海と太陽 投稿者: dye
  分かりにくい内容ですが、『ホワイトアルバム』のネタバレになります。
  未プレイの方はご注意下さい。

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  私は海を内に抱えている。
  心の壁を侵さず、そして引くこともない波無き夜の海。
  怖いくらい静かで、覗き込むのを許さぬ深淵を持つ海。
  砂浜を走る風はない。
  潮の香りもしない。
  全てが静止した世界は、まるで一枚の絵画のようだった。
  ひどく冷めた蒼で塗りつぶされた画布。

  偶然が、あなたを画布に導いた。
  あなたは静止した海に時間を与え始める。
  砂時計の吐き出した砂が海へこぼれた。
  夜の海に生まれた、ほんの僅かな揺らぎ。

  水面に肥大する輪が生まれた。
  波紋がうねりとなり、連なる波となっては母体へと還ってゆく。
  まるであなたは、海に潮の満ち欠けを与える月のようだ。
  手に収めた真珠のような、身近で小さき氷輪。
  輝き秘めた一粒が太陽になるのを夢見て、私は身震いする。
  溢れんばかりの光を放つ…


「弥生さん、あのね…」

  未来の太陽が明るい笑みをこぼした。
  私は知っている。
  この輝きの源を。

「――君、今日もお店に居るかな?」

  洗練された結果とは違う、柔らかい光。
  私では彼女から引き出せない、自らも宿せないもの。
  ステージに不要な…でも、見るのは不快でないもの。

「…由綺さん。20分だけですよ」
「うん!」

  私は腕時計に心を移し始める。
  海が騒いで仕方がないから。

  そして、エコーズの扉のベルが軽やかに鳴り響いた。


                                              [了]
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                    <付記>

    副題「応援するぜ、弥生さんっ! さあ、由綺とお幸せに!!」

  …ってのは冗談ですが、WAのシナリオの中では彼女が一番好きです。
由綺シナリオ以外で、主人公が由綺の大切さを思い知る話でもありますし。

  関係ないですが、もし機会がありましたら「深夜の鳥取砂丘」に行かれる
事をお勧めします。海と空と砂丘のみ(人家どころか光一つ見えない)と
いった不思議な世界が見れます。…冬だとシャレになりませんけど(苦笑)。