【警告】
○このSSはPC版『ToHeart』(Leaf・AQUAPLUS製品)の世界及びキャラクターを使用しています、たぶん。
○このSSはPC版『To Heart』神岸あかりおよびHMX−12型マルチシナリオのネタバレ要素がある話になっており、話の進行上、性描写のある18禁作品となっております。
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ToHeart if.
『淫魔去来』 第11話
作:ARM
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【承前】
4月25日、放課後。
保健室での奇怪な陵辱劇はまだ続いていた。
念動力で浩之から四肢の自由を奪った琴音は、強引に浩之とセックスを行っていた。
「あ――――いい――――気持ち良い――――変に――――変になっちゃう――――止まらない――――藤田さぁんっ!」
既に琴音は、浩之のものを呑み込んだまま、2度、浩之の精を受け止めていた。快感による興奮からブラウスを開け、ブラジャーを首の方にずらしてまだ未成熟な乳房を露わにし、今また、三度膨れ上がり爆ぜようとしている浩之のモノを感じながら、夢中になって腰を振り続けていた。
強引に自分を貪る琴音に、浩之はその様子に尋常ならぬモノを感じていた。あの虫も殺せぬような大人しい少女が、こんな淫乱になるなど、誰が予想し得ようか。
少なくとも、今の琴音に正気はない。もしかすると、催眠術か何かで操られているのかも知れない。浩之は必死に考えた。
考えるコトで、このまま達してしまうコトを避けようとしていた。
だが、考えれば考えるほどドツボにはまっていくのが男の哀しいサガというモノで、ましてや超能力の件がなければ、校内外問わず男子生徒が放っておかないほどの美少女である。そんな娘が、直ぐ目の前で、恥ずかしげに頬を染め、しかし淫らに顔を快楽に歪め、よだれを垂らしながら男のモノと結合し夢中になって腰を振り続けているのである。
浩之は身体の自由を琴音の念動力で封じられているだけであって、思考や五感には何ら影響はない。既に二度も射精していながら浩之のモノが怒張したままなのは、内心、浩之も琴音との行為に興奮している所為であった。しかも二度とも膣内射精である。妊娠という結果に困惑する以上に、男、いや牡の本能が勝ってしまったのであろう。
その所為か、正直、浩之はもうどうでもいい気分になっていた。
その気持ちが強くなる度、哀しくもなった。こんな異常な状況で童貞を喪失したコトより、妹のように可愛がっていた娘に強引にセックスさせられているコトがとても哀しかった。
だが、どんなに哀しいという気持ちが湧いても、身体はその想いに応えてくれる気配はなかった。腰の奥からジワジワと高ぶり始めた射精感は、どうしても押さえるコトが出来なかった。
行為を続けているうちにコツを覚えたのか、あるいはよりよい快感の得られ方を理解したのか、琴音の浩之の肉茎を圧迫する膣の力は更に増し、満たされた愛液によって隙間をピタリと埋め尽くされた結合の音は、ますます酷くいやらしい音を立てた。
「あ――ああっ――――浩之ちゃあん、いい、いいのぉっ!」
全身の性感帯が励起する今、琴音は溜まらず浩之の首に腕を回し、浩之の顔を自分の胸に引き寄せてよがり狂った。
(――また、“浩之ちゃん”かよ――)
妙に、あのあかりっぽい口調で、馴れ馴れしく自分の名を呼ぶ琴音に浩之は歯噛みした。
この口調に、行為中、幾度も琴音をあかりと勘違いしたコトか。あまりにもそっくりなのだ。最初の射精はこれに油断して放ってしまった程である。
(く――くそ――――)
顔を歪める浩之は、それを思い出して腹立たしくなったのではなく、また限界を感じたからであった。
「あ――――藤田さん――いいっ!イクっ!イクのぉっ!!」
琴音も限界が来たらしい。腰の動きが鈍くなり、根本まで沈むと、浩之の肉茎を締めつける力が更に強まった。
「ああああああああああああっ!!」
琴音は浩之の頭を抱き抱えたまま、大きく反り返った。
「くぁっ!!」
その動きに刺激されて、浩之は三度目の膣内射精をやってしまった。休みなく刺激されているハズの浩之のモノは、未だに衰えるコトなく大量の白濁の雫を琴音の一番深いところに吐き出してしまった。
「つぅ………………あぁつぅぅ…………」
琴音は浩之の頭を抱き抱えたまま、プルプルと快感の高みに打ち震えていた。琴音の成すがままでいるしかない浩之は、琴音の乳房の間で悔し涙を浮かべていた。
「くそぉ…………何でこんなコトに――――くぁ!」
達したばかりの琴音がまた腰を動かし始める。浩之は困惑するばかりであった。
「このままじゃ、俺も琴音ちゃんも壊れちまう…………!どうすれば良いんだっ!」
「いい加減にしなさい」
その、叱っている割に何処かひょうひょうとした口調が琴音の背中に振ってきた。
浩之は、その声の主を知っていた。知っていたから、信じられない顔をして驚いた。
「――――りりすさん?!」
「駄目じゃない浩之ちゃん、保健室で彼女とエッチなんて――先生が来たら大事ヨ」
「あ、あのなぁっ!」
目の前の痴態を気にもせず、あまつさえウインクまでして呑気なコトをいうりりすに、浩之は腰砕けになった。もし今、ちょっとでも射精感に見舞われていたら一発でイってしまったコトであろう。
不思議なコトに、りりすがやってきたのにも関わらず、セックスに溺れて夢中になっているのであろうか琴音は気にもせず浩之のモノを呑み込んだまま腰を振り続けていた。
「――ンな呑気なコト言ってないで、なんとかしてくれっ!」
「はーい♪」
りりすは能天気に笑って応えると、その口調とは裏腹に、琴音の首筋に容赦ない鋭い手刀の一閃を叩き込んだ。
「――――」
それで一発だった。琴音に頭を抱き抱えられていた浩之にもその衝撃の威力は判るくらい、かなりきつい打ち込み方であった。その甲斐あって、琴音はその一撃で気絶してしまった。その証拠に、浩之はその直後、四肢の自由を取り戻した。
「――ぷはっ!!」
自由になった浩之は、慌てて琴音の膣から自分のモノを引き抜いた。すると、長いコト自分のモノが収まっていた、琴音の赤く膨れている秘裂から、浩之が吐き出した精液がどろり、とこぼれ出てきた。
それを見た浩之は、溜息と、そして悔しさのあまり涙が溢れ出てきた。自分の意志での所業ではないとは言え、これは痛恨の光景であった。
「わぁ、凄い量♪」
ソファに寝かされた琴音のその白濁まみれの秘部を見て、りりすは呑気そうに言う。
「りりすさん、あのなぁ――!」
そんなりりすの態度は、今の浩之には煩わしいばかりであった。
「ま、大丈夫。いくら膣内射精したって、今の彼女なら妊娠しないから」
「……あ?」
「琴音ちゃんの様子、とても変だったんでしょう?まるで別人みたいに」
「――――」
どうにもりりすという女性は、浩之にとって仰天させる存在以外の何者でもないようである。何故、りりすが琴音の様子がおかしかったコトを知っているのか。何より、どうしてこの娘が琴音という名前であると知っているのか。
「――――まさか、覗いていたのかっ!」
「違うわよ〜〜♪偶然、保健室の前によったら、中から喘ぎ声が聞こえてきたから」
「…………偶然?つーか何でりりすさん、学校に居るんだよ?」
「んーと、今朝、浩之ちゃんに今日の晩ご飯のリクエスト訊いていなかったから、買い物に行く前に、放課後なら良いかな、と思って来たの」
「――――」
浩之、口をぱくぱくさせて呆れ返った。もっとも、その破天荒な行動が無ければ、浩之がこの状況から助からなかったのも事実である。
「……ま、まぁ、そーなら良いけど…………その前に琴音ちゃんが妊娠しないって、どういう――」
「セカンドが仕込んでいたナノマシンが暴走した副産物のお陰」
「はぁ?」
「多分、琴音ちゃんの体内にあったセカンドのナノマシンが、誰かが保有していたファーストのナノマシンと何らかの直接接触が生じて、発動してしまったのでしょう。セカンドのナノマシンは、〈M−マトリクス〉生成を目的にして組成されているの。まぁ一種のピルみたいなモノで、脳内にあるセカンドナノマシンが、特定の遺伝子保有者以外の体内で性交渉の発生を確認すると、妊娠時に分泌されるゲスターゲンつまり黄体ホルモンと呼ばれる女性ホルモンを合成して卵巣の排卵を防いでいるの。更に、放出された〈アダムのマトリクス〉はナノマシンがすべからく取り込むから、受精は起こらないってワケ。ついでに記憶も脳内のナノマシンがコントロールして都合良く消去しているだろうから、本人は何があったか全く覚えていないから」
「…………」
浩之の頭に、チンプンカンプン、という言葉が浮かんだ。りりすの説明を理解する頭など持ち合わせていなかった。
「まぁそう言うワケだが、安心してね♪」
「…………安心なんて、出来るワケが…………」
「んー、言われてみればそうよねぇ。念には念を」
「?!」
浩之が瞠ったのは、突然りりすが琴音を抱き起こし、いきなり唇を重ねたからであった。
濃厚なキスであった。僅かに蠢く琴音の頬は、りりすが琴音の口の中に舌を入れているからであろう。
一分ほど続いた痴態を前に、浩之は凍り付いてしまった。りりすが琴音から唇を離すのを見て、ほっと、妙な安心感から安堵の息を吐いた。
「……これでよし」
「よし、って……!」
「良いの。――さぁ、浩之ちゃんはとっと家に帰って」
「……は?」
「後始末は私がするから。とっととパンツとズボン履いて、先に帰って」
「後始末……」
「これ」
そう言ってりりすは琴音を指した。偶然の一言で片づけるには、このりりすという女性の性格ならばそれこそ不自然と思わざるを得ないだろう、その指先は狙い澄ましたように琴音の秘部があった。
「…………それとも、責任取る?」
「あ――――」
にぃ、と意地悪そうに訊くりりすに、浩之は慌てて剥き出しの下半身を、ブリーフとズボンを履き直して隠した。
「で、でも、りりすさん――――」
「――いいから」
そういってりりすは首を横に振る。
その顔が珍しく真顔であった所為もあって、浩之は戸惑いながらも首肯した。不断、巫山戯たコトをしている人間が急に真顔になって言い聞かせるコトは、意外な説得力を持っているものである。浩之は急いで身なりを整え、鞄を持つと、後ろ髪を引かれる思いで保健室を後にした。
浩之が遠ざかっていくコトを確かめてから、りりすはいつの間にか手にしていたタオルで、浩之の精液と琴音の愛液で濡れていた琴音の秘部を拭い始めた。しかし不思議なコトに、先程あれだけ溢れ出ていたそれは、乾いただけで無くなるワケでもないのに、拭く前から大夫薄れていて、軽く拭いただけで綺麗になってしまった。
「……セカンドのナノマシンが〈アダムのマトリクス〉を全て取り込んだようね。あとは、私が送り込んだナノマシンが、組成された〈M−マトリクス・アナザーマテリアル〉を無害有機分解するからOK、と…………」
りりすは散乱している琴音の服を集め、それを琴音に着させた。やがて、愛液でぐしょぐしょになって床に落ちていた琴音のショーツを眺め、どうしたものか、と小首を傾げるが、とりあえず近くの洗面台でそれを水洗いし、ぎゅうっ、と絞ると、半乾きを承知で履かせ直した。
「ま、この痴態を覚えていないのだから、気付いても汗か何かだと勝手に解釈するであろうね」
一通り琴音の身なりを整えると、りりすは、ほっ、と安堵の息を吐き、ソファに腰掛けるとその膝の上に琴音を寝かせた。
しばらく眠っている琴音を見つめていたりりすは、突然、しかしゆっくりと琴音の身体を抱き起こし、そっと抱きしめた。
……藤田さん……
意識のないハズの琴音が、その名を口にしたからであった。
「…………琴音ちゃん、ご免ね…………こんなコトに巻き込んじゃって…………!」
りりすは琴音を抱きしめながら、涙をこぼしながら嗚咽するように詫びた。
「……貴女が浩之ちゃんのコトを好きなのは知っているわ…………その想いが強かったから、本来なら“あの娘”が果たさなければならない〈M−マトリクス〉組成が、貴女にも起きてしまった……。ファーストとセカンドのナノマシン同士の干渉による人格浸食さえも凌駕して、意に反して浩之ちゃんと強引にセックスしちゃったのね。いわば、琴音ちゃんの気持ちを煽ってしまった形になる。――貴女の気持ちを利用したセカンドの所業はきっと許されない…………でも、私は、許して、としか言えない…………もうこれ以上、不幸な人たちが出ない為に………………“私たち”は………………」
* * * * * * *
終始気怠そうな顔で帰宅の道を歩いた浩之は、真っ直ぐ自分の部屋に戻ると、力尽きたように自分のベッドに倒れ込んだ。
実際、琴音の強引なセックスによって心身共に疲れ果てていた。どちらかというと、精神的に参っていた方であろう。学生服を着替えず、突っ伏したままでいた浩之だったが、やがて静かに嗚咽が室内に拡がり始めた。
悔しかった。
無論、こんな異常な状況で童貞を喪失したコトに、ではない。
結局、自分は非力なんだ。――浩之はオカ研の部室で気付いた、“藤田浩之”を改めて痛感した思いで一杯だった。
暴走する琴音を止められず、終いには性の快楽に溺れかけてさえいた。そんな自分を思い出すたび、浩之は自己嫌悪に陥った。
ふと去来する、あかりの笑顔。
(……お前、俺がこんな情けない男だってコト、知ってたか?)
浩之はどうしてあかりの顔を思い出したのか、その理由など考えもしないで幼なじみに問いかけていた。
そのうち、何かもが嫌になった。ただ、このままベットに突っ伏したままでいたかった。
西に陽が沈んだ頃、下の階から誰かが上がってくる足音が聞こえてくるまで、浩之はずうっとベッドに突っ伏したままであった。
「浩之ちゃん♪」
変に呑気で明るい声が、扉をノックする音と共に聞こえてきた。
浩之は扉に鍵を掛けていなかったので、ノックしてきたりりすが、浩之の部屋に遠慮なく入ってきた。
「遅くなってご免ねぇ。ちょっと時間かかっちゃったから料理する時間無いと思って、駅前でヒレカツ売ってたから、それでいいかしら?」
りりすは微笑みながら訊く。しかし浩之はベッドに突っ伏したまま、何も応えようとはしなかった。
りりすに幾つか訊きたいコトはあった。りりすがあの場に現れたのは偶然ではない。
当然だが、浩之は、夕飯の献立を聞きに来たためという理由など、本気で信じては居ない。何らかの必然があってあの場に現れたのだ。
何より、りりすはこう言った。琴音は妊娠しない、と。その理由の説明が何を言っているのか、浩之にはサッパリであったが、それでも琴音の尋常ならぬ暴走の秘密の一端を語っていたのは判っていた。
さっきまで、まずそれを確認したいと思っていた。しかし、こうしてりりすが現れても、今の浩之は、身体も心も、鉛のように重く、思うように反応してくれなかった。
「…………」
りりすは、突っ伏したままの浩之をみて、はぁ、と溜息を吐いた。
「…………浩之ちゃん?」
「…………」
何も応えない浩之に、りりすはもう一度溜息を吐いた。いつもの調子なら、浩之に蹴りでも入れるくらいの過激ぶりをみせるのだが、流石に事情を知っているだけあって、強引な行為には至らない。
「…………琴音ちゃんのコトなら心配要らないから」
「――――」
突っ伏したままの浩之がようやく、りりすのほうを向いた。今の浩之に反応させるにはその話が一番効果的であった。
「……まぁ、難しい話になるから、平易に説明出来ないんだけど、琴音ちゃん、ちょっと正気じゃなかったの。あの後、色々と……」
「…………りりすさん、詳しいんだね」
「?う、うん」
りりすが驚いたのは、浩之が口をきいたからであった。
「まだ元気あるじゃない?」
「…………」
りりすは笑って訊く。だが、浩之はそんなりりすがカンに障ったか、また顔を戻して俯せになった。
「……あによ。人が心配してやっているのに、その態度は何よ?」
「…………」
むくれるりりすの声を耳にして、浩之は蹴りのひとつでも食らうかな、と思った。
ところが、いつまで経ってもりりすは浩之に狼藉を働く様子はなかった。りりすはまだ浩之の部屋に居る気配だけはあった。
気になった浩之は再びりりすの方へ顔を向けた。
りりすは、その場に佇んだままであった。
淋しげな顔で、浩之を見つめていた。
「…………りりすさん?」
浩之が呼びかけると、りりすはゆっくりと首を横に振って見せた。
「…………色々あったからね」
そう言ってりりすは微笑んだ。笑っているのに、何とも切なげな顔であった。
そんなりりすを見て、浩之は戸惑いながら身体を起こした。
「ここしばらく、色々ショックなコトばかり続いていたんでしょう?トドメがアレじゃあ、いくら浩之ちゃんでも堪えるわよねぇ」
「…………あの」
「…………だけど、私は浩之ちゃんがこれくらいでへこたれるような男の子じゃないコトは知ってるよ」
「――――――」
浩之は呆けた顔でりりすの笑顔を見つめた。
不思議と見覚えのある、気持ちの良い笑顔。まるで誰かの……。
「……本当」
「?」
「…………男の子ってさ、本当、逃げ場が無いんだよね。いつも誰かに頼られて、頑張っていなきゃいけない。でも泣き言を言うと、周りから叱られる。それでも男か、って」
そこまで言うと、りりすは近くにあった机の椅子に腰掛けた。
「……私もそうやって叱る周囲の一人よ。男の子なんだから、しっかりしなさいって。――でないとさ、哀しいんだもん」
「――――」
浩之は、りりすが泣いているように見えた。その美貌は確かに魅惑的に微笑んでいるというのに。
「……頼りにしたい好きな男の子がさ、弱気な姿なんて見たくない、って声を大にして言う我が侭な存在(ヤツ)が、女の子という生き物なの。本当、身勝手よねぇ」
「…………」
浩之は、淋しげに笑いながら言うりりすの話を聞きながら、居住まいを正してベットに腰を沈め、りりすと向かい合った。
どうしてこんな哀しそうに笑えるのだろう。浩之は不思議がった。
心当たりはあった。琴音の件である。りりすは琴音の暴走の理由を知っているのだ。あるいは、何らかの形で関わっているのかも知れない。だから、浩之にこんな顔で向かってしまうのだ。
判っていながら、浩之はどうしてもそのコトに触れられなかった。
触れてしまうコトで、りりすも、琴音のように壊れてしまうのでは、と不安に襲われたからであった。
「……でも、さ」
りりすは座ったまま伸びをして、
「…………身勝手だから、偶に、男の子の泣き言のひとつでも聞きたくなる気まぐれをするコトもあるのよ」
そう言ってりりすは椅子から腰を上げ、きょとんとしている浩之に近寄った。
「それで男の子がもっと強くなれるのなら、女の子はいつでも男の子の逃げ場になってあげられる覚悟はあるのよ」
「…………りりす、さん?」
「いいのよ」
りりすは面を振った。
そして、ゆっくりと、優雅な動きをして浩之の身体を抱きしめた。
りりすのその一連の動きは、まるで小春日和にふく、温かいそよ風のような優しさがあった。りりすの豊満な胸に顔を埋める形になった浩之は思わず顔を赤らめるが、羞恥心こそあれ、何故か動揺はしなかった。
一瞬だが、浩之は今の自分と、よくある、母親に抱かれている赤子の姿とダブらせた。そんな心地よさがここにはあった。
「…………今は、私が浩之ちゃんの逃げ場になってあげる。今は……今だけは、無理しなくて良いから…………私の胸の中で思いっ切り泣いても良いよ」
「――――」
浩之は絶句した。あの乱暴かつ破天荒なメイドは、傷つき逃げ場を見失っていた浩之の心を、誰よりも理解してくれていたのだ。
そのコトに気付いた刹那、浩之の中で壊れたモノがあった。
男の子という意地から、心を砕いてまで守っていた、大切なモノに見えて、しかし実は価値など無い、自分を無闇に縛り付けていただけの重いばかりの枷が。
「――――――――っあっ!!!」
浩之はりりすの胸の中で絶叫した。それは浩之が今までの生涯の中で、一番心が安まる慟哭であった。
つづく