東鳩王マルマイマー第24話「大東京消滅!」(Aパートその2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月26日(水)23時26分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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  東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
          第24話「大東京消滅!」(Aパートその2)

            作:ARM

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【承前】

 その夜に起きた異変に、最初に気付いたのは、ある血脈の者達であった。

「――これは?」

 隆山にある柏木邸から出てきたばかりの柏木耕一は、突然上空から感じた凄まじい気配に慄然となり、思わず夜空を仰いだ。

「…………何だ……空から……か?」

「――?どうかした、だと?」

 病床に伏せている母親、京香を見舞う来栖川芹香に付き添っていた柳川祐也は、上空から感じた凄まじい気配に全身を泡立てる。その様子に気付いた芹香に訊かれ、柳川は困惑した顔を芹香に向けた。芹香も何処か当惑げであった。

「――何か、凄まじいプレッシャーを感じた。…………いや、エクストラヨークではない。――嫌な予感がする?そうだな、なら――――」

「楓?」

 マンションの居間で、妹の柏木楓とくつろいでいた柏木梓は、突然立ち上がり身体を震わせ始めた楓に驚くも、直ぐに自分も得体の知れない悪寒に見舞われ、蒼白となった。

「――まさか――――これは――――新たなエルクゥが?!」

「恐らく」

 柏木初音――いや今や鬼界四天王の一人であるリネットは、太平洋上に停泊していたエクストラヨークの艦橋から、夜空をじっと見つめている、自分の叔父である柏木賢治――ワイズマンにそう言って頷いた。

「……これは、〈クイーンJ〉の配下のものかと」
「だろうな。――遂に来たか」

 ワイズマンはみるみるうちに険しくなっていく顔を縦に振った。

「あのエルクゥの王子が我々に警告した、ゴライエリと呼ばれる鬼神が率いる〈百八鬼陣〉の頂点、〈鬼界闘神11天将〉の誰かが――いや、全員やって来たのであろう」

 ワイズマンは不敵そう笑みを浮かべていった。

「しかし、衛星軌道上に『フィルスソード』がある限り、奴らは〈クイーンJ〉の二の舞になるばかりだ。――この聖地は、選ばれた者のみしか踏み入る事が許されないからな」
「〈鬼界闘神11天将〉を甘く見ては困る」
「〈ザ・サート〉?」

 ワイズマンたちが振り返ると、そこには三味線を奏でる、真なる鬼界四天王の中で最も異質なる存在で、自らを人類の脅威と定義した魔人、〈ザ・サート〉が居た。

「あの〈クイーンJ〉が従える11人の最強鬼神衆。フィルスソードといえども、すべて駆逐しきれるものか」
「まるでその力を目の当たりにしたかのような言い回しですね」

 リネットは険しそうな眼差しを〈ザ・サート〉にくれていった。ワイズマンもそうだが、リネットもこの酔狂な男を頭から信用出来る存在とは思っていなかった。
 〈ザ・サート〉は、全く信頼されていない事を嘆くかのように肩を竦めてみせた。

「我が輩ではナッシング。月島瑠璃子に取り憑いている〈クイーンJ〉の言ナリよ」

 そう言って〈ザ・サート〉は三味線を景気良く鳴らし、背後を指してみせた。
 そこには、青白い光に包まれている月島瑠璃子が佇んでいた。

「月島瑠璃子――?」
『…………妾の忠臣にして無双の豪鬼ゴライエリらが外宇宙軌道に居る。――おお、ここまであやつの気配が届くとは。僅か10年周期で更に強大になったか』

 そう言って瑠璃子は、にぃ、と薄ら笑みを浮かべる。笑みと呼ぶには余りにも凄惨かつ残忍なものであった。
 それを見たリネットは、はっ、となった。

「まさか――――お前は――〈クイーンJ〉?」

 リネットの言葉に、ワイズマンは眉をひそめた。

「バカな?ヤツは実の兄を手にかけたショックで自閉状態に陥った月島瑠璃子の身体の中に封印されているハズだ……!」
『ほほぅ、流石はあのリズエルの紛い物』

 瑠璃子はリネットを見て嘲笑うように言った。
 リズエルの紛い物――その言葉を耳にした時、リネットは困惑の相を浮かべた。

「紛い物?」

 〈ザ・サート〉が怪訝そうに訊くと、瑠璃子いや〈クイーンJ〉は、ホホホ、と笑い、

『そうとも。――リズエルが自らの細胞を培養し、ヨークの航行制御用生体ユニットとして作り上げた、もう一人のリズエル――リネットの正体は、妾に楯突いた梟姫のコピーロボットよ。リズエルらはユニットの分際を忘れて、自分たちの実の妹のように甲斐甲斐しく面倒を見ておったがな』
「――――!」

 思わずリネットを見るワイズマン。次郎衛門の魂(オゾムパルス)を受け継ぐこの魔人にも初耳の話であった。
 リネットは一瞬、ワイズマンのほうを見る。その今にも泣き出しそうな哀しみに包まれた眼差しから、それが、かつて添い遂げた男の生まれ変わりとも言うべきこの男には知られたくなかった事実なのであろう。
 ワイズマンは目を閉じ、頭をゆっくりと横に振った。
 いいのだ、と。

『ほほほ。まぁそもそも、貴様ら人間どもも、妾が一族の細胞より抽出した生体データを元に作り上げたバイオロイドであるから、作り物同士、似合いと言えば似合いか』
「――――!」

 リネットは歯噛みし、きっ、と〈クイーンJ〉を睨み付ける。
 今にも飛びかかりそうなリネットの肩を、ワイズマンが掴んだ。

「次郎衛門――――くっ」

 リネットは無言で留まらせようとしているワイズマンに従い、舌打ちのみで忌々しそうに横を向いた。

「さて――どうやって月島瑠璃子の身体から抜け出してきた?」
『簡単な事よ。月島瑠璃子なる人間の心が消滅したからじゃ』
「何――――?!」

 そこでワイズマンはようやく、この〈クイーンJ〉が精神体である事に気付いた。

「……どうして月島瑠璃子の……?――これは、〈クイーンJ〉のエルクゥ波動のみが実体化したのか」
『長い事、あの娘と同化させられておったからな。この姿で居る方が楽になってしまったわ。――妾が表に出た方が、ぬしらには都合が良いのであろう?何が望みか?』

 〈クイーンJ〉は容赦なく核心に触れる。そう、それこそがワイズマンたちが人類にあだなす〈鬼界昇華〉の目的であった。
 ワイズマンは暫し、〈クイーンJ〉を睨み付けて対峙した後、ようやく口を開いた。

「――〈鬼界昇華〉。全人類をエルクゥ化させる」
『ほほう』

 〈クイーンJ〉はわざとらしく感心して見せた。

『元々人類は我らが人類原種(エルクゥ)より創り出された存在。その体内にはエルクゥの力も眠っているからのぅ。確かに妾の力ならば、この聖地でのうのうと惰眠を貪る人類どもをすべて覚醒する事は可能じゃ。――元々は空虚なる器に過ぎぬ人類を、妾らの意識を重ねる事で制御してきた。人類原種は同族同士、意識を共有させる事が出来る。精神感応力が生来より男種より秀でている女種の思念波によって、男種を群体として統括制御出来る妾らの能力を応用して、人類種を使役してきた。それを利用し、すべての人類種の意識は、とば口となる人類原種の意識の元に統一され、精神的隔壁を喪失した、巨大な群体精神生命体と化す』
「肉体は別々でも、意識は巨大な精神ネットワークとして連結、統一されたひとつの生命体へと昇華される。それこそが〈鬼界昇華〉の正体だからな」

 ワイズマンは、ニィ、と笑って言って見せた。

『……ふむ。妾は、人類をすべてエルクゥ化し、最強の兵として統括し、再び銀河を席巻すべくこの聖地に赴いた。だからそのコトに、すべての人間は抵抗するものと思っておったが、――貴様、何を考えて居る?』
「何も――精神的に未熟な人類という種に、更なる高みを望むには、それしかないと思っている」

 不意に、ワイズマンの表情が曇った。

「……鬼神の女王よ。お前には判るまい。有史以来、争い事やいがみ合い、私欲に奔り平気で他人を傷つける浅ましい刻を繰り返し続けていた事を。――滅びるには忍びない。ならば、他人というモノを喪失し、ひとつの意識に統括して、こころを完成させるしかないのだ!」

 ワイズマンは〈クイーンJ〉を見据えながら怒鳴るように言う。

「――高みを望まぬ種(もの)に未来(あす)は迎えられぬ!それは何者も犠牲なくして叶わぬ事!俺は全てを捨ててまでここに来たのだっ!退かぬっ!この修羅の道は決して退かぬっ!!」
「…………」

 〈クイーンJ〉は、ワイズマンと睨み合うような形で黙ったまま対峙する。だがしばらくして、この鬼神の女王の相好が崩れた。

『……妾らの血が混ざっているだけとは思いたくないのぅ。人類種にこうも気骨のある男が居るというのは、帰って気持ちの良いくらいだな。――妾の知る男によぅ似とる。良いだろう、ワイズマン、貴様の計画に協力してやろう』

 残忍の一言に尽きる鬼女の笑みが、こうも魅惑的なものに変わるとは。傍らにいた〈ザ・サート〉も、ワイズマンを見て、ほう、と感心していた。

『今すぐ、このヨークを動かすが良い。地上の人類どもを全て――』
「まだ、早い」
『?』
「人類の手には、31基のTHライドがある。全てその力が開放され、そこに封じられていた、四皇女に従順であった臣下の意識も徐々に自我を取り戻しつつある。それが全基、最大出力を始めたら、たとえ〈クイーンJ〉と言えどもタダでは済むまい」
『マルマイマーの浄解能力の事か?』
「ほう」

 ワイズマンは感心してみせた。

「マルマイマーの力を識(し)っていたか」
『月島瑠璃子の記憶から、な。――何故、貴様は31基のTHライドを解放させた?』
「長瀬祐介の力によってエクストラヨークごとお前の魂が次元の狭間に落ちてしまった為だ。〈クイーンJ〉の代わりにTHライドを全て暴走させ、鬼界昇華を図ったが、エクストラヨークが我らの手に取り戻せると判ってからは、方針を変えた」
『方針?』
「ああ。――最終計画を確実なモノとする為の保険だ。そしてその計画は、直ぐにでも始まるであろう」
『?何故、言い切れる?』
「そうなるよう仕掛けたからだ。――ある男の行動が、鬼界昇華最終計画発動の狼煙となる」

 そう言ってワイズマンは嗤った。何と禍々しい――。


 そして、最後にマルチが気付いた。

「…………」

 マルチは、明け方になってその奇怪な気配を上空より感じ、いつもより早く目覚めた。一緒に暮らしている浩之とあかりは、マルマイマーの専任管制官の任務を降りる事になったあかりの引継で昨夜も午前様の帰宅になってしまい、浩之の部屋でまだ眠っていた。

「……何だろう?…………誰かに呼ばれたような…………?」

 そう呟いて、マルチは天井を見上げた。無論、仰いだところで天井しか見えるハズもない。
 妙に懐かしそうな顔をするマルチもまた、強大なる敵の存在を感じたのか。それとも――?


「……あかり、えらくのんびりしていたな?まだ疲れているのか?」
「……ん。何か疲れが抜けなくって。ゴメンね、マルチちゃん。すっかり朝食任せちゃったみたいで」

 その日の朝、ようやく起きて居間に降りてきたあかりは、既にテーブルの上にマルチが用意した朝食を先に摂っている浩之に不思議そうな顔で聞かれると、済まなそうに応えた。

「いいんですよ、あかりさん」

 マルチは気にもせず、にこり、と微笑んで言った。

「あかりさんがやっと浩之さんとお幸せになるですから」
「え……?」

 あかりは半分寝ぼけた頭できょとんとなった。その反面、何となくマルチが指すモノの意味を理解しているのか、頬を少し赤らめていた。

「わたし、あかりさんのウェディングドレス姿が見たいです――あ、それとも文金高島田とか?」
「え?あの?――何?――ええっ?!(汗)」

 ようやくあかりは理解した。

「ちょ、ちょっと、マルチちゃんっ!その、あの――」
「マルチ、気が早すぎ(笑)」

 浩之は混乱するあかりを苦笑しながら見て言った。

「それに、あかりと相談して決めたんだが、――このご時世だろ、入籍しても、自粛、って形で、結婚式はしないコトにしたんだ」

 それを聞いた途端、ニコニコ笑っていたマルチの顔が、驚愕の色に染め変えされた。

「ええええっ!!!??なななな――――何でですぅぅぅぅ???!!!(爆涙)」
「お、おいおいっ(汗)何故泣くかっ!?」
「だってだって〜〜あかりさんが可哀想ですぅぅぅぅぅっっっっっ(爆涙)」
「ち、ちょっと、マルチちゃん(汗)」

 あかりもマルチの狼狽えぶりに驚き、宥めようとする。

「絶対、結婚式をやらない、ってワケじゃないのよ。この闘いに決着がついたらやろう、って事なの」
「でもでもでもぉっ!――今がこんな時代だからこそ、あかりさんには幸せになって欲しいんですぅぅぅぅ(爆涙)」
「「……え?」」
「こんな、闘いの続く、みんなが傷つき哀しむ時代だからこそ、――誰かが幸せにならなければならないと思うんです。幸せになる事は罪ではないハズです。むしろ、皆から祝福されるべき事で――それが、そこから、幸せの輪が広がって――その――――」

 マルチは自分の考えが上手くまとまらないらしく、更に狼狽える。
 そんなマルチをみて、浩之とあかりは暫し呆気にとられるが、やがて同時に吹き出した。

「……まったく、相変わらずの心配症だなぁ」
「……でも、わたしは嬉しいな――ね」

 そう言ってあかりは、おろおろとするマルチの身体を抱きしめた。

「あかりさん……」
「結婚式をしなくても、私は幸せだから。こうして、マルチちゃんと浩之ちゃんが、私の傍にいてくれる事が、一番の幸せなんだから」
「その通りだ。――俺だって、あかりにウェディングドレス着せてやりたいから、今度こそ鬼界四天王たちの野望を打ち砕いて、こんな忌々しい闘いの日々から脱却するつもりだ。その為にもマルチ、俺も頑張るから、お前も頑張ってくれよ」

 浩之はそう言って微笑み、マルチとあかりの頭に掌を乗せて撫でた。

「……でも、二人とも、無茶だけはしないでね」

 あかりは釘を差すように言った。

「焦りすぎて、二人とも私の前から居なくなってしまうのが――?」

 あかりがそこまで言った時だった。あかりは不意に目眩を覚え、抱きついているマルチの身体にもたれかけてしまった。

「あかりさん?」
「……ん、ちょっと軽い眩暈だから。――お願いよ」
「え?」

 心配するマルチに、あかりは微笑んで言った。

「…………二人とも、最後まで無事でいて。二人が私の前から居なくなってしまったら、私、耐えられそうにないから」
「「…………」」

 それは、エルクゥとの闘いを途中で降りてしまう事になったあかりの無念さを顕わしていた言葉だった。だから二人とも、思わず黙り込んでしまった。
 暫しの気まずい沈黙を、浩之の笑みが絶った。

「……あかりもマルチに負けず劣らずの心配症だなぁ。俺に任せておけ」

 そうって浩之はあかりの髪をくしゃくしゃにするくらい強く撫でた。あかりは思わず驚くが、しかし自分が心底愛している伴侶のその掌から伝わる温もりを感じ、あかりは破顔した。

           Aパート(その3)へつづく

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