天使哀笑 投稿者:dye
                       <始めに>

   これは『創造・邂逅・流転・共鳴・集散』(各章5話)の続きものです。
   前話については、図書館のログを参照して下さい。
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  人間に意識してチカラを――それも、手加減なしで放ったのは初めてだった。
罪悪感よりも消費に伴う睡魔の方が激しくて、私の心は何も感じずに停滞して
いる。このまま眠れば、自己嫌悪による最悪の目覚めが待つのだろう。
(…だけど懺悔は、罪を確認をしてからだわ)
  霞む意識を叱咤しながら目を凝らすと、途切れた雪煙の向こう側に綾香さん
のシルエットが消え隠れしている。その背後で一瞬、何か光った。
「――後ろっ!」
  咄嗟に動く綾香さんと銀光が交差し、彼女の右腕が衣服ごと裂かれる。傷を
与えた男の左手は金属の爪が取り付けられており、ブレスレットのような物を
弄んでいた。
  それを見て曇る綾香さんの表情。私は今更ながら、不意打ちを受けた直後に
彼女が右腕を押さえていた理由が分かったような気がした。恐らくあれが護符
であり、右腕に装着していたのだ。
  信じ難いことだが、男には攻撃の余波が見られなかった。防いだとしても、
疲労すら与えぬ程、私と男のチカラに差があったのだろうか?


「…愚かだった…お前を捕らえた時点で移動すれば良かったのだからな。だが、
もう済んだ話だ。後悔するがいい!」
  機械の左手が護符を握り潰す。
「この距離でお喋りなんて、ずいぶん余裕ねッ!」
  間髪入れず仕掛けられた拳は空を切った。否、切らざる得なかった。
「…虐殺で、我1人生き延びた理由がこれよ」
  男の姿は5m先へと移動している。疑問が解明した。あの時も男はチカラを
防がずに『跳んだ』のだ。この切り札は効果的だった。私の消耗は限界に近く、
綾香さんは護符を失っている。
「まだよ、まだ…」
「――見えぬのか?  終わりが」
  詰め寄ろうとする綾香さんに青い光が飛ぶ。今度は偽りなく硬直したまま、
彼女は無残に倒れ込んだ。
「分かり易く見せてやるから、大人しくしていろ」
「!」
  もがく人質に薄く笑いかけると、男が私の方へ歩み始めた。
「これ以上の消耗は避けたいんでな。悪いがこっちだ」
  まるで顎のように、左手の爪が嫌な音を立てて開閉する。私の耳にはその音
がやけに大きく聞こえた。一歩、また一歩と、男との距離が狭まっていく。
(…ドウスル…ドウスレバイイ…?)
  汗が頬に流れる。考えろ!  私だけじゃない、あの子も助からないんだぞ!
何か、何か方法が――!
「…終わりの始まりだ」
  男の左手が私の頭上に掲げられ、反射的に目を閉じてしまう。恐怖でなく、
悔しさに身体が震えた。聴覚に空を切る鋭い音、そして風圧を髪に感じた瞬間。


「――そんな事させませんっ!」


  聞き慣れた声が聞こえた。反射的に開いた瞳が、信じられない光景を映す。
後ろで眠っていたはずの、あの子が爪の落下を止めていた。小さな右手が重い
金属の左手首を掴んで――。
「は、放せっ!」
  怒声でなく焦燥が男の口から洩れて、ようやく私も光景の異様さに気付いた。
男の膝は今にも崩れ落ちそうに震えている…この子の片腕だけの力に…!

「…マルチ…あなた一体…?」

  薄暗い夕闇の中、まるで金色の月のように柔らかく、あの子の目が光を反射
している。強すぎる疲労が、夢の幻を見せているのかもしれない。私には、瞳
そのものが金色に染まったように思えたのだから。


                                        −第2話・完−
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          <新メンバーのあとがき>

レミィ:ようやく主役が復活したネ!
あかり:み、宮内さん!?
レミィ:ヒロユキ泣いてたんで、アタシ代わりに来たヨ。
あかり:そ、そうなんだ…。
レミィ:ところでアカリ。今後の展開はどうなるの?
あかり:あ、はい。ええと、最終章のタイトルは『天使帰還』で…
レミィ:Really?
あかり:分岐によるEDが2つあって完結。共に違う結末なの。
レミィ:複雑デス…。
あかり:1つ目は…
レミィ:STOP!  続きは次回ネ!
あかり:どうして?
レミィ:『物は言い残せ菜は食い残せ』。全部は良くないヨ。
あかり:うん、分かった。それじゃ、また今度に。

            次回持ち越しの  −終幕−