ToHeart if.「淫魔去来」第10話 投稿者:ARM(1475) 投稿日:8月12日(日)01時51分
【警告】
○このSSはPC版『ToHeart』(Leaf・AQUAPLUS製品)の世界及びキャラクターを使用しています、たぶん。
○このSSはPC版『To Heart』神岸あかりおよびHMX−12型マルチシナリオのネタバレ要素がある話になっており、話の進行上、性描写のある18禁作品となっております。
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    ToHeart if.

       『淫魔去来』  第10話

            作:ARM

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【承前】

 4月25日、放課後。
 浩之は、琴音と一緒に、オカルト研究会部室の清掃を行っていた。
 前日、芹香とセバスがここで何者かに襲われ、昼過ぎまで警察の現場検証が行われていたが、犯人の遺留物らしきものは何一つ見つからず、結局、セバスか芹香の意識が回復するのを待つ事になった。浩之と琴音は、警察の許可を貰い、ぶち抜かれた壁の穴の修復を行っていた。

「……セバスごとぶち抜かれたらしいなぁ、この壁」

 浩之は、用務員室から貰った一畳もある大判のベニヤ板を、壁の穴に打ち付けながら感心したふうに言った。

「いくら安普請とはいえ、ちょっとやそっとじゃあ、ぶち抜けゃしないと思うんだがなぁ。とはいえ、あのセバスを倒すホドの相手ならできるかもしれないけど……。あのデタラメなジジィをボコったヤツって一体どんなヤツなんだろう?」
「さぁ……」

 琴音は崩れ落ちていた、恐らく殆どが芹香の私物であろう、怪しいばかりの戸棚の小物を、戸棚に仕舞いながら答えた。

「しかし、志保といい、芹香先輩といい、何で昏睡状態から醒めないんだろうなぁ」
「何かの病気なんでしょうか?」
「だったら、俺たちもヤバイよな」
「…………」
「あ、ウソウソ(汗)大体、そうだとしたら、とっくに俺たちもブっ倒れているハズだろ?」
「……そうですね」

 浩之は自分の失言に冷や汗をかいたが、気を遣っている琴音の反応は、どこか妙であった。
 琴音の何処か虚ろげな様子は、浩之を先程から戸惑わせていた。
 昼休みに、現場検証を終えて引き上げる警官から部室の掃除許可を貰い、琴音に声をかけてから、ずうっとこんな調子であった。始め、浩之は琴音が体調を崩しているものと思ったのだが、始終こんな重い雰囲気ではなく、時折思い出したように明るく振る舞う為、体調不良ではなく、悩み事の所為かと考えていた。
 昨日の芹香の件がショックだったのだろうか。数少ない、ようやく打ち解けられるようになった先輩を見舞った不幸に、少なからずショックを受けているのは間違いなさそうである。
 しかしこの昏い様子は、果たしてショックだけのものだろうか。昨日と比べて何処か病的な白さも浩之は気にしていた。やはり体調の所為なのだろうか、浩之は気の使い方に少し苦労していた。兎に角、ただでさえナーバスになりやすい琴音に、暗い話だけは避けたかった。
 そんな時だった。浩之はふと、りりすの事を思い出した。

「そ、そういやさ、琴音ちゃん、うちに今、とんでもない家政婦さんがいてさぁ」
「家政婦さん?」
「ああ。雇われている身だというのに、雇い主の家族を人を人とも思わぬ扱いするんだよ。いきなり人を蹴飛ばしたり、グーで殴ったり」
「ぐ、ぐー?」

 思わず琴音は瞬いた。

「……なんか、もの凄そうな人ですね」
「……まぁ、性格がひねくれているつーか決して悪人じゃないんだが、見てくれは悪くない、っていうか好み……げふんげふん、び、美人なんだけど、気さくすぎるつーか遠慮ないっつーか」
「ふふ……」

 琴音は、その乱暴な家政婦の話をする浩之の顔を見て微笑んだ。口では嫌がっている割りに、何処か照れくさそうに語る浩之の顔が、琴音にはどことなくくすぐったかった。

「……藤田さん」
「ん?」
「その家政婦さん、好きなんですか?」

 浩之、思わず吹き出す。

「――って、あの、好きとか嫌いとか、って」
「あ……、いえ、人間的に好きなのかな、って」
「あ」

 恋愛感情を含めて聞かれたモノと思ってしまった浩之は、自分の勘違いに戸惑った。
 当惑する浩之を見て、琴音は浩之の気持ちに何となく気付いてしまった。つまり、それ以上の感情が、多少なりともあるのだ。
 そう思った途端、琴音の顔が少し曇った。

 あの時もそうだった。
 初めて、あかりと居る浩之を見た時も。

「……彼女かもな」

 浩之のその答えに、予測していたコトとはいえ、琴音にはショックを受けていた。
 もしかすると、身の置き場の無い自分の、唯一の居場所になってくれる男性(ひと)になってくれるかもしれない。――そんな淡い想いに一縷の望みをかけて訊いた質問だった。

『そりゃ違うって』

 そんな答が聞きたかった。

 その時の貌と、良く似ていたのだ。

 ――――ろ。

「……?」

 不意に、琴音は軽いめまいを覚えた。

「?」

 浩之は、よろめく琴音を目撃していた。

「どうしたんだい?めまい?」
「あ、いえ…………ちょっと」

 琴音は、浩之に心配かけまいと苦笑して応える。
 しかし浩之は、そんな琴音の様子に、ふぅ、と少し呆れ気味に溜息を吐いた。

「……やっぱり、昨日の今日だから無理させちゃったかな?後は俺一人でやるから、琴音ちゃん、無理しないで下校して良いよ」
「だ、大丈夫で――――」

 ―――い―しろ。

「――――!?」

 突然、琴音が目眩を覚えてその場に倒れ込んでしまった。

「琴音ちゃん?!」

 昏倒する琴音に浩之は驚き、慌てて琴音の傍に駆け寄り、抱き起こした。

「琴音ちゃん――――」

 浩之は空かさず琴音の額に手を当て、熱の有無を確認する。しかし琴音の額は至って平熱であった。
 にもかかわらず、この顔の火照ったような紅さは何事か。

「今、保健室に連れていって上げるから――――?」

 琴音を両腕で抱き上げ、保健室へ行こうとした浩之だったが、しかし琴音が浩之の右手首を掴み、ゆっくりと頭を振るのを見て立ち止まった。

「……大丈夫です」
「しかし……」
「ちょっとめまいがしただけです……」
「でも……」
「少し横になっていれば……直ぐに……」
「どっちにしても、ここじゃ横にもなれないだろう?琴音ちゃんまで倒れるなんて、俺は嫌だ」
「藤田さん……」

 浩之は怒った顔をして琴音を諭す。果たして琴音は浩之の右腕から手を離し、頷いた。

 保健室に琴音をかつぎ込んだ浩之は、保険医に琴音を診てもらったが、顔色の紅さが嘘のようにやはり平熱であったコトと、琴音の意識があったコトから過労であろうと判断され、しばらくベッドで横になっているよう指示した。
 浩之は保険医に琴音を任し、一度、オカ研の部室に戻って琴音の鞄を取りに行った。
 オカ研の部室の扉を前にした浩之は、取っ手を掴む自分の手が鉛の様に重く感じた。琴音を抱き抱えて走った疲れもあるのか、この往復に少ししんどい気がしていた。
 正直、琴音ならずとも、志保や芹香の件もあって自分も倒れたい程気が滅入っていた。だが、それを甘えとして良しとしない、意地っ張りな自分を、浩之は少し忌々しく感じていた。
 浩之に、甘えられる存在が居ない所為だろう。ワーカーホリックな両親は半ば放任主義で不在がち。兄姉もおらず、いつも自分で何とかしなければならないコトに、浩之はいつの間にか慣れて違和感すら抱かなくなっていた。逃げ場のない境遇の辛さを、浩之は今更ながら感じていた。
 ふと過ぎる、美女の笑顔。どうして彼女のコトを思い出すのか。
 今は自分を頼りにしている少女がいる。頑張るしか無いのだ。浩之は、はぁ、と困憊気味に溜息を吐き、琴音の鞄を掴んで部室を後にした。

 浩之が保健室に戻ると、中には保険医は居なかった。窓は外の音が入らぬよう締め切られていた。
 ふと、浩之は入り口脇の壁に掛けられていたホワイトボードを見た。
 職員会議に出ています、と書かれてあった。保険医は三年生の体育の教師と兼任であった。

「……琴音ちゃん?」

 カーテンで覆われているベッドの傍に来た浩之は、念の為、小声で呼びかけた。
 反応はなかった。
 恐らく寝ているのであろう。浩之は琴音が目覚めるまで付き合うコトに決め、近くのソファに腰を下ろして、ふぅ、と溜息を吐いた。

「俺もこのまま寝ちまおうかな……つーか、疲れたなぁ……」

 浩之は保健室の白い天井を仰いだ。

「あー、かったりぃなぁ…………何か身体がだるい、っつーか、動か…………ん?」

 あるコトに気付いた浩之は、面を戻した。

「…………なんだぁ?」

 浩之は素っ頓狂な声を上げて、目で見回した。
 目で見回すしかなかった。何故なら、目以外、まったく身体が動かせなくなっていたからである。

「…………疲れが溜まると身体の自由がきかなくなる、っつーのは判るけど、なんで……くそぉ、腕も上がらねぇ!」

 何と言うコトか、浩之はソファに腰を下ろした状態からまったく身動きがとれなくなってしまったのである。まるで見えない何かの力に身体を縛り付けられているような、そんな得体の知れない感覚に見舞われていた。

「……おいおいおい、まさか金縛りかよ――――!?」

 身体の自由を突然奪われた浩之は、藻掻こうとしたその時だった。
 窓は締め切られていハズだった。
 なのに、風もないのに、琴音が寝ているハズのベットを仕切るカーテンが揺れていた。
 その隙間から見えるのは、からっぽのベッドだった。


 ――遂行せよ。

 それが体内から聞こえてきた途端、あれほどだるかった身体にゆっくりと力がみなぎり、ようやく起き上がる事が出来た。
 保健室内には、他には誰もいなかった。

 ――〈M−マトリクス〉を完成させよ。

 また、身体の奥から聞こえてきた。
 ――ようやく思い出した。
 〈M−マトリクス〉。それを完成されるコトが、与えられた使命だと言うコトに。
 かつて、人類種に阻止された“結末”を再び取り戻すために、彼女は送り込まれたのだ。そして、最初の彼女の“干渉”によって投与された〈M−マトリクス〉駆逐効果を持つナノマシンを駆逐する坑ナノマシンを、二番目の彼女から与えられた今なら、可能なのである。
 〈アダムのマトリクス〉との合成による、全ての祖――〈M−マトリクス〉の完成が。

 ――〈M−マトリクス〉の完成。それが我らの、いや――母なる者の悲願。
 ――我ら、生機融合体に約束された“結末”を、取り戻すのだ!
 ――その為に我らは、お前を選んだのだっ、かみ――――!


「……浩之ちゃん」
「?!」

 金縛りにあったままの浩之は、突然声を掛けられて思わず瞬いた。
 その口調は、まさにあかりのものであった。いつもの浩之なら、ちゃんづけは止めろ、と答える、あの言い回し。
 だがそれを口にしたのは、あかりではなかった。
 それが誰の声か、浩之は直ぐに理解出来た。

「――琴音ちゃん?」

 ベッドにいたと思っていた琴音が、いつの間にか自分が腰を下ろしているソファの傍らに立っていたコトに、浩之は酷く驚いた。つい先程まで、今琴音が佇む場所には誰もいなかったハズであった。
 琴音は、何処か浮かされたような顔で、金縛りにあって身動きのとれない浩之を見下ろしていた。

「……どうしたんだよ?ちょ、ちょっとお願いがあるんだ、俺を起こし――?」

 ふと、浩之の中に芽生えた疑問が、彼の思考を凝固させた。

(まさかこの金縛りって――――)

 浩之は目で琴音を見た。目しか自由にならなかった為である。
 琴音は微笑んでいた。相変わらず浮かされたような、心ここに在らず、そんな不思議な雰囲気ではあったが、微笑んでいるのは見間違いではなかった。
 その笑みを、浩之はどこかで見たような気がしていた。
 確かに琴音が微笑んでいるのだが、しかし浩之にはそれが、どうしても琴音の笑顔には見えないのだ。まるで別人が琴音に重なってそう見えるだけのような気がしてならなかった。
 そしてその別人は、浩之の身近な存在であった。

「……何で琴音ちゃんにあかりが重なって見えるんだ?――――え?」

 戸惑う浩之は、突然、奇妙な感覚が自分を見舞っているコトに気付いた。
 それは丁度浩之の股間部であった。

「チャックが――――?!」

 絶句する浩之の目の前で、なんと浩之のズボンのチャックが下がり始めたのである。
 チャックが全部下がったと思ったら、今度はベルトが、するり、と外れ、抜け落ちてしまった。更には、履いていたズボンまでもが、見えざる手にでも掴まれたか、ずる、ずるっ、と膝の辺りまでひとりでにずれるのを見て、流石に浩之は悲鳴を上げた。

「なななななな?!――なんだぁ?」

 しかし浩之は驚くばかりではなかった。何故ならこの奇怪な現象に対して、直ぐに原因と思しき存在に気付いていたからである。

「――琴音ちゃんっ!念動力で悪戯するのは止めろっ!」

 浩之はこの見えざる脱衣の仕掛け人が琴音であると看破した。
 琴音は浩之のほうをずうっと見つめたまま微笑んでいるばかりであった。

「おいこらっ!琴音ちゃん、悪ふざけもいい加減にしろっ!終いには怒るぞっ!!」

 浩之は身動きのとれない状態で、琴音を叱った。
 一瞬、ビクッ、と反応する琴音。僅かに人間らしい表情を取り戻すのだが、しかし直ぐに元の虚ろげな顔に戻ってしまった。
 琴音は念動力で、ついに浩之が履いていたブリーフにまで見えざる手を掛けた。流石に事態が事態だけに、浩之のモノは萎縮したままであった。こんな状況下で勃起するのはまともな神経の主ではない。

「やめ――――!」

 浩之の叱咤も虚しく、ブリーフは琴音の念動力によって引き下ろされ、しょぼん、としている浩之のイチモツが露わになった。
 顔を真っ赤にする浩之は、堪らず顔を背ける。自分でもどうにもならないのが判っていた。

「怒るぞコラ…………!」

 恥ずかしさで一杯だった浩之は、それでも琴音を叱ってこの暴挙を止めさせようと必死だった。
 琴音はそんな浩之をみて、いっそう微笑んだ。悪びれている様子はない。

「…………浩之ちゃん。恥ずかしがらなくって良いんだよ」
「何言ってやがる……いい加減にしろよ、あか――」

 り、と言い切る直前で浩之は硬直した。
 そうなのだ。
 確かに目の前にいるのは、琴音である。
 なのに、浩之はいつの間にかあかりを相手にしている気でいたのだ。

「バカな――――うわっ!?」

 動揺する浩之に追い打ちを掛けたのは、琴音の次の行動だった。
 足音も立てずに浩之の正面に近寄ってきた琴音は、浩之の膝の間に入ると、静かにしゃがみ、顔を股間に近づけた。そして、だらしなく垂れ下がって萎縮している浩之のモノに、そっと指先で包み込むように触れたのである。

「こらっ!触るなっ!――――あっ」

 更には、琴音はそうっと舌を出し、両手で包み込むように触れているそれの先端へ、舌の先で触れた。浩之はその生意気そうな顔からは思いも寄らぬ可愛らしい声を上げた。
 浩之のモノの裂け目に、琴音の舌が僅かにねじ込むように入り込む。
 ぬるり、という、感触に続いて、にちゃっ、という音が浩之を刺激する。

「うわ…………ぁ」

 まだ包皮に包まれていたそれは、琴音の舌が動くたびに見る見るうちに力と熱さを取り戻していく。
 琴音はむくり、と大きくなるそれを包み込む包皮を、親指で捲った。すると中からピンク色の亀頭が膨れ上がりながら現れ、表面の皺にみるみるうちに艶を与えていく。
 いつの間にか琴音は、自分の右手で、浩之の陰嚢を包み込み、揉み下し始めた。

「コラ、止め――――うわぁ………………!!?」

 ぬるっ。逞しさを取り戻した浩之のモノを、琴音は一気に頬張った。
 浩之が今まで感じたコトの無いような感覚が、先端から腰を経由して脳幹に届いていた。
 琴音の口交は、稚拙ながら唾液を絡ませた舌を使って続けられていた。浩之は口で奉仕を続ける琴音を見る事が出来ず、顔を背けながら、呪詛のように、そして背筋に走る快感に必死に抵抗しながら小声で、やめろ、やめてくれ、と呟いていた。
 浩之の一番敏感な熱い塊と抵抗する理性が、琴音の温い唾液と別の生き物のような動きをする舌先に溶かされて行く。熱くたぎる細胞の隙間に、温い淫猥な液体が染み入り、麻酔のように痺れさせていく。麻酔であり、興奮剤でもあった。

「く…………あ…………」
「あむ…………ん…………あん…………」

 しばらく側面を這いずり回っていた琴音の舌先が、再び先端の裂け目に戻ってきた。そこが浩之にはもっとも敏感なところであった。
 いつしか息を荒げていた琴音は、いつの間にか自分のスカートを外し、空いていた左手を自分のショーツに差し込んでいた。そして自分の一番敏感なところである部位の上辺りで淫らな動きを見せていた。口と舌で浩之の肉茎を、右手で浩之の陰嚢を愛おしげに愛撫していた琴音は、興奮のあまり空いている左手で自分を慰めていたのだ。

「うわ…………くぁ…………!」

 浩之は、背筋にゾクゾクと危険な感覚を憶えるたび、唇を噛んで必死に堪えた。目ばかりではなく、口も動かせたお陰であった。
 だが、それもそろそろ限界であった。

「ひあ――――あ――駄目――ああ――――ああっっ!!」

 琴音は浩之のモノを口から離し、肩を竦めて反り返る。どうやら自慰の刺激が浩之への奉仕に勝ったようである。琴音の口から解放された浩之は思わず、ホッ、とした。

「駄目――もう――――イク――――――ああああああっっっ!!」

 ビクビクッ!反り返っていた琴音が痙攣した。どうやら達してしまったらしい。琴音は愛液でびしょ濡れになっているショーツの中に左手を差し込んだ姿勢で俯せに倒れた。

「くそ…………何が…………どう………………?!」

 ほっとするのもつかの間であった。相変わらず浮かされたままの、しかし気怠そうな顔をする琴音は、むくり、と身を起こした。

「……琴音ちゃん、正気に――――?!」

 浩之をまたも驚かせたのは琴音の所業であるが、今度は前より唖然とさせた。
 琴音は気怠げに立ち上がると、今度は履いていたショーツを脱ぎ出したのである。自慰で溢れた愛液で程良く濡れていたそれは、琴音の右足を抜け、続いてひょいと上げた左足を抜けると、琴音の左手に水平に摘まれていた。
 剥き出しになった琴音の下半身を前に、浩之は顔を背けて絶叫した。

「琴音ちゃん!いい加減にしろっ!」

 すると琴音は、にぃ、と口元を広げた。

「…………駄目。浩之ちゃんとこうなるコトは、決められた定めだから」
「定――――」

 歯噛みして困惑する浩之の前で、琴音は左手で摘んでいた自分のショーツを床に落とした。べちゃ、と濡れた音が辺りに広がった。

「…………わたしは、浩之ちゃんのモノを受け入れなければ駄目なの。そうしないと、わたしたちが存在できなくなるから」
「何ワケ分からないコトいってやが――――あ、こらっ、待てこっちに来るなっ!」

 浩之は、ゆっくりと自分に近づく琴音を怒鳴った。
 予想される次の琴音の所業に、浩之は今までの生涯に於いて最大の当惑ぶりを見せた。
 それを防ぐべき理性は働いているのにも関わらず、意に反した自らの欲望は全てを凌駕していた。
 琴音は、今もなお怒張し脈打つ浩之のモノを右手でそうっと掴んだ。

「やめ――――あ――――ああっ!!」

 琴音は浩之のモノを呑み込む行為に躊躇いも無かった。
 みち、みちっという裂ける音は、浩之の耳にも聞こえていた。琴音は破瓜の激痛に涙を浮かべていたが、身体は抵抗しようとしなかった。
 ――ぎしっ。ソファーが、二人分の重量を受けて音を立てた。

「――――はあっ!!」

 浩之のモノを根本まで呑み込んだ琴音は、背筋から間断なく襲う激痛に顔を歪め、反り返った。

「……ば…………バカっ…………なんてコトを………………!」

 浩之までもが涙を浮かべて顔を歪ませているのは、決して激痛の為ではなかった。

「…………くぁ…………うく…………!」

 琴音は痛みに耐えかね、浩之の首の後ろに両腕を回して身体にしがみついた。
 しかししばらくして、琴音は、はぁ、と嘆息すると、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「バカっ…………!動くな…………止めるんだ…………!」

 琴音に無抵抗に扱かれる浩之は、ジワジワと沸き上がる快感に耐えながら琴音に怒鳴った。しかし琴音は腰を振る行為に没頭し、浩之の声を全く無視していた。

「止めろ…………止めてくれ…………うあ…………くぅぅ…………!」

 早くも、浩之の背筋に射精感が沸き上がる。慌てた浩之は唇を強く噛んで必死に堪えた。
 だが、次第に荒く早くなっていく琴音の腰の動きに、唇を血が出るほど強く噛んで保とうとする理性が耐えきれなくなり、まるで猛獣の爪に蹂躙されるかのように無惨に引き剥がされていった。

「――駄目だ――このままじゃ――――琴音――ちゃん――――――」
「…………駄目だよ、浩之ちゃん」

 先程まで激痛に苦しんでいたハズの琴音は、いつの間にか顔を紅潮させ、興奮に息を荒げていた。

「このまま………膣(なか)でイって…………それで全てが終わるから……ああっ!」
「駄目だ――そんなコト――――止めるんだ、あか――――!?」

 またもや浩之は、琴音をあかりと勘違いしてしまった。
 声も、顔も別人なのに。
 この口調は。
 この息づかいは。
 この貌は、雰囲気は――――?

 その気の緩みが、浩之の最後の壁を決壊させてしまった。

「――や、やば――――――くぁあああっっっ!!!」
「あ――――ああああああああああっっっ!!!」

 浩之のモノはとうとう琴音の中で爆ぜ、白濁の雫を放ってしまった。我慢していた分、その勢いは激しく、ビクビクと脈打ちながら欲望の雫を琴音の一番深いところに放ち続けた。大きく反り返った琴音は、オーガズムに達したと言うより、浩之のモノを膣で感じたコトに対する実感によるものだろう。

「…………ああ…………藤田さんのが…………ああ………………」
「…………バカヤロウ…………なんてコトを…………!」

 仰ぎながら痙攣し喘ぐ琴音の姿とは反対に、浩之は涙を浮かべて歯噛みして悔しがっていた。まさか琴音にレイプされるなど、微塵も思いもしなかったコトであった。

「…………バカでも良い」
「……何?」

 仰いだまま、ぽつり、と洩らした琴音の声に浩之は歯噛みして反応した。

「…………藤田さんは私のモ…………浩之ちゃんと結ばれるコトが――――」
「琴音――――くあっ!やめろっ!!」

 再び琴音が腰を動かし始めた。浩之のモノは大量に精を放ったというのに、まだ勃起したままであった。

「計画は完遂される――――生機融合体の為に――――全ては〈M−マトリクス〉の誕生の為に――――藤田さんはわたしのモノ――――浩之ちゃんと結ばれ――――」

 一心に腰を振り続ける琴音は、必死に止めようとする浩之を無視し、まるで壊れたテープレコーダーのように、同じ言葉を繰り返し呟き続けていた。

            つづく

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