『天使集散』 作者:dye

                      <始めに>

   この話は『創造・邂逅・流転・共鳴』(各章5話)から続いているものです。
 以前の話を望む方はメールを下さい。こちらから添付ファイルとしてテキスト
 をお送りします。 
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   私[柏木 楓]は戦いを意識しないようにしながら、巨人の前に躍り出た。
 全身の感覚が高まり、空気の流れをも掴めそうな鋭さを宿す。
  (まだよ・・・・空気と一つになるの・・・・)
   達人の攻守は舞いにも似た美しさを持つという。ならば私も舞おう、神
 へ捧げる巫女のように。半ばトランス状態の集中が四肢に『力』を与える
 と共に、私の中から『楓』という意識を眠らせ始める。

 「楓さんスゴイ・・・・」
   目の前の展開に、賞賛のためいきを私[松原 葵]は洩らした。まるで拳圧
 に流れる落葉のような動き。自然な回避とでも言うか。
   まだ観戦していたい気持ちを抑え、目標までの距離を確認する。私の役目
 を果たす為に。

 (・・・・?)
   鋭い破壊音に意識が少し目覚めた。成功したのだろう。倒れ込むロボット
 の前で葵さんが肩を軽く上下させている。
   私は再び地を蹴った。次の目標が控えている。次は・・・・

   息を深く吸い静かに大きく吐く。後は楓さんと私とで残る2体を相手する。
 そう思った矢先。
 「くっ!」
 楓さんの蹴りが右腹に放たれていた。
   何が起こったか理解できず、思考が停止した私の右腕に爪が走り、瞬時に
 赤い道を刻んだ。
 「うあああーーーー!!」
 今度は痛みを堪えきれず、私は悲鳴を上げた。


   流れる血が地面に不規則な紋様を描く。止血を試みるが、左手を赤く染め
 たに過ぎなかった。自分が考えるより傷は深いようだ。
 「か、楓さん・・・・」
 私は右側に声を掛けた。
   楓さんは左脚を押さえ、座り込んでいる。恐らく私を蹴った方なのだろう。
 この人はとっさに蹴りを放つ事で、私を回避させたのだ。
   後方には私達を裂いた巨人の飛び爪が、地面に突き刺さっていた。楓さん
 の機転がなければ、これは確実に私の胴を貫いていただろう。
 「脚、大丈夫ですか」
 「あなたの方こそ・・・・」
   一転して最悪な状況。2体の巨人が距離を詰めるのを私は呆然と見ていた。


 「・・・・『友、遠方より来る』かしら?」
   私の声に弾かれたように振り返る葵。
 「あ、綾・・・・さん・・・・」
 言葉を詰まらせる葵。硬直した表情は、瞳の潤みから崩れた。
 「もう大丈夫。後は任せて、あなたは救急隊を呼んできなさい。隣の人を
 歩かせる訳にはいかないでしょ」
   応急処置を施しながら葵に言い聞かせる。
 「でも、綾香さん1人では・・・・」
   無言で前方を示す。そこには風に髪をなびかせて、琴音さんが巨人達に
 対峙していた。

 「状況から言って、あなたが救援を呼ぶ方がプラスなの。私達が守る人数
 も1人ずつになるし」
 「・・・・分かりました。綾香さんも無理しないで下さいね」
 「もちろんよ。あなたとの試合が有るんだから」

   葵を見送り、私はもう一人を手当てした。
 「傷が痛むでしょう?ちょっと眠ってた方がいいわ」
 「えっ・・・・」
   首筋に軽く手刀を放ち、彼女をその場へ横にさせた。舞台は完成。後は
 琴音さんの出番だ。

 「これでいい?」
 「はい。これで安心して『力』が使えます」

   そう。葵に助けを呼びに行かせ、連れの女性を眠らせたのも琴音さんが
 『力』を発揮できるようにする為。
   すでに巻き込んでしまったとは言え、これ以上この人達を関わらせたく
 なかった。「もう終わる」問題に。

 「あの子、眠ってるみたいよ」
   若草色の髪の少女について触れる。
 「そうですか・・・・」
   安堵のためいき一つ。
 「起こさないで下さい、すぐに済みますから。それに・・・・」
   彼女は赤い瞳に少女を映し、震える声で続けた。

 「あの子に見られたくないんです・・・・今の私を」


                                        −第1話・完−
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       <平和なあとがき>

 あかり:とりあえず、琴音ちゃん達が出てきたね。
  浩之 :まあな。ところで章のタイトル『集散(しゅうさん)』。
 あかり:意味は「集合したり、散ったりする」だよ。
  浩之 :展開がバレバレじゃねーか(笑)。
 あかり:でも「散る」って?
  浩之 :葵ちゃんだろ。
 あかり:それだけなのかな?
  浩之 :気にすんな。ホレ、終わるぞ。
 あかり:うん。それではまた次回にお会いしましょう(ぺこり)。
  浩之 :志保が居ねぇと、平和に終わるな・・・・(しみじみ)。

                    BGM「暮れゆく陽」の −終幕−
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   他の方々の作品には、よく影響を受けます。

   例えば前回の楓嬢の『力』の抑制を説明する進行は「OLHさん」の
 『お赤飯』で変更しましたし、今回の負傷シーンの流れは「鈴木R静さん」
 の短編の手法です。
   読まれた方が、途中で楓嬢の暴走!?と一瞬でも思われましたら、少しは
 報われます。これを仕掛ける為に、葵嬢の攻撃を削除してますから。

 メール関係お待ち下さい。今年1回目のメーラー復旧作業(泣)をしてたので。
 今日は眠ります。明日には必ず・・・・(バタッ、ZZZ)