＜始めに＞

   これは『創造・邂逅・流転・共鳴』(各章５話)の続きものです。
 あらすじを作成しましたので、以前の話を望まれる方はお知らせを頂ければ
 メールでお送りします。
-----------------------------------------------------------------------

   私は夢を見ていた。普段は柏木 楓という自身を中心にした展開なのだが、
 今回は映画を追う観客と化している。内容は『マルチ』というメイドロボの
 誕生、浩之という高校生との出会い、そして二人を裂くマルチの死であった。
   もどかしい感覚が胸にある。喉まで言葉が出掛かっているのに、考えが形
 にならない。大切な何かが欠けていると思いつつ、私はストーリーを追った。

   物語が終わり、次の上映を告げるアナウンスと共に周囲が明るくなる。
 前方の席に若草色の髪をした少女を見つけた。彼女は知り合いだ。私は声を
 掛けようとして、相手の名前が出ず困惑してしまった。振ろうとした右手が
 行き先を失う。その時だった。

 （…楓の名を冠する娘よ。しばし待つのだ）
   …これは一体？
 （…汝の友人と近き存在。そして汝とも又…）

   待ってと言いかけた瞬間に証明が消え、開演のベルが鳴り響く。謎の声は
 去り、上映の幕が上がった。釈然としないものの席に着く私。内容は先程の
 話の続きのようだ。
   マルチの死に対し、生命あるものとして復活を試みる生みの科学者。協力
 を要請された女性が彼に説明する。

 「…若草色の髪。これは生命として不安定要素なんです。具体的にはホムン
 クルスにキメラ(合成)技術を用い、植物の因子を組み込んでいます。キメラ
 技術が生命に優れた能力を与えるか、致命的な負担を残すか不規則なんです。
 今までの実例が少ないので、どちらになるか…」

   物語が進み、科学者の男性が人工羊水の海の前で語る。

 「この子に、もうナンバーは必要ない。私は人間として育てるつもりです。
 そうだな・・・『マルチ』と呼んでも差しつかえが無いよう『マルチナス』
 と名付けましょう」

   背中に冷たい汗が流れた。私の手元に失っていた『マルチナス』という
 ピースが復元している。混乱を静めるように謎の声が再び訪れた。

 （…これは汝の友人に眠りし過去…）
   マルチナスさんの記憶・・・貴方は一体？
 （…かつて雨月山の名が在りし刻、大地を人血で染めた民がいた…）
   もしや、それは・・・。
 （…それは天外より来る狩人…）
   知っている…いや、憶えているわ。
 （…後にその天外の民も、自らの血で赤河を築く…）
   天外の民。エルクゥのこと？
 （…大地に根を張る我等はそれを受けた…）
   ま、まさか。
 （…天外の血を継ぎしは人のみに在らず…）
   雨月山の草木が!?

   ようやく私は、この状態がエルクゥ同士の精神感応である事に気づいた。
 もし見た話が事実なら…いや、一連の話は事実だ。エルクゥ同士の精神感応
 では嘘は不可能であるはずだから。
   私の考えに応えるかのように、周囲に花の芳香が漂い始めた。そう言えば
 マルチナスさんの近くに寒椿が咲いていたような気がする。
   過去の記憶で、髪の色を気にする彼女に父の言った慰めの言葉、
    『その髪は、お前が植物に縁のある証だ』
 まさしく彼女の身体を指した事実であると同時に、今となっては未来の暗示
 だったのかもしれない。

   マルチナスさんの失っていた記憶は分かった。残る謎は１つ、彼女が言う
 自分を悩ませていた「想い」の正体。私の憶測では、映像に出てきた「浩之」
 という高校生が関係しているはずだが。

 （今の自分と違う過去の想い人…か）
 銀幕の中で同級生と談笑する彼女に、私は複雑な視線を送る。
 （…本当に似ていたのね。あなたと私は）
 私は小さな友人に、親しみでなく哀しみを感じていた。


                                        −第３話・完−
-----------------------------------------------------------------------
        ＜あとがき＞

 志保 ： 楓さんが裏ヒロインの真の理由…か。
あかり： 残り２話は琴音さんサイドになる模様です。
 志保 ： 早いとこ進めて、アタシを出しなさいよ〜〜〜ッ！
あかり：(前回、浩之ちゃんを攻撃した本当の理由が分かった気がする…)
 志保 ： はぁ、はぁ。と、ところで状況はどうなの？
あかり： 綾香さんの語りをまとめるのが最大の障害なんだって。
 志保 ： (残り２話でいけるかしら・・・・？)
あかり： この章ラストでマルチちゃんが起きれば成功らしいよ。
 志保 ： 成る程、予定は未定ってやつね。
あかり： ・・・・・・
 志保 ： ・・・・・・
あかり： 志保。そろそろ終ろうか(汗)？
 志保 ： そ、そうね。
 二人 ： それでは、また次回に！

             浩之は無事だろうか？の−終幕−
-----------------------------------------------------------------------

 『創造・流転・共鳴』で張った植物の伏線の結果が今回の話です。
 エルクゥの血を引く植物。裏設定では攻撃的になる人間とは異なり、
 生存繁栄の面が強くなったとしています。
 『共鳴』謎の声の発言、「我」は寒椿で「我等」は植物の事だったんです。


                    ＜周回遅れのレス＞

鈴木Ｒ静さん：『Ｓメモ第５回』。闇判官・風紀四天王・テナント破壊・ 
              電波兵団・異星人など数々のキーワードの登場、先が楽しみ
              です。ＳＲＳさんに変わって頑張って下さい。

岩下 信さん：柳川の独壇場ですね。耕一が助けに入った時、ダブル・バウト
             へ突入かと思いました。レミィの敵討ちも含めて、(生命の)炎
             を狩る柳川と「火神」の浩之、まさに因縁の対決ですね。

セリスさん：『心、優しさ　外伝５　〜マルチの涙〜』。読後にサンデーで
            完結した某作品のセリフ「男は何人の女の子の涙を止められるか」
            を思い出しました。枕の濡れない夜が続くといいですね。

風見ひなたさん：『鬼畜セリオ物語』。確かに「掃除」だわ(笑)。「花火」に
                関しては、例の反転少女との黄金コンビ結成を想像しました。
                さぞかしデカイ花火が・・・(笑)。

ＵＭＡさん：『ＴＶで観戦 オリンピック』。マルチの前での変わり振り…
            あかり凄いっス。２連打といい、主婦(？)は強しの感が(笑)。
            そう言えば太田さんは、かなぴーになるんでしょうか？

久々野さん：『セリオちゃんとマルチちゃん』。風見さんの鬼畜ＳＳと言い、
            ギャグもいけますね、セリオ。

ゆきさん：『電車に揺られて』。何かについて語る展開は作者の素顔が見え
          るようで、興味深いです。ゆきさんの描く初音ちゃんって、大人
          の印象(「痕」本編に有る)がしますね。

            追伸：「シーソーゲーム」はミスチルで１番好きな曲です。

Hi-waitさん：『無題』。作戦その５。日吉かおり嬢と取り引きし、梓に…
             いかんいかん、リスクが高い。やっぱりオチの初音ちゃんの
             案がベストですね。


             レス内容、遅れてすみません。それでは。