ToHeart if.「カスタム双子・ハーフ&ハーフ」第5話 投稿者:ARM(1475) 投稿日:4月21日(土)01時01分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』(Leaf製品)の世界及びキャラクター(ボツキャラ含む)を使用しています。「ToHeartVisualFunBook」(発行・メディアワークス)がお手元にありましたら、「原型少女」のページを参照願います。
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【承前】

 もうじき日が暮れようとする頃、買い物が済んだ浩之たちは、ルミネから少し離れた150円コーヒー店でくつろいでいた。

「今日は楽しかったね〜〜♪」

 壬早樹はミルクをたっぷり入れて限りなく白に近くなったアイスコーヒーをストローでちびちび飲みながら、能天気に笑って言う。

「色々よさげなのがあったし〜〜」
「……あんまし買ってなかったようだけど」

 浩之は、二人の足元にある今日の買い物が入った紙袋を見て言う。浩之は、つき合わされるのは沢山買ってその荷物持ちにされるものとばかり思っていたのだが、意外や、紙袋がふたつ。最初に目を付けたあのツーピースと、その見つけた夏物のブラウスが二点、そしてキュロットが一点。それを双子の数だけ掛けたのが袋の内訳であった。

「しかも二人とも見事なまでに同じものを……」
「同じじゃないよ〜〜、色違い〜〜、ボクはイエロー系が好きで、都把沙ちゃんはライトブルー系が好きなんだよ〜〜」

 そのコトは浩之も既に気付いていた。むしろ、どうして女物の服をお前も買うんだ、と壬早樹にツッコミたかったのだが、その反面、仕方がないのかなぁ、と思っていたので口にはしなかった。選んだ服が似合ってしまうというのもその理由のひとつであろう。
 浩之の関心は、そんな壬早樹は置いといて、都把沙に向けられていた。
 今日一日、買い物に付き合ってみて、浩之は都把沙という少女のひととなりが良く判った。
 学校では無口で大人しいばかりに見えた都把沙が、意外と明るくてはきはきと話すコト、名家の娘だというのにお嬢様然としない気さくな少女であるコトに、浩之は新鮮さを感じていた。
 何より、――男とは知らずに一目惚れしてしまった壬早樹と同じ美貌の主である。正直、浩之は当初、緊張していた。
 しかし、“あの出来事”をきっかけに、その緊張は解け、自然体で二人の買い物に付き合えるようになってから、浩之は二人を――主に都把沙を観察する余裕が生まれていた。
 良く出来た美少女。そう滅多に巡り会えるものではない。
 そんな彼女が、自分を慕ってくれているらしい。

「……藤田くん?」
「……え?あ、ああ、……何?」

 都把沙に呼ばれて、耽っていた浩之は我に返った。

「……今日はつき合わせちゃってごめんなさい」
「気にしない〜気にしない〜、浩之が都把沙ちゃん泣かせたのが悪いんだし〜〜」

 済まなそうにいう都把沙に、壬早樹は相変わらずの能天気ぶりを発揮する。

「俺が悪い悪くないはともかく、壬早樹の言う通り気にしなくていいよ。――楽しかったし」
「…………あ」

 溜まらず赤面する都把沙。

「それに――貸し借り抜きで、またどこか遊びに行こうよ」
「え…………」

 思わず瞬く都把沙。酷く戸惑ったように見えたが、やがて、うん、と小さく頷いた。

「じゃあ、今度こそ勝負下着選びに行こ〜〜♪」
「「却下」」

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    ToHeart if.『カスタム双子・ハーフ&ハーフ
            = make it with someone. =』

                第5話

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 翌日、浩之は登校すると、教室の前で待っていた壬早樹に声を掛けられた。

「浩之、おっは〜〜♪」
「朝から元気だなぁ……おっはー。昨日はご苦労さん。で、何の用?」
「んーとね〜〜、都把沙ちゃんと浩之の次のデートについて何だけど〜〜」
「待てコラ(汗)。何でそんな話が(汗)」

 浩之は戸惑うが、壬早樹はそんな浩之を置いてきぼりにして勝手に話し続けた。

「それでさ〜〜今度はちょっと遠出なんかしてみたらいいかなぁ、とか〜〜」
「……待て待て待て(汗)勝手に仕切るな話を進めるな」
「え〜〜でも、昨日、またデートしようってゆったじゃない?ほら、ここから上へ28行目の所で〜〜」
「待てコラ(笑)。…………いや、確かにまた一緒に遊ぼうみたいなニュアンスでは言ったが…………」
「あ〜〜」

 すると壬早樹はふくれっ面で浩之を睨み付け、

「男に二言は無いハズ〜〜」
「そうじゃなくって(汗)なんで壬早樹が仕切るか?」
「ちっちっちっ。マネージメントとゆってほしいなぁ」
「いつから都把沙ちゃんのマネージャーになったんだ、おめーわ――って、おい!」

 呆れ顔で肩を竦めた浩之だったが、突然、壬早樹に鼻先を指されてびっくりした。

「……それとも何?…………都把沙ちゃんが嫌いなワケ?」

 壬早樹がいつもの軽い能天気な口調でなく、トーンダウンして訊いたものだから、浩之はどきまぎした。双子だけあって――正確には二卵性双生児なのでここまでうり二つというのは非常に稀なのだが、壬早樹の声が低くなると都把沙とまったく同じ声質であった。その為、浩之には都把沙に詰問されているようなそんな錯覚さえ覚えてしまったのである。
 そればかりか、その声質が実に艶めかしく、浩之は思わず息を呑んで緊張してしまった。

「そ、それは…………そ……そんなワケじゃあ…………な……い……っていうか……!」
「――でしょ?なら!今週の土曜の午後!決定!反論は一切受け付けないっ!クーリングオフも却下!」
「おいおいおいおいおい(汗)」

 くるくる変わる壬早樹の態度に、浩之は翻弄されている自分を感じていた。しかしそれでも壬早樹を嫌いになれない自分が不思議だった。


「……昔からあーゆーヤツなのか?」

 二時限目と三時限目の間の休みに、あかりの許にやってきた志保を捕まえた浩之は、困ったふうな顔で訊いてみせた。

「んー、昔から、あんな感じだったわねぇ。あたしはもうあの能天気にはすっかり慣れちゃったけど、壬早樹初心者にはちと辛いかなぁ」
「……辛い辛くないの問題じゃなくって――つーか、不断からあんなンか?」
「まーね。ま、あれが弥澄壬早樹ってコの持ち味なんだけど」
「そうかい。にしても、あんな能天気っぷりには、おめーのクラスの連中も手ぇ焼かされているんじゃないのか?」
「そん時の保険というか、都把沙が居るんじゃないの」
「都把沙ちゃんが壬早樹のウィークポイントか。――言われてみれば、都把沙ちゃんには全く頭上がってなかったな、あいつ」
「妹想いの良いお兄ちゃん、ってところね?」

 あかりが笑いながら言った。
 すると浩之と志保は、あかりを不思議そうな目で見て、

「「…………あかりにはアレが男に見えるのか?」」
「こ、声揃えなくっても…………う、うん、ちょっと無理があるね(汗)」
「……しかし、実際のところ…………志保」
「ん?」
「おめーのクラスで、壬早樹のことをどう扱っている?」
「どう、って、そりゃあ、…………見かけの方が自然だから」
「そーじゃなくって――ハッキリ言うと、――嫌っているヤツはいるか?」
「そんなヤツ、居ないわよ!それはこの間話したじゃ――――?」

 志保はそこでようやく、浩之の表情が少し変わっているコトに気付いた。そしてその理由も、何となく。

「…………昨日、なんかあったの?」

 訊かれて、浩之は、ふぅ、と溜息を吐き、

「壬早樹の昔の知り合いと遭っちまってな。――ひでーコトゆうヤツが居たモンだ」
「そう…………、で、壬早樹は?」

 訊かれて、浩之は頭を横に振った。

「別に。…………笑って挨拶までしてたよ、そいつらに」
「…………」
「……なぁ、志保」
「…………安心してよ。何度もゆうけどさ、うちには、そんなヤツは居ない。……言ったじゃない?壬早樹って娘は、凄い娘だって。――それに、うちのクラスで何か行おうとする時はさ、いつも壬早樹が頑張ってくれるんだ」
「……へぇ」

 浩之は意外そうな顔をした。

「前向きな性格だから、さ。失敗した後のコトなんて、失敗してから考えるタチでさ。――それが却ってみんなをまとめる求心力になったりするんだから、不思議よねぇ。お陰でクラス一丸となり易く、滅多なコトじゃ失敗しない。…………きっと壬早樹は生まれつきっていうか、そういうのに強いんだろうね。その割に表に出ようとはしない。いつも誰かのサポート。だけどそのサポートが安心出来るから、その誰かはいつも安心してリーダーシップを発揮したり、意見をまとめ上げられるのよ」
「ふぅん…………」


 志保から聞いてみたものの、浩之は実際のその様子を確かめたくなって、次の休み時間、さりげなく志保の教室を覗いてみた。
 この間、訪れた時のように、壬早樹はクラスメートたちと歓談していた。メンバーはあの時とは異なって女生徒ばかりであった。彼女たちが、弥澄家が経営する会社の社員の家族でないという保証は無いが、壬早樹と語り合っている彼女たちの顔が演技とは思えなかった。
 人を引っ張る力。それはリーダーシップの条件と言われるが、決してリーダーばかりに要求される能力ではない。人をまとめる力は、リーダーばかりが持っているものではない。
 場、や、空気、と呼ばれるモノがある。どんな状況下でも、それを維持する意志は存在し、それが雰囲気を支配する。
 そしてそれは、人が作るものである。
 壬早樹は、場の流れを作れる人間なのだ、と浩之は理解した。そしてその流れは、決して人を不愉快にしない。彼の肉体の理不尽さから見れば、何と皮肉な素質であろうか。
 浩之はやるせなさを感じながら、自分の教室へ戻るコトにした。
 ――そんな時、浩之は偶然、都把沙と鉢合わせになった。

「ふ、藤田くん――」
「あ、つ、――都把沙、ちゃん――――」

 先程まで教室の中にいた壬早樹を見つめていたので、急に目の前に同じ顔が現れたものだから、浩之は酷く驚いてしまった。

「あ、き――昨日は………その……………」

 浩之を前にして、しどろもどろになる都把沙。校内ではどうにも彼女は大人しすぎるようである。
 いや、それ以外の理由もあるのだろう。

「…………ねぇ、都把沙ちゃん。壬早樹から聞いている?」
「…………?」
「いや、今度の土曜の午後、どこか遊びに行こうって――――あれ?」

 きょとんとなる都把沙は、やがてゆっくりと首を横に振った。

「…………聞いていないの?ありゃあ…………」

 浩之は困惑し仰ぐが、やがて諦めたように、はぁ、と溜息を吐いて、

「…………じゃあ、改めて。――今度の土曜、ヒマ?」
「あ〜〜っ!浩之、それ、ボクがゆおうと思ってたのにぃ〜〜〜〜!」
「「う、うわっ!?」」

 唐突に降って湧いた壬早樹に、浩之と都把沙が声を揃えて驚いた。

「ひとが折角、みんなによさげな場所無いか訊いてから、都把沙ちゃんにプロデュースしようと思ったのに〜〜〜〜プンスカ!」
「おいおい…………」

 浩之はふくれる壬早樹を見て呆れる。しかし、隣で瞬いていた都把沙が、そんな壬早樹の仕草がおかしいのか、くすくすと忍び笑いをしているのを見て、つられるように苦笑した。

「全く。――――で、どう?」

 浩之が、もう一度訊いた。
 都把沙は、少しだけ考え、果たして照れくさそうに頷いてみせた。


 土曜日の午後。浩之が都把沙と約束したデート当日である。

「…………なんでおめーまで居るのかなぁ?」

 呆れ顔の浩之は、都把沙と肩を並べてやって来た壬早樹を指してそう言った。

「え〜〜?だってボク、都把沙ちゃんの保護者〜〜♪」
「保護者同伴でデートを監視するのか、つーかこの期に及んでお兄ちゃんヅラするか?」
「物事にはTPOと言うモノがありまして〜〜♪」
「意味が違う」
「い〜〜じゃん。もし都把沙ちゃん一人にしたら、きっと藤田浩之は乙女の都把沙ちゃんをイケナイ場所へ連れ込むに決まってるしぃ〜〜♪」
「コラ待て(笑)。そんなに信用無いのか?」
「信用しちゃイケナイって、志保がゆってた」
「………………」
「女のコ殴っちゃダメ〜〜♪」
「……構わないでくれ。これは志保と俺の問題だ。いずれあのアマとは雌雄を決しなければならない」
「え〜〜?志保もふたなりだったのぉ〜〜?」
「…………違ーが―う―(笑)」
「くすくす…………もう」

 浩之と壬早樹の不本意な掛け合い漫才を黙って聞いていた都把沙は、とうとう絶えきれずに吹き出した。

「…………藤田くん。壬早樹ちゃんも一緒に連れていって良いでしょ?」
「…………んーと」

 言われるまでもなく、壬早樹一人増えたって、健全な高校生同士のデートに支障があるコトはないのは、浩之も承知している。
 それよりもむしろ問題なのは、美少女の部類に入る都把沙と同じ顔をした壬早樹と一緒に歩き回るコトである。事情を知らない者から見れば羨ましいくらいのハーレム状態である。浩之はそっちの方が正直、気恥ずかしかった。
 とはいえ、やはり断る理由など思い浮かばず――

「…………ま、いっか。壬早樹も一緒に行こ」
「そーでなくっちゃ!ほらほら、ボクが二人をエスコートしてあげるから〜〜♪」

 壬早樹は嬉しそうに笑い、浩之たちを引き連れ始める。

「よみうりランド行こ〜〜♪前々から乗ってみたかったのがあるんだ〜〜♪」
「まったく、デートのプランまで決めてたか……都把沙ちゃん?」

 進み出そうとして、浩之は直ぐ横に都把沙の姿が見えないコトに気付き、見回した。
 都把沙は浩之の直ぐ後ろにいた。正確に言うと、都把沙は少し俯いた状態で、一歩も進んでいなかった。

「…………都把沙ちゃん?どうしたの?」

 浩之に訊かれると、都把沙はゆっくりと顔を上げた。
 浩之を見つめるそれは、不安げな顔に見えてならなかった。

「…………藤田くん。……壬早樹ちゃん、迷惑だったかしら?」

 暫しの間。
 しかし浩之は、答えあぐねていたワケではなかった。
 想う時間が必要だった。
 都把沙にとって、兄である壬早樹とはどういう存在なのか、と。

「…………そんなコトないさ」

 果たして浩之は、そんな不安そうにいる都把沙を安心させるかのように、優しく微笑んだ。

「……壬早樹がいると、不思議と楽しい気分になるし。――都把沙ちゃんには頼りがいのある存在なんだろ?」
「う、うん……」

 都把沙ははにかみながら頷いた。

「だから、さ」
「…………?」

 浩之は都把沙に手を差し伸べてみせた。

「一緒に遊ぼう」
「………………うん!」

 訊かれて、都把沙の浮かべたその笑みは、その時の浩之には、安心した為だと思っていた。
 だが、本当はそれが、都把沙が抱えていた、もっと複雑な想いがもたらしたモノだと言うコトに気付くのには、今の浩之にはもう少し時間が必要だった。

               つづく

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