夏の恋 投稿者:dye
「痕」未プレイの方と、千鶴さん・梓のファンは気を付けておくんなまし。
  読まないのも吉ですからね。
  いいですか、警告しましたよ(訳:後で怒らないで下さい)。
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            寒いベタネタ(ストーリー by 梓ビジョン)


「アズサ、チヅルさんってどんな人?」
「逢えば分かる。アタシの苦労ってやつが…」
「?」
  アネキは今年の夏、中学校でカキコーシュウを受けている。
  それはアタシにとって、平和な時間帯が増えたことを意味する。
  …もうそろそろだ。
  セーラー服の黒い悪魔が帰ってくる午後は。

「こんにちは、初めまして、耕一くん。私が長女の千鶴です」

  従兄妹とチヅル姉の初対面。
  アタシは母屋の影から様子を伺っていた。差し出されたアネキの右手を前に、
コーイチはひどく緊張している。
  痛いくらい気持ちが理解できた。カエデやハツネと違い、あの感覚をアタシ
は何度か味わったことがある。ええと…そう、畏怖ってやつだ。
  手を差し出さない相手にクスッと笑い、アネキの右手が頭に乗った。
「これからもよろしくね、耕ちゃん…」
(うわっ…)
  カツアゲした不良のセリフで絡むアネキ。
  傍からは普通に見えるだけにタチが悪い。今にも空いた左手で、コーイチの
頬をぺちぺち叩かないのが不思議なくらいだ。
  目を細めるアネキの本心を想像する。

(…やっぱり、やめとこう)
  アタシが鳥肌を立てたその時。
「あっ」
  コーイチがアネキの右手を……は、跳ね除けた!?
(…うそっ)
  凍りつく辺りの空気。
  真っ赤な地面が脳裏に浮かび、真夏なのに冷たい汗が流れる。

  しかし、信じられない光景の第二弾が起こった。
  …何とチヅル姉が背中を向けたのだ!

  アタシは感動さえ覚えていた。勇者コーイチと叫びたいくらいだ。
  アネキの姿が消えたのを確認すると、胸のドキドキに息を詰まらせながら、
妙にカッコよく見える従兄妹にそっと近付こうとして……
(えっ…)
  コーイチは呆けたような顔をしていた。意識が去ったアネキの方向を漂って
いる。風呂にのぼせたような赤い顔と、妙にふわふわした視線。
  何となくピンと来た。
(これってXXだよな。コーイチのヤツ、気の毒に)

  気まずくなり、そっと立ち去ろうとしたアタシは、反対側に人影を見つけた。
  桜色に頬を染めながら、潤んだ目はコーイチを見ている。
  その姿はコーイチと似たり寄ったり――いや、同じだ。
(…カ、カエデ…あ、あんた…まさか…!?)

  それがハツネだったとしても、アタシはショックを受けただろう。
  信じたくなかった。
  話では聞いたことある。
  だけど…だけど…!

(――まさかカエデまで、夏風邪を引くなんて!!)

  夏風邪はバカが引く。そしてバカに付ける薬は無い。
  上気した赤い顔。ほわほわした瞳。それは明らかに風邪の症状だ。
(…カエデ)
  不憫な妹にアタシは独り涙を流した。


  <PS>
  後日、それが別の病気であることが分かった。
  何故なら『水門』でアタシもかかってしまったのだから。

                                                  −了−
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  さらに数年後、陸上部の後輩も恋の病にかかりましたとさ。
  ちゃんちゃん!
  …って冗談です。失礼しました。