ToHeart if.「淫魔去来」第13話 投稿者:ARM(1475) 投稿日:8月18日(土)20時06分
【警告】
○このSSはPC版『ToHeart』(Leaf・AQUAPLUS製品)の世界及びキャラクターを使用しています、たぶん。
○このSSはPC版『To Heart』神岸あかりおよびHMX−12型マルチシナリオのネタバレ要素がある話になっており、話の進行上、性描写のある18禁作品となっております。
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    ToHeart if.

       『淫魔去来』  第13話

            作:ARM

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【承前】

 4月26日、昼過ぎ。
 陶然とした顔でいる浩之の前で、今、甘美の蕾が開かんとしていた。
 りりすは、腹部を覆っていたコルセットの紐を解いて外し、続いて背中に手を回してブラウスを外した。
 ゆっくりと、そして衝撃的にりりすの白い肌がこぼれ落ちてきた。
 りりすの豊満な胸を覆うブラジャーは、その容貌とは裏腹に、意外にも飾り気のない、地味だがしかし清楚な白い普通の布地のモノであった。あるいはシルク製なのかも知れないが、贅沢しているかどうかなど、それを黙って見つめているばかりの浩之にはどうでも良いことであった。
 昨日、琴音とあんなコトがあったばかりだというのに、浩之のモノは、りりすの脱衣に呼応するようにゆっくりと力を得ていた。
 男としても人間としても深いダメージを受けていたハズの浩之が、りりすの白い肌にこうも簡単に反応してしまうのは、浩之がやりたい盛りの年頃という情けない理由よりも、りりすの裸体があまりにも別格過ぎるといった方が良いだろう。こんなりりすを前にすれば、ED障害者ですら前屈みになるコト必至である。
 神々しい、という言葉は、このりりすの白い肌の出現を、永劫の間待ちわびていたのかも知れない。ようやくその言葉に相応しい肌が現れ、酬われたようだった。
 ブラジャーも外され、やや上向きにつんと張る、形の良い釣鐘型の乳房も露わになった、上半身裸のこの姿は、美の女神が舞い降りた、と表現するしかないであろう。それ以上の形容は、この美を言葉で言い表そうとする醜い足掻きであり、美に対する冒涜に他ならない。
 浩之は息を呑むしかなかった。
 リリスの裸体の美しさと、そしてこれから起きるであろう淫靡かつ甘美な一時への期待に。

「…………じっとしてていいから」

 りりすは、まるで乙女がはにかむような仕草で微笑むと、ゆっくりと浩之のズボンに手を延ばした。チャックをゆっくりと開いていく白いたおやかなその手ばかりは、別の世界のモノであった。
 浩之のモノは、淫魔の指によって窮屈な柵から解放される。そしてその指とは異なる世界の住人の笑みをするりりすの前に、欲望の赤い塊が顔を向けた。

「ふふ……。素敵よ、浩之ちゃんの」

 乙女の微笑は、そのまま淫靡な魔性のするモノへと変わった。りりすは怒張する浩之のモノを両手で包み込むと、それに顔を近づけた。

「…………あ」

 浩之は顔をしかめる。しかしそれは苦痛の為ではない。
 熱い塊を口に含んだりりすは、その舌先で裂け目をなぞる。腫れ物に触れるように優しく、時としてその裂け目にねじ入れ、浩之を絶え間なくよじらせる。
 りりすの唇からこぼれる唾液が、熱く怒張する浩之のモノからゆっくりと熱を奪う。しかし、ぴちゃ、ちゅぱ……、と淫猥な音を上げながら続けられる快楽の行為に、浩之のモノは内側から熱さを取り戻していった。

「…………うわぁ…………あぁ………………」
「…………ふぅ」

 喘ぐ浩之のモノから口を話したりりすは、軽く深呼吸した。

「…………これでイカせてあげる」

 そういうとりりすは身を乗り出し、身体をゆっくりと下げた。
 りりすの唾液で濡れそぼつ浩之のモノは、降りてきたりりすの乳房に挟み込まれた。ボリュームのある肉の塊は、熱く怒張する肉茎を隙間無く挟み込み、唾液を潤滑油にしてゆっくりと上下に動き始めた。

「ん…………あむ…………」

 更にりりすは、顔を下げて舌を出し、自身の乳房で扱いている肉茎の頭頂を舐め始める。

「うわ…………ぁ、あ…………ああ、あ………………!」

 浩之は、不断の彼からは思いもつかない、情けない声を上げてよがる。それほどりりすのこの愛撫は刺激的過ぎだった。手持ち無沙汰でいた両腕を上げてりりすの頭に絡めたのは、僅かにあった羞恥心のささやかな抵抗だったが、快楽に溺れ行く牡の本能が直ぐにそのベクトルを変えさせた。りりすの頭を両手で押さえる姿勢ではあるが、肉茎を愛撫する動きはりりすの成すがままにしていた。
 腰の深いところから脳幹へ、さざ波のように届く快感は、更なる怒張を呼ぶ。赤く腫れ上がるそれは、欲望の生を満たせ、浩之の若さに相応の焼け付くような熱が、浩之の思考を沸騰させた。

「…………ん…………そろそろ限界?」

 りりすは意地悪そうに笑って訊く。
 浩之は、破裂しそうな思考に耐え苦しんで応えられなかった。しかしりりすにはそれで充分であった。

「…………限界みたいね。…………ふふっ、良いのよ、このままイッても」

 浩之のモノを乳房で挟み込み扱く動きが早く、激しくなる。
 正直、これは琴音の膣の動き以上であった。
 このまま、りりすの美貌に、欲望の全てをぶちまけてしまうか――煩悩を過ぎらせた刹那、浩之は限界を迎えた。
 びくっ、びゅるっ、ぶぶっ。りりすの乳房の間で痙攣したそれは、りりすの顔へ煽り気味に夥しい白濁の欲望を吐きかけた。浩之自身が驚くぐらいの量が、りりすの美貌を覆い汚していくが、りりすはそれを陶然とした顔で受け止めていた。
 全てを出し尽くした後も、浩之のモノは怒張したままであった。それは浩之のスタミナの強さではなく、淫蕩たるりりすの顔を見れば誰もが萎えるコトを忘れてしまうからであろう。
 今のりりすは淫魔の何者でもなかった。

「…………ん」

 りりすは頬にこびり付く白濁を指先で掬い、それを口に頬張った。実に満足げな顔であった。
 その顔が、突然閃いた。まるで我に返ったかのような、そんな瞠り方であった。

「…………あ、これは…………浩之、ちゃん?」

 りりすは戸惑ったような顔で浩之をみた。射精の余韻で陶然としている浩之は、ゆっくりと身を起こし、りりすの方に顔を近づけつつあった。

「りりすさん…………」
「あ――」

 浩之は、何故か狼狽し始めるりりすの唇を自分の唇で塞いだ。浩之のキスに驚くりりすであったが、特に抵抗もせずに目をつむり、入り込んできた浩之の舌に自分の舌を絡めてきた。

「りりすさん…………あ…………あふ…………」

 浩之はりりすの唇を吸いながら、空いている両手で剥き出しのりりすの乳房を揉み始めた。陰茎越しに感じ取っていたその弾力性は、押しつける掌越しにも感じられた。

「…………はぁ、…………あむ…………」
「浩之ちゃ…………ああっ!」

 りりすの唇から離れた浩之の唇は、今度は身を下げ、その張りに支えられて突き出るようにいたりりすの乳首を食む。乳首からの稚拙な刺激に、りりすは思わずのけぞった。
 浩之はりりすの乳首を、歯で軽く噛み、舌でその側面をなめ回し、そして唇で吸った。その度に、りりすは甘い声を上げて悶える。白い肌はみるみるうちに赤みと熱さに満ちていった。
 浩之はもう押さえきれなかった。昨日、琴音に身体の自由を奪われたままセックスしたコトもあり、牡の本能が持つ征服欲の欲求不満をずうっと抱えていた所為もあった。浩之は乳房を口と左手で愛撫しながら、右手をりりすの両腿の間へ滑り込ませた。

「――――っ!?」

 浩之がりりすの深く敏感なところへ、布越しに触れた刹那、りりすは反り返った。
 既にそこは濡れていた。浩之はショーツにピッタリと張り付いてその形を浮かび上がらせている谷間に、人差し指を当ててゆっくりとなぞり始めた。

「ひあ――――ああっ!」

 悲鳴とも歓喜ともつかぬ声がりりすの口から上がった。いずれにせよそれは、牡をそそらせる牝の声であった。

「りりすさん…………」

 浩之はもう一度りりすにキスをする。そして、右人差し指をショーツの端に掛け、その中へ侵入し始めた。

「りりすさん……俺、したい…………」

 喘ぐりりすの耳元で浩之が囁いた。間もなく浩之の右人差し指は、愛液で濡れそぼつ秘裂へ届かんと――――

「――い、いやぁっ!駄目ッ!!」

 浩之は、まさか、と思った。
 突然りりすは浩之を押し退け、逃げ出してしまったのである。浩之の愛撫に反応し悶えていたりりすは、失われつつあった理性を、振り絞った気力で補填して浩之を押し退けて身を離したのである。
 居間の角まで転がるように逃げ延びたりりすは、剥き出しの胸元を両手で隠し、へたり込んだ姿勢で、浩之の顔を息急き青ざめた顔で見つめていた。
 まさかの拒絶に、浩之はただただ唖然とするばかりであった。
 誘ったのはりりすであった。
 なのに、りりすから拒絶したのである。
 まるで別人のようであった。涙を浮かべ、困惑するりりすの姿が、浩之の中で、先程自分に奉仕した淫蕩な美女とはどうしても繋がらなくなってしまった。りりすが二人いて、瞬時に入れ替わったような、そんな錯覚を浩之は抱いていた。


 暫くの間、気まずい沈黙が浩之とりりすを取り巻いていた。
 やがてりりすはゆっくりと立ち上がり、脱ぎ散らかしたブラジャーとコルセットを取り、浩之に背を向けながら着直し始めた。
 浩之は俯き、着替えるりりすの姿から目を反らしていた。あれだけ燃え盛るようにあった劣情は既に霧散し、起立していたモノはすっかり萎えてだらしなく剥き出しになっていた。
 元通り着直したりりすは、横目で浩之を見遣る。浩之は着直したりりすに気付いておらず、まだ俯いたままであった。

「…………浩之、ちゃん」
「!」

 恐る恐る、そして申し訳なさそうに呼ぶりりすの声に、浩之は驚いて肩を震わせた。
 浩之は、りりすのその一言は訊きたくなかった。

「……ご免。私、どうかしていた。…………今のコトは忘れて…………お願い」

 そう言ってりりすは立ち上がり、もたつくような足取りで居間を出て行った。
 一字一句、予想通りの言葉だった。浩之は唇を噛みしめた。


 その日の晩。
 りりすは自分の部屋から出てこようとはしなかった。
 浩之も、自分の部屋に閉じこもり、ベッドの上に横たわったまま、呆然としていた。食欲も湧かなかったので、結局そのまま浩之は寝入ってしまった。
 寂しさばかりが募る夜だった。


 4月27日。
 浩之はようやく明け方に空腹感を覚えて目覚まし、起き上がった。
 日曜の朝。りりすは自分の部屋に閉じこもったままであった。仕方なく、浩之はあり合わせのモノで朝食を作った。
 焦がし掛けた目玉焼きとベーコン、それとロールパン。りりすが作るモノとは比べモノにならないくらい下手な料理。焦げ目が不味かった。
 それを浩之は二人分用意した。もうひとつは、天の岩戸に閉じこもった天照神が如く、部屋に閉じこもっているりりすの為。
 浩之はもう一度、りりすの部屋の戸を叩いた。

「…………りりすさん。朝飯、俺が用意したから」

 りりすの反応はなかった。実は中に居ないのでは、と心配になったが、訪れる前に玄関の三和土にりりすの革靴があったので、外に出ていないコトは分かっていた。
 結局、りりすは何も応えなかった。
 浩之は溜息を吐くと、りりすの部屋の扉を後にした。


 陽が傾いても、りりすは部屋から出てこなかった。
 浩之も、昼過ぎから自分の部屋に閉じこもった。
 この、ポッカリと何かが抜け落ちたような想い。
 淋しい想いと、そしてゆっくりと沸き上がる、自己嫌悪感。それが抜け落ちた心の穴に代わりに埋まっていく切なさ。
 りりすにも縋れない気持ちは、傷ついていた浩之の心をまた昏く押し潰していった。そな想いを抱いたまま、ベッドの上に横たわる浩之はゆっくりと目を瞑った。


 ――夜半。
 神岸あかりは、妙に寝付けない自分に戸惑っていた。先週からずうっと風邪気味の体調が、日曜の朝頃からとうとう悪化し、熱を出して寝込んでいたのだ。だが何故か、急に目が冴えてしまい、どうしても眠れなかった。
 しん、と静まり返った部屋が、少し不気味に感じた。あかりは目を瞑り、身体の向きを変えて何とか寝付こうと努力するが、耳を打つその静けさがそれを妨げていた。

「…………はぁ」

 苛立ちを溜息に込め、あかりは目を開けて仰向けになった。

「…………やだなぁ。寝過ぎたのかしら。明日、学校あるのに……」
「眠れないでしょう?」
「――――!?」

 あかりは、突然聞こえてきた何者かの声に驚いた。
 そしてもう一度驚いた。

(身体が――動かない――――――?!)

 目だけが動かせた。その目は、あかりのベッドの直ぐ横に立つ、メイドドレス姿のりりすを見つけていた。

(り――りりすさん――――――!?)

 りりすは笑っていた。うっすらと浮かべる静まり返った微笑は、やけに不気味であった。

「…………寝付けないのは、待ちわびた“干渉の刻(とき)”がようやく訪れたから」
(――――?)

 困惑する――金縛りのままではあったが、あかりの横にりりすは腰を下ろし、たおやかなその白く細い指先で、そっとあかりの髪を梳いた。
 やがてその指先はあかりの顎先で止まると、くっ、とそれを持ち上げた。
 そしてりりすはあかりに口づけした。
 りりすの熱い吐息が、あかりの口腔に流れ込む。金縛りにあって抵抗出来ないあかりは、その瞬間より自分の身体が熱く火照り始めたコトに気付いた。
 これは風邪の発熱ではない。――信じられないが、自分はりりすに興奮しているのだ。

「…………ふふ。これで三度目になるのね」
(……?)

 りりすに寝間着を開かれ、ブラジャーと火照り朱く染まる肌を露わにされたあかりは、りりすが口にしたその言葉の意味を理解出来なかった。

「…………と言っても、貴女は覚えていないのよね。ファーストとセカンドのりりすに抱かれて、その身体にナノマシンを送り込まれたコトなんて」
(……なの…………ましん……――――ああっ!)

 金縛りにあっているあかりは、しかしゆっくりと乳房を揉み始めたりりすの愛撫に反応して仰け反った。
 りりすはあかりの成熟し切れていない小さな乳房に吸い付き、刺激を受けて勃起する乳首を食み、その先を舌で転がすようになめ回す。
 驚いたコトに、動かなかった身体が、りりすの愛撫にのみ反応して悶え動くのだ。あかりはまるで自分の身体が自分のものでないような錯覚に見舞われた。
 しかし、喘ぎ声は出なかった。あかりは声を出しているつもりでいて、必死に声を我慢しようとするが、実際はひとつも声になっていなかった。
 りりすは両手をあかりの乳房の上に当て、親指で乳房の間に宛て、左手で半時計回りに、右手で時計回りに、マッサージするような動きで円を描くように愛撫する。りりすの手にすっぽりと包み込まれた乳房と、掌の内側でその動きに合わせて動く乳首の淫靡な刺激を受けたあかりは、はぁ、はぁ、と声にもならない――ならない、ではなく出せないのだが――喘ぎ声と共によがった。
 そのうち、りりすは右手を下の方へ降ろす。
 びくっ!躊躇いもなく自分のショーツの中に滑り込んできたりりすの指先が、あかりの敏感なところを捉え、あかりは大きく仰け反った。
 りりすは中指であかりの秘裂をなぞり始めた。その度にあかりは腰を上げて仰け反りを繰り返す。
 単調な、しかし淫猥な繰り返しの内、あかりの秘裂は快感に反応して溢れ出てきた愛液でぐしょぐしょに濡れていた。
 男を知らないハズのあかりは、涎まで流してりりすの愛撫に溺れていた。

「…………うふふ。記憶に無くっても、二人に散々“教育”された身体は覚えているみたいじゃない?何、このエッチなくらいの量は?」

 そう言ってりりすはあかりの股間から右手を離し、愛液まみれのそれをあかりの顔に近づけた。
 窓から注がれる月の光が、その淫らな液に照り返される。指先さえも美の結晶と言えるりりすのその手は、何処か神々しかった。

「…………自分のを、舐めてご覧なさい」

 そう言ってりりすは、愛液まみれの右手をあかりの口元に寄せた。
 金縛りにあって居るハズのあかりが、口など動かせるハズもない。
 ――舌が、動いた。そして、指も、腕も。
 あかりは両腕を上げ、りりすの右手をそっと取ると、それを口元に寄せた。
 舌が、りりすの右手にこびり付く愛液に触れた。自分が漏らした、端ない淫らな液。
 その雫が、舌の上に落ちた。あかりの舌が伸び、滴るりりすの人差し指に絡み付いた。

「……んむ…………あむ…………はん…………」

 りりすが差し出した指を、あかりはまるで甘露の雫を味わうかのように舌と口でなめ始めた。口腔に拡がる酸っぱい味があかりの唾液を誘い、口元から零れ出していく。時には口を細め、頬が凹むくらい吸っていた。
 あまりにもその淫蕩な光景を、不断の大人しいあかりを良く知る浩之が目撃したらどう思うであろうか。
 あかりがりりすのたおやかな指は、いつしか男の太い指に代わっていた。
 そして、りりすは浩之の姿に変わっていた。

「…………浩之…………ちゃぁん…………!」

 ウットリとした顔で指を舐め続けていたあかりには、目の前でりりすが浩之に変身したコトに驚いた様子はなかった。

「あかり――いくぞ」

 偽浩之はあかりの股の間に入り込み、一気に突き入れた。
 あかりは、侵入してきた浩之を受け止め、今までにない大きな反りをした。


 りりすは、浩之の呼びかけにも応えず、床に敷いた布団の上に俯せになって横たわっていた。
 一晩中泣いていたのか。その目は泣き腫れていた。
 自分を押さえられなかった――。りりすはずうっと後悔していた。

(……“干渉の刻(とき)”が、ここまで酷いなんて――――誰?)

 突然、りりすは部屋の中に誰かの気配を感じた。驚いたりりすは、慌てて身を起こし、辺りを見回した。

「――――刻は満ちた。なのに何故、神岸あかりに干渉しないの、りりす?」

 その声は、りりすの背中に浴びせられた。
 りりすが振り向くと、そこに鏡があった。
 否。そんなものは無い。
 在るのは――いや、“居た”のだ。

「――――えう゛ぁ?」

 りりすは、どこか暗然とした面もちで自分を見下ろしている、全く同じ姿をするもう一人のりりすを、そう呼んだ。

            つづく

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