【警告】
○このSSはPC版『ToHeart』(Leaf・AQUAPLUS製品)の世界及びキャラクターを使用しています、たぶん。
○このSSはPC版『To Heart』神岸あかりおよびHMX−12型マルチシナリオのネタバレ要素がある話になっており、話の進行上、性描写のある18禁作品となっております。
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ToHeart if.
『淫魔去来』 第19話
作:ARM
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【承前】
5月1日、夕方。
あかりと一緒に下校した浩之は、駅前の商店街にあるスーパーへ、夕食の材料を買いだして、浩之の家に帰宅した。
あかりは、浩之から出された、二人分1200円の予算内で、という難問を見事に、そして浩之を唸らせる優秀な成績でクリアした。その点数は、浩之が思わず洩らした、「凄ぇ、美味ぇ!」という最大級の感嘆であった。
食事を満喫した後、浩之はソファで仰向けになって寝転がった。あかりは夕食の後片付けを続けていた。
(……本当、助かったぜ。お見舞いのお礼にしては、おつりが来そうなほど、至れり尽くせりだな)
ソファの上で満足げな顔をする浩之は、キッチンの方から聞こえるあかりの鼻歌を耳にすると、それに合わせて一緒に鼻歌を歌う。無論、あかりに聞かれないよう、小声で。
鼻歌を歌いながら、浩之はあるコトに気付いた。
(……ふぅん。りりすさんがよくする鼻歌と同じだ)
偶然と言うより、流行の歌なのか、と浩之は不思議にも思わなかった。浩之はその歌の題名に覚えが無かった。
何となく寂しい気分だった。浩之は手を上げると、宙をまさぐるようにぐるぐると回す。持て余しているように感じてその手を降ろすと、丁度向かいのテーブルの上にあった、TVのリモコンを掴み、スイッチを入れた。
まもなく、後片付けを終えたあかりが居間に戻ってきた。
「おつかれさん」
浩之は戻ってきたあかりに礼を言った。あかりは、うん、と照れくさそうに頷いた。あかりは身体を起こした浩之の横に座り、一緒にTVを観始めた。
それっきり、二人とも無口になってしまった。
バラエティ番組の観客の笑い声がTVから拡がる。
しかし、浩之もあかりも、つられて笑わなかった。いや、TVを観てても、全く笑っていなかった。
浩之は、この気まずい雰囲気をどうしようか、迷っていた。
せめて、あかりが何か切り出してくれれば、少しはこの空気も変わるというのに。
これから、どうすればいいのか。
時計を気にして、そわそわするあかり。
そのうち、よしっ、と口にしてソファから立ち上がり、
「そろそろ、帰らなくっちゃ」
「帰るのか?」
「……う、うん。だって、もうこんな時間だし……」
そう言って、あかりはソファの横に置いてある鞄を取ろうと手を伸ばす。
それを、浩之が反射的に掴む。
驚くあかりに、浩之はこう言う。
「……俺の部屋に来ないか?」
(…………これって、ちょっとしたラブコメの世界だよなぁ)
浩之は、何となくこれから先の展開を妄想でシミュレーションしてみた。あとは、あかりが恥ずかしげに頷き、一緒に自分の部屋に行くだけである。
(…………ていうか、なんか、なぁ)
浩之がその妄想に戸惑う理由は、本当に自分はそれを望んでいるのか、というコトであった。
神岸あかり。子供の頃からの幼なじみで、一番気心の知れた異性。
近しい存在ゆえに、妹のような感じで接してきた彼女が、みるみるうちに綺麗に見えてくる、この不思議な気分。
そして、傍にいてくれるだけで、自分の心を癒してくれる。
キスもした。
浩之にとって、あかりはもう普通の存在ではなくなっていた。特別な、大切な存在。
多分、一人の男として、あかりを好きと感じている。その想いに偽りはない。
だが、あかりは、自分の意志より、浩之の意思を尊重しすぎるきらいがあった。いつも、浩之の言うコトに、うんうん、と頷いてばかり。まるっきり言いなりというわけではなく、少しは浩之の言葉に、「えー?」とか、「でも……」、と反論でもすれば、浩之がこんなに躊躇するコトはないのだ。
悪く言えば、自分の言いなりになる、都合の良い女。――浩之は、あかりにそんな姿を求めては居なかった。だから、このまま勢いに任せて、あかりを抱く展開になった時、自分はどこまで自分で居られるか、自信がなかった。事実、先日のキスの時も、一歩間違えれば行き着くところまで行ってしまっていたかも知れなかった。浩之は、あかりが好きだから、あかりの気持ちを尊重したかった。特に今は、琴音の気持ちに応えられなかったという、後悔に近い呵責の念がある。
あかりの気持ちが知りたかった。神岸あかりの、藤田浩之という、幼なじみではなく、一人の男に対する、正直な気持ちを。
友愛ではない、本当の愛情を。
それは多分、言葉で著せるコトは無いだろう。不断の生活で、普通に会話し、色んなものを一緒に見聞きし、ゆっくりと、ゆっくりと心を一つにしていく。そうやってお互いを理解していく。きっと、今までにない頭と気の使い方と、そして努力が必要になるだろう。
(……あかりが帰りたいと言うなら、帰らせてやろう。焦るコトはないんだ)
浩之は腹を括った。今夜は、あかりを帰らせて上げよう。
「……な、なぁ、あか――――?」
浩之がようやくあかりに話し掛けたのと同時であった。
あかりの手が、浩之の手に重ねられていた。そしてあかりは、浩之の顔を、潤んだ目で見つめていた。
無言。
しかし、あかりの目はこう言っていた。――今夜は帰りたくない、と。
浩之は思わず硬直した。
だが、あかりが重ねている浩之の手は、身じろぎ出来ずにいる本体とは反対に、あかりのその手をゆっくりと優しく包み込むように握ってみせた。
浩之たちが通う学校の校舎屋上から、エヴァは浩之たちの町を一望していた。
だが、その眼は町を観ているわけではなかった。あかりの体内に仕掛けている、自身のナノマシンを介して、浩之とあかりのその様子を伺っていたのだ。
ただ伺っているばかりではなかった。
(……神岸あかり。藤田浩之とキスをしろ)
あかりがゆっくりと目を閉じた。
浩之は戸惑った。
キスぐらいなら――でも――しかし――――まぁ、それくらいなら――――
浩之はゆっくりとうかりの顔に近づき、唇を重ねた。
あかりのほうから舌を入れてきた。浩之は浮かされるように、その舌に自分の舌を絡めた。
(……次は、藤田浩之への奉仕だ。そうだな、キスの後、シャツを剥いで、藤田浩之の乳首を責めてやれ)
濃厚なキスで、浩之の頭は、ぼうっ、となってしまった。そんな浩之の唇から離れたあかりは、浩之が呆然としている間に、浩之が着ているシャツのボタンを開き、その下にある浩之の乳首にキスを始めた。
「――うわっ――こ、こら、あかり――うわ――――!」
あまりも大胆な行動を始めるあかりに、浩之は酷く戸惑う。だが、浩之の乳首を軽く噛みながら、その先を舌で転がすように舐めるあかりの愛撫の刺激は、浩之にも未知の感覚か、意外な快感となって、浩之を仰け反らせた。
(……手が空いている。扱いてやれ)
あかりは、悶える浩之の乳首をなめ回しながら、右手で浩之のズボンのチャックを開ける。そしてボタンとベルトを外し、膨れていたブリーフの中へ、右手を滑り込ませた。
「――こ、こら、あかり――――や、やめ――――うわ、ああっ!!」
浩之は正直、赤ん坊のように自分の乳首を吸い続けているあかりの愛撫に屈服しかけていたが、そこへ今度はあかりの手が自分のモノを撫で回し始めるに至るや、頭の中が混乱し、抵抗を忘れて仰け反ってしまった。
無論、あかりにこんな大胆かつ積極的な愛撫など、出来るハズもない。
エヴァが、あかりを操っていたのだ。朝からずうっと、あかりの体内に仕掛けたナノマシンを利用してコントロールし、浩之を誘惑していたのである。
「…………このまま、藤田浩之がその気になって神岸あかりと性交してしまえばこちらのモノ。――――フォース・リリスの楽観的すぎる計画など無用。これ以上、人類種の下らぬ干渉の手が伸びる前に、強引に事を進めねば、全ては灰燼に帰してしまうわ――」
「う…………うわ………スゴ………あか……り…………!」
あかりは、ブリーフを降ろして下半身が剥き出しになっている浩之のモノを両手で掴み、その先をぺろぺろと舐め続けていた。
浩之はあかりの愛撫に成すがままで居た。あかりの刺激的すぎる愛撫は、浩之にはたまらないくらい快感であった為もあった。のめり込んでしまったと言っても良いかも知れない。あかりが自分を気持ちよくしてくれているという頭もあって、どうにも抵抗する気力が出なかったのも事実である。
実際は、単純に身体が動かないだけであった。
まるで金縛りにでもあったような感覚だが、琴音の時とは違い、あかりに超能力などない。
それでも、今の状況が、琴音の時と良く似ているのである。
精神的な麻痺と言うべきか。
そしてそれは、ある点でも如実にあらわれていた。
「…………なんで?」
「…………」
「…………なんで浩之ちゃんの、勃たないの?」
それは浩之も聞きたいくらいであった。
確かに感じてはいた。しかし、あかりに撫でられて以来、浩之のものは全く反応していないのである。
琴音の時は呆れるくらい欲情し硬く起立していたというのに、この差は何か。
決してあかりに女性としての魅力を感じないというワケではない。むしろ、あかりがこのように自分のモノに奉仕してくれる姿に、淫猥さを感じていた。
自分のモノであかりを貫きたい。あかりの身体を貪り、牝の声を啼かせたい。
喘ぎよがり叫ぶ、淫らなあかりを見たい。
そう思えば思うほど、浩之は哀しくなっていった。
「浩之ちゃん…………なんで感じないの?…………私が下手なの?」
あかりは浩之の顔を切なげに見つめながら訊く。
あかりの目に映る浩之の顔が、苦悶の相を浮かべているコトに、あかりは気付いているのか。
「……浩之ちゃん、私と一緒に気持ちよくなろうよ。ほら」
あかりは立ち上がると、スカートを外し、既に愛液で濡れていたショーツを躊躇いもなく潔く脱ぐと、浩之に自分の秘所をさらけ出した。
「……ほら……私………………浩之ちゃんと一つになりたいと思っていたら、こんなに…………」
浩之は思わず目を背けてしまった。
「…………浩之ちゃん…………私と一つになろう…………」
あかりの甘美な願い声に、浩之は歯噛みした。
あかりとセックスしたい。あかりを滅茶苦茶にしたい。あかりが喘ぎよがり叫ぶ様を、この手で――――。
見たいのか。したいのか。
あかりを抱きたい気持ちに偽りはない。
でも、違う。
「…………浩之ちゃんのおチ○チンが欲しいよぉ…………お願い…………して…………」
――違うのだ。
「…………かり……」
「?」
俯いている浩之が、ぼそり、と何か呟いた。あかりはその声に気付き、浩之のほうへ身体を傾けた。
「……浩之ちゃん……何?」
浩之はゆっくり顔を上げた。
「――何、いってんだよ、あかり――」
「え…………?」
「…………あかり…………お前、自分が何言ってンのか、分かってるのかよ!」
浩之は、今にも泣き出しそうな顔であかりの顔を睨み付けていた。
「チン○ンとか、エッチしてとか――俺のモノもしゃぶって――――お前、正気かっ?!」
「――――――!」
と胸を衝かれたあかりは、浩之の言葉に動揺したと言うより、浩之の怒鳴り声に驚いたのであろう。
起き上がった浩之は、呆然となるあかりの両肩を掴み、更に怒鳴った。
「――いつものお前なら、そんな言葉を口にしたり、――こんなコトをしねぇだろっ!!」
「………………」
浩之に両肩を掴まれて怒鳴られるあかりは、眼を白黒させていた。まるで自分が何で叱られなければならないの、と戸惑っているかのようであった。
「いつものお前はどうしたんだよ?大人しくて控えめで、――こんな――こんな――――」
不意に、浩之の脳裏に過ぎる、琴音の姿。超能力を暴走させ、痴態を晒したあの姿を、浩之は思い出していた。
あの時の琴音と同じである。淫らに自分を求める姿を、不断の清楚な姿と結びつけるコトがどうしても出来ないのだ。
誰なんだ。そこに居る、あかりの顔をした淫らなヤツは、誰なんだ?
「…………こんなんじゃ…………こんなんじゃないだろ、お前は?」
浩之はあかりの肩を揺すりながら言った。泣いているような声であった。
「――――俺の知っているあかりは、こんなコトはしねぇ!あかり、元に戻れよっ!俺の言うコトを聞くいつものお前なら、元に戻ってくれよっ!」
「浩之…………ちゃん…………」
浩之は、はっ、となった。
あかりの頬を、つぅ、と伝い落ちるものを目の当たりして、浩之は怒りを忘れて絶句した。
「…………なんで…………?」
「…………」
「…………なんでそんなコト言うの?」
「…………」
「…………私、浩之ちゃんのコト好きだから、…………好きだから一つになりたいから…………抱いて欲しいから…………」
止めどなく溢れる涙を拭いもせず、あかりは浩之を見つめながら言った。
浩之が絶句したのは、あかりの泣き顔を見た為である。
この涙に崩れる顔は、まさしくあかりだった。
浩之は、同じ顔で淫らに尽くすあかりが、あかりに見えなかったのに、こんなふうに泣いて訊くあかりが、紛れもないあかりに見えたのだ。
だから浩之は、混乱した。
「――――――うわああああああああああああああああっっ!!」
絶叫する浩之に、あかりは泣くのを忘れ、唖然となった。
「――――帰れ!」
「え?」
「帰ってくれっ!!」
「ひ……浩之ちゃん」
「いいから帰ってくれ!――――帰れっ!」
癇癪を起こして喚く子供のように、浩之はあかりを怒鳴った。とりつく島も無い勢いだった。
「…………何だ、と?」
エヴァは唖然として立ち尽くしていた。
だがそれは、浩之が癇癪を起こしてあかりを拒絶したコトに驚いたのではなかった。
「…………リリス、貴女…………!?」
突然、エヴァの目の前にあらわれたリリスは、唖然としているエヴァの顔を見て、にぃ、と笑ってみせた。
獲物を見つけた、――そんな嬉しそうな、笑みだった。
つづく