【警告!】この創作小説は『ToHeart』(Leaf製品)の世界及びキャラクター(ボツキャラ含む)を使用しています。「ToHeartVisualFunBook」(発行・メディアワークス)がお手元にありましたら、「原型少女」のページを参照願います。
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【承前】
「…………ヒロ。コナミのグラディウスのビックバイパーって知ってる?」
「俺はてっきりZZガンダムのほうで来ると思ったのだが」
少し困ったふうな顔で言う浩之は、玄関で浩之を待っていたあかりと一緒に居た、呆れ顔で訊く志保に答えた。
志保の隣では、あかりが、浩之の背後に居た、二人の弥澄壬早樹(やずみ・みさき)を見つめて呆然としていた。やがて恐る恐ると訊いた。
「…………プラナリア?」
「「……おいおい」」
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ToHeart if.『カスタム双子・ハーフ&ハーフ
= make it with someone. =』
第2話
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浩之とあかり、そして志保は、弥澄兄妹と共に商店街にあるヤクドナルドに寄り道していた。
「……へぇ。志保、お前この二人と知り合いだったのか。でもまさか、双子だったとはねぇ」
「男女の双子、ねぇ……」
あかりはしげしげと、テーブルを挟んで向かい合わせになっている弥澄兄妹を見つめ、
あかり「男女というと二卵性だよね?」
浩之「そーいやどこぞのアホは一卵性なんて間違えいたっけ」
志保「あ、寝ぼけてたなんてゆったけど、怪しいモンよねぇ。そーいや、モニタに表示されている、一って文字の上に、油性ペンでもう一本横棒を書き加えてくれ、なんて泣き入れてたわねぇ」
浩之「スクロールしたら意味がないだろ(笑)」
あかり「この箇所、きっと自分トコのサイトで公開する時、ざっくり削除されるね」
浩之&あかり&志保「「「あーはっはっはっ!」」」
…………おめーら。
「それはそれとして、――でもさ、男女の双子にはとても見えないよねぇ」
「同感。――正直、区別付かん」
「あー、浩之それだったらボクが壬早樹で――」
「浩之……?」
笑って言う壬早樹を見て、志保が戸惑いげに浩之の顔を見た。
「……何?もうそんなツーカーな仲なワケ?」
「ンなわけねーよ。っていうか俺自身驚いた」
「いーじゃない」
壬早樹は、ニパッ、と屈託のない笑顔で言って見せた。
「袖振り会うのも何かの縁つーし。ガッコでぶつかったらもうマブよマブ」
「……えらくノーテンキなヤツだなこりゃ」
「まぁ、志保の友達だって言うしね」
「あかり……今の、悪意感じたんだけど?」
志保に睨まれ、あかりは、ないない、と首を横に振ってみせる。端で見ていた浩之は、表にはしなかったが、あかりが正しい、と心の中で頷いた。
「……あたしの友達、っつーのは認めるけど――っていうかさ、うちのクラスで壬早樹が嫌いなヤツっていないのよねー」
「ボクも嫌いなヒトっていないからね〜〜」
壬早樹は能天気に笑ってみせ、
「――そうそう、話戻すねー。ボクと都把沙(つばさ)ちゃんの見分け方〜〜」
「いや、だいたい判ってきた」
浩之はそう言って、都把沙を指し、
「大人しいのが都把沙ちゃんで、騒がしいのが壬早樹」
「……浩之。騒がしい、ってどーゆーコトよ?」
「そうやって人睨むトコ辺りが」
「この口がゆぅかぁっ〜〜!」
壬早樹は空かさずテーブルから身を乗り上げ、浩之のほっぺたを両手で摘んで横に引っ張った。
「をにょれぇぇぇぇ〜〜!」
浩之も反撃して、壬早樹のほっぺたを摘み、横に引っ張った。
「……バカ同士、気が合うのは早いわねぇ」
「「お前にゆわれとうないっ!!」」
浩之と壬早樹は同時に手を離し、覚めた目で言った志保に一字一句狂いなく、息があったようにツッコミを入れた。
そんな二人を見て、今まで大人しくしていた都把沙は、どうやら可笑しかったらしく顔を赤らめてくすくす笑いだした。
「あー、珍しい。都把沙が笑ってるー」
「こんな頭のワルイコトで笑うなんて、都把沙ちゃん、下品〜〜」
「だって……壬早樹ちゃんと藤田くんが……………………!」
言い訳する都把沙は笑いを堪えようとするが、しかし無駄な足掻くばかりとなり、涙目の顔がくしゃくしゃになる。だが、浩之の顔を、様子を見るようにちらっ、と見ると、急速に笑いが引いて俯いてしまった。
「……あー、また黙り込んじゃった。浩之の所為だかんね〜〜」
「なんでそーなる?」
「だって〜〜…………ねぇ?」
膨れる浩之に、苦笑いする壬早樹は、ちらっ、と都把沙を見た。
すると都把沙は一層顔を赤くして頭を横に振ると、壬早樹は、にぃ、と意地悪そうな笑みを浮かべた。まるで何かを訊くような仕草なのだが、それが一体何の符丁を指しているのか、まだ知りあって間もない浩之たちには知る由もない。
「ま、いっかぁ。――なら、さぁ」
言うと、壬早樹は壬早樹の隣の席に戻り、姿勢を正した。
「……こうやって、ボクが大人しく猫被ったら、区別付く?」
「それは…………」
言われてみて、浩之は確かに壬早樹と都把沙の区別が付かなくなっているコトに気付いた。
「……あんたら、本当に二卵性だよな?」
「まるで一卵性の姉妹ね」
あかりも、区別が付かなくなっているコトに、戸惑い気味に感心した。
「そーゆう時は、一人称で区別するのよ」
「あー、志保、ボクがそれ言おうと思ったのに!」
「一人称が、ボク、なのが壬早樹」
「……私は、私です」
顔を赤くして俯いている都把沙が、恥ずかしげに小声で答えた。
「成る程。壬早樹がボクで、都把沙ちゃんが私、か」
「まぁ、あんまし役に立たない見分け方だけどね。――ヒロの言うとおり、いつも騒がしいし」
「どぉのぉ口ぃがぁゆぅうかぁ、しぃぃほぉぉぉぉ〜〜」
「ほぉざぁけぇ、みぃぃぃさぁぁぁきぃぃぃぃ〜〜」
今度は志保と壬早樹が頬の引っ張り合いを始めた。浩之とあかりはそれを呆れて見て苦笑するが、不意に浩之の注意が、大人しくしている都把沙の方に移った。
都把沙は先程から時折、浩之のほうを伺い見ていたのだ。しかしすぐに俯いたりして、まるで周りに気付かれないようにしているようであった。
それが却って浩之の注意を惹き付ける結果になってしまったコトに、無論、都把沙は気付いていない。だから、浩之と視線があった途端、都把沙はビクッ、と驚いて竦んでしまった。まるで怯えている子猫のようである。浩之はその様子をとても不思議がったが、人見知りでもあるのかな、とぐらいにしかとらなかった。
浩之の関心は直ぐに、バカをやっている志保と壬早樹の方に移った。二人ともまだ頬の引っ張り合いを笑いながらしていた。仲の良い女子高生同士のじゃれ合いにしか見えないのだが、片方はやはり――
「……ところで、一つ質問、いい?」
「ふぁい?」
「……その、…………本当に……男?」
「?」
志保との頬の引っ張り合いを止めてきょとんとする壬早樹に、浩之は妙に口ごもり、やがて覚悟を決めたように、
「…………なんで、女子生徒用の制服を着てんの?」
「だって、似合わないし〜〜」
屈託なく言う壬早樹に、浩之は思わず納得しかけた。
「……いや、ビジュアル的には文句無いのだが…………その…………学校側とか……家とか……」
「その点なら問題ないわね」
志保が答えた。
「医師の診断の元に、学校合意の上だから。――聞いたコトない?『性同一性障害』ってヤツ」
「…………?」
「ジェンダーの不一致ってヤツだっけ?」
「あかり、知っているのか?」
「昨日、NHKの特集でやってたよ。ジェンダーつまり性別の自己認識と、肉体の性別が一致しない人の障害をそう言うんだよ。確かに趣味で女装する男性とかいるけどさ、精神的な面や遺伝子上の問題から、本来備えるべきであった性で生まれて来れなかった人を、単純にオカマさんとかで括れないケースが医学的に確認されるようになったんだって」
「……てコトは、壬早樹くんは本来、女として生まれてくるハズだった、ってコト?」
「問題はそこなのよ。――色々と」
「色々と?」
溜息を吐くように言う志保に、浩之は眉を少しひそめる。
「見掛け、まるっきり女のコしてるでしょ?言葉や態度もまるっきり女のコしているから、コレを男と思えないのよね〜〜」
「コレ呼ばわりは無いでしょ。――ねぇねぇ」
と、壬早樹はあかりを手招く。そして、自分の胸元を指してみせた。
「壬早樹――」
志保はそれを見て驚いた。
「それマズイって。ヒロがいるし――」
「志保の友達なんでしょ?」
屈託のない笑顔が志保に向けられた。戸惑う志保が毒気を抜かれると、それは今度は浩之に向けられた。
「……それに、二人とも口の軽い人じゃないんでしょ?」
「……でも、クラスの男子にだって教えていないんでしょ?」
「いーの〜〜♪神岸さん、いいから」
と、もう一度あかりを手招いて、自分の胸を触るように言った。
あかりは何か警戒し、隣にいる浩之の顔を伺う。
浩之は壬早樹の顔を戸惑いげに見つめていたが、あかりに訊かれているコトに気付くと、少し俯き、やがて何も言わず頷いた。
浩之が頷いたコトで、あかりは恐る恐る壬早樹の胸元に触れた。
――次の瞬間、あかりの顔が引きつった。
「……あったか」
「何、浩之、驚かないのね?」
「……朝、ぶつかった時、感触が……あ」
「……浩之のエッチ」
唖然としたまま席に戻ったあかりの向こう側で、壬早樹が恥ずかしげにしなを作って言った。その仕草はどう見ても男ではない。
「――つーか、なんであ――……るだよ?」
意地悪そうに言う壬早樹に怒鳴ろうとした浩之だったが、周囲の存在を思い出すと慌てて口を閉ざし、改めて小声で訊いた。
「……壬早樹ちゃんのは、生まれつきあるんです」
「生まれつき?」
「ヒロ――いい?」
志保が、浩之を睨むように訊いた。
「……壬早樹はあんたを買いかぶっているけど、――いや、あたしだってあんたなら大丈夫だとは信じるけどさ、…………これから話すコト、秘密に出来る?」
珍しい、志保の真顔であった。
浩之は不思議がったが、志保と壬早樹のやりとりをみていて、そして不思議なくらい初対面の相手を不快にさせない壬早樹の人となりを鑑みた。
果たして、うん、と軽く頷いたが、自信はあった。
「そう。――都把沙が話す?」
「……うん。私が説明します。壬早樹ちゃんは――」
「いやー、ボク、先天性染色体異常が原因の、男性仮性半陰陽なんだってさ。精巣性女性化症候群とかゆうんだけどさぁ、タマはあるんだけど、卵巣だったモノの名残もあるらしくてさぁ〜〜、早い話、ふたなりってヤツ〜〜?」
割って入ってきた壬早樹が笑顔で、素で聞いたらトンでもない内容である身の上を陽気に言った。このあまりの能天気ぶりに、浩之たちは暫し呆気にとられた。
「お陰でおちんちんはちっちゃくて変なカタチしているし、おっぱいまであるし〜〜」
「…………あたしより……あった…………」
気が付くと、あかりがすっかり落ち込んでいた。恐らく神岸あかりのこれまでの人生の中で最大のショックだったのであろう。
「……壬早樹。あんた、自分がどーいう立場か本気で判ってる?」
「いーじゃん、いーじゃん。あるモンは仕方ないし〜〜」
「こいつは…………ああ、もうっ!そう言うわけだから、ヒロ、こいつはそう言う複雑な事情を抱えているヤツだから――睨むかあんたわ」
浩之は志保を睨んでいた。
とはいえ、そこには怒りなど微塵も感じなかった。真摯さを突き詰めるとこんな顔になるのだろう。志保はそれをみて、浩之の答えというか、姿勢が判ったらしく、どこか嬉しそうに口元を緩めた。
そんな志保の様子を、壬早樹と、そして黙って俯いていた都把沙が横目で見ていた。そして二人して申し合わせたように、あるいは双子特有の意志の疎通であろう、同時に浩之のほうを見た。浩之はそんな二人の様子には全く気付いていなかった。
「……まぁ、そうゆうワケだから」
志保は溜息混じりに言い、
「もう見てくれも精神(なかみ)も、女の子女の子しててさ。コレを男扱いするほうがアレだしねー、――ま、悪いヤツじゃないし」
「ふっふっふっ、志保、それは甘い。――実はボクは根っからの女好きなのだ〜〜♪」
そう言って壬早樹は立ち上がり、志保に抱きついた。
「こ、こらっ!?」
「ぬふー、女の子はやっぱふわふわしてて気持ち良〜〜ぃ♪」
「……ああ、羨まげふんげふんイケナイ世界が俺の目の前に広がっている」
「浩之ちゃん、呆れていないで止めてよ……(汗)」
「そ、そうよっ!――コラ、このバカ、そんなトコ触るなっ!」
「だって〜〜志保の身体って、ふわふわしてて気持ち良〜〜ぃんだもん〜〜♪」
「……壬早樹ちゃん、いい加減……みんな呆れているよ」
「浩之ちゃん……!」
「いやぁ、志保が困っている姿なんて滅多に見られるモンじゃないし」
「おのれ藤田浩之ぃぃぃぃ〜〜覚えてろぉ〜〜、アン(はぁと)」
「…………あんなトコ触ってる(汗)」
「……浩之ちゃん」
「――――はい(汗)。了解しました」
かつて矢島にあかりを紹介してしまった時にも見た、あかりの無言のじと目に浩之は頃合いを悟り、ふざけて乳繰り合っている壬早樹と志保に割って入った。
その時だった。偶然、浩之の手が壬早樹の胸に触れてしまった。二人を押し分けようとしていた為に、結果的に鷲掴みになってしまったのである。
浩之は、仕舞った、と迂闊さに驚いた。
だが、咄嗟に悲鳴を上げたのは、壬早樹ではなかった。
「……都把沙ちゃん、どうしたの?」
「……あ、…………ごめんなさい」
都把沙は胸元を恥ずかしそうに押さえて涙目になっていたが、端と我に返ると、辺りをキョロキョロと見回すと、あかりたちを驚かせてしまったコトを詫びて、また俯いて黙り込んでしまった。
「……都把沙ちゃん?」
「浩之……いい」
「?」
都把沙に気を取られていた浩之に、壬早樹のどこか籠もった声が浴びせられた。驚いて壬早樹のほうに振り向くと、顔を真っ赤にした壬早樹が、まだ鷲掴みにしたままの浩之の手を指していた。
「……離して」
「あ――つい」
「つい、とはどうゆう意味だ〜〜っ!」
ぱこーん、とまたもやどこから取り出したのか、壬早樹のハリセンチョップが浩之の顔面にクリーンヒットした。またこんなオチである(笑)。
つづく