東鳩王マルマイマー第24話「大東京消滅!」(Bパートその1) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:3月5日(水)01時46分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『誰彼』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』シリーズのパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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  東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉
          第24話「大東京消滅!」(Bパートその1)

            作:ARM

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(黒いコネクタースーツを着る芹香と柳川の映像と個人データが出る。Bパート開始)


 風が吹いた。

 松原邸の庭で、エプロン姿で洗濯物を干していたHMX−13型メイドロボ、セリオは、常時接続している来栖川サテライトネットワークが朝方に途絶して以来応答を待っていたが、突然、ネットワークから得もしれぬ「感覚」が届いた事に酷くとまどっていた。
 無論、メイドロボットに過ぎないセリオの「感覚」とは、人間と接し会話する上で必要とされる「あいまいさ」を量子化した際に設定された、認識回路上での論理値としての「擬似的感覚」で自律判断は行わず、実数値としての「感覚」のみで行動する。しかしそれを理解する為の、自ら置かれた空間を認識する為の多角センサーに、この奇妙なゆがみを認識しても、今のセリオでは測定しようにも途絶したネットワークの力がなければ分析出来るべくもない。
 とはいえ現状が、状況認識のレベルとして、測定不可、緊急度SA級という最大問題発生時である事は自身のAIでも充分判断できるものであった。

「……あら、セリオちゃん、どうしたの?」

 洗濯場から洗い物を抱えてきた、松原葵の母親は、庭で洗濯物を干す手伝いをしていたセリオが、ある方向をずっと見つめている事に気づき、不思議がって呼んだ。

「…………風が、吹きました」
「風?」

 妙な事を言う、と葵の母親は思った。
 わずかに雲は見えるが、風など吹いてはいない。至って穏やかな洗濯日和である。

「いったい何を――――あら」

 葵の母親は、セリオが見つめている方向をみて、あるコトに気づいた。

「……何、アレ?都心の方が光っている……?」

 光っている、というより、光の半球が都心方面をすっぽりを覆い尽くしているといったほうが適切であろう。松原邸のある町田市内からでも、新宿新都心にある新都庁舎の頭は望めるのだが、それよりも高い光の屋根が存在していたである。

 セリオは、何故、風を感じたのか、理解しようとした。
 そしてセリオはある結論に達した。風を感じたセンサーは音感センサーであり、本当は風ではなく――どうしてそれが聞こえたのか、どうしても理解出来なかった。

 自分と同じ顔をした、セリオシリーズの量産型後継機の一体で、哀しい過去を持つ妹の声が。

   *   *   *   *   *   *

「――――一体コレは――――」

 志保は、突然外部から届いた――襲われた、というほうが正しいかもしれない――衝撃波に戸惑っていた。
 しかしその刹那、右腕に隠し持っていた「ロンギヌスの槍」が発動し、志保の周囲5メートルにバリアが張られ、志保と、そして志保と話していた浩之の父であり、内閣調査室藤田室長はその衝撃波から免れた。それは志保の意志で張られたものではない為、オフィスでの不意の事態に、志保の傍でバリアの恩恵にあずかれなかった他の職員達は、衝撃波を受けてバタバタと倒れていった。
 その倒れ方は尋常ではなかった。まるで、今まで身体を支えていた糸が、ぷつん、と切れたような呆気ない倒れ方で、しかも倒れた後は呆然とした顔で全身痙攣を始めたのである。

「――――これは、オゾムパルスを受けた症状によく似ている」

 藤田室長は即座に、かつて某市を襲ったオゾムパルス災禍での被害者の症状を思い出した。とはいえ、一目見ただけで理解出来るべくもない

「……遅かったみたい……鷹橋のヤツ、マルチたちをシャットダウンさせる事に成功していたのね!」

 志保は、現在MMM基地を制圧している自衛隊の指揮官の名を口にして地団駄を踏んだ。

「…………全く、自衛隊のスットコドッコイどもめ、鷹橋が偽造した内閣府の命令書を鵜呑みにしてMMM基地を制圧するから、こんな事に――――こんな――――?!」

 志保の顔が見る見るうちに青くなる。志保は慌てて窓から外を見た。ロンギヌスの槍から発せられている〈The・Power〉のオレンジ色をしたバリア越しから見た窓の外には、何ら変哲もない不断の丸の内の街並みが広がっていた。
 いや、違和感があった。
 路上には、大勢の人々が倒れ込み、道路には急ブレーキが掛けられず次々と玉突き衝突し、あるいはビルの一階に飛び込んでいる乗用車の山があった。まれにみる大惨事がそこにあったが、しかしその事故を救う者は、恐らくは誰もいないであろう。

「……志保」

 慄然となる志保に、藤田室長が、ふう、と溜息を吐いて声を掛けた。

「俺のコトは良い。MMM基地へ行け。〈鬼界昇華〉が始まってしまった今、都内で動けるのはお前だけだ」
「え?室長――」

 ロンギヌスの槍がもたらす障壁なら、オゾムパルスに満たされた都内を移動する事は可能である。このまま藤田室長も一緒に移動すれば良いのだが、何故か藤田室長はそれを拒んだ。
 戸惑う志保は、やがて藤田室長の様子からある事に気づいた。

「足を――」
「右足だけ、一瞬バリアの恩恵に与れなかったらしい。しびれて動かねぇ」

 バリアが張られた刹那、藤田室長の右足だけがバリアの外にあったのだ。

「この足ではMMM基地へ着くのが遅れる。――事態は急を要する」
「しかし!」

 困惑する志保。そんな志保に、藤田室長は、ふっ、と笑って見せた。その笑みは、血の繋がりのない彼の息子に酷くそっくりだった。

「……なぁに。オゾムパルスブースターが無くなれば元に戻る。ちょっとヤバげなアッチの世界に行っているだけだ、死にはしない」
「………………お父さん…………あ」

 志保は思わず口をついて出た自分の言葉に戸惑った。中学から高校まで、実の親のように一緒に暮らしていた習慣が思わず出てしまったのは、その笑顔の所為だったのかもしれない。
 志保は急ごしらえの親子生活を送っていた間、その笑顔をするもう一人の少年を影ながらガードしていた。その彼に惹かれている自分に、いつしか気づくのだが、しかしその想いを決して口にしなかったのは、志保の無二の親友の為であった。

「……あかりちゃんがいなければ、志保と本当の親子になっていたかもしれなかったな」
「え……?!」

 志保は驚いた。この義理の父親に、決しておくびにも出さなかった事が悟られていたのだ。

「……これは結局、あいつらの危機を予期出来ながら何も手が打てなかった情けない父親の我が侭だと呆れてくれて良い。うちのバカ息子と、あいつの大切な人たちを助けに行ってくれ」

 そういって浩之の父親は志保に頭を下げた。
 二度目であった。
 一度目は中学生の時、浩之をガードしてほしいと言った時。

「…………駄目だよそんなの」
「…………志保」
「あたしのお父さんなら、そんな情けない事ゆわない。――『とっとと行け』。でしょ?」

 そういって志保は、にっ、意地悪そうに笑って見せた。
 戦場で戦う事しか知らなかった、無表情なアイスドールは、年相応の思春期に普通の女のコとして過ごせたのは、実の息子――志保は浩之が室長の実の息子でない事は知らない――をほったらかしにして自分の世話をしてくれた、奇特な夫妻のお陰である事を、決して口にしないが心から感謝していた。

「……判ったわよ。行けば良いんでしょ。ヒロ助けに」

 そういって志保はロンギヌスの槍を手元に引き寄せた。

「じゃ、行って来るわ」

 志保は、くるり、と翻り、振り返りもせず、オフィスから飛び出すように掛けだしていった。
 バリアの範囲から出てしまった藤田室長も、ばたり、と糸の切れたマリオネットのようにその場に倒れ込んだ。
 一瞬だが彼は、唇を噛みしめる志保の、その頬を伝う光の滴に気づいていた。

 気にするなよ。

 藤田室長の顔は笑顔のままであった。

   *   *   *   *   *   *

「指向性粒子による絶対空間――構成主成分はオゾムパルスです」

 アナライズコンソールパネルを操作した牧村南が、突如、東京23区をすべて呑み込んだ光の柱の分析結果を告げると、メインオーダールームにいた綾香たちは、溜息のような声を上げた。

「……エクストラヨークの仕業だ。こんな事が出来るのは、〈クイーンJ〉の強大なエルクゥ波動のみだ」
「遂に動き出したというワケね、主査……!」

 そう言って綾香は唇を噛んだ。そしてその視線は、市ヶ谷にある自衛隊幕僚本部との連絡を完全に途絶され、混乱が見え始めた自衛隊特殊部隊に注がれていた。

「狼狽えるなっ!」

 その混乱を、鷹橋が一喝して制した。

「エルクゥとの決戦において、このような状況は想定済みであろうが!我々は一刻も早く、対エルクゥ決戦兵器キングヨークを出撃させ、首都奪還を図る!たった今より最終作戦コード〈吉備津彦〉を開始する!」
「桃太郎の鬼退治、ってヤツかい?――今更吉備団子出されても、俺たちゃホイホイとついていかねぇぜ」

 あかりの隣に座ってふてくされていた浩之は吐き捨てるように言った。

「安心しろ。マルチたちは使わん」

 浩之の皮肉に、しかし鷹橋はその挑発にのるコトなく、一瞥もくれず言った。

「マルチたちを押さえたのは、確かに僥倖だよ」
「主査?」

 浩之は、モニターを見つめながら言う長瀬主査の意外な言葉に瞠った。

「もし、これほど強大なエルクゥ波動を、サテライトネットワークが活動(いき)ている状態で受けていたら、ネットワークを介して日本国内に広がるところだった。ネットワークが断絶しても、サテライトバルーンは日本国内上空に今も稼働中だからな」
「しかし――」
『――何をしている』

 突然、スピーカーから低い不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「……柳川か」

 鷹橋は、ふっ、と笑ってみせた。

「キングヨーク立てこもりご苦労だな」
『くだらないいざこざはもう良いだろう。――俺を出せ』
「お前を――キングヨークを出動させろと?」

 鷹橋はどこかからかっているような口調だった。
 しかし柳川は、相変わらずの不機嫌な声であったが、挑発に乗ったような様子はなかった。

『これは〈鬼界昇華〉が始まった証拠だ』
「〈鬼界――」

 綾香たちは絶句した。しかしそれは、既に想定出来る材料が揃っており、理解の範疇であった。足りないのは、それがあまりにも唐突すぎたからである。
 そう。よりにもよってこんな時に、最大の危機が起きてしまったのだ。

『エクストラヨークが出現しているのだぞ。自衛隊も頭をもがれた死に体だ。今、対抗出来るのはキングヨークのみだ!』
「鷹橋――」

 浩之たちは、柳川の説得を聞いているらしい、沈黙する鷹橋を不安げな眼差しで見た。
 鷹橋は沈黙したままであった。

「鷹橋二佐!」

 堪りかねた綾香が怒鳴った。

「事態は緊急を要するのよ!このままでは人類が滅びてしまう――――!?」

 そこまで言った刹那、綾香は絶句した。

 ――なんだ、この笑みは。
 ――まるで――

 しかし綾香は自分の頭をよぎったそれを否定した。
 この男がどうしてそんな事を言うのか、いや考えるのか。そんなハズはない、と。

「構わない」

 鷹橋は、頷いた。

「出撃を許可しよう」

 その言葉に、メインオーダールーム内が安堵に包まれた。他の自衛隊員も、ほっと胸をなで下ろしていた。

『ならば、撃獣姫と、ゴルディアームも出撃させてもらう』
「?」
『オゾムバルスによる絶対空間を粉砕する為だ。キングヨークでは無理だが、あの二人ならそれが可能だ』
「可能?」

 あかりが不思議がった。

「撃獣姫はマルマイマーMkIIでもある。基本的に浄解能力以外はマルマイマーと同スペックだ」

 長瀬主査が答えた。

「撃獣姫もゴルディオンフライバーンが使えるんですか?」

 あかりがそう訊くと、隣にいた浩之が頷いた。

「一応、そうらしい。……但し、無間加速重力波は無理だがな。あれはマルチのTHライドだから出来る。風姫のTHライドでは出力不足で、ポインティングBHが維持出来ない」

 ポインティングBH。ゴルディオンフライバーンが制御する、重力場の井戸の再深部に出現する特異点である。その正体はナノサイズのブラックホールであり、それが生じる事によって地球の重力場が歪められ、エルゴ領域から無間加速重力波が発生して、目標物の分子維持力の無力化を図る事が出来るのである。

『東京を覆い尽くしているオゾムパルスバリアを全て物理分解する必要はない』
「しかし」

 鷹橋が訊いた。

「WAサーキットで動くゴルディアームはいざ知らず、撃獣姫のTHライドがまた暴走する危険はないのか」
『その時はわたしを破壊してくれればいい』

 撃獣姫が通信に割り込んできた。

「テキィちゃん!」

 撃獣姫の素っ気ないがしかしそのとんでもない言葉に、あかりは悲鳴のような声を上げた。

「そんな莫迦な事言わないで!あなたが死んだら、雛山さんが――」
『神岸さん。わたしは、わたしの大切な人たちを、――今度こそ守る為にここにいるのです』
「…………!」

 風姫=テキィの現在のオーナーは、あかりや浩之の同窓生である、雛山理緒である。
 その前のオーナーは、非業の死を遂げた資産家の娘で、テキィはその復讐の為に多くの命を奪い、血を流させた。
 その砕かれた心を癒したのは、他ならぬ理緒とあかりであり、理緒をオーナーと認めているが、テキィはあかりも慕っていた。
 テキィが風姫として、撃獣姫として闘うのは、その罪滅ぼしであると同時に、一度はオゾムパルスブースターとして、酸素を生成する能力を得た自らの力を持ったが為である。

(自分にしか出来ない「力」があるのだろう?)

 事件後、テキィがMMMに誘われた時に、雷虎が迷うテキィに掛けた言葉であった。

(力持てる者が迷う時。それは己の力に自信が無い場合だ。力に恐れおののき封じてしまうのは勝手だ。しかし、その力を誰かが必要としている、と悟っている時は――迷うな)
(雷虎……)
(――テキィ。お前は迷うな。それが傷つき滅びを呼ぶ。その傷つく迷い、儂が全て引き受けよう)
(え――――)
(儂の力は、その為だけにある。――撃獣姫の鎧と拳として)


『――わたしは、この身に代えてでも――みんなを守りたい』
「…………」

 あかりは、何も言えなかった。
 テキィの抱える「闇」と「負」を、あかりは知っている。
 そして、テキィが常にそれに押し潰されている事も。
 ゆえに、テキィの決意を翻させるだけの言葉は、あかりにはどうしても思いつかなかった。

「……よりにもよってEI−03か」
「……?」

 綾香は、鷹橋が、ぽつり、ともらした呟きを耳にして、その顔を見た。
 どこか複雑そうな顔で、それでいて不思議と優しそうな顔だった。
 しかしそれは一瞬だった。直ぐに鷹橋は、ぎらついた眼差しに戻り、メインスクリーンを睨み付けた。

「……良かろう。出撃を許可しよう」


     Bパート(その2)へつづく

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まぁ、再開です。怒濤のような投稿にはなりませんが、ぼちぼちと(^_^;

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/