葵シナリオ「痕」バージョン 投稿者:dye



         葵シナリオ「痕」バージョン   作成:97.11.12(水)

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                  <はじめに&キャスト説明>

  当物語は、「T.H」の松原 葵ちゃんのシナリオを元ネタに、「痕」の
配役で進めたものです。配役設定に無理がありますが、大目に見てください。

     藤田 浩之 : 柏木 耕一      松原   葵  : 柏木 千鶴
     坂下 好恵 : 日吉 かおり    来栖川 綾香: 柏木 梓

  話はイキナリですが、試合当日です。
最後に、私自身が「即興小説」コーナーに足を踏み入れて日が浅いので、過去
の掲載作品と同じものになっていた場合は無条件に謝ります。
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  もはや単なる練習試合ではなくなっていた。かおりちゃんが勝てば梓は
賞品として、かおりちゃんの自由になる。
  しかも当の梓が、オレ達の知らない内にレフェリーとして来ているのだ。
試合開始直前、動揺しまくる千鶴さん。オレは梓の助けを借りながら、何とか
千鶴さんをリラックスさせようとしていた。

「・・・かおりさん思ってた以上に敵意すごいし、それだけでも震え
  だしそうなのに、・・・梓まで来ちゃって、・・・私、・・・私 」
・・・千鶴さん。ときに見せる頑固な一面も、今みたいな自信がないときは、
発揮されないらしい。
いつものあの闘志に満ちた瞳はどこにいっちまったんだよ〜。
う〜ん。自分に自信か。格闘技における自信さえ回復すれば、あるいは・・・。
・・・よし。いっちょその辺に火をつけてみるか。
「千鶴さんっ!歯を食いしばれ〜っ!」
「!」
いきなりの大声にビクッとなる千鶴さん。そして、オレは、その頬を・・・!
ふたつの手のひらで挟むように、ぴちっと叩いた。
本当は目が覚めるくらい、思いっきりひっぱたいてやるところだが、やっぱ、
ちょっと後が怖いしな。
頬に手を当てたまま、真っ直ぐオレの目を見つめさせる。
「いいか・・・?」大きく息を吸い、そして、「エルクゥは強いっ!」
そう叫んだ。
「!?」
「このオレが断言するっ!エルクゥは強いッ!」
千鶴さんは、大きく瞳を見開いた。
「エルクゥは強いっ!(X7)エルクゥは―――」オレは大きく息を吸い、
そして、「絶対に、つよおぉぉーーーいッ!!」
ありったけの大声で叫んだ。
「はあ、はあ、はあ・・・」「・・・こ、耕一さん」
「いいか!毒電波はさておき、エルクゥは地上最強だ!それは、紛れもない
  事実だろ?そうだろっ!?」
オレは、そのままじっと彼女の目を見つめ、応えを待った。
「・・・・」
やがて、千鶴さんはグッと涙をこらえ、首をコクンと強く縦に振った。
「よしっ!」
オレもうなずく。
「いいか?こう思うんだ。かおりちゃんを殺すじゃない、料理するんだ」
「かおりさんを・・・、料理する・・・あっ!」
オレはまた、ぴしゃりと千鶴さんの頬を打った。
「そうだ。勝ち負けなんてどうだっていい!ただ、日ごろ止められてる分、
 思いっきり料理するんだ!」
「おもいっきり・・・」
「そして梓にも解ってもらおうぜ!決していい加減に料理してきたわけじゃ
  ないってことを!思いっきり料理して、私はこれだけうまくなりましたっ
  てことを、梓にもよーく味わってもらうんだ!」
「・・・梓に味わってもらう・・・」
「だから、思いっきり料理するんだ」「こ、耕一さん」
心なしか、とんでもない事を言ったような気がした。千鶴さんに、精気と闘志
が宿り始める。よおしっ!
「それじゃあ・・・」オレはすう・・・と息を吸い、そして言った。
「――行ってこおぉーーーーいッ!」
「ハイッ、耕一さんッ!」
千鶴さんは、頼もしいほど力強くうなずいた。


「それじゃ、始めるよ。両者、構えて!――レディ・・・ファイトッ!」
試合が開始されると、すぐに梓が近寄ってきて話し掛けてきた。
「・・・ところでさあ、耕一。さっき千鶴姉にどんなアドバイスしたのさ?」
「え?」
「耕一のお陰なんだろ?さっきまでと、ありゃ別人だよ。まさか<偽善者>
  と言ったとか・・・」
「べつにオレは・・・。ただ励ましただけさ」
オレは手短に説明した。心なしか梓の顔から血の気が引いている。
「千鶴姉のことだけど・・・。たしかにアレが最大の武器なのさ」
「・・・アレ?」
「料理のこと。いつも一口も食べられないまま終わるのさ。だから
  大した被害は出てないんだよ。破壊力は毒以上だと思ってるのに・・・」
「毒以上・・・ホントか?」
「うん。もともと味覚オンチであるし、偽善者だし、鬼だし。千鶴姉、
  そのうち、きっと誰か殺すよ。・・・皿だって、ずいぶんと割ったしね」
「・・・鬼?」
「うん、鬼、鬼。エルクゥになって、スピードもアップしたみたいだし、
  体重や筋力もずいぶんと上がったようさ。・・・そういえば、ツノも
  出てきたんじゃない?ほんのこの前までは、ただの人間って感じだった
  のにねー」
「・・・・・」


―――1分も経たないうちに、
「どうやら、決まりだね・・・」
ひどく落ち着いた声で、梓が言った。
「なっ!?」
「これはもう止めた方がいい。あんなの相手にしたんじゃ、かおり、
  千鶴姉にショック死するかも・・・」
「ショック死!?」
「もしそうなったら、そうそう出所(で)てこれないから」
「ち、千鶴さん」
ど、どうするんだ!?
とめたほうがいいのか!?
ついに、千鶴さんはフィニッシュの一撃を決めようと、かおりちゃんの
体を後ろに押しやり、間合いを取った。
その瞬間、かおりちゃんのガードも下がる。
「あぶないっ!ボディがガラ空きだよ!」
梓が叫ぶ。
もちろん、千鶴さんもそれを見逃さない。
「と、止めなきゃ!」
だが、遅い!
千鶴さんは雷光のように踏み込んで、かおりちゃんのボディに
渾身の爪を放つ!
「千鶴さあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー
   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」
オレが叫んだ、そのとき!

こおおおぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーんっ!

空缶にも似た軽音が、辺り一面に鳴り響き、小銃の
ような玉が炸裂した。
同時に。
「あっ!」
「!」
目の前には、うずくまる体があった。
それは、まるでスローモーションのようにゆっくり
と頭を上げ、そして・・・。
ガバッ、ズサッ、ズサッ!
脇目もふらずに立ち上がり、砂煙をあげて、後ろ
に下がった。
わずかな沈黙があった。
なにが起こったのかを理解するためには、わずかな
時間が必要だった。
「そ、そんな・・・」
瞬きさえも忘れて、その後ずさった方の体を呆然と
見つめながら、梓が呟いた。
「・・・千鶴さん」
オレは、千鶴さんを見た。
弱々しく震えた千鶴さんを見た。
ちゃっかりと、後ろで、木に隠れている、千鶴さんを見た。
そうだ!
うずくまり、林に逃げたのは・・・。
千鶴さんの方だった。
千鶴さんは木に隠れたきり、動かない。
あきらかに、怯えていた。
「・・・な、なにが、どうなったんだ・・・?なんで千鶴さん
  のほうが怯えてるんだ・・・?」
「・・・かおりのカウンターが・・・入ったのさ・・・多分」
オレと同じく、キツネにつままれたような顔をして
いる梓が言った。
「カ、カウンターって、でも、何の動作も・・・」
「・・・動作はあったよ。ほんの半歩、前に踏み出して、
  手首を効かしたていどの短い動作が・・・」
梓はそう言ってから、まさかと呟いた。
「まさか、あれは・・・炒り豆・・・?」
梓が、そんな場違いな言葉を口にした。
「イリマメ?」
「炒った大豆(ダイズ)のことだと思ったけど・・・」
「いったダイズ?」
あっ。そういえば・・・。

「――炒り豆って御存じですか?」
「いや・・・」
「今では落花生ですけど、昔は炒った大豆を節分にまいてた
  そうですよ。柏木家には節分がないんですが・・・」

以前、たしかそんなことを口にしてたような・・・。
「とりあえず何か言えよ。レフェリーなんだろ」
「あ、そ、そっか・・・」

・・・やがて、梓が大きな声で言った。
「飛び道具の使用!かおりの反則負けよ!」
その瞬間。
「か、勝てたあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
  こういちさぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、
  わ、わたし、勝ちました〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
千鶴さんは、ありったけの大声で叫びながら、一直線
にオレのもとへと駆け寄った。
そして――。
ドスッ!
ごく自然に、オレのミゾオチへと飛び込んだ。
「ち、千鶴さん!?エ、エルクゥ化を解いて・・・」

一方、向こうでは。
「うわあぁぁ〜〜〜〜んっ、梓せんぱあぁぁぁ〜〜〜〜
  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!」
よほど怖かったのか、かおりちゃんは座り込んで
そのまま思いっきり泣き出した。
「助かったんだ。助かったんだよ(梓)」
オレは千鶴さんのツノに怯えていた。
泣きじゃくるかおりちゃんに歩み寄りながら、梓はそんな
オレたちを横目で見て、ヤレヤレと呟いた。


            <4月29日(火曜日)・終了>

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                   −あとがき−

  お読み下さり、誠にありがとうございました。
会話や文章におかしな部分がありますが、元ネタの「T.H」葵シナリオ
4月29日と比べて頂ければ、納得して頂けるかと。
ちなみに「節分」の豆については実話です。