天使哀笑 投稿者:dye
                       <始めに>

   これは『創造・邂逅・流転・共鳴・集散』(各章5話)の続きものです。
   前話については、図書館のログを参照して下さい。
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    …継いだ『血』が伝える。
    遠い記憶は電波で形成されているもの。
    その形を解き、本来の姿に戻す。
    意志を持たせた「それ」は強いチカラ。
    それだけでは何も出来ない。
    だけど今の私は、信号化した意識を伝えることが出来る。
    チカラを放つことが出来るのだ。

    …継いだ『血』が叫ぶ。
    己を守る為に闘え。
    仲間を救う為に放て。
    そのチカラに命令するのだ。
    怒りを込めた大いなる破壊を――


  (…私は絶対にしたくない)


  身体を巡る熱さが不快だった。まるで風邪を引いた時みたい…そう思いかけ、
苦笑してしまう。そんな経験、私には無い。特にロボットだった『私』には。
(あっ…)
  今まで何気なかった感覚が、急に大切に思えてくる。雪の冷たさや、吐く息
の湿り気、髪がくすぐる頬の感触、それに…熱による不快感だって。これらは
センサーによる数値でなく、私自身の感覚なんだ。
(そうか…私…)
  古い記憶を取り戻した時は、人間でなかったことを嘆いていた。事実だけを
見て、遺された想いに気付かないでいた。現在の私は、かつての『私』が切望
した生きている感覚を手にしている。
(やっと今、全て記憶を取り戻したと言えるのかもしれない…)
  私と『私』が手を繋いだような気がしていた。そして、

(…ありがとう……お父さん…)

  これは帰ってから直接、言わなきゃならない言葉だ。



  楓さんが去り、私達は動いた。
(――魔法を使わないで…)
  この光球はあっさりと避けられる。届く寸前、男の人が移動したから。長い
命令だと、光球は上手く操れないようだ。
(――動かないで…)
(――止まって…)
  今度は2つに短い命令を与えた。男の人は一撃を狙ってチカラを込めている。
それが放たれる前に、終わらせなければならない。
  私の光球も数に限界がある。源は『私』の記憶なのだから。記憶の形を解き、
電波にして放つことは、記憶の犠牲を意味している。…今はまだいい。だけど
長引けば、大切な部分が欠けてしまう。

  続けて放ったチカラは、男の人の左半身――金属の部分に当たって散華した。
何の影響も見られない。生身の方――右半身に当てなければならないんだ。
(当てにくければ、光球を大きくすればいい…)
  虚空を漂っていた残りが、まるで火に群がる虫のように私の前へ集まり出す。
「!」
  瞬間、男の人が放った青の奔流が駆け抜けた。咄嗟に横に飛び込んだ私は、
体勢を立て直して呆然とする。集めていた光球が、跡形も無く消えていて…。



  継いだ『血』が吠え続ける。破壊しろ…そう、破戒しろと。
  戒めじゃない。奇麗事でもない。ただ、嫌なことを拒否しているだけ。
(それにこの人を壊したら、琴音お姉ちゃんに謝って貰えないじゃない…)

  琴音お姉ちゃんはきっと助かる。芹香さんに似た女の人に光球を飛ばした時、
お姉ちゃんにも「回復」を願った光球をそっと飛ばしたから。人の身体が持つ
治癒力の点では、お姉ちゃんは大丈夫なはず。
(…この人が嫌だと言っても謝って貰う。だから、壊すなんてダメ!)

  私は再び光球を造り始めた。
  解かれていく記憶が別れを告げるように、断片的に浮かぶ。

  …4月12日の初登校。
  …充電で訪れた図書館。
  …お昼の混雑。
  …綺麗に『私』が磨いた廊下。
(――ごめん)

  それから膠着状態が続いた。
  男の人が動き、攻撃する度、私の光球が次々と消えていく。まるで線香花火
の終わりみたいに、失われていく光が、戻らない記憶が悲しい。

  …何回、そんな思いをしただろう?

  ようやく終わりが近付く。
「がああああああああーーーー!!!!」
  光が男の人の右半身に走り、痙攣をもたらして動きを止めた。
(――ごめんなさい)
  あと一度だけ放てばいいのだ。「眠れ」を込めて。
  私は男の人に歩み寄った。攻撃に少し焦げた、前髪の臭いに少し咳き込む。
  …意識の集中。そして浮かぶ、解かれようとする記憶。

「――さん」

  一番の記憶。『私』が最も大切にしていた想い。
  それが私の躊躇だった。
  男の人が左腕を前に突き出し――
  危険に反応した『血』が働き――

  放たれた光に『私』の過去が弾けた。


                                        −第5話・完−

                                        以上『天使哀笑』の章、終了
                                        以降『天使帰還』の章、開始
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            <浩之のあとがき>

浩之:うりゃ、復活!  タイトルもいい感じだし(笑)、まずは予定!

    1.分岐は『帰還・第1話』終了より。
    2.ED1はED2の後に考えられたもの。そのためED1は部分的な話。

浩之:まあ、もうすぐ分かる…ってあれ?  先輩!?
芹香:………。
浩之:何ィィィ、あとがきは今回が最終回ィィィーーー!!??
芹香:(こくこく)
浩之:うぅ…やけに待遇がいいと思っていたら…(涙)。
芹香:………(ぺこり)。
浩之:だあああぁぁぁ、勝手に終わらせないでくれぇぇぇーーー!!!


                文字通り最後の  −終幕−