東鳩王マルマイマー第24話「大東京消滅!」(Aパートその3) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月16日(火)20時09分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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  東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
          第24話「大東京消滅!」(Aパートその3)

            作:ARM

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【承前】

 翌朝。
 その朝は、MMMバリアリーフ基地にとってごく当たり前の朝であったハズだった。
 だが、時計が午前十時を刻んだ刹那、基地を支配していたハズの日常は、奇妙な一団の来訪によって終わりを告げた。
 いや、それを来訪とは呼ぶのはあまりにも違和感がありすぎた。
 彼らはすべて銃を構え、都市迷彩仕様の戦闘服で身を包んだ武装集団であった。

「――な、何事ぉっ!?」

 先の鬼界四天王襲撃事件で破壊され、修復されたばかりの天王洲ゲートで警備を務めていた来栖川警備保障の警備員たちは、数台のトラックで乗り付け、近辺の道路ごと封鎖を始めたこの謎の武装集団の襲撃に騒然となった。

「何だ、貴様ら!」
「銃を持ってるぞ!」
「――落ち着け、お前ら」

 この武装集団たちの前に騒然となる警備員たちを、背後から一喝した警備員が居た。

「森安主任!」
「落ち着けっ!あれをよく見ろ!」

 天王洲ゲートの警備主任である森安は、先行して入ってきたトラックを指して見せた。

「あれは――自衛隊の?」

 武装集団は、陸上自衛隊所属の輸送トラックであった。そこからわらわらと降りてくる、武装した自衛隊隊員たちのほうへ、部下の警備員を制しながら、森安は臆するコトなくゆっくりと近づいていった。

「私は、来栖川警備保障特務課の森安と申します。そちらの責任者はどなたですか?」

 森安が訊くと、ゲートの入り口で自衛隊隊員たちの陣頭指揮を執っていた、指揮官と思しき男が気付いて森安の方へ近づいていった。

「…………あ、あんたは?!」

 森安は近づいてくる指揮官の顔を見て目を剥いた。

「鷹橋さん?」
「警備ご苦労」

 MMMの制服ではなく、自衛隊の迷彩戦闘服に身を包んだ鷹橋は、事態を掴めず当惑する森安にしれっと応えて見せた。


「本日八時をもって、国家公安委員会より国家保安法第12条に基づく保全命令が発令された。これよりMMMバリアリーフは、内閣府の管轄に置かれるコトとなった。これが発令書だ」
「……何ですって?」

 来栖川綾香MMM長官は、わずか10分にてMMMバリアリーフ基地施設の主要箇所を無血制圧せしめた自衛隊特殊部隊の指揮官、鷹橋二佐が突き付けた、内閣総理大臣の署名入り発令書を前に当惑した。だが綾香を驚かせたのは、発令書以上に、自衛隊から出向してきたハズの鷹橋がこの制圧作戦の陣頭指揮を執っていたほうであった。
 メインオーダールームの入り口からわらわらとなだれ込んできた、重火器で武装した自衛隊員たちは、いつものように警戒態勢に入っていた浩之たちの席に飛びつくように駆け足で移動し、席に着いていたオペレーターのあかりや牧村南たちに銃口を突き付けた。そして、最後に入室してきた、自衛隊の特殊戦闘用迷彩服に身を包んだ鷹橋の姿を見て、全員呆気にとられた。

「鷹橋さん……あんた、何を……」

 戸惑うあかりとマルチを庇うように立っていた浩之は、ようやく声を出して訊くコトが出来た。

「もともと俺は、この為にここに出向してきたのだよ」

 鷹橋は綾香の方を見据えたまま言った。

「……え?」
「来栖川綾香。貴女は、このMMMが行おうとしているコトをご存じか?」
「行う……って…………」
「MMMは本来、〈神狩り〉なる非合法組織のある計画の一環として組織された。その〈神狩り〉が計画していたものこそ――〈鬼界昇華〉なのだ」
「――――――!?」

 鷹橋の言葉に、綾香はおろか、メインオーダールームにいた浩之やマルチたちも絶句してしまった。

「――バカなっ!俺たちはその〈鬼界昇華〉を止める為に行動しているんだぞ!」
「ファイル、M−98FNX」
「――――!」

 鷹橋が告げたその記号を聞いて、綾香と長瀬主査が同時にはっとなった。

「ほう。知っていたか」
「いや、そのファイルは…………存在は知っていたけど、母様、いえ先代長官から任務を引き継いだ時に廃棄ナンバーとして処理されていたものよ。あたしもその中身は知らないけど、256万バイトの暗号キーで封印処理されて、開封は先代の承認もなければ閲覧出来ない――まさか、あんた、それを開封したの?」
「ああ。――中身を知っていれば、君のコトだ、MMM長官の職務などとうの昔に放棄していただろう。これが中身だ」

 そう言って鷹橋は、胸ポケットから取り出したPDAを、長官席の脇に配されている多目的I/Oスロットに装填した。
 すると、メインオーダールームの巨大モニタに、機密ファイルという大きな赤文字が斜めに上書きされている計画書の表紙が映し出された。
 浩之たちがそれを見て思わず目を疑ったのは、その赤文字の下には、〈鬼界昇華計画〉という文字がくっきりと印字されていたからであった。

「バカな…………?!」
「事実だ」
「何ッ?!」

 浩之は、沈痛そうな面もちでいる長瀬主査が洩らした言葉に驚かされた。

「鷹橋二佐の言う通りだ。もともとMMMは、〈鬼界昇華〉実現のために組織された特務機関なのだ」
「――――――」

 無言なる動揺の輪が、鷹橋を中心に、メインオーダールーム内へ広がっていった。

「……だが、その計画は既に放棄され、立案者であり、MMMを離脱して計画を続行しようとする柏木賢治――〈ワイズマン〉の暴走を阻止する為に再編され、綾香君を二代目長官に据えている」
「そんな…………!?」

 綾香は意外な人物からの証言に、ほおを引きつらせるほど困惑した。

「鷹橋二佐。廃棄された計画を今更持ち出して、何をする気だね?」
「MMMによる〈鬼界昇華〉計画が放棄されたのは我々も承知だ。しかし実際、危険がゼロになったとは言い切れない。いやむしろ、危険度に至っては、MMMの方針転換当時以上に増している」
「バカなっ!俺たちはそんなコトはしないっ!」

 浩之は珍しく声を荒げて言った。

「マルチたちは命懸けで〈鬼界昇華〉を阻止していたんだぞ!」
「それは認める。しかし、薬は度が過ぎれば毒となる。――ワイズマンはそれを利用しようとしていた」
「「ワイズ――」」

 その名を耳にして、管制席の隣で打ち合わせをしていた柏木梓と楓は困惑した。

「ワイズマン――柏木賢治は、MMMに於ける〈鬼界昇華計画〉の責任者であった。ヤツは、THライドを装備する来栖川電工製メイドロボを中継器としたオゾムパルスネットワークシステムを起案した。ヨークに搭載されている大型のマスターTHライドを主管基として、31基存在するTHライドを同時に発動させ、巨大なオゾムパルスフィールドを発生させる。それにより人類のオゾムパルスつまり精神を連結させ、共有意識化の元にひとつの巨大な精神生命体へと変革させる計画を立てていたのだ。今、メインモニターに表示されている計画書は、それをまとめたモノだ」
「何ぃ……?」

 浩之たちは慄然とした面もちでメインモニターを見た。

「現時点で、エルクゥ側にエクストラヨークがあり、損失した2基を除く29基のTHライドがすべて限定解除発動している今、いつエルクゥ側が、現存するTHライドを利用するとも限らない――いや、今までこうして無事だったのが奇跡と言えるだろう」
「――ばかなっ!」

 綾香は困惑したまま怒鳴った。

「だったら、とっくに奴らはその計画とやらを発動させているじゃないの!――主査!」

 そして綾香は、険しい顔をして黙っている長瀬主査を見て、

「敵がそれを実行に移さないのは、計画が不可能だからじゃないの?」
「………………」

 綾香に訊かれた長瀬主査は、険しい面をゆっくりと綾香に向けた。
 そして、その面を横に振って見せた。

「――不可能ではない」
「――――?!」
「実行に移せないのは、恐らくエクストラヨークのTHライドに何らかの障害が発生していた為と思われる。その時間稼ぎに、残りのTHライドを暴走させた。――証拠はないが、可能性としてなら、ある。――鷹橋二佐」


 長瀬主査は鷹橋の方を見た。

「しかしそれは飽くまでも可能性の話であり、私個人の考えでは、彼は――いや、エルクゥは、それを実行に移すコトは考えにくい」
「何故?」
「彼が離反した後、我々はワイズマンが残したシステムを逆手に取り、オゾムパルスキャンセラーネットワークシステムを開発した。THライドを持つメイドロボは覚醒後、三機以上の連結によって強力なオゾムパルスを対消滅させるアンチオゾムパルスフィールドを形成するコトが出来るよう、我々が改良を施している。それは当然、エルクゥ側も既に承知しているコトだ」
「それは、敵にヨークが存在しないコトを前提にしたモノであろう?」
「ぬ……」
「31基のTHライドを統べるコトが可能な、巨大なマスターTHライドの存在。エルクゥがそれを保有している今、実現不可能な計画ではない」
「しかし――」
「MMMのデータベースから件のファイルを回収し、解析して直ぐに政府首脳に提出し検討させている間、正直気が気でなかった。しかし昨夜、ようやく承認が降りて部隊を編成し、制圧出来た。時間との闘いであった。――一刻も早く、人類に危険極まりない障害を排除しなければならない。MMMの施設の封鎖ならびに、THライドを内蔵するメイドロボの全機能停止(シャットダウン)を執行する!!」
「シャット――――!?」

 浩之とあかりは慄然となる。そして同時に、傍にいる、蒼白しているマルチを見た。

「――ばかやろう!シャットダウンだなんて、軽々しくゆうなっ!こいつらはタダのロボットじゃねぇ!自分で考え、行動する、意志(こころ)を持った――人間も同然の、命ある生き物だぞっ!」
「バカは貴様だっ!藤田浩之っ!!」

 怒鳴り声で反論する浩之の声を上回る、鷹橋の一喝であった。

「何が人間だっ!THライドを持つ来栖川のメイドロボットはすべて処分する!これ以上、人間に危険な存在を野放しにしておく訳にはいかない!所詮は機械だ!機械なんかに魂(いのち)なんかあってたまるか!」
「な――――」

 温厚そうな鷹橋しか知らなかった浩之は、この凄まじい形相で怒鳴り返してきた姿に圧倒されてしまった。

「その機械人形の感情も意志も、プログラム化された数値の所業よ!仮初めの心など、人には百害あって一利もないっ!黙示を狂わせたように、人を滅びの道へ誘う危険な存在など無用ぉ!!」
「黙示――――」

 浩之は、鷹橋から意外な人物の名前が出たコトに酷く驚いた。

「何であんたが――」
「あ」

 綾香が何かを思い出した。

「……黙示さんって確か幕僚の」

 綾香は、黙示とは旧知の間柄であった。黙示家は代々、来栖川家の護衛を生業とする一族であり、幼なじみのような存在であった。
 しかし黙示は一年ほど前に、次元の狭間におちていたエクストラヨークがこの世界に復活してきた時の闘いで、恋人であり、マルチたちメガメイドロボのリストアで貢献した朝比奈美紅の魂を収めたTHライドを持つメイドロボットとともに、エクストラヨークの砲撃で死亡していた。
 暴走したとは言え、死んだ恋人を蘇らせようとする黙示の姿に、浩之は自分の姿を重ね、、彼を救えなかったコトが、今も浩之に影を落としていた。

「黙示は俺と防衛大で同期だった。――親友だった、と言った方が分かり易いだろうが」
「親友……」
「ヤツは、死んだ女の顔に似せたロボットに心を奪われ、哀れな末路を迎えた。――似せようが、死んだ者がそれで蘇ろうハズもなかろうに」
「……あたしたちの立場って」

 ぼそり、と梓が呆れたふうに呟いた。

(……梓さん、楓さん、レフィ)

 その時だった。しのぶが小声で、傍にいた三人に声をかけてきた。唇ひとつ動かさない蚊の鳴くような声が、梓たちを制圧している、間近にいる自衛隊員には聞こえず、三人にのみ聞こえたのは、レフィの高い聴音能力はともかく、エルクゥの血を引く梓と楓ならではである。

(しのぶ?何?)
(彼らの盲目過ぎる危惧に付き合っては、鬼界四天王らにつけ入る隙を与えるばかりです。わたしの〈風閂〉を彼らに取り付けました。縛り付けますので、あとはレフィと協力して彼らを制圧しましょう)
(過っ激ぃ……あんた、そんなキャラだっけ?)
(でも、しのぶの言う通りね。確かにこの状況は危険すぎるわ。制圧しましょう)
(……楓、あんた、感化されてない?(苦笑))
(四の五のゆわない、梓さん。――しのぶ、やって)

 レフィが目で合図すると、しのぶは瞬きで応えた。そして両人差し指を僅かに動かして、既にメインオーダールームを制圧してる自衛隊員の身体に取り付けていた、150分の1ミクロンしかない不可視も同然の鋼糸を操った。
 ところが、その動きと同時に、突然鷹橋の手が空を奔り、何かを掴む動作をとった。

「――〈風閂〉か。無駄だ」
「まさか――――!?」

 しのぶの貌がここまで驚愕したコトは数えるほどしないだろう。しのぶは指先から放っている〈風閂〉が全く動かせなくなっているコトに気付いた。そしてそれが、〈風閂〉の動きに気付いた鷹橋が掴み取って封じてしまったという信じがたい事実を彼女に告げていた。

「〈風閂〉は黙示の技だ。この状況下で、しのぶが仕掛けて来ないハズもない」
「あの鷹橋って男…………どうやってこの微細の糸を…………?」

 楓は、とても常人では見つけるコトすら叶わぬこの糸を、しかも掴み取って封じている事実に慄然となった。その横でも、同じ顔をする機械仕掛けの少女が困惑の眼差しを鷹橋にくれていた。

「くぅ…………」
「無駄だ。お前たちの手の内など調べ尽くしている」
「……調べ尽くしているだけであの糸を簡単に掴めるモノか。――これがあの“男”の力というのか?」

 しのぶは、この鷹橋という男の想像を絶する実力に戦慄するが、その力の源の正体はとうに知っていた。この場で鷹橋のもう一つの顔を知る者は、しのぶと長瀬主査だけである。しのぶは長瀬の顔を見るが、長瀬もしのぶのほうを向いて、抵抗はするな、と目で合図してみせた。

「これ以上の抵抗は、反逆の意志ありと見なし、処分も辞さない!大人しく執行命令に従えっ!」

 鷹橋の一喝と共に、自衛隊員たちは浩之たちに銃口を向け直した。しのぶはそれでも何とか出来るとは考えていたが、人命第一と考え、抵抗するコトを諦めて両手を上げた。
 しのぶに追って、レフィも両手を上げた。マルチは浩之の腕を引いて戸惑うが、二人の動きを見て、少し考えてから両手を上げた。

「くっそぉ…………!」

 浩之は歯噛みして鷹橋を睨み付けた。鷹橋はそんな浩之の視線に気付いて一瞥をくれるが直ぐに綾香の方を見た。

「……ところで長官」
「?」
「あいつはどこにいる?」
「あいつ?」

 不安げな顔をする綾香に、鷹橋は、あー、と何か言いかけてしかし直ぐに咳払いして居住まいを正した。

「…………保科参謀だ。先程から姿が見えないのだが」
「あ?――あれ?」

 言われて、綾香もようやく気付き、辺りをキョロキョロ見回した。

「――あれ?智子はどこ?」
「あ――」

 反応したのはあかりだった。

「智子、さっき野暮用っていって出ていったっきりだね」
「野暮用?」
「う、うん」

 あかりは少し気まずそうに頷いた。少し顔を赤らめているのは何故か。


(…………何か昔から、こないな時に限ってロクなコトがあらへんなぁ)

 智子は、女子便所の扉を少し開けながら、先程から外の廊下を行き来する武装した自衛隊員の様子を伺っていた。

(…………ヤバそな感じ。あらぁ自衛隊の特殊部隊やな。…………今朝、柳川さんから変なメールもらってから気になっとったんけど…………んー、自衛隊がMMMにちょっかい出してくる可能性がある、ってホンマやったんか?)

 智子がMMM基地へ来る少し前、柳川からのメールを受信していた。
 それは、自衛隊が妙な動きを見せているという内容のモノであった。智子は半信半疑であったが、便所へ入って直ぐ、外の廊下が騒がしくなったので警戒しながら隙間から様子を伺い、そのメールが正しいコトを理解した。

(……しかし何で武装した自衛隊が?綾香のヤツ、なんぞ悪さしたか?…………うーん)

 智子は腕を持て余し、気付かれぬよう再び個室の中に入っていった。いづれは自衛隊員の誰かが便所にやってくるだろうが、組織化された制圧作戦のセオリーでは、意外と便所、特に女子便所は後回しにされやすいコトを智子は知っていた。便所には便器と清掃用具くらいしか無く、抵抗のしようがないからである。だから智子は、これからの行動を練るため、もうしばらく中で様子を見るコトに決めた。

「…………ま、あとちょっとで出そうだし(汗)…………三日目はやっぱきっついなぁ。まったく難儀な腸やわぁ」

 今の智子には、そちらの方が切実な問題だったようである。

           Aパート(その4)へつづく

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