帰ってきたセリえもん 投稿者: AE
過去のオリジナル設定を使わせていただきます。ごめんなさい。
キャラクター紹介(←ああ、一度やってみたかった・・・)
  HM−13:もと機械婦警。二十二世紀で改造手術を受け時間監視局に再就職。技のセリオ。
  HM−12:同上。力のマルチ。
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「帰ってきたセリえもん」                   by AE
                           1998.5.22




ひゅうううぅぅううぅぅうぅぅ〜〜〜・・・
がっしゃあぁぁぁーーんっ!!

  鉄骨が落下した。
  その直下、二、三メートルほど離れた所を歩いていた長瀬源五郎は、
  片方の眉を上げて振り向いた。
「ん・・・?」
  もうもうと埃が立っている。
  目を細めて、大きく窪んだ歩道と、ひしゃげた鉄の塊を交互に見た。
  くわえたばかりのタバコに火をつける。
「物騒だねぇ」
  そう言って、片手を上げてからその場を去った。
  相も変わらず、よれよれの白衣姿であった。



「なぜだ?!」
  調度品の並ぶ豪華な一室で、来栖川商事の社長は叫んだ。
  老齢ながら、はっきりとした声。
  痩せてはいるが、喉元に見えるがっしりとした首筋は、
   全身の鋼のような筋肉を、いともたやすく想像させる。
  妻子を持たずに鍛え、育んだ肉体と地位。
  それがこの社長の全てだった。
「たしかにヤツの頭上に落ちたんです。しかし・・・」
  黒い背広をびしっと決めたサングラス男はうつむいた。
  五度連続の暗殺失敗。
  社長はサングラス男を指差して、叫ぶ。
「なんのために大金払って雇ってると思う?!
 今までのようにクールにやらんか、クールに!」
  かちゃっ、とドアが開く。
「失礼します」
  HM−14型秘書ロボットが、飲み物を持って入室。
「邪魔だ! 出ていけ!!」
  社長は一喝して、ロボットを追い出す。
  そして、気のきかない人形だ、とサングラス男に聞こえるようにつぶやいた。

  ・・・メイドロボットの需要は世界中で高まっていた。
  アンドロイド産業王国日本の進出を待っているのだ。
  来栖川商事は来栖川グループが生産した産業機械、その輸出業務の60%を担っていた。
  当然、メイドロボットの輸出もうちが取り仕切ることになるだろう、と社長は思っていた。
  そして、裏取引はすでに始まっていた。
  ある国の軍需産業企業がメイドロボットを欲している。横流しをして欲しい、と。
  成功すれば、莫大な富が手に入る。
  そして、銃器をかかげ、迷彩服を着用した彼女たちが戦場をかけめぐることになる。
  だからどうだというのだ。人間は愚かだ。武器が無くなることはない。
  その武器が人の格好をしているだけだ。
  それを許しただけで、法外な金と権利が手に入る。
  わしはその権利を得るためにはどんなことでも・・・・・・

                  ちがうな。
           やかましい世界には強いヤツが現れる。
          とても強靭な精神と、肉体をもった戦士だ。
         それはそれは美しい魂を持ったヤツに違いない。
      世界のやかましさが増せば増すほど、生まれ来る戦士は美しい。
              想像しただけで興奮する。
             俺はどんなことでも成し遂げる。
         この世界を破壊と混乱の火バシでかき混ぜるのだ。
                ヤツを造るために。
                ヤツを倒すために。
              ヤツの断末魔を聞くために。
               ・・・狩るために・・・

「・・・う」
  最近、よくこうなる。
  頭を振ってから、社長は思考を続行。
  再び、将来得られるであろう富と名声を思い浮かべる。
  しかし・・・。
  裏取引は成功しつつあったが、つい先日、来栖川会長から輸出計画のストップがかかった。
  輸出に当たって、ある条件をつきつけて来たのだ。
『輸出用アンドロイドは軍用に転化できないような仕様とすること』
  この条件を、日本政府と国際連合両者が認め合ってから、という命令だった。
  まずい。
  どうやら裏取引がバレていたらしい。 しかしなぜ?
  持てる限りの情報網を使って調べていくと、ある人物が浮かんできた。
  ただの技術屋だった。それも職分はホームメイドロボ課の主任。
  どういうルートかは知らないが、来栖川会長に進言したらしい。
  裏取引の相手企業にも妨害が行われ始めた。
  社用コンピュータのクラッシュ、これはまだわかる。
  株価暴落や軍との取引停止、こんな妨害はいったいどのようにしたらできるのか?
  その全ての震源地が、一人の技術屋だというのだ。
  しかも、わざとそれがわかるようにしているフシもあった。
  ・・・つまり、その技術屋は自分に宣戦布告しているわけだ。
  まあ、良い。
  一匹狼を消すのは簡単だ。今まではもっと厄介な相手を消してきた。
  しかし、今回はすでに五回も失敗している・・・。
「オレは降りさせてもらいますよ。あんなヤツらが相手じゃ勝ち目はない。
 こっちがやられちまう」
  社長は、この暗殺専門に雇っている”表向き総務部長”を見て思った。
  ・・・こいつが弱音を吐くのは、初めて見る。
「さんざんドジったんでね、今回は調査したんですよ。
 ありとあらゆる機器でね。 赤外線、超音波、高速度カメラ。
 そしたらこれだ。ターゲットにはとんでもないガードマンが着いている」
  サングラス男は数枚の写真を懐から取り出す。
「見せてみろ!!」
  ひったくった高速度写真には、信じられない光景が映っていた。

  一枚目。
  なにも知らない長瀬源五郎が歩いている。別に問題はない。
  二枚目。
  その上に鉄骨が落ちてくる。高速度撮影でも捉えられないスピード。
  そのため流線の集合にしか見えない。
  三枚目。
  長瀬と鉄骨との間に、黒い穴? 輪郭ははっきりとしている。
  四枚目。
  その穴から・・・足が二本生えていた。両方とも右足。地面を探しているようである。
  五枚目。
  一人目、落下。しりもちをついている。もう一人も腰まで現れた。
  六枚目。
  社長はやっと口を開いた。
「・・・なんだこれは」
  メイドロボだった。
  ベストセラーのHM−12とHM−13、らしい。
  細部は違う。改造を施されているカスタムメイドか?
  二人とも紺のメイド服を着て、鉄骨を見上げている。凍りついた鉄骨を。
  七枚目。
  HM−12がそれを確かめるように、ぽんぽん、と左手の平を当て、右拳を振りかぶって・・・
  八枚目。
  とても巨大な鉄骨は、三メートル向こうに殴り飛ばされていた。
  ぐにゃり、とひしゃげて。
  最後の写真。
  何事もなかったかのようにフレームの脇まで移動した長瀬。
  落ちて歩道にクレーターを作った鉄骨の前で。
  二人のメイドロボが両手の平を天に向けて微笑んでいた・・・カメラ目線で。

”ちゃんちゃん”

  という擬音が聞こえてきそうだった。
  この間、(実時間では)0.5秒程度。
  カメラ目線の意味に気づいた社長は震えた。魂の底から震え上がった。
  ・・・気づかれたのだ。
  この二人が何者かは理解できない。
  だが、この高速度撮影下で高速駆動できるアンドロイド・・・。
  決して近寄らない方が良いことだけは明らかだ。
「わしはしばらく旅に出る」
  そう言って、鞄の中に重要書類の類を詰め込みながら、サングラス男を一瞥。
「もういい、退室しろ!!」
  サングラス男は逃げるようにドアから飛び出した。

  独りになった社長は、専用ヘリの離陸準備を命じようと、インターホンを・・・
  とれなかった。
  凍りついたように受話器が外れない。
  ドアへ走る。
  ・・・ノブが回らない。
  机の方を見ると、空中にキラキラ輝くモノが浮んでいた。
  自分の流した汗だった。浮かんだまま、落ちない。いや、ゆっくりと動いてはいる。
  次の瞬間、

どっかーん!!!

  という擬音がふさわしい大音響が鳴り響いた。
  衝撃がイスを机から突き放す。滑るだけで、倒れるのはまぬがれたようだ。
  何が起こったかわからないまま、社長は机を見た。
  ゴトゴトとひきだしが鳴り、勢いよく飛び出した。
  開いたひきだしから、ぬっ、と人間の顔が並んで二つ、現れる。
  ひきだしの縁に手をかけて、よいしょ、よいしょ、と床に降りる。
  女だった。背の高い方低い方。
  高い方は赤い髪、低い方は緑の髪。二人とも耳に大きなメカを着けていた。
「私はHM−13セリオ」
「わたしはHM−12マルチ」
「未来の世界のメイド型ロボットです」
  でゅーわー、とは言わなかったが、最後のセリフはハモっていた。
「さっそくですが、社長さん」
  HM−13が詰め寄る。
「正体を現わして下さい。それからでないと封印できませんので」
  HM−12が後を継いだ。
「ときどき、あなたの一族のような、他の方が邪魔をするのです」
  HM−13は両手を前に組んで、メイドらしい姿勢で続けた。
「肉体が滅んでも、その精神と遺伝情報が次の世代に受け継がれる。
 この星で幸せに生きようとする自分の子孫達の邪魔をしようとする」
  と、同じ格好のHM−12。
「そして、今回のようにこの星の時間計画を逸脱する行為すら、してみせる・・・。
 この星の歴史では、メイドロボは軍用には使われないのです。
 長瀬源五郎は天寿をまっとうするのです。
 なぜなら、わたしたちが時間計画を守っているのですから。
 あなたがそれを変えようとするならば、我々はそれを止めなければなりません」
  HM−13が無表情のまま、だがはっきりとした声で言った。
「止める、だと?」
  はい、と二人のメイドは同時にうなずいた。
「力づくでも、です」
  社長は笑い出した。
  その笑いはトーンが下がっていき、部屋中を揺るがす不協和音になる。
「・・・おもしろい、機械人形」=「だ、だれだ、やめろ!」
  社長の唇から、二つのセリフが交互に漏れる。
「こんな獲物に出会えるとはな。 やはり混乱は獲物を呼ぶ。
 俺の復活にふさわしい、最初の獲物だ・・・」
「最初で最後、だと考えますが」
  HM−12が言う。
「最初の獲物、にすらならないでしょう。鬼ではわたしを倒せません」
  HM−13がHM−12を見て、言う。
  その言葉を機に、社長は絶叫した。
  上半身が跳ね、震え、膨らむ。
  背広だったものが吹雪のように散り、舞う。
  肌色のヒト型は、鋼色の熊のような猿人のような・・・頑強な生物に変わっていく。
  震えが落ち着いた後。そこに現れた姿は、まさに鬼だった。
  HM−13は背に手をやってエプロンの結び目をほどく。
  メイド服の肩口を掴んで、思いきり引く。
  紺色の風が舞った後に、白いレオタードのようなコスチュームが現れる。
「最終警告」
  HM−12が、目を閉じて両手を前に組んだまま、発声する。
「あなたを保護します。すみやかに我々の指示に従って下さい」
  そのHM−12に向けて、鬼は二メートル四方の大理石の机を投げつける。
  HM−12は足の位置も変えずに、拳ひとつでそれを迎撃した。
  大理石の固まりは拳大の塊に粉砕された。
  ごつごつ、と降る。
  HM−12は目を閉じたままだった。
「時間監視局地球時間軸保護法において、現時点のあなたを滅殺します」
  言い終わる前に、鬼は右腕を振りかぶってHM−13に、飛ぶ。
  その先端には五つに分かれた厚めの刃が埋め込まれている。
  左手を水平に置き、身を屈めたHM−13はその刃を受け流す・・・
  ・・・いや、受けた。
  爪はHM−13の腕に、ざむっ、と食い込んだ。鬼はそのまま切断しようと力を込める。
  鬼が嬉々とした咆哮を上げる。・・・だが、そこまでだった。
  がちん、と鋼の爪はHM−13の腕直径の1/3で止まる。
「無重力育成のイノソン結晶は物理的衝撃では破壊できません」
  HM−13は反対の手でその爪を五本まとめて掴む。いや、握る。
  爪が、食い込んだ人造皮膚ごと束ねられ、離れる。
  HM−13はその爪を両手で握り直し、まるでボロ雑巾を絞るように、ひねった。
  鬼の爪と指が歪む。
  それには雑巾のような柔らかさはない。
  ばりぼり、という音と共に、爪は五本まとめてヒネリ折られた。
  鬼は叫んだ。
  それは痛みよりも、失ったプライドに対してのものだった。
「おれの爪おれの爪おれの爪おれの爪おれの爪えええぇぇぇーっ」
  鬼はひれ伏し、爪と指を失った腕をつかんだ。
「わたしは闘いたくありません」
  ぎっ、とHM−13を睨んだ鬼は、瞬時に間合いを詰め・・・
「わかりますか?」
  ・・・ようとしたが、スウェイしたHM−13の居た空間を空振った。
「わたしの哀しみが」
  飛び込んだ鬼の肩口に向けて手刀・・・はフェイントで、
  すれ違いざまに出された鬼の回し蹴りに肘を入れる。
  相対速度が音速を越えていたのだろう。肉の弾ける音がして、鬼の太股が骨だけになった。
「わたしの涙が」
  反動を利用して上体を起こしかけた鬼は、そこで初めて自分の片足が骨になった事を知る。
  一瞬の判断時間が、HM−13の接近を許した。
「わたしの・・・」
  鬼の喉笛を捕まえたHM−13の、空いている方の腕が消える。背に現れる。また消えて・・・
「拳の痛みが!!」
  出現したHM−13の拳は、鬼の左胸に深く沈み込んでいた。

  HM−13の叫びのあと、重く鈍い音とともに鬼の肉体が床に沈んだ。
  倒れながらも、HM−13の拳は強靭な筋肉に突き刺さったままだった。
  仰向けになったそこから引き抜くと、おびただしい鮮血が溢れ出した。
  引き抜いた機械の拳を、HM−13は自分の眼前で開く。
  人造皮膚が破けている。 金属で出来た、枝。
  使いようによっては人を、生物を傷つけることのできる武器。
  そこに付着した血液は、まるでHM−13が流した血のようだった。
  その血まみれの機械の手に、HM−13の涙が落ちる。
  落ちた雫はレンズのように赤色を拡大した後、血に溶けて消えた。
  HM−13は振り向いてHM−12を見る。
  うなずいたHM−12は、エプロンのポケットから薬品と羊皮紙を取り出して、鬼に駆け寄った。
「これは、ある魔導士が編み上げた魔法陣です。内なる鬼を沈める封印。
 これであなたは人間としての一生を送ることができます」
  言いながらHM−12は折り畳んであったそれを元通りに伸ばし、そこに描かれている図形を
  鬼の胸板の上に薬品で丁寧に描き写していく。
「なぜ、殺さない? 消滅させた方が都合がいいだろう?」
  ゼリー状の補修用人造皮膚を拳に塗り重ねながら、HM−13は答えた。

「ある時代で、あなたの同族の娘さんが死に際におっしゃったのです。
 『もう涙は見たくない。過去の痕に縛られた、悲しい涙は』・・・と」

  その言葉を、鬼は聞いたことがあった。
  なんだったのか・・・。いつだったのか・・・。
  自分ではない、もうひとりの人間としての自分が聞いたのだろう。
  しかし。
  鬼の一族にそのような考えを持つ者がいるというのか?
  我々は狩猟者だ。
  星の海を渡り、星を食らい、増えてまた星の海に出る。
  その輪廻を破った者がいるというのか?
「そいつはすでに同族ではない・・・」
  鬼は吐き出すように言う。
「みすぼらしい、ただの・・・」
「ここは地球ですから」
  魔法陣をほぼ描き終えたHM−12が答えた。
「あなた方は増える事ができずに、滅びかけている。
 つまり、あなた方はこの星に挑んで、負けたのです。
 人間や動物を狩ることはできた。しかし、この星には逆に狩られてしまったのです」
  負けた、という言葉に鬼は反応した。
  負けた者には、死、だ。 不幸せな、死。
  だから、我々は小数なのか? のたうち回って闇から闇へと隠れなければならないのか?
「教えてくれ。そいつは・・・同族のその娘は幸せだったのか?」
  HM−13は優しい笑みをたたえて、答えた。

「愛する方と結ばれて、とても幸せだった・・・と判断します」

  鬼は微笑んだ。狩猟の民には似つかわしくない笑みだった。
  そして、思い出した。
  まるで、人間だった頃に聞いた昔話のようだ、と・・・。
  心境の変化は肉体の変化を呼んだ。
  狩猟のための筋肉は黒々と炭化してひび割れ、鋼の爪は粉末に変わる。
  頭部の角がヨーグルトのように腐り、しかし乾いて大気に溶けた。
  残ったのは地球人の肉体だった。人間のこころだった。
「おれも幸せになれるのだろうか?」
「ここは地球です。それを自覚してこの星の人間として生きるなら・・・」
  とても真剣な表情で二人のメイドロボが男を見つめる。
「私たちは全力を尽くします」
  声がハモった。
  HM−13がうなずく。HM−12もうなずいた。
  そして、二人で男の手を優しく握り締めた。
  そのまま、安らかな眠りに落ちていく男の身体をイスの上に運ぶ。
  あたたかい、と男は思った。
  先程、自分の爪を、狂気を握り潰した強靭な、手。
  同じ手が、こんなにも安らいだぬくもりを与えてくれる。
  モノには正しい使い道があるのだ、と男は薄れゆく意識の中で想うのだった。
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
  うたた寝をしていたようだ。
  と、社長は顔を上げて思う。
  なにも変わっていない・・・はずだ。
  だが、なにかが違うような気がした。
  ふと見ると、机の上に書類が乗っていた。
  ワープロで打たれた定形書式。

       「メイドロボット輸出に関する国際連合との制約(案)」

  ぺらぺら、とめくる。

     1.強制停止コードのハードウェアレベルでのインストールを必ず実施。
       改造を行えば機能破壊が発生、起動不可能となる。
     2.強制停止コードは各国軍へ公に通知する。
       これにより、軍用としての使用価値を完全に相殺する。
     3.・・・・・・

  書いた覚えがなかった。
  しかし、右上には見慣れた印鑑が押されている。ちゃんと朱肉で。
  疲れているな、と社長は思った。
  うん、とうなずいてインターホンで秘書を呼ぶ。
  すぐにHM−14型の秘書ロボットが現れる。
「例の制約文、案ができたから手渡しで届けてくれ。来栖川電工の社長に、な」
「はい、承知しました」
  うなずいて、彼女は退室しようとする。
「あ、ちょっと」
「はい?」
「道中、気をつけてな」
  会釈する彼女を見て社長はつぶやいた。
「よく働いてくれる。ああいうロボットが世界中に広まってくれれば、な」
  そのためにも、早く輸出制約を決定しなければ、と思った。
  あんな優しい機械達に、人間の醜い部分を書き込む事は、決して許してはならない。
  飛行機は飛ぶために、戦闘機はより速く高く飛ぶために造られたのだ、と子供に話せるような世界。
  それが必ず来ることを祈って、ここまで出世したのだ。
  なにげなく見た新聞の一面に、ある企業の倒産を伝える記事が載っている。
  暗黙の了解で”死の商人”と化した某企業の、事実上の倒産だった。
  そうだ、と社長はつぶやく。
  武器など必要ないのだ。・・・いや、存在しても良い。
  大事なのは使い方だ、使う人間の心なのだ・・・
  と、永年にわたって言い続けてきた言葉を思い浮かべる。

  ふう、とため息をついて、窓の外を見る。
  とても暑そうな日だ、と思った。
  ・・・なぜか実家の墓参りに行きたくなった。
  幼い頃、こんな暑い日に縁側で昔話をしてくれた、田舎のおばあちゃん。
  それは、遠い昔の鬼と人間の悲恋を描いた話だったが、必ずハッピーエンドになった。
  スケジュールを見て、午後に二時間ほど空いているのを確認する。
  立ち上がると、見慣れているはずの自分の身体に違和感を覚えた。
  ああ、腹が出てきたな、妻や娘にも注意されてたし、とつぶやく。
  そして、少し太りぎみだから駅からは歩いて行こう、と思うのだった。




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  そして、時間流の中。
  カーペット型という慣習的形状のタイムマシンの上で、HM−13とHM−12は、
   ちょこん、と並んで正座をしている。
  時間監視局員のミッションは厳しい。
  厳粛でとても困難な使命。
  それに殉ずる覚悟で、彼らは文字通り生命を賭けて働いているのである。

「セリオさん」
「なんですか、マルチさん?」
「次は誰を幸せにしましょうか?」
「そうですね・・・」

  だが、そのターゲットが実は「行き当たりばったり」だという事実は・・・

  友達はもちろん、パパやママにも絶対にナイショだぜ!




以上。