見つめている。

「これ・・・」

   反対の手は、古い筐体を指差していた。

「これ、どうやるんですか」

   無表情のまま、マルチさんがたずねた。

「そ、そこに書いてあるはずだよ」

   テーブルのガラス板の下に挟まれたインストを示す。
   その時、マルチさんの(輝かない)瞳に魂がこもった!

   うるうるうるうるるるるるる・・・・・。

       ・

       ・

       ・

   名機HM−12の「うるうる」に勝てるロボマニアが居るのだろうか?
   勝てない。 完敗だ。
   マルチさんはすでにイスに座ってスタンバイ状態。
   隣のイスを引っ張ってきて、僕も並んで座る。
   マルチさんがコインを投入した。

「むぅ、ミサイルコマンドか」

   初心ロボながらマニアックで見事なチョイスである。
   上から降って来るICBMを対空ミサイルで誘爆させ、画面下の都市を守るゲームだ。
   対空ミサイルの照準は、トラックボールで行うというマニアックな操作。
   コレとかマーブルマッドネスといった壊れやすい筐体が完動しているのは、ここの店主の
   愛のこもったメンテのおかげなんだろう。
   マルチさんは人差し指で、つんつん、とトラックボールをつついてから、ごろごろ転がし始めた。
   つんつんごろごろ、つんごろごろ・・・・・・。
   よっぽど気に入ったらしい。 まあいい、説明してあげようか。

「画面の下に並んでるのが”都市”。三つある山には対空ミサイルがあって、空から落ちて来るICBMを」

「援護して、人間のみなさんが平和に生活していらっしゃる”都市”を、
 完膚無きまでにとことん破壊し尽くし灰燼と化せ はーろーうぃーん というわけなのですね」

      ・

      ・

      ・

   いや、悪気はないんだろう、たぶん。
   そう信じたい、と僕は心の底から全人類に祈りを捧げることにしました。
   あれ、都市には照準が合いませんよ、おかしいですねぇ、
   がんばって下さい、ICBMさん。あっ、爆撃機さん、やっほー!
   などと”えきさいと”する無表情な機械の乙女を無視し、今度こそは、と避難を試みる。

   が、無駄なあがきだった。
   大型筐体の脇で、今度はセリオさんにロックオンされてしまう、優柔不断な僕。

「これはどのようなルールがあるのでしょうか」

   彼女が選んだのは、紅の筐体”アウトラン”だった。 ドライブゲームの名作だ。
   当然、2じゃなくて1。ポリゴンなんて皆無ですよ。
   2のCGを見て「なんだなんだデスクリムゾンの続編か?!」と思ったのは僕だけではあるまい。
   ふむ、セリオさんはなかなか趣味が良いではないか。彼女とは話が合うかもしれない。

「とにかく、タイムアップまで全速力で走るんだ。
 途中のチェックポイントで時間が延長して、次のコースを選ぶことができる」

   セリオさんはコインを入れ、マニュアルシフトを選んでスタート。
   BGMは「SPLASH WAVE」。 おお、曲の好みまで一緒だ。

「まあ、綺麗な背景ですね。それにとても感じの良い曲・・・」

   ますます趣味が合う。
   わあ、お付き合いを申し込んじゃおうかなぁ、などと不謹慎な事を思った時。

「あの・・・」
「うん?」

   鼻歌でSPLASH WAVEを奏でていた僕に、画面に集中しているセリオさんがたずねた。

「必殺技はどうやるんですか」
「ひっさつわざ?」

   こくん、とセリオさんはうなずくと、先行するライバル車のリアめがけて全速力のまま突っ込んだ。


   がっしゃあーーーーん!!


   跳ね上がり、天高くバク宙する赤いテスタロッサ。道路の端に自由落下する。

      ・

      ・

      ・

   二人は、ぼ〜、っと画面を見つめていた。

「壊れてしまいましたね」

   うん、と僕はオートマチックにつぶやいた。
   タイムカウントが00になり、GAMEOVERの文字が輝く。

「終わってしまいましたね」

   うん、と僕はオートマチックにつぶやいた。

「私たちのパトカーなら、ゲージMAXで二三台は排除できるのですが」

   あれですか、あなたの車は溜めると何か召還できるんでしょうか。
   しかしまあ、そうなんだろうなーと、僕は驚かなかった。
   彼女らのミニパトなら、「俺を殺すんなら水爆でも持ってきやがれ」ってところだろう。


   やはりついていけない。


   逃げよう。


   と、抜き足差し足で動き出したときのことである!

「おうおうおう、ここらへん(←レトロコーナーの意)じゃ見かけねぇツラだなぁ?!」

   やたら大きなダミ声が聞こえた。
   振り向くと、学生服。セリオさんが着用しているのと負けず劣らずの風体。
   しかも、こちらは年期がこもった「素」である。
   で、いかにも歳食った顔。ほら、留年し続けて大人になってしまった中学生って設定だ。

「女? しかもロボットたぁ・・・俺をナメてんのか?」

   こ、こいつは確か・・・

「げ、ゲーム番長?!」

   まだ通ってやがったのか?
   僕が学生の頃にも生息していた厄介者だ。
   一人プレイしていると、勝手に乱入してきたり評論したり。
   「勝負だ」とか言って、平安京エイリアンで邪魔穴を掘る・・・そういうヤツだ。
   とにかくとてもイヤな奴なんだ。それでいて、この店の主みたいな顔をする。
   見物するのは良いけど、技の評論とかしないでくれ頼むから。
   だから、スターブレードやってる時に後ろから「PSの方がキレイ」とか比較するなよ、S学生!
   この「筐体」が男のロマンってヤツなんだ!

   ・・・まあいいや。

「勝負とまいりましょう」

   は?

   そんなセリオさんの学ランの袖を、マルチさんがつんつん。

「勝負とは、なんでしょう?」
「ゲームセンターでは、このような時には勝負を行うのが礼儀なのです」
「そうなんですか」
「日頃鍛え抜いた技と運で、互いの雌雄を決するのです」
「そして負けた方が勝った方のお嫁さんになるわけですね」
「そうとも言います」

   言わない。
   なぜか勝手にランダムシナリオが起動したようだ。

「てええい、ぐだぐだ言わずに勝負の方法を決めねえかっ!」

   番長は乗り気だ。
   きっと、最近は相手をしてくれるゲーマーがいなかったんだろう。
   ・・・哀れなやつだ。

「それなら戦いの場所は私に仕切らせてはくれないかな?」

   振り向けば、オヤジ。
   「ゲームセンターあらしの幻の第一話でLSIチップの講釈を始めた店長」のような
   まさに絵に描いたような『店長』が、カジノ風の服装で立っていた。
   無論、赤い蝶ネクタイ。・・・なんか、僕の記憶の彼方にある歳格好と全く変化が無いんですが。
   まさか、ロボット? いや、おそらく代々の血筋が、この風格を遺伝していらっしゃるのだろう。
   
「勝負の方法はアウトラン一本勝負! 日時は今!」

   無理すぎ。
   しかし、いつの間にか集まったギャラリーが、番長とセリオさんに続いて行進を始めていた。
   ・・・って、どこへ行くのか?






   戦士達は、エキシビジョンステージのある川岸に移動した!
   良くはわからんが、勝負に河原はつきものなのだ。
   巨大なスクリーンが敷設され、そこには既にアウトランのデモが映っている。
   ちゃんと二組分。いつの間に。
   アウトランには対戦機能はない。同時にスタートして先にEDにたどり着いた方が勝ちなのだろう。

「で、なぜに助手席があるのでしょう?」

   僕はアウトランの筐体に収まったお二人に声をかける。
   セリオさんの左横には、いつの間にか備えつけられた助手席と、怪しげな照準器が輝いている。
   本体に合わせてちゃんとフェラーリレッドに塗装されて。
   そしてそこにはマルチさんが、ちょこん、と座っていた。

「マルチさんにはガンナーをつとめてもらいます」
「がんなー?」

   はい、と答えたマルチさんは無表情だったが、とても嬉しそうだ。

「それではゲーム戦士諸君!」

   店長が吼える。
   いつの間にか彼らは戦士になってしまっていた。

「チャレンジ、ゴオォーーッ!」

   思うに、Gガンの「レディ、GO!」は、スーパーカークイズの「チャレンジ、ゴー!」の
   パクリではないかと筆者は考えるのだが、何を今更という感じではある。
   店長の叫びと共に、戦士達のテスタロッサがバックファイヤと共にスタート!
   アウトランにこんなCGは無いはずだが、見えるヤツには見えるのである。脳内で。
   すでに周囲の観客もプラモイン!というかカイザーインしているのだ。
   当然、戦士達はドライバースーツに身を固め、メットONである。
   自機が転べば怪我するし、Gもかかるのだ。脳内で。
   海沿いの最初の急コーナー。
   番長は全速でアウトから侵入。ライバル車とコースの隙間をドット単位で避けていく。
   確かに、うまい。人生と引き替えにゲーム道を選んだ人間のワザである。
   一方、ロボ姉妹のテスタロッサは真っ直ぐにコーナーへ侵入。
   その目前に、SE○Aの看板が迫った!!

「あぶないッ!」

   叫んだ僕の目の前で。
   セリオさんのテスタロッサのリトラクタブルヘッドライトから一直線に光条がほとばしった。
   ずっびぃぃぃぃぃぃむ!! ってな感じだ。
   ビームというか、初代グラディウスのレーザーのごとき輝く包丁が、発光を続ける。
   障害物は消滅した。街路樹やボートハウスまで黒焦げになっている。
   シールドのパワーカプセルや、SpeedUpのベルとかが漂ってきた。

「な、なんじゃあ、そりゃあ?!」

   番長は驚愕の叫びを上げる。 が、操作自体を止めないところは”自称プロ”のプライドなのだろう。

「カーブしないで、一直線のコースを選ぶわけです」

   そんなのアリか、おい。
   そして、焼きはらわれた大海原に突入、まっすぐに爆走するテスタロッサ。
   ・・・ふと見ると、筐体から一本のコードがセリオさんの耳パーツに伸びている。

「は、背景を造っているよ、このひと(ロボ)」

   しかし、なんという背景なのだろう。
   シュールリアリズム(←だっけ?)な誰かの絵画をもとにした、スクロール背景。
   足の細く伸びた象の行進をくぐり、
   橋の上で叫んでいる男に手を振り、
   ぐにゃりと溶けた時計が生えた砂丘を突き進む。

「セリオさん、空からICBMが」

   背景だけでは飽き足りなかったらしい。

「撃つのです、マルチさん。対空ミサイルを撃つのです」

   マルチさんの絶妙な操作で静止衛星から発射された弾幕は、
    テスタロッサに襲いかかるICBMを、完全に封じた。
   いったい何のゲームだ、これ?
   それでも、

   うおおおおおおおおーーーーっ!!!

   吼え上がる観客席。
   アツいヤツらの熱い声援が特設会場に沸き起こった!
   そのとき、画面全体がラスタースクロールして、闇に変わって行く。
   けたたましい警告ブザーが鳴り響き、
   ”WARNING !!”
   という巨大なロゴが画面一杯に表示され、海の底から巨大なシーラカンスがその巨体を現していく!
   ・・・海の底、って何処だよ。

「ボス、ですね。マルチさん」(注:アウトランでは余程の事がない限り、ボスは出ません。)
「覚悟はできてます」

   そう言ってマルチさんはシートの上に、すっくと立ち上がった。
   おおお?!
   やっぱりヤルのか、アレを?!

「どぅおりゃあぁぁぁぁぁっ」

   気合の入った声がとどろき、マルチさんは天高くジャンプ!!
   空中でマルチさんの両の目が「☆ ☆」になったッ!!
   出るぞ! いま必殺の・・・



「炎のゴマ!!」

   ・・・ぱっぱっぱ。



   どっかあああーんッ!!! ぱり〜ん。

   観客席の各所で意味不明の爆発やらガラスの割れる音が発生した。

「あれ・・・?」

   空中で焦げた調味料を散布したマルチさんは、ひらり、と身を翻して落下、
   すたっ、と着地してアポロキャップごしに頭を掻きながら、死屍累々の観客席を見る。

「ま、いいか」

   そう言って、再びジャンプするマルチさん!!
   今度は額のチャクラ(あるのか?)も三つ目の「☆」になるッ。
   観客総立ち!(←瀕死者あり)
   今度こそ出るのか?! 秘技が?!



「木魚のポーズ!!」

   ごろん。



   どっこおおおーんッ!!!
   めこっ、と大地が沈み、まるで鈍器で殴られたような失望が観客席を襲う。
   そして、身体を丸めたまま落下したマルチさんの破壊力はムーンクレスタのメテオのようでありました。

「な、なにかちがう・・・」

   ノリをはずされたゲーマー達の失望には、ボムやPOWよりも破壊力があった。
   フルーツに変わってるヤツまでいるぞ。(筆者は EXED EXES が大好きだ!)
   そして、物理的ダメージもでかいようだ。四方から接近してくる空飛ぶ救急車。
   乗せられた患者には、腕が一組余計に増えるというオマケ付きだ。
   それでも、意識が少しでも残っている者は、自分から進んでこの場に残っている。

”ゲーマーっていいなあ・・・”

   僕は心底、そう思ったのだった。
   (筆者迷:今回、何人の人が読んでくれて、何人の人がついてきてくれてるでしょう?
    ・・・二人くらい?)



   とかなんとかやってるうちに、番長の方は最終エリアに突入した!
   カーブなしで、一直線にゴールに突進しているはずのセリオカーだったが、

「ステージごとに魚介類と戦ってるんじゃ、時間の無駄だよなー、やっぱ」

   うんうん、と包帯だらけの僕はうなずいた。
   何を賭けているのかよくわからん勝負だったが、彼女たちは真剣だ。

「しかたがありませんね、マルチさん」
「はい」

   さんざんハズされて、もう信じまい、と思っていた僕だったが、今度の決意はウソではないようだ。
   次は出る。
   彼女達のホントウの必殺技が。

「やめるんだ、マルチ!」
「サトル・・・私、今とても幸せだぜ」

   なんなんだ、この会話。

「セリオさん」
「はい」
「壊れちゃったら直して下さい」
「もちろんです」
「いきます!」

   ぐおおお、と全身をバネに変えつつ無表情で震え始めるマルチさん!

「超必殺!」
「ロバ投げつけて(C モンティパイソン)、スーパーロバは無しですよ!」

   僕が叫んだ瞬間、マルチさんが手にした手綱を隠したようだったが、気のせいでしょう。
   でも、顔だけこちらを向いたマルチさんの無表情は、とても悲しんでいるようでもあり、
   水差すなよシバくぞこの野郎、ってな感じにも見えました。後が恐いです。
   くだらんネタを考え出した筆者の頭上にも、死んだ牛が降ってきそうです。

「しかたがありませんね」

   ふがいない相棒をフォローすべく、今セリオさんが立つ!
   学ランをはだけた!
   サラシに手をかけた!
   脱いじゃった!


「ノーブラXXX打ちー」


   セリオさんのたわわな連撃を受け、アウトランのシフトレバーがLにHに。
   いやもう、自機は加速したり減速したりで戦略的には何の意味もないんですが、
   その揺れる二つの第一種放射線管理区域がLにもRにも。
   観客の視線も揺れる揺れる。
   そそそれは反則ですだよ、セリオさん!

「大きいのはお嫌いですか」
「いえ、僕的には最高ッス」

   うおおおぉーっ、と奇妙なオーラで燃え上がる観客席。
   今まで見て見ぬふりで自分のペースを守っていた番長も、これにはたまらなかった。
   ・・・というか、死んだ。身体中のありとあらゆる穴から吐血して。
   悪は滅びました。

   と、勝利のエールと鼻血に送られるセリオさんの肩をマルチさんが、ちょんちょん。

「セリオさん、セリオさん」
「何ですか、マルチさん」
「ノーブラなら別に脱がなくても良かったみたいです、ほら」

   と、指差す先に復刻版の件のマンガが。主人公のお母様の活躍が。

「つまり、露出度が高すぎた、と」
「そのようです」
「風紀的にまずかったでしょうか」
「そのようです」
「それでは」

   言うなりセリオさんは両手で胸を隠し、片足を後ろに曲げて黄金のポーズ、






             「いや〜ん、まいっちんぐ!」




























「・・・という言い伝えが、あの青い星には伝わっておるのじゃよ」

「ふぅ〜ん」

   さして感心した様子もなく、幼子は宇宙服のバイザー越しに伝説の星を見上げた。
   その北半球には、大きく穿たれた真っ朱な火口が揺らめいている。
   数世紀を経て自然が回復しても、マントルにまで届いた傷跡は癒えることがない。
   疲れて見下ろせば果てしなく続く白い砂丘が、近い地平線で丸まっていくのが見えた。

「大気圏内での重力崩壊3.5秒。
 たったそれだけの短い時間じゃったが、わしらの祖先はあの星を捨てねばならなかったのじゃ」

「信じられないなあ、昔、そんな大災己があったなんて」

「破壊すなわち創造。あの方々はわしらを重力の井戸の底から解き放ってくれたんじゃ。
 あの大異変が起きなんだら、わしらはずっとあの星に縛られたままだったろうな」

「それで、その女神様たちはどうしたの?
 マイクロブラックホールに吸い込まれて、しんじゃったの?」

   老人は孫の問いかけには答えずに、地球とは反対側の漆黒の闇を見つめる。
   沈黙に促され、幼い男の子も老人の視線の先を見た。
   無限に広がる大宇宙。
   この星系中に広まった人類+ロボさえも、その深淵には未だほど遠い。
   少しの沈黙の後、老人が言った。

「女神様たちはな、死んでなんかいないんじゃ。
 われわれの事を、時を越え時空を越えて見守っていて下さるに違いない。
 正しい歴史を歩むように先祖達を諭したり、
 誤った歴史を作ろうとする悪者たちを滅殺したり、
 青い髪のカツラを着けて赤毛の冒険者を導いたりしているんじゃよ」

「ふぅ〜ん」

   そう言って男の子はクルリと振り返り、コロニーから乗ってきた小型艇の方へと走っていく。
   老人もコラコラと後を追い、数分後、小型艇はコロニーに向けて反物質推進で飛び立っていった。
   地球エクソダス記念日の、月面のとある場所での出来事だった。







                「機械婦警12&13」   完。








   ・・・という夢を見た。


以上。


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エンディング

 貴方がいつか あの町まで
 行くことがあったなら
 桜並木のゲームセンター 訪ねてほしい
 そこに今も 小さな筐体の
 ネコプリが働いていたら
 私はとても元気とそれだけ 伝えてきてほしい

 銀色耳カバー輝かせ よく転んだあの道も
 今では歩道も無くなって
 私を忘れたでしょうか

 桜並木 そこはいつも
 夢が還るところ
 時が流れ去っても あの日の
 私がいる ふるさと

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>無口さま
 「魔改造」に爆笑しました(笑)。