東鳩王マルマイマー第24話「大東京消滅!」(Bパートその2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:5月14日(水)23時41分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『誰彼』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)等の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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  東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
          第24話「大東京消滅!」(Bパートその2)

            作:ARM

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【承前】

「柳川隊長――」

 キングヨークが停留する接岸ドックを松原葵と共に守っていた姫川琴音は、突然、キングヨークが発進体制に入った事に驚き、艦橋にいる柳川にレシーバーで応答を求めた。

「私たちも――」
『姫川と松原はバリアリーフに残れ』
「しかし――」
『今のヨークは俺と芹香で操縦出来る。――むしろ、お前たちが搭乗していない分、こちらも暴れ易いというモノだ』

 柳川は笑って言う。
 琴音は半分本気だと思った。エルクゥの末裔がメガフュージョンする事で、その絶対的な破壊力を駆使する事が出来る巨大ロボット、キングヨーク。
 その伴艦であるエクストラヨークとの戦闘は、同様にエルクゥの末裔が搭乗している以上、接近戦、いや格闘戦になる事は必至であろう。
 故に、その戦闘中、艦内部へ伝わる衝撃は、従来のそれを占めていた砲撃戦からは想像もつかない凄まじいものとなろう。ESPである程度、衝撃防御が可能な琴音や、亜空間からの位相エネルギーすなわち魔力による防御が可能な芹香なら耐える事が出来ようが、生身の葵ではその衝撃でミンチに成りかねない。
 そもそも、完全にキングヨークと一体化出来るよう改修された今、葵と琴音が乗艦する必然性は無くなっている。柳川が自分たちを艦の外に待機させたのは、初めからそのつもりであったのであろう。琴音は納得した。

「…………柳川隊長、芹香さん。ご無事を!」

 不意に過ぎる、嫌な考えに琴音は戸惑う。それを必死に否定するつもりで、強い口調で言ってみせた。

『当たり前だ』

 柳川は鼻で笑って見せた。

『俺たちは死にに行くんじゃない。俺たちにまとわりつく、このクソッタレな宿命に一発お見舞いしに行くんだからな』

 それを聞いた琴音の心から、不安の影が消えていった。
 いつもの、厚顔不遜な、そして強い男がそこに居た。

「お待たせ〜〜っ!ESPバリア解いとくれ〜〜!」

 そこへ、ゴルディアームがホバリングしながら接岸ドックにやってきた。

『ゴルディ、接岸口で撃獣姫が待機している』
「了解っ」

 ゴルディは琴音のESPバリアが解かれると艦内へ飛び込んだ。

「お待ちっ」
「コード・MMを受信。ゴルディ、発進後、ツールコネクトを施行します」
「おうよ。初めてだからやさしくしてな」
「…………下品ですよ」

「キングヨーク、発進するっ!」

 柳川の号令と共に、キングヨークが接岸ドックから離岸し、海上へ浮上を開始した。

「行くぞ、芹香!――メガ・フュージョン!!」

 柳川の指示を受け、芹香の身体がふわりと浮き、背後にあるTHコネクターへ吸い込まれていく。
 同時に、柳川は腰を下ろしていた管制席から立ち上がる。
 するとその周囲から、柳川の身体を包囲するように無数のシリンダーが伸び、その先から放たれる赤色光が、艦橋内部を真っ赤に染め変えた。

「ファイナル・フュージョンプログラム、セルフスタート!おおおおおおっ!」

 柳川はまるでおびただしい返り血を浴びたような姿で絶叫する。
 同時に、キングヨークは海上へ飛び出す。艦体にすがりつく海水を振り払い、光を散らして舞い上がる鬼神の方舟は、弾丸形態の戒めを解いてその身を開き、巨大な機神と化した。
 その右肩に、撃獣姫とゴルディアームが立っていた。

「撃獣姫。お前にはJクォースが通り抜けられる穴を空けて貰う」
「穴、ですか」
「そうだ。恐らくはオゾムパルスブースターとなっているエクストラヨーク本体を叩かない限りこのオゾムパルスドームは消える事はない。しかしこのまま突入して、このキングヨークのシールドをもってして、東京を覆い尽くした膨大かつ高濃度なオゾムパルスをキャンセルしきれる保証はない。外部から一気に叩くしかないが、生憎うちの四式(大砲)はルミラが不在で出撃出来ない。仮に出来たとしても、威力がありすぎて、砲撃線上にあるビルごと吹き飛ばす恐れがあるがな。
 お前のツールコネクトではあのオゾムパルスドームの物理分解は無理だ。活断ショックウェーブは限定範囲のみとなっている。
 そこで、これから指示した方向へポイント放射を行い、Jクォースが通り抜けられる空洞を作るのだ」
「了解しました。ゴルディ、行きますよ」
「おうよ」

「――ゴルディオンナックルシステムっ、発動ぉ承認ンっ!」

 メインオーダールームの長官席に戻った綾香は、撃獣姫から届いたコードMMを受け、ゴルディオンナックルシステムのプログラム開始を承認する。
 それを受けて、管制席に戻ったあかりが、懐から取り出した解除信号発信用プリズムカードをコンソールパネルのリーダーに読み込ませた。

「了解っ!ゴルディオンナックルシステム、セーフティプログラム、リリーブ!!」

 キンコン!こ気味良いベル音とともに、ゴルディオンナックルシステムが起動する。

「よっしゃあっ!システム、チェェェェンヂッ!」

 解除コードを受け、ゴルディが飛び上がり、オレンジ色の巨大な右拳に変形する。
 平行して、撃獣姫は右拳を変形させ、ゴルディオンナックルと接続する為のドッキングコネクター剥き出しにする。そして垂直に落下してきたゴルディオンナックルのドッキングコネクタにそれを叩きつけて一気に接続した。

「シルバリオン・フライパーンっ!」

 撃獣姫は甲から外したゴルディオンフライパンの柄を掴む。すると、ゴルディオンナックルから噴出したミラーコーティングが撃獣姫の全身を包み込み、しかしそのエネルギーの差から、マルメイマーとは異なり、銀色に輝く姿に染め変えてみせた。それ故に、金ではなく銀のフライパンなのであった。

「目標、オゾムパルスドーム中央――測定完了、東京タワーのてっぺんだっ!」

 柳川と一体化したキングヨークの右拳が、光に包まれている東京を指す。その先には、光に阻まれて見る事が叶わぬ、東京タワーが確かにあった。

「了解。――ピンポイント活断ショックウェーブ放射。目標、オゾムパルスドーム中央」

 呼応するや、撃獣姫が飛び出した。そして、大きく振りかぶり、正面に向かってシルバリオンフライバーンを差し向けた。
 すると、その正面を、シルバリオンフライバーンの、ゴルディオンフライバーン時より遥かに劣るがしかし指向性を持った、無間加速する重力波が走り抜けた。
 閃。
 まさに一閃。
 降り注ぐ正午の太陽光が、空間の歪みを受けて巨大な虚を紡ぐ。
 表面が輝き、しかしその中心は漆黒の筒、いや棒状と化した、物理分解された虚数空間が、オゾムパルスドームを貫き、目標である東京タワーの展望台を打ち抜いた。
 その奥に、巨大な影があった。

「「「――エクストラヨーク!」」」

 撃獣姫とゴルディが、続いて柳川がその姿を認めた。

「……黒いキングヨークだと」

 キングヨークから受けた映像に、メインオーダールームにいた綾香たちを絶句させた。
 その、キングヨークとはうり二つの、しかし全身漆黒の闇を帯びたような異形は、予想していたモノより遥かに禍々しいモノであった。
 異形。
 悪夢。
 脅威。
 死神。
 悪魔。
 どのような形容をもってしても、その姿を垣間見ただけで充分過ぎる、しかし不足した比喩であった。
 人類史上最大の敵がそこに居るのだ。
 誰もが唖然としていた。
 誰もが恐怖を抱いていた。
 そして誰もが、必ず倒さなければならない存在であると理解していた。
 だから、いつの間にかメインオーダールームから、指揮系統を失いつつあった自衛隊特殊部隊のリーダーである鷹橋の姿が消えていた事実に、完全にエクストラヨークに気を取られていた全員が気づいていなかった。

 その異変に最初に気づいたのは、撃獣姫であった。

「この高エネルギーは?」

 撃獣姫は内蔵するアナライザーが、自分の正面から届く奇怪な高エネルギー反応に戸惑った。

「柳川隊長――」

 慌てて撃獣姫が、自分の背後でエクストラヨークを撃つべくJクォースの発射態勢を取っていた。恐らく気づいていないであろう。

「拙い――」

 撃獣姫は、既にこちらの手を読んでいたエクストラヨークの反撃を警戒した。

「もう一度活断ショックウェーブで――いや、それは駄目だ。折角固着した歪曲空間孔が新たな重力波で閉じてしまう恐れがある。――閉じてもう一度――いや、二度も同じ手は使えない!」

 撃獣姫は、咄嗟に右腕からゴルディアームを切り離した。

「撃獣姫の姉さん――」

 驚くゴルディを後目に、撃獣姫はオゾムパルスドームに空けた穴へ亜光速で飛び込んだ。

「撃たせる前に叩く。そして、追ってJクォースで止めを刺させる」

 撃獣姫はエクストラヨークの攻撃を打ち返し、Jクォースを確実に決めさせる危険な勝負に出た。危険だが、確実にエクストラヨークに止めを刺せる。
 撃獣姫は疾風となり、音速を超え光の矢と化す。
 一気に東京タワー前まで跳躍すると、撃獣姫の両手が発光した。
 既に、正面にいたエクストラヨークは、両腕を上げ、反中間子砲の発射態勢にあった。

「うなれ疾風!とどろけ雷光!――風虎牙(フォン・フー・ガォ)!!」

 雷鳴がとどろき、疾風が猛る。撃獣姫から放たれた必殺の虎牙が、エクストラヨークの反中間子砲を次々と粉砕していく。



 ――ハズだった。

「莫迦な――――?!」

 撃獣姫は、直ぐ真下から襲い掛かってきた、エクストラヨークのJクォースの直撃を受け、粉砕されていた。



 風が吹いた。

 松原邸の庭で、エプロン姿で洗濯物を干していたHMX−13型メイドロボ、セリオは、常時接続している来栖川サテライトネットワークが朝方に途絶して以来応答を待っていたが、突然、ネットワークから得もしれぬ「感覚」が届いた事に酷くとまどっていた。
 無論、メイドロボットに過ぎないセリオの「感覚」とは、人間と接し会話する上で必要とされる「あいまいさ」を量子化した際に設定された、認識回路上での論理値としての「擬似的感覚」で自律判断は行わず、実数値としての「感覚」のみで行動する。しかしそれを理解する為の、自ら置かれた空間を認識する為の多角センサーに、この奇妙なゆがみを認識しても、今のセリオでは測定しようにも途絶したネットワークの力がなければ分析出来るべくもない。
 とはいえ現状が、状況認識のレベルとして、測定不可、緊急度SA級という最大問題発生時である事は自身のAIでも充分判断できるものであった。

「……あら、セリオちゃん、どうしたの?」

 洗濯場から洗い物を抱えてきた、松原葵の母親は、庭で洗濯物を干す手伝いをしていたセリオが、ある方向をずっと見つめている事に気づき、不思議がって呼んだ。

「…………風が、吹きました」
「風?」

 妙な事を言う、と葵の母親は思った。
 わずかに雲は見えるが、風など吹いてはいない。至って穏やかな洗濯日和である。

「いったい何を――――あら」

 葵の母親は、セリオが見つめている方向をみて、あるコトに気づいた。

「……何、アレ?都心の方が光っている……?」

 光っている、というより、光の半球が都心方面をすっぽりを覆い尽くしているといったほうが適切であろう。松原邸のある町田市内からでも、新宿新都心にある新都庁舎の頭は望めるのだが、それよりも高い光の屋根が存在していたである。

 セリオは、何故、風を感じたのか、理解しようとした。
 そしてセリオはある結論に達した。風を感じたセンサーは音感センサーであり、本当は風ではなく――どうしてそれが聞こえたのか、どうしても理解出来なかった。

 自分と同じ顔をした、セリオシリーズの量産型後継機の一体で、哀しい過去を持つ妹の慟哭が。

「…………テキィ」



 暗黒のJクォースが撃獣姫の装甲を粉砕した。
 だが、それを纏うテキィは、Jクォースを受け止めようとしてかざした左手が粉砕しただけにとどまり――分離し盾となった雷虎の無惨な姿に絶叫した。

「雷虎――――!」

 テキィは落下しながらも、砕け散った雷虎の胸部から上を右腕で抱き留めた。
 辛うじて雷虎の頭部は無事であった。撃獣姫の状態では胸部にあるそれは、テキィが左手をかざしたお陰で、直撃だけは免れたらしい。

「雷虎!貴方、なんて無茶を――」
「ワシは言ったハズだ。――お前は急ぎすぎる」
「そんな事は――」
「お前が死んだら泣く者達が居る」
「――――」

 テキィは絶句した。

「――貴方は!」
「お前がこの身に代えてでも誰かを護るなら、儂はお前を護ると言った筈だ」
「そんなのっ!そんな事!」

 そして声を詰まらせ、はぁ、と溜息を吐いた。莫迦にされているような気分がしていた。地表まであと僅か。既に二人には飛行能力も、地面に着陸する術もない。

「…………私の闘いは正義ではない。……人への贖罪だ。…………それでも私の力になってくれるというのか、雷虎?」
「それがワシの使命だからな。……それにもう気にするな。我々を造った創造神たる人間でさえも、簡単に過ちを犯すんだからな。そう言った意味では、お主は実に人間らしい存在だ。…………それが羨ましい」
「羨ま……しい?」
「……わからん。……ただ、そう思うと、お前を護れる気がする。…………何故だか判らぬが、ワシも誰かを護りたいのだ」

 その理由を、テキィは即座に理解した。それは恐らくは、AI設計でサンプリングした、芹香、綾香姉妹の執事であるセバス長瀬こと長瀬源四郎の影響だろう。
 正直、テキィは呆れていた。
 呆れながら、嬉しかった。
 その視界に、自らが空けた虚数空間を走り抜けたキングヨークのJクォースが、エクストラヨークの胴体を見事に捉え撃破する姿が映った。恐らくあのままJクォースを放っていたら、隠されていたエクストラヨークのJクォースによって打ち返されていたであろう。図らずも自分の無謀な行動が功を奏したのであった。
 見る見るうちに、東京全体を覆い尽くす、ドームを成すオゾムパルスの大気が分解され、霧散する。中枢たるエクストラヨークが今の攻撃でその制御力を失った証拠であった。

「……これで、理緒やあかりさんたちを護れたね」

 テキィは笑った。

 昔のように、最初のオーナーであった倉橋真澄に見せていた時のような笑顔で。
 真澄は目が不自由であったが、手触りでテキィの笑顔が素敵と言ってくれた。
 だから、テキィは真澄の前では笑顔を絶やさなかった。プログラムされたものだったのかもしれないが、今の雷虎のように、自ら理解しないままの行動に何ら疑問を抱こうとはしなかった。
 それが、正しい事だと思ったからだ。

 やっと、笑えた。


 やがて雷虎を抱き抱えるテキィの身体が地面に墜落し、凄まじい爆音を上げた。


(画面フェードアウト。ED:「それぞれの未来」が流れ出す)

          第24話 了


【次回予告】

 君たちに最新情報を公開しよう!

 東京上空で激突する、光と闇の鬼械神。
 壮絶な闘いの末に、人類の希望が力尽きた時、母なる者が悲劇の運命を断つ。
 そして鬼の宿命に巻き込まれた智子を襲うのは、鬼に翻弄された哀しき宿命と慟哭。
 傷つき力尽き斃れ逝く者達を前にして、無力と化したマルチたち勇者メイドロボが流す涙が奇跡を呼ぶ。
 それは最期の闘いの始まり。人類がその存亡を賭け、創造神に挑む、“いのちとこころ”の闘いが火蓋を切って落とされる。


 東鳩王マルマイマー・最終章〈FINAL〉!

  第25話「命」

 次回も、ファイナル・フュージョン承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「血塗れになって倒れ込む保科智子」

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/