【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
第25話「命」(Aパートその1)
作:ARM
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(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)
暗黒のJクォースが撃獣姫の装甲を粉砕した。
だが、それを纏うテキィは、Jクォースを受け止めようとしてかざした左手が粉砕しただけにとどまり――
「フュージョンアウト!――――喝ぁぁぁっっっっっっっっっ!!」
テキィから分離した雷虎は瞬時にテキィの前に立ち、ミラーコーティングを展開する。
それにより、エクストラヨークのJクォースのパワーを全て受け止めようとしたのだ。
量子レベルの破壊を可能とするJクォースの威力を、何より知っている雷虎たちである。如何に抗おうと、それが無意味である事を。
しかし雷虎は抗わねばなせなかった。
守るべき者の為に。
それは、彼に搭載されたAIのモデルである、長瀬源四郎=セバス長瀬の特性でもあった。
果たして叶うべくもなく、二人の身体は地上へと降下していく。
幸いにして、自分が盾になった事でテキィのボディは、左腕の損失と脚部、腹部にダメージを与えただけであった。後は自分が下に回ってテキィのクッションになれば、テキィだけは助かる――
「雷虎!」
テキィは落下しながらも、砕け散った雷虎の胸部から上を右腕で抱き留めた。
辛うじて雷虎の頭部は無事であった。撃獣姫の状態では胸部にあるそれは、テキィが左手をかざしたお陰で、直撃だけは免れたらしい。
「雷虎!貴方、なんて無茶を――」
「ワシは言ったハズだ。――お前は急ぎすぎる」
「そんな事は――」
「お前が死んだら泣く者達が居る」
「――――」
テキィは息を呑んだ。
「――貴方は!」
「お前がこの身に代えてでも誰かを護るなら、儂はお前を護ると言った筈だ」
「そんなのっ!そんな事!」
そして声を詰まらせ、はぁ、と溜息を吐いた。莫迦にされているような気分がしていた。地表まであと僅か。既に二人には飛行能力も、地面に着陸する術もない。
「…………私の闘いは正義ではない。……人への贖罪だ。…………それでも私の力になってくれるというのか、雷虎?」
「それがワシの使命だからな。……それにもう気にするな。我々を造った創造神たる人間でさえも、簡単に過ちを犯すんだからな。そう言った意味では、お前は実に人間らしい存在だ。…………それが羨ましい」
「羨ま……しい?」
「……わからん。……ただ、そう思うと、お前を護れる気がする。…………何故だか判らぬが、ワシも誰かを護りたいのだ」
テキィは絶句した。呆れた、と言っていいもしれない。
だから、微笑んだ。
「……なんてひとだ、貴方は」
「笑うなら笑うが良い。しかし儂自身、良くわからんのだ。……お主なら解るだろう?」
「解るわけありませんよ……」
テキィは雷虎をぎゅっと抱きしめた。
「テキィ――」
「私だって機械だ。いくらTHライドの影響でファジーな論理式を処理できるAIでも、そんな複雑なロジックを簡単に処理出来るほど優秀ではない。……でも、この想いは作り物じゃない」
そう言ってテキィは雷虎に口づけした。
「……たとえ造られた者同士であろうと…………私は……貴方を愛しています」
身体は機械仕掛けだが、THライドにあるオゾムパルスは元々、エルクゥ四皇女に仕えていた女エルクゥの魂が変質したものである。
思えば、マルチのTHライドもまた、柏木耕一と千鶴の娘の魂が収まっていて、年頃の少女のような人格が形成していた。THライドを保有するロボットのAIは、全てTHライドの反応によって動作が決定する仕組みになっており、過程のみで組み立てられた人工感情プログラムなど足元にも及ばぬ、本物の人間そっくりな感情を再現出来るようになっている。――いや、もはや人間も同然である。
機械と肉体。突き詰めれば差など無く、それを動かす「ソフト」ですら、区別する事も叶わない。人は経験というプログラムを蓄積して自己という名のOSを構築(アップグレード)しているではないか。
もはや地上は目と鼻の先にあった。
テキィと雷虎は暫し見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。
凄まじい爆音が上がった。
だが、それはテキィたちが地上に激突する前になったモノであった。
不意の、ゼロ感覚。落下していたハズのテキィは、突然自分の身体が宙に浮き始めた事に驚いた。
しかし、テキィを本当に驚かせたのは、そうではなかった。
「貴女は――――」
地上から爆音を上げてジャンプし、宙で落下するテキィの身体を受け止め、ビルの間を飛び交う柏木初音、いや今は鬼界四天王が一人、リネットは、瞬く間に雑居ビルの屋上へと着地した。
「……風姫、大丈夫?」
「な……何故?」
ボロボロになった自分の身体を抱き抱え、心配そうに顔を覗き込むリネットに、テキィは、自分が助かった事より、一体何が起こったのか理解しようと必死になり、そして混乱した。
「――――何故、貴女が!?」
「それは、助けた事?それとも……」
そう言ってリネットは仰いだ。
上空では、柳川とフュージョンしたキングヨークが、撃獣姫の捨て身のカバーによってエクストラヨークを撃破し、爆煙の尾を引いて増上寺へ落下していくそれを追撃していた。
「アレは今、〈クイーンJ〉の手にある。我々は追い出されたのだよ」
「お前は――――」
テキィは瞠った。
リネットの直ぐ向かいで、大破した雷虎を抱えている男こそ、あのワイズマン=柏木賢治であった。
(「東鳩王マルマイマー〈FINAL〉」のタイトルが画面に出て新生Ver.OPが流れる。)
テキィはワイズマンを見て、雨が降りしきる丹沢山中で初めて会った時とは大夫、様相が変わっていると思った。
物質を再生・創造する特殊能力を備えたこの男は、実年齢ではかなりの歳のハズだが、あの柏木耕一を少し老けさせた程度に若返っているようであった。恐らくは自身の肉体構造を能力によって変質させいるのであろう。
実の、同じ鬼(エルクゥ)の力を持つ息子との対立に、肉体的ハンデを補う為だとは判るのだが、今のテキィには、その辺りの事情など、彼が口にした言葉に比べればどうでも良い事であった。
「…………追い……出された……?――雷虎?」
テキィは、雷虎のボディを地面に下ろすワイズマンを見て戸惑った。
ワイズマンの行動もさる事ながら、頭部のみ残して粉々になったハズの雷虎のボディがほぼ元通りになっていた事に気づいたのだ。
その驚きようは相当なものだったらしく、自らの損失したハズの左腕で雷虎を指していた事など、テキィは気づいていなかった。
「こいつのボディは、ある程度修復しておいた。但し、これ以上邪魔されぬよう、エネルギーは再生させていない。歩ける程度だ」
歩けるかどうかは判らないが、少なくとも今の雷虎に意識はなさそうだった。
突然、ワイズマンの力によって自身の身体が修復された為に、搭載されているOSがフリーズしてしまったと思われる。ダメージが少なかった事もあるが、THライドで稼働するテキィはその急速な変化に耐えられた。
「何故…………」
「何故……だろうな」
そういってワイズマンはリネットの顔を見た。
リネットは俯き、その視線から背けた。降ってくる複雑そうな面もちを、テキィはどう判断すればよいのか判らなかった。
「――いや、それよりも、追い出されたとはどういう事だ?」
「あれは、〈クイーンJ〉が乗っ取った」
「乗っ取った?」
テキィの声は呆れたようだった。
「月島瑠璃子のオゾムパルスを吸い尽くし、自分のモノとした結果、〈クイーンJ〉はTHライドからエクストラヨークの全身を浸食し、融合を果たした。巨大なTHライド動作のメイドロボと考えればよい」
「では……月島瑠璃子は……?」
「心身を浸食され、吸い尽くされた本体は抜け殻も同然。<鬼界昇華>開始の際、一緒に外に放り出されたハズだが、どこへ行ったかは知らぬ。……恐らくは、助かるまい」
「そんな…………」
月島瑠璃子は、人一人いない街の中で、誰かの背に負ぶさってまどろむ自分を感じていた。
――否、これは夢。
懐かしい、死んだはずのあの人の背に負ぶさるわけがない、と、瑠璃子はまた意識が遠のいていく中、考えていた。
……わたしも、死んじゃったのかなぁ…………長瀬ちゃん…………お兄ちゃん…………
「〈クイーンJ〉による<鬼界昇華>は始まった。もはや誰にも止められまい」
ワイズマンの視線の先で、キングヨークが着地した。墜落したエクストラヨークに止めをさすべく、Jクォースを大きく振りかぶっていた。
「そう簡単に行くか?」
テキィは勝利を確信していた。
「エクストラヨークはあの通りだ。もはや――」
「違うのだよ」
「?」
テキィの言葉を遮ったのは、ワイズマンの自信ありげな、そしてどこか険しい表情がする否定だけではなかった。
* * * * *
東京タワーと融合し、そこから東京23区をほぼ<鬼界昇華>せしめたエクストラヨークであったが、キングヨークのJクォースの直撃を受けては流石に吹き飛ばされるしかなく、東京タワーの展望台を巻き添えにして引きちぎり、そのまま下にある増上寺の境内に墜落した。
明徳四年(1393年)に、浄土宗第八祖酉誉聖聰(ゆうよしょうそう)上人によって拓かれた浄土宗大本山増上寺は、宗教の概念を超越したオーバーロードの遺産同士の闘いによって一瞬にして粉砕されてしまった。
「……撃獣姫の犠牲は痛かったが、あと一息で奴にとどめを刺せるな」
キングヨークとメガフュージョンしている柳川は、半壊して境内に突っ伏しているエクストラヨークを見て、勝ち誇ったように言った。
「もう一度Jクォースで――何?」
とどめを刺そうとする柳川を、正面にあるTHコネクター内で漂う芹香が頭を横に振って制した。
「このまま攻撃すると、周囲の人間も巻き込まれる、だと?」
言われて、柳川は周囲を見回した。
既に戦場と化している芝公園一帯の歩道やビル内には、先の〈鬼界昇華〉によって未だに四肢の自由が利かずに倒れている人々がいた。破壊した東京タワーや増上寺の境内にも人は居たであろうが、恐らくは助かって居るまい。
柳川はそれをしばらくモニター越しに見ていたが、やがて、ふっ、と笑みを浮かべ、
「……構わぬ。この勝機を逃すわけにはいかない」
今の柳川には、人命より、エクストラヨークの破壊が全てであった。
自分の運命を狂わせたエルクゥの女王が潜むその方舟を、完膚無きまでに破壊し蹂躙する事こそ、使命であり、何より欲望であった。
柳川の身体に流れる柏木の血――鬼の血が、獲物を求めているのだ。
「〈クイーンJ〉をこれ以上野放しにすれば、もっと多くの人間たちが死ぬ!彼らの犠牲で済めば――――?!」
柳川は、正面にいる芹香を見て、はっ、となった。
自分を見つめている芹香の眼差しが、捉えて離さない。
泣いているようであった。
駄目です。
貴方は、また、繰り返すのですか。
「……俺は……」
私は今、あの時の貴方を見ているようです。
「……あの時?」
何故か、柳川は「あの時」が直ぐに解った。
鬼の血に負け、芹香を陵辱したあの夜を。
あの時の目と同じだった。
貴方は何者なのですか?
「何者?」
人ですか?
それとも、鬼ですか?
「俺は――――」
柳川は動揺した。それは、柳川とメガフュージョンでリンクしているキングヨークが思わず身じろいだ事でも解る事であった。
「俺は――――うわっ!」
その時だった。境内に突っ伏していたエクストラヨークの胴体から突然、無数の鉄鞭が噴き出し、キングヨークの四肢をからめ取った。
不意をつかれた柳川は腕を振りそれを引きちぎろうとした。
(――迷うまでもない。貴様は〈鬼(エルクゥ)〉よ)
突然、柳川の脳幹を稲妻が突き刺さった。痺れるようなそれは、エクストラヨークから届いた禍々しい思念であった。
「〈クイーンJ〉!?」
(感(み)せてもらったぞ、お前の〈鬼〉を)
声ばかりで顔の見えないそれを、何故か柳川は邪悪な笑みを湛える鬼女のイメージで捉えていた。思念だけで邪悪な気を相手に与える、〈クイーンJ〉の圧倒的プレッシャーであった。
(妾を討つ為に、犠牲も止む無しか。――そうではあるまい?貴様は血を見たいのだろう?狩猟者の血(ほんしょう)が、そうさせているのだ)
「うっ……!」
(躊躇うな――かかって来るがよい)
動揺する柳川の前で、半壊していたはずのエクストラヨークが見る見るうちに再生し、ゆっくりと立ち上がった。損失した箇所は周囲の建造物を取り込み、吸収する事で補填しているようであった。
「う――」
柳川ばかりか芹香も息を呑んだ。取り込まれていく建造物の隙間に紛れていた人間たちが圧壊し、同様に吸収されていく様に。
まさに悪鬼だった。人を喰らい血を浴び打ち震える、地獄の鬼がそこに居た。
るるるるるるるるるるるるるるるるうううううう。エクストラヨークの頭部に当たる艦橋部が、まるで巨大な獣の顎のように開く。その中に居並ぶフレームとシリンダーはまさに牙となり、取り込んだ人間たちを噛み潰した。
溜まらず芹香は目を背けた。
メインオーダールームにいる綾香たちも、この凄惨な光景を目の当たりにして慄然となった。
「…………あれが……エルクゥの女王…………!!」
そう呟く浩之は、恐怖に震えている自分に気づいていなかった。
いや、浩之ばかりか綾香やMMMを制圧している自衛隊員たちさえも、メインモニタの大画面に釘付けになっていた。柳川を見舞った精神波は、この戦いを見守る人類全てに送られていたのだ。
Aパート(その2)へつづく