柏木家の食卓Lv1.5 投稿者:ARM(1475) 投稿日:2月8日(土)21時23分
 ……ドクン、ドクン、ドクン。
 ……俺は酷く緊張している。
 子供の頃、病院で注射の順番待ちなんかで味わう緊張に似ている。
 自分が、今まさに犯罪者となろうとする瞬間も、多分こうなんじゃないかなぁ?
 兎に角緊張し、心拍数が上がりっぱなし……。

 俺は今、柏木の家の前に立っている。
 しかしその前には、巨大な海が。
 ……無論、幻覚だ。
 ここへ来るまでにいくつもの幻覚に道を阻まれている。
 立て続けに現れる障害物の幻影。
 それは腕に覚えのある者なら、いつかは味わう、恐怖。

 この一年の間に、俺はこの家で様々な騒動に巻き込まれていた。
 柏木の一族を見舞う血の呪い。
 千鶴さんが家の庭から採ってきた奇天烈なキノコによる正確反転騒動。
 そして、身体が入れ替わってしまう珍現象。
 しかしその騒動のいずれでも、こんな幻影に見舞われた事はない。
 俺は躊躇いつつ、柏木の家の門への道を阻む幻の大海を渡河した。
 果たして待ち受けるは、鬼か蛇か?――いや、鬼には間違いないんだけどね。

 いい匂いがした。
 ていうか、凄く上手そうな匂い。鍋だ。温かい鍋の匂いが、居間のほうからする。
 どうやら梓が鍋物を準備しているようだ。
 そもそも俺が今日ここに来たのは、今日は初音ちゃんの誕生日で、そのお祝い会にお呼
ばれしたからである。
 東京へ出てからは柏木の家には疎遠だったので、初音ちゃんにこんなお祝いをするのは
正直照れる。
 しかし、鬼の血騒動の一件で俺と柏木姉妹との繋がりは大夫強まった。両親を亡くした
今の俺にとって、家族と呼べる存在は彼女たちだけなのである。照れる事はない。家族と
して、そして頼りないとは思うが一応兄として、初音ちゃんの誕生日を祝って挙げよう。

 なのにこの事態は何ですか。
 ……いや、これはただの錯覚だ。疲れているんだろう。まだ鬼の血が上手くコントロー
ル出来ていないのかも知れない。その為の錯覚だろう。そうだ、そうに違いない。
 俺は玄関を潜り、居間に向かった。

 居間には誰もいなかった。
 あるのはこたつと、その上に置かれたコンロの上に重ねられている、ほかほかと湯気を
湛えている蟹の土鍋が一つ。
 すわ、神隠しか。あるいは、俺がやって来たのに気づいて、みんなして驚かす気か。
 んなわきゃない。
 どうしたんだ?

「――耕一お兄ちゃん?」

 突然、背後から呼ばれて俺は驚いた。
 それは初音ちゃんの声だった。
 しかし聞き覚えのあるハズのソレに、どこか違和感を憶えつつ、俺は振り返った。
 背後にいたのは、確かに初音ちゃんだった。
 なのに、俺の五感が――そして鬼の血が、違和感を警告していた。
 いや、その違和感は視覚で充分理解出来るものであった。

「……え?初音ちゃん?」

 俺が訊くと、初音ちゃんは、こくん、と頷いた。
 しかし、だ。
 そこに居るのは初音ちゃんではなかった。
 初音ちゃんは、その年齢から平均的な数値から見ると、著しく低い体型をしている。
 ていうか体型に不自由しているというか……いかんいかん、そんな事思っちゃいかん。
 しかし、だ。
 少女のモノにしては少し太い首から発せられる、先ず違和感を憶えたその声は、変声期
を過ぎた少年のそれであった。
 少なくとも、俺の知る初音ちゃんは女の子である。

「…………耕一お兄ちゃん。ちょっと困ったちゃった事になっちゃって……」
「えっと、……まさか、男になっちゃったの?!」
「千鶴お姉ちゃんが……」

 ち、の字を聞いただけで俺は光速の80パーセントでそれを理解した。
 ていうかまたですか貴女が原因ですか(苦笑)

「千鶴お姉ちゃんが、梓お姉ちゃんに黙って、庭から採ってきた変なシメジみたいなキノ
コを入れちゃって……」

 駄目だあの人。あの人に断り無く行動させちゃ駄目だってキミタチ(苦笑)

「まさかそんなモノが入っていたなんて思わなかったから…………あまりにも美味しそう
だったので、ちょっと摘み食いを……」

 真面目な初音ちゃんを迷わすほどの美味なんですかあの鍋は(汗)

「確かに美味そうな匂いはするけど……植物には匂いで昆虫を捕食する食虫植物なんての
もあるのだから、もっと気をつけないと――」
「――誰が昆虫だってっ!!」
「うわっ?!」

 俺が初音ちゃんを諌めていたら突然、初音ちゃんが野太い声を上げて俺に蹴り掛かって
きた。
 咄嗟に避けると、初音ちゃんの跳び蹴りはこたつを直撃し、土鍋は宙に舞った。

「ゴルラァ!人が困って大人しくしてりゃいい気になりやがって!耕一うぜぇ!」
「うっひゃあっ!」

 鬼の力を発動してこたつを真っ二つに蹴り割り、振り返るその顔は、あのセイカクハン
テンダケを食べて暴走した時のヤンキー初音そのもの!しかも今は男になっている!暴力
性は300パーセントアップ!(当社比・推定値)

「オラオラオラオラオラオラオラぁ!こっちは困ってるんだ!何とかしろこらぁっ!――あ」

 暴れまくる初音ちゃん、いや初音くんを前に途方に暮れた俺だったが、その暴走を止め
たのは先程の鍋だった。
 土鍋が初音くんの頭を直撃したのである。鬼の血とヤンキーモード発動中の初音くんを
気絶させるだけの威力の代償に、土鍋は粉々に砕け散った。
 とはいえ、あまりにも土鍋の対空時間がありすぎた。というか、その土鍋はどこからか
投げられたモノでは――

「……耕一さん」

 第三者の声が聞こえた。
 聞き覚えのあるそれは、廊下のほうから今を覗き込むようにいた楓ちゃんのモノであった。

「ちょっと乱暴じゃないか今のは?(汗)」
「ヤンキー状態の初音は手が着けられませんし……」

 楓ちゃんはもじもじとそう言うと、恥ずかしそうに俯いた。俺との久しぶりの再会にか、
それとも土鍋を投げつけて妹を止めたその乱暴な振る舞いにか。
 多分、男になってしまった今の自分が、とても恥ずかしいのかも知れない。あ、初音く
ん、頭からぴゅーぴゅー血の噴水が上がっている。どうしよう……

「……梓ちゃんの鍋が美味そうだったから……つい……」

 あー、可愛いなぁもうっ(泣)。初音ちゃんもヤンキー化していなければそうなのだが、
楓ちゃん、男になってもものごっつう可愛いじゃねぇのっ!←初音の惨状は既に眼中に無し

 ………………待て待て待て俺。今は男だぞ彼女たち(汗)俺にはそんな趣味は無いハズだっ!

(ホモはいいぞぉ……)

 突然、俺の脳内に響く鬼の声。

 ――いきなり何言い出すか柳川っ!?
 鬼の血による交感作用。どこからか柳川の声が聞こえてきたのである。
 ていうかお前死んだろっ!水門で!俺が斃したっ!

(はっはっはっ、所謂残留思念、幽霊というヤツだ)

 ……なんか妙に能天気だなあ。俺を散々苦しめた、あの、交感作用で送信してきた鬱屈
とした鬼畜ぶりが嘘のようだ。

(いや、さぁ、死んでみて、なんか判ったんだよねぇ)

 しかも気さくだし。

(生前は鬼の血に負けて散々女を狩って組み伏せてみたけどさぁ、一人として俺を満足さ
せてくれなかったんだよねぇ。それでさ、今こっちにいる貴之と一緒にいて、やっとそれ
が間違いだったって事判ったんだよ)
(やっほー)

 誰だ貴様ぁ(汗)

(やだなぁ、貴之だよぉ。交感作用で見た事無かった?)

 ちっがーう。そんなすっぽんぽんの変態ヤローなど会った事も見た事も、ついさっき記
憶から抹消した。ぺっぺっぺっ。

(つれないなぁ。いいか?柏木の男の本質は、女ではなく、男に飢えていたんだ。これは
きっと、女系主義のエルクゥに対する反発で、同性に対する情愛が強い為なんだよぉ)

 んなわきゃなーい(汗)それは完全に柳川個人の性癖ナリよ。

(どうとでも言ってくれ。俺は今、最高に幸せなんだから……)

 にこやかに笑う柳川は、そう言って貴之を引き寄せ、ゆっくりと、しかし情熱的に…………
 うわぁッ!
 うわぁあッ!
 朝ッ!
 朝! 朝!
 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 朝! 
 朝! 朝! 朝!!
 朝はまだかあぁーッ!
 朝はまだかあぁーッ!
 こんなおぞましい光景送ってくるなぁっ!!

「…………耕一さん」

 ――俺はその声ではっと我に返った。そうだ、これは例の夢ではない。朝など待っても
駄目なのだ。
 楓ちゃん、つーか楓くんが、辛そうな顔で俺にしがみついてきたのだ。

「……私……このまま戻れなかったらどうしよう?」

 ど う す れ ば い い ん だ
 てそれは俺が聞きたいくらいです(汗)

「それに…………」

 妙に楓くんの声が荒い。顔もどこか熱っぽい。
 何か興奮しているようである。

「…………今の……凄い…………」

 しまったぁ――――今、楓ちゃんは男だから、交感作用で柳川が押しつけてきた激しく
嫌なヤオイの世界を垣間見てしまったのかっ!

「……男同士…………あんな…………」

 いかんいかんっ!男なら、男同士はキモイだけでも、女性同士の絡み、所謂レズには興
奮するように、その逆しまは然り――身体は男でも、心は女性のままだから、さっきの光
景にいたく刺激されてしまったらしい。
 そうだ。男は男に性的興奮を抱くのは自然の摂理に反する非生産的な事だ。いや、別に
同性愛者主義を否定する気はないが、少なくとも俺はそれはゴメンな世界だ。

 なのに。

「……耕一……さん……?」

 俺のセガレは、熱っぽくする楓くんの顔を見て反応してしまっている(汗)。楓くんも
その事に気づいて、戸惑いを隠しきれないらしい。
 落ち付け落ち付け俺。柳川の言葉など俺を惑わす幻聴だ。俺はマトモだ。油断していた
だけに過ぎない。
 なのに、俺の股間はテントを張ったまま。うわーん、股間が、心が痛いよママン(泣)

(ヤオイはいいぞぉ、ヤオイは鬼の血が生んだ最高の行為だ)

 だまらっしゃい悪霊。――うわっ、そんなえげつないモノ見せるなっ!

「……耕一……さん」

 うわっ、楓くんがはぁはぁ言いながら俺の腿に股間を押し当ててきた。

「……男の人の身体って…………興奮すると…………こんなふうになるんですか?」

 うっわーい(汗)堅いのが当たってる(汗)

(鬼は絶倫だから、一度火が点くと収まらんぞぉ)

 ううう、うっさぃうっさい!あああああ、理性が理性が俺の理性が、鬼の血と闘った時
以上にピンチです母さん父さん(泣)

「……耕一さん…………私………………身体が燃えるように熱いの…………」

 そう言う台詞は女の子の時にゆって下さい楓くん!

「……お、おちつけ、楓……」
「…………我慢しなくて良い…………私…………耕一さんが欲しい……」

 ぷちっ。俺の中で何かが壊れた。

 壊れなきゃ、こんな事はしない。…………多分。

 約1時間経過。

 俺は、こたつ布団の上で、何度も俺にイカされた挙げ句、一糸纏わぬ肌を紅潮させたま
ま気絶している楓くんを背に、胡座を下かきながら複雑な思いで煙草を蒸かしていた。は
っはっはっ、この軟弱モノ。あなたの知らない世界を骨の髄まで知っちまったじゃなかぁ。
ところで何処から取り出したんだろうこの煙草(笑)
 ……まだ心臓がドキドキしている。ハッスルしすぎと、未知の経験を既知にしてしまっ
た為だろう。興奮覚めやらぬ。初めてHした時より興奮しているかもしれない。
 それにしてもどうしよう。
 汗と汚濁まみれの楓くんと、血塗れの初音くん。こんな凄い光景、千鶴さんたちに見ら
れたら――いや、もしかするとあの人の事だから、或いは――

「凄かったです、耕一さん」
「うっひゃーい、やっぱり覗いていたんか千鶴さんっ」
「お約束ですから」

 自覚すんなよそんなコト(笑)

「――つーか、千鶴さんっ!そこに座りなさいっ!」
「は、はいっ」

 俺に叱られて、慌てて千鶴さんは飛び込むように正座した。

「……見てたんですね」
「は、はい……楓が耕一さんにすり寄った時に、そこを通りがかって」
「見たんですね」
「……………………はい」

 千鶴さんはもの凄ぉぉくばつの悪そうな顔で頷いた。
 無論、俺がここで訊いたのは、交感作用による、あの柳川のヤオイな光景である。
 膨らむ股間を両手で押さえるように隠している千鶴さんの右手には、楓くんの身体にも
こびり付いている、ちょっと恥ずかしい白いモノがこびり付いていた。人をオカズにしや
がってまったく。

「ていいますか、なんで千鶴さん、また懲りずに変なモノ鍋に入れたんですか?セイカク
ハンテンダケの時に散々叱られたでしょ!」
「は、はい…………だから今度は、注意して、セイカクハンテンダケは獲らずに、その隣
に生えていた、美味しそうなシメジを……」
「美味そう、と思う前に、あのキノコの隣に生えているモノが危険とコンマ一秒ですら考
えた事はないのかアンタ」

 流石に俺もこれには煮えるしかなかった。土鍋だけに、というワケではなく、もう呆れ
るを通り越して、相手が千鶴さんであるコトも承知で腹が立った。

「そもそも、今回の原因は――」
「『性別反転茸』」
「え?」
「辞典調べたんです。でも載っていなくって、インターネットの検索機能で世界中のキノ
コを紹介するサイトを見つけてようやく判ったんです。『セイベツハンテンダケ』。セイ
カクハンテンダケの亜種で、美味美香なれど食したモノの性別を反転してしまう効力を持
っている毒キノコだって」

 ……何か使い古されたネタっぽい気もするんですが、というか絶対同じネタ誰かやって
るだろうコレ(笑)

「多分、耕一さんが男のままっていうのは初めてじゃないかと思います」
「俺の心の呟きに応えないで下さい(汗)」
「す、すみません、つい……」

 つい、で覚りが出来るんですか千鶴さん(笑)

「で、元に戻す方法はあるんですか?」
「それを調べてみたんですが…………ちょっと…………」

 千鶴さんは何かを言いかけて言葉を濁す。右掌を汚したまま以上に気まずい事でもある
のかアンタ。

「ちょっと、って?」
「実は――――」
「実は――――えっ?」

 突然俺は、千鶴さんに押し倒されてしまった。不意打ちを食らった俺は、抵抗もせずに
横たわった。

「な、何を――」
「……セイベツハンテンダケを食べも…………元に戻せます………………」
「元に戻るのは良いんだけど、だからこれはっ!」

 俺は俺を組み伏せている千鶴さんを押しのけようとしたが、千鶴さんはいつの間にか鬼
の力を発動させて強引に押し留めていた。
 マズイ事に、今の千鶴さんも、男なのだ。その力は俺が鬼の力を発動させている時より
あるかもしれない。
 千鶴さんは、はぁはぁ、と興奮した顔で俺を見下ろしていた。

「…………セイベツハンテンダケは……セイカクハンテンダケと同じように……ある種の
ショックで……元に戻ります……」
「ショック…………って?」
「後者が物理的衝撃に対し…………前者は…………性的興奮で戻ります」
「性――――あっ」

 組み伏せられていた俺は、思い出したように横を向く。
 そこでようやく、楓くんが――いや楓ちゃんが女の子に戻っていた事に気づいたのである。

「……性衝動を高める催淫作用を持っているこのキノコは……これを使う事により……一
時的に同性同士の性行為か可能となるのです。…………古くより普通の性行為に飽きた王
族の間で……高価な媚薬として重宝されていた……そうです……」
「何でそんなモンがこの家の庭に当たり前のように生えているか小一時間っ!」
「うふふ」

 千鶴さんは微笑みながら、自分の胸元をゆっくりと開いた。その中には、貧弱と言われ
ながらも辛うじてあるはずの乳房はなく、俺が見慣れている普通の男の胸板があった。

「…………耕一さん、お願いです。私を元に戻して下さい」
「戻すって――何で俺が下なの?!」
「私――――」

 俺は、千鶴さんがそこで浮かべた笑顔を、きっと生涯忘れる事はないだろう。
 多分、言葉では表現できない。
 近いモノと言えば、かつて誤解から俺を殺そうとした時に見せた、鬼の形相だろう。

「…………耕一さんが困った顔を見るのが好きなんです」

 Sだ。S過ぎる。千鶴さんの本性はやっぱりSなんだ。
 そして俺は、蛇に睨まれたカエルのように、男千鶴がのし掛かってくるのを黙って見て
いるしかなかった。


「……あれ」

 いよいよと言う時に、俺は、千鶴さんの戸惑い冷めた声と共に、剥き出しになった尻に
生暖かいモノを感じた。

「…………あれ?」

 もう一度、千鶴さんの不思議がる声が。

「…………イッちゃった…………の?」

 早過ぎる。あまりにも早過ぎる。つか、先っちょが尻の割れ目に触れた瞬間の事である。
 ふと気になった俺は、恐る恐る、千鶴さんの股間に生えているそれを見た。
 俺が言うのも何だが、粗末すぎだ。
 そしてそれは、俺の想像通りのモノであり(実際は想像以下のモノであったが)、推測
を証明するに足りたモノであった。

「…………セイベツハンテンダケは性別を反転させるのだから、…………胸に不自由して
いる千鶴さんはその、アレも…………不自由…………しかも早漏…………」
「い――――――――いやぁああああああっっっっっっっっっ!!!」

 千鶴さん、俺の身体から飛び退き、血の涙を流して居間から駆け出ていった。ちゃっか
り身体は女の身体に戻っていた。
 ふう、と俺は安堵の息を吐き、千鶴さんの唾液まみれになった身体をゆっくりと起こした。

「…………いやぁ、エライ目に遭った…………千鶴さんの本性が今更ながら判った気がす
る…………?」

 頭を上げた時だった。
 頭頂に、むにゅ、と嫌すぎる刺激を憶えた。
 驚いて振り向いた瞬間、俺の目前に、視覚的に嫌な、見慣れた――角度的には見慣れな
い――モノが出現した。

「あ――梓ぁっ!」

 そこには、男の身体をした梓が立っていた。

「耕一…………見てたよ…………」

 まっずーい。料理をしていた本人だから、当然味見をしているわけで――その――――
なんだ――――俺でも見たコトのないその巨大な物体わっ!?まさかそれがチョンマゲし
たんデスカっ?!わ〜〜ん(泣)

「千鶴姉ぇの不始末に迷惑かけたみたいだね……」
「つか落ち付け梓(汗)そんな熱っぽい目で俺を見ないでくれっ!」
「で……でも……千鶴姉ぇみたいにしないと元に戻らないんでしょ?」
「せんでいいせんでいいっ!お前は今のままで充分だっ!一生男で暮らせッ!かおりちゃ
んもそのほうが喜ぶっ!」
「かおりの事は関係ないよぉ……」

 そう言って梓は俺に近づき、俺の両肩を鷲掴みにした。

「あたしは男のままなんていやだよぉ…………」
「そ、そうだ!かおりちゃんに頼め!あの娘ならいくらでもヤラせてくれるからっ!そん
な――――乳がデカイしかおちょくらないからっ!その巨乳が性別反転したシロモノとい
うか――――頼むから、そんな、80センチ列車砲みたいなモノはぁっ!」

 梓は、必死に抵抗する俺の肩を掴む両手に力を込め、にぃ、と笑った。

「やらせろ」

 きゃー。

                 合掌。<オチがオチだけに、チーン(笑)

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