ToHeart if.「カスタム双子・ハーフ&ハーフ」第4話 投稿者:ARM(1475) 投稿日:4月19日(木)23時50分
【警告!】この創作小説は『ToHeart』(Leaf製品)の世界及びキャラクター(ボツキャラ含む)を使用しています。「ToHeartVisualFunBook」(発行・メディアワークス)がお手元にありましたら、「原型少女」のページを参照願います。
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【承前】

「……さて」

 四人がかり、といっても実際は、都把沙はあまり食べていなかったので三人がかりだったが、豪華なお弁当を平らげて人心地がついた時、壬早樹が切り出した。

「これで、昨日のヤックの借りは返したと」
「?」

 浩之は、壬早樹が変なコトを言い出したのできょとんとなった。

「あとは、残りの借りを返しもらわないと」
「残り……、って………………へ?」
「浩之〜〜」

 そう言って壬早樹は浩之の鼻先を指し、

「チミ、――明後日の日曜、都把沙ちゃんの買い物に付き合いなさい」
「……何?」
「それで馬車馬のように都把沙ちゃんにこき使われるのだ〜〜♪」
「なにゆえ――っ?」
「だってチミ、昨日、都把沙ちゃんを泣かせたじゃん」
「……おいおい」

 しれっ、という壬早樹に、浩之は戸惑った。

「それは謝ったから、昨日のヤック代は俺持ちで…………」
「だから、それをチャラにした」

 と、壬早樹は空になったお重を指した。

「これで、また都把沙ちゃんを泣かせたお詫びが残った、と言うわけで」
「………………おいおい」

 あまりの言い分に困惑する浩之だったが、やがて、向かいの席でこの昼食の意味を理解し呆れている志保と、そして何とも複雑そうな顔で浩之をみている都把沙に気付いた。
 それを見て、浩之はハメられた、と思った。
 正直、これでいいのかよ、と呆れもしたが、悪い気はしなかった。

「…………ンナ回りくどいコトしなくてもさぁ」
「?」
「――なんでもねー。……あいよ、喜んでお姫さまがたにお付き合いさせていただきます」

 てっきり文句を言う者かと心配していた都把沙だったが、どこかはにかんでいるように見える浩之をみて、ほっとした。

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    ToHeart if.『カスタム双子・ハーフ&ハーフ
            = make it with someone. =』

                第4話

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 約束当日、昼前。
 浩之は駅前のロータリーで弥澄姉妹と落ち合った。
 あの来栖川家と同じ名門である弥澄家の長女である都把沙は、落ち着いたデザインのベージュのワンピースという、そこいらの一般家庭の年頃の娘と何ら変わらない服装をしていた。浩之は来栖川姉妹の私服を見る機会が何回かあり、都把沙もお嬢様らしい高級そうな扮装で来るものと思っていたものだから、これは意外であった。

「しかし――」

 それ以上に浩之を戸惑わせたのは、都把沙についてきた壬早樹が、妹と同じ扮装だったからである。

「…………不断から同じ格好?」
「いや〜〜、好みが都把沙ちゃんと同じなもんで〜〜」
「……ていうか女物の服なんだが」
「パンティもブラも同じなんだよ〜〜」
「………………」

 浩之、少し立ちくらみ。

「…………いや、そーいや、身体も表面は女性に近いんだよな」
「いやーん、浩之のエッチ♪」
「………………」

 思わず、殴ったろか、と心の中で呟く浩之。壬早樹は、生物学上の性別は一応男ではあるが、やはり見かけはまるっきり妹にそっくりな美少女である。むしろこの顔では、男の服を着ている方が不自然であろう。

「……まぁ、いいや。――で、どこにお買い物?新宿?渋谷?横浜?それとも銀座でしょうか?」
「なにゆってんの、そこよそこ〜〜♪」

 と壬早樹が指したのは、駅舎と一体化しているルミネデパートであった。

「……庶民的な」
「うちは確かにお金ある方だけど、質素が好きな血筋みたいだよ。家も豪邸とは無縁の普通の一軒家だし、来栖川先輩みたいに車で送迎なんてしないし〜〜」
「……性に合わないでしょうね。私も着る物には拘らないから――あ、で、でも」

 そこまで言うと都把沙は顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
 浩之が不思議そうな顔をすると、壬早樹が、にぃ、と意地悪そうに笑い、

「都把沙ちゃんは浩之に選んで欲しいんだよねぇ〜〜?」
「え……?」
「……み、壬早樹ちゃん!」

 お見通しの壬早樹に、都把沙は小声で兄の名を文句を言うように呟いた。

「ま、そうゆうわけだから、お買い物つき合ってね〜〜♪」
「あ、……ああ」

 浩之は頷くのが少し照れくさかった。


「……で、いきなりココですか」

 浩之を唖然とさせたのは、最初に連れてこられたのが女性下着売場だった為である。

「……み、壬早樹ちゃん!?」
「さぁ、都把沙ちゃん、勝負パンツ選ぼ〜〜♪」
「…………これを前にして俺にどうしろと?」
「だってぇ、最終的には浩之が脱がせ易い物を選んだ方が〜〜♪」
「アホウっ!なんちゅーコトゆうかっ!」
「壬早樹ちゃん!」

 これには都把沙も大声で怒鳴った。

「えー、でもさぁ、男の子は女性の下着ってどうなっているか知らないだろうし〜〜」
「知る知らないつーか仕組み知ってんのか男のお前が?」
「実際、使ってるし〜〜」
「…………」

 都把沙はワゴンセールで山積みになっているショーツをつまみ上げ、びろーん、と横に広げてみせる。ここで壬早樹に突っ込んだら負けだ、と浩之の心のどこかで何かが叫んでいた。

「……もうっ!藤田くん!」

 と、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした都把沙が、いきなり浩之の左手を掴んだ。

「行きましょう!上の階!」
「あ、ああ」

 都把沙に腕を引かれる浩之は、混乱しかけた頭で何とか頷き、都把沙と一緒に下着売場から離れて行った。

「あ、待ってよぉ〜〜」


 エスカレーターで上の階に上がった浩之たちは、今度は婦人服売場に着いた。フロア内は、浩之もTVのCMなどで聞き覚えのある国内のブランドショップの店舗が並んで出店しており、休日ともあって大勢の若い女性客がウィンドゥショップに興じていた。

「混んでるなぁ」
「……人混み、嫌いですか?」
「好きというワケじゃないけど、まぁ仕方ないし。どこから見る?」
「……んーと」

 都把沙は左側の通路を見た。比較的そちらが空いていたので、そこからゆっくり見ていくコトにした。まもなく壬早樹も二人に追い付いてきた。

「あー、都把沙ちゃん、あれあれ、あのツーピース、色が可愛い〜〜」

 壬早樹が後ろから、有名ブランドのショップのウィンドウに出ている、新作のツーピースを嬉しそうにはしゃぎながら指してみせた。
 しかし都把沙は先程の件をまだ許していないらしく、振り返ろうとせず先へ進む。

「…………いいの?」

 浩之が聞くと、都把沙は何も言わず進むが、やがて、はぁ、と溜息を吐くと立ち止まってようやく振り返った。
 振り返った都把沙の顔は、仕方ないなぁ、と諦めたような笑顔であった。

「……やっぱりそれだよね」
「でしょ!でしょ!」

 壬早樹は都把沙の顔で満面の笑顔を浮かべた。

「……藤田くん」
「あいよ」

 浩之は苦笑して応えた。

 結局、浩之は弥澄兄妹の仲睦まじい買い物に付き合う形となった。
 都把沙がハンガーに掛かっている夏物のワンピースを前に重ねて浩之に見せる一方で、その直ぐ横でも壬早樹が色違いの同じデザインのワンピースを前に重ねて見せた。二人の買い物は、デザイン自体の好みが全くと言っていいくらい同じで、色違いの差ぐらいしかない。浩之には服を選ばすコトは無く、自分たちの好みで選んだ服の感想を聞くばかりであった。

(……まったく、仲の良い双子の姉妹――いや、兄妹…………なのかなぁ)

 そんな弥澄兄妹を見て改まろうとする浩之だったが、やはり壬早樹はどう見ても女の子にしか見えなかった。無理に男だと思うほうが無理が歩きがしてならないのだ。
 性別上は男だが、乳房はあるし、――いわゆる“ふたなり”らしい壬早樹。そんな人間が、周囲からどう思われているのか、それが浩之の目下の関心であった。
 志保のクラスでは、あの朝の様子から壬早樹を“異質な存在”と見ている様子はなかった。男女問わずクラスメートと打ち解けている様子からそう思ったのだが、思えば、そのような存在がいるコトが周知の事実ならば、クラス内に限らず、もっと早く浩之の耳にも届いていいのではないかと不思議がった。

(……つくづく、うちの学校の連中って、呑気者揃いなんだろうなぁ。オカルト研究会があるし、メイドロボットが試験に来るわ、エスパー少女が受け入れられるわ……)

 何より、あの志保が今まで、この二人をネタにした話を言って来なかったのが最大の謎であった。――昨夜までは。
 と、浩之が物思いに耽っていた、そんな時だった。

「――――!」

 きわどい声が、二人が居た方から聞こえてきたので、浩之は、はっ、と我に返った。
 慌ててそちらを見ると、そこには、浩之たちと同年代のカップルが、都把沙を見て唖然としていたのだ。

「……や、やぁ」

 都把沙が珍しくぎこちない笑顔を浮かべて、そのカップルに挨拶して見せた。どうやら壬早樹の知り合いらしい。

「…………や、弥澄――」

 カップルの男の方が、困惑した顔でその名を口にした。まるで何か幽霊とでも遭遇したような、そんな怯えさえ伺えた。

「げ、元気〜〜?」

 訊く方が全く元気のない笑顔をしていた。壬早樹もこのカップルと出会したコトに戸惑っているのであろう。

「え、ええ。――行こ」

 とカップルの女が男の袖をひっぱり、その場から立ち去ろうと促す。

「ああ。――バイバイ」

 男はぞんざいに言うと、相手の子と一緒にそそくさとその店から出ていった。
 出ていく際、その二人は丁度浩之の横をすり抜ける形となった。

 なんであいつがいるのよ。

 カップルの女が男の方に耳打ちするようにして偶然、浩之の耳に残した、小声の嫌悪。


 …………何よ、ヒロ、こんな時間に。
 ――――え?弥澄兄妹のコト?あたしとどういう関係って…………?
 ――――うん、あの二人とは小学校がずうっと同じでね、一年と三年の時を除いて同じクラスメートだったんだ。中学に上がる時、あの二人は私立の……うん、多摩市にある私立中に進学してね。あたしは中学の時に町田に引っ越してきたから、高校に入るまで疎遠だったんたけど。
 ――――ヒロ、あんた?
 ――――うん。気付いちゃったか…………。
 ――――多分ね。詳しいコトは流石にこのあたしでも聞けないんだけど。
 ――――ええ、色々あったみたい。……小学校の時はさ、男も女も区別つかないじゃない?だから誰も気にしていなかったんだけど、やっぱり中学生ぐらいの年頃だと、さ、色々と。親の体裁もあったんじゃないかな。それで公立から、色々利く私立に進学したんだと思う。…………でも徒労に終わったか、あるいは全部裏目に出たんじゃないかなぁ。それで高校は、その時の事情を知らない連中が居るこっちの学校に、親のコネで来たんじゃないかなぁ。
 ――――あんたもそう思う?(笑)やっぱり、うちの学校って大らかな連中が多いから、気にしないのかもねぇ。だからこっち来たのは正解だったかも。
 ――――うん。都把沙と仲良いのは、あたしと同じ小学校の同級生で、みんな、あの二人の親の会社の社員や重役の子供。事情、親から聞いているんだと思う。それでもさぁ、みんな優しいよ、損得抜きで。小学生くらいの頃の友達って、結構本音で渡り合ってきたから、互いを知り尽くしているところもあるし、今更何を、ってトコがあると思う。実際、あたしがそうだし。……だいたい、あの都把沙を、男と見る方がやっぱ無理じゃない?
 ――――やっぱ、あんたもそう思うわよねぇ。だってさぁ、胸もあるし、あすこだって殆ど女の子っぽいっていうじゃない?
 ――――見てないわよっ!壬早樹から聞いたのっ!………………壬早樹、あんな可哀想な身体しているのにさぁ、ちっとも気にして無くて。
 ――――親御さんが、会社で開発した人工臓器使って男の子に性転換整形しようか、って言ったコトもあったそうよ。でもさ、あいつ、親から貰った身体だから傷つけたくないし、こういう身体に生まれて来たコトはひとつも恨めしくないから良いって。……………………もしあたしがそんな境遇だったとしても、到底、そんな、何もかも受け入れたポジティブな台詞言えないわよ。…………凄い娘よ、壬早樹は。相当な覚悟がなきゃ、そんな…………。
 ――――――どうしたの、ヒロ?黙り込んで――――――」


「――藤田くん?」

 浩之は、都把沙に呼ばれて、はっ、となった。無意識に、あのカップルを追いかけようとしていた自分に気付かず、都把沙の不安そうな声に呼び止められて、ようやく我に返ったのだ。
 正直、何をしでかすところだったのか。浩之はそれを考えると、不安のあまり鼓動が高鳴った。あまりにも自分らしからぬ衝動であった。

「浩之〜〜、何してんの〜〜?」

 つづいて壬早樹の能天気な声が聞こえてきた。何も気にしていない、そんな能天気な声に、浩之は救われた気がした。

「…………ああ。ゴメン、何だ、まだ服が決まんないの?」

 ふぅ、と安堵の息を吐くと、浩之は踵を返して壬早樹たちの居る店内の方へ向かった。

「……今日は最後までつき合ってやるよ。だから慌てずのんびり決めな」
「じゃあ、次は勝負下着〜〜♪」
「「却下」」

 浩之と都把沙が声を揃えて呆れたふうに言った。

               つづく

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