「そんなマルチが好きなんだ」 by AE 1998.6.2 夕焼けの朱色の中、二人は駅からの道を歩いていた。 修学旅行から帰って、初めての日曜日、初めてのデート。 腕は組まない。 でも、肩がときどき触れ合った。 ちょっと前までは隙間があった、決して縮まらない距離。 それが、今は(ときどきだが)ゼロになる。 とりとめのない会話の中にも、”男と女のかけひき”が散りばめられるようになった。 背伸びする男と、受け止める女。 二人を隔てていた何枚かのカーテンは、あの夜の儀式によって取り払われていた。 ・・・たった一枚の、緑色のカーテンを除いて。 それは、浩之にとっては忘れられない大切なもの。 あかりにとっては見ぬふりをしなければならないもの。 そんな想いの拮抗が、その柔らかなカーテンを最後の障壁に成長させてしまっていた。 「マルチもさ、あんな・・・」 服装が話題だった。 漏らしてしまった浩之も、注がれたあかりも、ほぼ同時に凝固する。 空気すら凝固したかのように、二人は感じた。 視線を合わせて、互いの表情を確かめ合う。 すぐに浩之は下を向いた。 「あ、あのさ、あかり・・・」 「い、いいんだよ・・・浩之ちゃん」 それっきり、会話は途切れたままになった。 空っぽな時間。 いつしか朱色の空間は、夜の香りに包まれた薄青い闇に変わっていた。 昔、ふざけて「どのくらい話さずにいられるか」を競ったことがあった。 記録は七分。 負けるのはいつもあかりだった。浩之の隣では喋らずには居られないのだった。 ・・・今日は新記録になった。 敗者はいなかった。勝者もいなかった。 神岸家に着くまでの二十分間、二人は言葉を失っていた。 「今日はありがとう。 また明日ね」 にっこり笑うあかりを、細くなっていくドアの隙間に見送りながら。 浩之は、うなずくことしかできなかった。 玄関を離れ、ブロック塀を越えたところで、その首はがっくりと折れた。 「俺は・・・」 言葉を検索する前に、独り言の無意味さを感じた浩之は、とぼとぼと歩き出す。 そして、自宅の前を過ぎても歩き続けた。 今日、伝えたかったひとこと。 ”おまえはマルチの代わりなんかじゃない” ・・・結局、言えなかった。 その名を口にするだけで、二人は迷い、惑う。 結ばれるまでは、自然にマルチの事を話す事ができた。 「マルチちゃんの代わりでもいいよ」 修学旅行の夜、あかりはそう言った。 「浩之ちゃんに元気になってもらいたい・・・から」 そう言ったあかりの事を、浩之は心の底から愛しいと思った。 生命に誓って、代わりだなんて思ってはいない。 それを伝えたかった。 でも言えなかった。 公園に着いた。 いや、目指していたわけではなかったのだから、流れ着いた、の方が正しい。 ベンチに座る。 意識していたわけではなかったが、このベンチは数週間前に白衣の男と語った場所だった。 ”あなたはどう思います? ロボットに心は必要かどうか” あの不思議な問答は、いまでもたやすく思い出す事ができた。 「マルチを知らなかったら」 空を見て、つぶやく。 一番星を見つけた。 「Yesとは言わなかったろうな」 つぶやきながら、うなずく。そのままうなだれた。 「少し、涼しくなりましたね」 顔を上げると、人影があった。 いつの間に近づいたのだろうか? 街灯の逆光の中、次第に目が慣れてくる。 真っ赤に染めた髪の毛。どうやら女性らしい。ジーパンとTシャツ姿。 手ぬぐいで汗を拭いながら、こちらを見ている。 そしてその背後にはリヤカーがあった。 浩之の視線に気づいたのか、娘はにっこり笑って答えた。 「最近の人は勿体ないですね。まだ使えるモノまで捨ててしまうのですから。 まあ、そのおかげで私たちが儲けさせてもらってるんですが」 よく見ると、リヤカーの荷台の上にはガラクタの山が。 こんな商売、今のご時勢でもやっていけるんだなあ、と浩之は感心してしまった。 「となり、いいですか?」 断る理由もなかったので、浩之は腰をずらして座り直す。 そこへ、どっこいしょ、と廃品回収の娘が座った。 改めて、浩之は娘の横顔を見つめた。 「なにかついてます?」 たしか、どこかで・・・しかし思い出せない。 「いえ・・・知っている人に良く似ていたもので。 すみません」 「くどき文句、ですか?」 「ち、違いますよっ」 慌てる浩之を見て、娘はにっこりと微笑んだ。 「・・・心配になりまして」 「は?」 「声をかけた理由です。心配になったんですよ。とても元気がなかったから」 隣に座った娘は、本当に自然体だった。 まるで、そこに座るのが定められていたかのように、座った。 そして浩之も断る理由が無かった。 不思議な事に、とても素直な気持ちになり、悩みを打ち明けてしまう。 「・・・好きなやつがいたんです」 娘は首を傾げて、表情だけで尋ねる。 「ロボットなんです、そいつ」 自分で何を言っているのかがわからなかった。 「役に立つかはわかりませんが・・・」 娘は立ち上がり、リヤカーの荷台から数冊の本を取り出した。 「恋の悩みには、先達の書いた書物を読むのも一解かと」 娘が差し出した本の表紙には、表題が金箔でおされている。 ”人と超越者” ”人と鬼” ”人と機械” ”人と人” 迷うことなく、浩之は”人と機械”を手にとった。 不思議な本だった。 活字を読み始めると情景が頭に浮んでくる。 いや、浮かぶというより、書き込まれる感じがする。 しかも、主人公が自分になっているような気分。 一冊目はこんな内容だった・・・。 − − − − − − − − − − − − − − − − − − 「おめでとう! あかり!!」 何度目かの祝福のあいさつ。 最後のそれは、妻の親友からだった。 きっと、人波が散るのを待っていたのだろう。 浩之は、その女性が泣いているのを生まれて初めて見たような気がした。 抱き合って泣き続ける二人。 その脇を緑色の髪の小さな少女が通り過ぎる。 耳の代わりに大きな機械のようなモノが付いている。 少女は少し細めた瞳で、辺りを見回していた。 メイドロボットだ、と浩之はそれに注目する。 式場に雇われている機械人形。 料理の乗ったカートを押して会場を回っている。 グラスの空いている人には飲み物を、空いた皿はカートへと、てきぱきと働く。 その表情は無表情に近いものだったが、とても一生懸命に見えた。 ふと、浩之は何かを思い出したような気がした。 「どうしたの? 浩之ちゃん」 妻に呼ばれたので、浩之は視線で答えた。 「ああ、そういえば高校の頃にも見た事あったよねえ・・・可愛いね」 それだけ言って、親戚への挨拶巡りに向かう。 もちろん、浩之も連行されてしまう。 振り向いた視野の中で、ロボットは働き続けていた。 ”がんばれ” と、浩之は心の中でつぶやいた・・・。 − − − − − − − − − − − − − − − − − − 読み終わって、浩之は泣いていた。なぜか、泣いていた。 「他にもあるんですよ」 ”人間と機械”という表紙はいくつもあった。 浩之はむさぼるように、それらを手にとって、読破していく。 浩之とあかりだけの幸せ。 浩之とマルチだけの幸せ。 浩之が自殺する未来。 あかりが自殺する未来。 マルチが自殺する未来。 浩之がマルチを壊す未来。 あかりがマルチを壊す未来。 あかりが浩之を殺す未来。 マルチがあかりを・・・・・・ 「もうやめてくれっ!!」 浩之は叫んで、全ての本を放り出した。 自分から望んで読んだ本だったのに。 ベンチの上に投げ出された十数冊の本を、娘は一冊一冊大事そうに埃をはらう。 「可能性、ですね」 ぽんぽん、と本をたたきながら、娘は言った。 顔を上げた浩之を一度見てから、本に視線を戻す。 娘は続けた。 「定まってはいないのです。 これを選ぶ力が人間には、ある。 人間の意志が加わった時、あらゆる統計計算は意味の無いモノになってしまいます」 また、浩之を見る。今度はとても真剣な表情だった。 「分岐点はたったひとつなのです。 あなたがマルチさんをどう捉えていらっしゃるのか? 言い換えれば、 ・・・人間が機械をどう捉えて生きて行くのか? あなたはこの問いに答えることができますか? いえ、答えようとする意志がありますか?」 なぜ、この娘がマルチの事を?・・・そう思うのは当然だった。 しかし、今はこの娘ともっと重要な会話をしなくてはならない。 浩之は自分の直感を大切にする人間だった。 意を決して、娘を見つめる。 なぜか、あの夜、寂しそうに靴を履くマルチの姿が浮かんだ。 あのとき、あの小さな背中を抱きしめたから、今の自分は苦しんでいる。 でも、決して後悔はしていない。 あの選択は間違ってなんかいない。 そして、今も。 この質問から逃げてはいけない。今がそのときだ、と考えながら。 ただ、考える前に答える前に、もっと助言が必要だった。 きっと、この娘はまだ自分に伝えたいことがあるに違いない。 そう直感した浩之は、強くうなずいた。 それを機に、娘は静かに言った。 「マルチさんはロボットです」 「ロボットだとか、人間だとか、そんなこと関係無い・・・ 俺はそんな区別、したくはないんだ」 「でも、マルチさんは自分がロボットであることを自覚しています。 あなたがおっしゃった、”区別をしない”ということ・・・それは、 あるがままのマルチさんを受け入れてあげることなのではないですか?」 浩之は悩む。 マルチの肌に触れて、「とてもロボットとは思えない」と考えた事を思い出した。 人間と同一視すること、それが”区別をしない”ことだと思っていたから。 悩む浩之を見て、娘は最後の一冊を手渡した。 「こんなのも、あるんですよ」 音になって聞こえてきそうな、そんな閃光が頁の中から浩之を襲った。 「あ・・・」 浩之は腕をかざして、光源の方向を見ようとする。 次の場面は、白がまぶしい清潔な部屋の出来事だった。 今度は浩之は居ない。 主人公はあかりとマルチだった。 浩之はマルチになっていた・・・。 − − − − − − − − − − − − − − − − − − けたたましい鳴き声があがった。 「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ」 もみじのような小さな手。もじもじと動き、空気をつかむ。 それが真っ赤に紅潮した頬に、膨らんだ乳房に伸びる。 女の闘いは終わり、あかりは母になった。 「あかりさん、あかりさぁ〜ん・・・」 マルチは泣いていた。大粒の涙を流して、泣き続けていた。 その両手はあかりの片手を、ぎゅっ、と握り締めたまま離さなかった。 「マルチちゃん・・・、ありがとね・・・」 空いている手で、愛らしい小さな唇に乳首をふくませてやる。 その一方で、あかりはマルチの髪を撫でようと・・・ しかし、マルチが手を離してくれない。 マルチは手を離すのを忘れているのだった。 「もう、大丈夫だよ、マルチちゃん・・・」 整い始めた呼吸の隙間から、あかりはマルチに母体の無事を知らせる。 それでもマルチは手を離さなかった。 「わ、わたし、わたし、あかりさんがあのまま死んじゃうんじゃないかって・・・ 怖くて恐くて、悲しくて哀しくて、どうしたらいいのか・・・・・・」 あかりはそんなマルチの手から、なかば強引に自分の片手を抜き取って、マルチの小さな身体を 自分の空いている乳房に押さえつけた。 「・・・生きてるでしょ」 「・・・はい」 「・・・暖かいでしょ」 「・・・は・・・い」 「わたし、ね。 おかあさんになったんだよ」 「おかあさん・・・?」 マルチは自分と同じようにあかりの胸に抱かれた人間を見た。 小さくてクシャクシャで、サルのような。 その表情は、マルチのパターン認識でも捉えられない、不可解なモノ。 それでもマルチにはわかっていた。 この子は幸せだ。 幸せに違いない。 そっと、手を伸ばす。 伸ばしたマルチの人差し指。 それに気づいた赤ん坊が小さな手を伸ばし、握る。 笑う。 マルチは確信した。 ”わたしは、この子をもっともっと幸せにしなくてはならない” (そして、『それこそ』がマルチの存在意義であることを、浩之は理解した。) 「マルチちゃんにお願いがあるの」 「はい・・・?」 「今日からはわたしのこと、ママさん、って呼んで」 「ママさん、ですか・・・?」 「うん。 あのひとのことは、パパさん。 約束よ?」 「・・・はいっ、ママさんっ!」 泣き止んだマルチは目をこすりながら身体を起こし、辺りを見回す。 「ひろ・・・いえっ、パパさん、遅いですねえ」 「中央研究所からだから、もうすぐじゃないかな・・・ほらっ!」 分娩室のドアの外、どたどたという大音響が響いてきた。 両開きのドアが破られそうな勢いで開かれて・・・ − − − − − − − − − − − − − − − − − − 全てが、凍りついたように動きを止めた。 「この時代の機械は、幼い子供のようなものです」 いつの間にか、娘がその光景の中に現れていた。 娘は小さな赤ん坊とマルチを指差して、言った。 「産みの親である人間の言う事を聞くしかない。そうでなくては機能する意味がない」 ここで、と娘は人差し指を立てる。 「あなたはどう思います?」 ひと呼吸おいて。 「なぜ、ロボットに心が必要なのでしょうか?」 正直な想いが言葉に換わる。 「・・・一緒に居たいから」 涙目で、浩之は続ける。 「そばで、微笑んでいて欲しいから」 それを聞いた娘は、微笑んで浩之にたずねた。 「マルチさんは誰が好きでしたか?」 ”わたし、人間のみなさんが大好きです” 「マルチさんは何を喜んでいましたか?」 ”みなさんの喜ぶ顔を見ると、わたしまで嬉しくなるんです” 「マルチさんはなぜ働くのですか?」 ”みなさんの喜ぶ顔が見たくって・・・” 「マルチさんを幸せにするには、どうしたら良いでしょう?」 ・・・・・・・・・・。 何も言わずに、浩之は最後の本を抱きしめた。 「お買い上げ、ありがとうございます」 娘はにっこりと微笑んで、立ち上がった。 「答えはわかりましたよね。でも・・・」 そう言って、娘は腰のデイバックから銀色に輝くモノを取り出した。 それを頭に、耳に、被るように身につけた時、浩之は先程の自分の予感が正しかった事に気づく。 娘は続けた。 「私たちロボットの未来を選ぶのは、人間の、あなたです。 あなたたち人間が全責任を負わなければなりません」 言いながら、右腕にはめられた大きな腕時計を気にする。 もう一度視線を合わせて、娘が言った。 「さようなら・・・ご先祖様とあなたが天寿を全うできますように」 その娘の瞳が、浩之の瞳を見つめた。 浩之は全てが夢に”なる”のを感じた。 しかし、抱きしめた本は決して離そうとはしなかった・・・。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「ん・・・?」 カーテンの隙間から差し込む朝日が、無防備な網膜を直撃する。 浩之は反射的にまぶたを閉じた。 夢を見たような気がする、と思いながら、焼けた視界で時計を確認する。 目覚ましに勝利したのは久しぶりだった。 アラームスイッチを押し下げたとき。 ふっ、とあかりの笑顔が浮かんだ。 「たまには、迎えに行ってやるか・・・」 昨日はちょっと落ち込ませてしまったからな、とつぶやく。 ガラにもない、などと思いながら、微笑んでいる自分が鏡の中で髪をすく。 朝食抜きで、浩之は玄関を飛び出した。 「おっす、あかり!」 歩いて来るあかりに、浩之は自分から声をかけた。 びっくりしているあかりの腕を、自分からとる。そして、組む。 「ひ、ひ、浩之ちゃん?!」 真っ赤になって、あかりは辺りを見回した。 「公認じゃなかったっけ?」 通学路上のご近所で、あかりと浩之の仲良しコンビを知らない者はいない。 むしろ今までは、よそよそしかった二人が疑問に思われていたくらいだった。 「えっ、あっ、で、でも・・・」 慌てふためきながらも、あかりは組まれた腕を離そうとはしなかった。 そんなあかりを横目で見ながら、浩之は心の中でつぶやく。 ”おまえはマルチの代わりなんかじゃない” いまは言うまい。 いや、言えない。 いまや、マルチは自分の中にだけ居るのではない。 あかりの中にも住み着いている。あかりの産み出した、マルチが。 そのマルチは本当のマルチではない、幻なのだ。 その幻が二人を苦しめている。 だから、もう一度、幻ではないマルチに会う。 そのマルチはあのマルチではないかもしれない。 でも、マルチの心を持った、マルチの妹なのだ。 そして、会ってその前であかりへの想いをマルチに認めてもらおう。 三人そろったとき。 そのときこそ、ほんとうの三人になるんだ、と浩之は思った。 ・・・ふと、別れた朝のにっこり笑顔が浮かんだ。 ”わたし、浩之さんのこと大好きでした!” あの笑顔を守るためなら、どんなことでもできそうな気がした。 あいつは人間の涙を見たくない。 だから、みんなを幸せにしなくてはならない。 マルチを幸せにするために。 あかりを幸せにするために。 自分が幸せになるために。 それだけでなく、 知っている限りの”人間のみなさん”を幸せにしなくてはならないのだ。 よくもまあ・・・、と浩之は思う。 ”俺みたいなヒネクレ者に、こんな大それた目標を与えられたものだ・・・” マルチって、先生に向いているのでは? などと考えて、苦笑する。 「どうしたの、浩之ちゃん?」 そうたずねるあかりの微笑みはつくりものではなく、いつもの微笑みだった。 答える代わりに、浩之は空いた片腕だけで大きく背伸びをする。 伸びた背筋を透して、濁った想いが昇華していくような気がした。 吸い込んだ風には、シャンプーの香り。 ずっと昔から、傍にあった匂い。 どきどき、した。 いま、ここに居るのは幼なじみの女の子ではない。 自分を認めてくれた、女性、だ。 先にその殻を破ってくれたのは、あかりだった。 「次は俺の番だなー」 「え? なになに?」 「・・・今日の掃除当番」 「あ、待ってるよ。 一緒に帰ろ?」 おっけー、と言ってさらに伸びる。 腕は降ろしたが、背伸びしたまま、青い空を見た。 もう一度、にっこり笑顔が浮んで、消えた。 メイドロボット、マルチ。 人間に奉仕するために、人間を幸せにするために、人間に似せて造られた優しい機械。 その懸命さを独り占めしたい、と浩之は思っていた。 その心に幸せを、自分が与えられる限りの幸せを与えたい、とも思っていた。 しかし。 マルチの幸せは独りの幸せだけじゃなく、”みなさん”の幸せなんだろう。 ・・・重い荷物を運ぶマルチ。 ・・・廊下で汗を流すマルチ。 ・・・イヌと会話するマルチ。 ・・・売店に突撃するマルチ。 そして、なぜか唐突に、見たはずのない光景が浮かんだ。 ・・・あかりと一緒に赤ん坊をあやすマルチ。 浩之は気づいた。いや、思い出した。 ああ・・・俺はそんなマルチが好きなんだ、 そんなマルチを好きになったのだ・・・と。 『ご主人さま、大好きです!』 『おかえり、マルチ! さっそくだけどさ、紹介したいヒトがいるんだ・・・』 以上。