天使集散 投稿者:dye
                      <始めに>

   これは『創造・邂逅・流転・共鳴』(各章5話)の続きものです。
   前話については、図書館のログを参照して下さい。
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「…………!」
  頬の冷たい感触に覚醒する意識。積雪から顔を上げると、右腕を押さえ
ながら膝を着いた綾香さんの姿が見えた。背後には、眠るマルチと連れの
女性の姿がある。綾香さんはあの子達を庇って負傷したのだろうか。
(…私…気を失っていた…?)
  よく見れば、私[姫川琴音]の後方には剥き出しになった大地が展開されて
いる。私は起き上がろうとし、全身の脱力感にもがいた。
「不意打ちとは言え、よく咄嗟に我がチカラを防いだものよ」
(…そうか、消費による脱力)
  その場を動けない私達を嘲るように、相手が雪を踏みしめ歩み寄る。
(…もっと近づきなさい。直に自分の不用心を思い知らせてあげるから)
  冷たい感覚が覆う心で、マントを纏った人物を目視する。半顔を覆う金属
は仮面だろう。昏睡覚悟で全てを放とうとした時!

  うずくまっていた綾香さんが跳躍した。喉笛に喰いつく獣にも似た一撃。
牙たる左拳が男の胸に吸い込まれようと刹那、綾香さんの身体を包んだ光は
私を驚愕させた。
「なっ…魔術!?」
  伸ばしたまま硬直した綾香さんの左腕を掴む男の腕が、私を更なる驚きに
打ちのめす。指先から肩までの金属の光沢と、マントの隙間から覗く機械で
満ちた半身…そして顔。マルチとは違う『科学と魔法』の形がそこにある。

「…チェックメイトだ。さて、呼び出して貰おうか…来栖川の魔女を」
  男は微笑みながら、綾香さんを片手で吊り上げて私を促す。
「……………」
「どうした。妹の命じゃ、魔女は動かぬのか?」
「――琴音さん」
  その時、綾香さんが悠然と口を開いた。来栖川に関わる人間は知っている。
彼女が姉を「魔女」と呼ばれる事を嫌っている事を。男は2度、それを口に
している。
「――もう、『終わった』かしら?」
「……おそらく」
  私は彼女の機嫌を気にしつつ答えた。傍目には怒気は見えない。
「…確かにチェックメイトね」
  綾香さんが低く笑う。
  私はそれを見て確信した。彼女は…確かに怒っている。


  『共鳴』を終えた私[マルチナス]は震えていた。
  一度に多くの事を知って、頭と心がパンクしそうだった。
  …もう一人の自分…失っていた記憶…雨月山の秘話…
  知らなかった方が良かっただろうか?
  ううん、知りたくなかった…

  ――自分が人間じゃなかったなんてっ!!

(…汝は生けるものとして、まだ2つの縛めを受けている…)
  これ以上、他に何があるっていうんですか…!
(…汝の生は人にあらざる短き花の命。それに子を成す事も出来ぬ…)
  ――っ!
(…だから、汝に受け取って欲しい。我らが継いだ天外の血を…)
  それに…どんな意味が…。
(…少なくとも、汝の生は伸びよう。それに…)
  ………。
(…汝の知己を助けることが出来よう…)

  そして空間に外の様子が映し出された。声も音もない無声映画さながらに。
虚空に結ばれた映像の中心には、雪と湿った土にまみれた女の人がいる。
「…琴音お姉ちゃん」
(――次は絶対に助けるから…)
「そっか。お姉ちゃん、約束を…」
  ひどく嬉しくて、そしてたまらなくお姉ちゃんにすがりたかった。この精神
の空間では涙は生れないから。
  琴音お姉ちゃんの右後方には、気を失った私と楓さんの姿があり、前方には
フード付きマントの人物が、芹香さんに似た(でも、全く印象が違う)人を捕ら
えている。

  ずっと過去が心を重くしていた。でも私は、目前の『今』を大切にしたい。
強がりなのか、逃避なのかは分からけど。
  私は首を縦に振って、了承の意思を示した。声には出さない。泣けない空間
とはいえ、鳴咽の声が洩れそうだった。無意識に両手で顔を覆ってしまう。


  ――そして私の身体に、ゆっくりと命の脈動が伝わり始めた…


                                        −第4話・完−
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           <3ヶ月ぶりのあとがき>

 志保 :お久しぶり〜!  私てっきり、出番どころか連載そのものが消えた
        と思っていたわ(爆)。
あかり:皆さん、お久しぶりです(ぺこり)。
 志保 :しかし、いきなりの展開がコレ?
あかり:作者は伏線解明の章だって言ってたから(苦笑)。
 志保 :じゃあ、全て出るのかしら?
あかり:…………。
 志保 :(ふっ、結局そういう事なのね)
あかり:次回で『集散』は終了。次章は『天使哀笑(あいしょう)』です。
 志保 :私の出番…?
あかり:(微笑みながら、無言で頷く)
 志保 :!!
あかり:では、また次回に。


                 平和のまま−終幕−