東鳩王マルマイマー第25話「命」(Aパートその2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:5月3日(月)23時30分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBU
M』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクタ
ーを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行
っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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  東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
          第25話「命」(Aパートその2)

            作:ARM

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 地上で、東京で〈クイーンJ〉が出現していたその頃、遥か上空――衛星軌道上に浮か
ぶTH五号の中では、混乱が生じていた。
 そもそも、MMM基地のセキュリティシステムを、鷹橋率いる自衛隊特殊部隊に制圧さ
れた時、TH参式喪失を受けてMMMの情報管制の全てを任されているこのTH五号が主
導権を取り戻す事が出来たはずなのに、それが出来なかったのは、二つの不測の事態に原
因があった。
 最初は、太陽系外から接近してきた、重力震に続いて発生した大量のエネルギー反応の
確認だった。
 TH五号の管制センターに詰めていた、〈天の三賢者〉である、ティリア小松崎、サ
ラ・マクドゥガルそして王・エリアの三名は、重力震の範囲とエネルギーの総量から、問
題のエネルギー群を太陽系外からやってきた恒星間航行船の集団であると結論を出した。
 すなわち――

「……遂にエルクゥたちの船が大挙して来たって言う時に」

 サラが忌々しそうに見ていたのは、光源がすっかり反転してしまった超長距離量子レー
ダーでなく、TH五号の中心にある、もう一つ発生した問題のほうであった。

「……〈クイーンJ〉そしてエルクゥたちの船の出現に呼応して、フィルスソードが発動
するなんて……」
「いよいよ決戦の時なのかもしれませんね」

 不安げな顔でキーボードに向かい、フィルスソードを固定封印する荷粒子レーザーキャ
ッチャーの出力調整プログラムの修正を続けているティリアに、フィルスソードを測定す
るコンソールシステムを捜査していたエリアが、溜息混じりに言った。

「決戦て――このデカブツを離す時が来たっていうの?」

 悲鳴のように鳴り響いているSP級緊急警戒信号が室内を緊張感を高め、光源を浸食し
増え続ける宇宙船の量を横目で気に掛けるサラは、キーボードに向かいティリアのサポー
トを続けながら訊いた。

「〈クイーンJ〉が出現し、エルクゥたちが大挙しようとしているこの今が決戦でなくっ
て、サラ?」
「そりゃあたしにも判るわよティリア。――だけど、これは――こんな大量のエネルギー
を制御出来るの?」
「その為に私たちが作ったんですよ、キングヨークと勇者たちを。――それにもう迷って
いるヒマはない」

 急にエリアの声のトーンが重くなる。
 ティリアとサラはキーボードを打つ手を止め、その異変の意味を理解しているような不
安げな顔でエリアを見つめた。

「……フィルスソードを構成するオゾムパルスの出力増比が、倍から乗に――もう、保た
ない」

 エリアは今にも泣き出しそうな顔で二人の顔を見つめた。
 ティリアもサラも、何でも溜め込んでしまうエリアの性分を良く理解していた。だから、
フィルスソードの制御が出来なくなり、TH五号が自壊寸前にあるこの現状を、全部自分
の責任と考えてしまっている、〈天の三賢者〉で一番年下の、二人にとって妹のような存
在であるエリアを気遣い、笑みをこぼした。

「ばーか。アンタの所為じゃないわよ
「エリアも、そしてあたしたちもやれる事はやったわよ。後は、地上のみんなに頑張って
貰いましょう。なぁーに、いざとなったら……」
「ティリア……サラ――――、待って、フィルスソードの出力がインフィニ――」


 10秒後、TH五号の反応が消滅した。
 同時に、TH五号のあった座標から、測定不能の巨大なエネルギー体が出現し、地上へ
落下を開始した。
 いや、それは落下ではなく、ある一点を目指して飛来していったといったほうが正しい
だろう。
 目標は、東京上空――。


   *   *   *   *   *   *

 修復の為に取り込んだビルや車の中にいた人間たちの身体を咀嚼しながら、〈クイーン
J〉が一体化したエクストラヨークが一瞬、空を見上げた。
 しかし直ぐにキングヨークのほうを見て、にぃ、と笑ってみせた。――獣のような形は
していても表情など作れるはずのないその鋼の塊は、確かにそう見えた。

「……人喰いの化け物が……」

 キングヨークの艦橋にいる柳川はそう言って舌打ちした。
 巨大な顎からしたたり落ちる車のオイルやビルの廃液が血の色に見えてならなかった。
攻撃を受けて欠損した部位の修復には建造物が用いられているハズなのに、一緒に取り込
んだ人の血肉で再生しているような錯覚を覚えずには居られない、それは凄惨な光景であ
った。

「――――っ!」

 MMMメインオーダールームにいたあかりが、思わず目を背けた。他にも自衛隊員が数
名、あまりの光景に同様に目を背けていた。
 そんな中、浩之と綾香だけが、メインスクリーンに釘付けになっていた。

「……浩之、ちゃん?」

 その様子に気づいたのは、あかりであった。

「……喰っていやがる…………」

 そう呟く浩之をみて、あかりは浩之の視線をそらせようと袖を引くが、しかし次いだそ
の言葉に、えっ、と目を丸めた。

「…………〈クイーンJ〉…………魂を……喰っているの?」

 二人の少し後ろにある、司令席に立ちつくしていた綾香のその言葉は、浩之が口にした
それとほぼ同時に口にして、一字一句同じものであった。

「……浩之ちゃん?何、何なの?」

 あかりが理解出来ないのは当然であった。
 メインスクリーンに映し出されている〈クイーンJ〉の周りに立ち上る無数の光の球は、
浩之と綾香、そしてキングヨークにいる芹香にしか見えていなかったのである。


「……芹香?」

 柳川が、背後にいる芹香の様子がおかしい事に気づいて振り返る。
 芹香は、ボロボロと泣いていた。

「命が……喰われています……」
「――?!」
「無数の命を…………この戦いで犠牲になった人達の魂を……〈クイーンJ〉は取り込ん
でいます」

 普段蚊の鳴くような声しか出さない芹香が、ハッキリと聞き取れる声でそう答えた。
 慌てて柳川はエクストラヨークを見るが、しかし彼の目には何も見えなかった。


「……あの悪魔……とことん人間を喰らうか……」

 浩之はエクストラヨークに取り込まれていく無数の光球を人の命と認めた理由は考えて
いなかった。
 直感であったが、浩之には、いや綾香や芹香にもそれは確信出来るものであった。恐ら
くは他人には説明出来ないであろう直感ではあるが、何故かそう判るのだ。
 まず声が聞こえた。そして、想いが――やがて取り込まれていく時の苦鳴が、浩之たち
の頭の中に飛び込んできた。それであれが人の魂だと理解したのだ。

「……命を……あれが取り込んでいるの?」

 そう訊くが、浩之はメインスクリーンを睨み付けたまま何も答えない。仕方なしに再び
凄惨な光景が映し出されているそれを見るが、今度は何故か嫌悪感はなかった。
 哀しかった。何故だか判らないが、それを見るとがとても哀しかった。
 無論、あかりに浩之たちが見ているモノなど見られるべくもなく、理解出来ていない。
それでも、浩之が言う、魂が喰われている、という意味は判った気がした。
 恐怖心を堪える為に浩之の手を握った為なのかも知れない。あかりは、頬を伝う自分の
涙を気づいていなかった。


「…………ヤツは……命をも喰うのか?」

 柳川は〈クイーンJ〉を睨み付けたまま、背後の芹香に聞いた。
 芹香が頷くのを見ていない柳川だが、答えは聞くまでもなかった。


(――人間どもよ――)

 その時だった。再び、〈クイーンJ〉が全員にテレパシーを放った。

(お前らは所詮、妾らエルクゥたちの道具に過ぎぬ。遣われ辱され喰われるがその定め。
――頂点に立つべき妾に恐れなど無用、崇めるがよい。――貴様らに所詮それだけの価値
よ)
「く――」

 それを聞いて歯噛みする柳川が身じろいだ。

「――価値だと――道具だと――!」
(然様)

 はん、と〈クイーンJ〉が頭の中で嗤った。

(未熟な身で傲慢な行為を続けこの聖域を散々汚してきたお主らに、今更この星の主たる
資格など無いのだ。
 元来この聖域は我らエルクゥのモノ。それを道具に過ぎないお前らの汚穢なる波動で妾
の一族の清らかな心を汚し取り乱させ、ついには追いやるという暴挙に出た。苦難の旅で
あったが、真なる創造神となった妾らがこの汚れし故郷(せいいき)を浄化し、再びエル
クゥたちの手に取り戻す時が来たのだ!)

 ごぉぅ。――巨大な獣の咆吼のような凄まじいプレッシャーが、エクストラヨークを中
心に一瞬に拡がった。
 それは瞬く間に世界中に拡がり、地上で立っていた者たちを須くその場にへたり込ませ、
病床に伏せている者たちに須く多大なるダメージを与えた。


「――観月さん?!」

 シャットダウンされた介護メイドロボのハナの代わりに沙織の介護をしていた太田香奈
子は、先ほど見舞った謎のプレッシャーに跪くが、直ぐに、傍らのベッドにいる沙織が倒
れたのを見て慌てて起きあがった。

「観月さ――」

 香奈子は蒼白した。
 今自分たちを見舞ったプレッシャーが、出産間近い沙織の身体にあってはならないダメ
ージを与えてしまった事を。

「破水している――先生!観月さんが――!!」


(――聞こえたか!届いたか!絶望したか!これは断罪、傲慢なる人を裁く断罪の声!妾
が貴様らを断罪する絶望の声よ!悲鳴を挙げ、泣き叫び、己が罪を悔い絶望する声を漏ら
さず妾に聞かせるがよい!)

「黙れッ!!」

 その怒りの声が、〈クイーンJ〉の哄笑を止めた。

「……柳川さん」

 唖然となる浩之も同時に激高の声を上げていたが、しかしキングヨークとフュージョン
している柳川の声の方が遥かに大きかった。
 そして、メインスクリーン越しにも判る、その怒りの度合いも桁違いであった。
 キングヨークから立ち上る、その凄まじい怒気は、視認出来なくても、先ほどの光球と
違い、誰もが判っていた。

「――創造主の傲慢など聞く耳持たんっ!何が断罪だ、何が絶望だ!」

 柳川は続けて怒鳴る。そしてその怒気はキングヨークのジェネレーターにも反映し、み
るみるうちに出力を上げていった。

(……ほほぅ。佳い気迫よのぅ。しかし所詮は窮鼠、喰われる者の悪あがきよ)

 くくっ、と〈クイーンJ〉は嗤い挑発する。
 ところが、挑発出来たと思った〈クイーンJ〉の前に、急に静かになったキングヨーク
があったので、〈クイーンJ〉は思わず戸惑った。
 やがて、キングヨークから、くくくっ、とせせら笑う声が聞こえてきた。

「……つくづくエルクゥというモノは捕食者でいようとするのだな」
(何?)
「……俺もかつて、この血に溺れた時、人の血肉をくらい陵辱し、多くの人達の大切なモ
ノを奪い尽くしてきた」

 キングヨークの艦橋で、柳川は俯き加減に語っていた。

「……そしてついには、自ら大切な者までも陵辱する有様だ。本当に忌まわしき狩猟者の
血だな」
(忌まわしいのは貴様らよ。喰われる者の分際で狩猟者を語るか?汚らわしい)
「お前は奪う事しか無いのかっ!」

 顔を上げた柳川のその悲痛な相を、〈クイーンJ〉は知るよしもない。

「鬼神の狂いし血が望み喜ぶのは、人の血か肉か命か!――運命までもか!人の運命さえ
ももてあそぶその呪われた貴様を、俺は創造神などと、決して崇めぬ!存在さえも拒む!」
(ほほほ。だったら、どうするというのだ?)

 エクストラヨークがゆっくりと身を起こした。既に先の攻撃で欠損した部位の修復は完
了し、そればかりか更に禍々しく変形していた。
 もはや、柳川が繰るキングヨークと同型のそれは微塵もなく、血をすすられ肉を喰らわ
れ魂さえも磨り潰されて取り込まれてしまった人達の呪詛を一身に受けたかのように、黒
い巨大な翼の映えた禍々しい鬼神に変わり果てていた。
 それを創造神と呼ぶのは余りにも不似合いであった。
 そう、破壊神。もしくは悪魔。
 巨大な邪悪が、地上に降臨したのだ。

 しかしキングヨークは引く事はなかった。

「――今判った。俺が今ここにいるのは、鬼神の血を引く者の運命ではない。――人とし
て、人間として、魂持てる者達の一人として、お前に刃向かう必然なのだ!」

 その時であった。
 蒼天からの一筋の落雷が、キングヨークの真横に墜ちた。
 それは決して落雷ではなかった。
 ――巨大な光の剣であった。


「あれは――まさか!」

 メインオーダールームの綾香だけが、その光の剣の正体を知っていた。綾香は思わず仰ぎ、

「フィルスソード!」

(くっ…………?!そ、それは……!!)

 突然の闖入者から届く凄まじい――自らだけが覚えるその波動に、〈クイーンJ〉は思
わず退いてしまった。
 対照的に、しかし柳川はその正体などどうでも良いかのように、その光の剣の柄と思し
きモノを、自らフュージョンするキングヨークの右手で掴んだ。
 取れ、と告げたのだ。柳川の頭の中に、光の剣が取れと告げたのだ。
 この剣はこの時の為に。この巨大な鬼神の方舟が人型をするのは、この剣を揮う為に造
られたのだ。
 光の剣の銘は、フィルスソード。太古より衛星軌道上に存在し、TH伍号が中心に収め
られ秘匿されていた、対エルクゥ用最終兵器、そして人類最古の守護神。


「……何てPOWER……!あの剣、高濃度のオゾムパルスの集合体なのに指向性を持っ
て拡散しない!」

 慌てて分析したレミィは、やがて情報検索に使用していたMMMのデータベースから抽
出された、フィルスソードという単語と、開放された、付随するレベルSの機密情報の内
容に絶句した。

「……この時が来たのよ……遂に……」

 メインスクリーンに釘付けになっていた綾香は、その神々しい光に包まれし巨大な光の
剣を見て、勝利を確信したかのように、にぃっ、と笑った。

「――これより、我々MMMは最終決戦に入るッ!キングヨークが手にし光の剣の銘はフ
ィルスソード!人類最古にして最強の守護神が降臨した今!傲慢なる破壊神に天罰を与え
る!フィルスソード、発動承認!!」


           Aパート(その3)へつづく

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