東鳩王マルマイマー 最終章〈FINAL〉・序章(その1) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:2月2日(金)00時29分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)

「ブロゥクン・テリオスっ!」

 大気を捲き、抉る轟音が、振り上げられたマルメイマーの右腕から拡がっていく。拳の先で大きく弧を描き、その勢いを利用して発射されたマルメイマーの必殺ブローは、彼女の爪先に見える巨大なオゾムパルスブースターめがけて放たれた。
 今回の敵は、東京ビックサイトの施設と同化した暴走コンパニオンロボットであった。
 一時間前にMMM長官である来栖川綾香に、EI−27と認定、呼称されたそれは、東京ビックサイトと訊いてほとんどの者が想起するであろう、水平方向から見ると下方を指す矢印に見える奇異な形状をする会議室棟を巨大要塞に変えていた。中には400人もの人間が取り込まれたままである。
 マルメイマーの狙いは、霧風丸のアナライズシステムによって検出された高エネルギー放出部であった。そこに、核である暴走コンパニオンロボットがいると思われていた。
 EI−27は、黙ってその攻撃を受けるつもりはなかった。大きく身じろぎ、外殻を展開させる姿は、世界最大の花で知られるラフレシアに良く似ていた。ラフレシアは動くコトは決してないが、コンクリートとアスファルト、そして鉄で構成されるこの怪物花は、造り出した花弁でマルメイマーのブロゥクンテリオスを受け止めて見せた。

「小賢しいっ!」

 地上でマルメイマーの支援を続けていた真超龍姫は、仰ぎ見る異形を睨むと、両腕を大きく広げた。
 そして龍の顔を象っている右腕を差し向け、その口から溢れ出る高エネルギーを周囲に零れさせていた。

「食らえッ!スーパーノヴァ・ブレスっ!」

 それは、真超龍姫に新たに備わった、彼女の必殺技であった。左腕のドラゴンテイルに内蔵されている、小型ミラーコーティングシステムを利用したエネルギー吸収機関によって、受けた攻撃をエネルギー変換し、それを攻撃用エネルギーとして右腕に装備されている龍の口から放射するのである。その破壊力は、撃獣姫の最大攻撃技である荷電粒子砲、風虎牙(フォン・フー・ガォ)に匹敵する事実は、ブロゥクンテリオスを受け止めて見せたEI−27の外殻を苦もなく貫いてみせたコトからも判るだろう。
 そしてこの破壊力は、従来の超龍姫のスペックでは到底制御出来ないものである。それを可能としたのは、偏に柏木梓との電脳連結による、デュアル・シンメトリーシステムによる制御のお陰であった。浩之とマルチが使用している電脳連結システムは、メイドロボットの処理能力を向上させるコトは既に多くの実戦にて証明されていた。元は柏木初音という鬼神の末裔との連結を想定して作られたシステムであり、彼女の姉である梓と超龍姫との連結自体は問題はなかった。問題どころか、梓はEI−01戦で死亡して以来、その魂をアルトの中に眠らせていたコトもあり、レフィ、そしてアズエルの魂が収まっているアルトとの精神融合は、処理能力等、あらゆる面で計算以上の効果を上げていた。
 パワーアップしたのはマルチや超龍姫ばかりではない。

「――大回転大魔弾っ!」

 霧風丸は身体を高速回転させて自身をドリル化し、真超龍姫の反対側からEI−27の胴体を撃ち抜いて見せた。霧風丸の必殺技である「クサナギブレード二刀流回転剣舞・百花繚乱」を更に強化し、高速回転で相手を切り裂くのではなく、穿孔する新必殺技である。霧風丸は従来、大量にエネルギーを消費するコトから長時間戦闘は不可能であったが、霧風丸の装甲を構成する狼王と翼丸に、撃獣姫の雷虎に内蔵されているWAサーキットが組み込まれたコトで、エネルギーを無駄なく効率的に使用出来るようになり、更に、今までTH参式とのAI連動を妨げる為に断念せざるを得なかった高エネルギー制御回路が新たに組み込まれ、長時間戦闘を可能にしたのである。TH参式の損失はMMMにとって痛手であったが、霧風丸にしてみれば全てが悪いコトばかりではなかった。
 そして、そんな霧風丸のサポートを、梓同様に、電脳連結によって行っている柏木楓の存在も忘れるわけには行かない。TH参式との連動回線を失った霧風丸を、梓同様復活した楓がその代わりを果たしているのである。それによって霧風丸の戦闘能力は、TH参式との連動時以上の処理速度を得てパワーアップしていたのである。

「うなれ疾風!とどろけ雷光!――風虎牙!!」

 無論、撃獣姫も負けじと必殺技を放つ。EI−27の足元を狙った攻撃は、見事EI−27をその場に崩して動きを封じて見せた。

『今だ、マルチ!ゴルディオンナックルで一気に決めろっ!』

 メインオーダールームのTHコネクターに居る浩之が、電脳回線からマルチに指示を送った。

「しかし、ヤツの中には大勢の人間が閉じ込められているわ」

 その直ぐ横に並んで、マルメイマーの管制サポートを行っているオペレーターのあかりが難しそうな顔で言った。

「ナックルでコアと一緒にエネルギー炉もえぐり取らないと大変なコトになるわ。注意して、浩之ちゃん、マルチちゃん」

『判っている』
「はい!」

「よし!」

 ここぞとばかり、長官席にいる綾香が頷いてみせた。

「ゴルディオンナックルシステム、発動承認っ!」

 綾香が承認キーをスロットに差し込むのを確認して、あかりも懐から取り出した解除信号発信用プリズムカードを引き抜いた。

「了解!ゴルディオンナックルシステム――」

 その時だった。突然、あかりは目眩を覚え、凄まじい脱力感に見舞われた。

『……あかり、どうした?』

 あかりの異変に気付いたのは、THコネクターの内部に表示されているモニタウィンドゥにその姿を認めた浩之であった。

「……う、うん!」

 訊かれて、一瞬気を失いかけていたあかりはその声に、はっ、と我を取り戻す。途端に、目眩や脱力感も失われていた。

「……疲れかしら?――何でもないよ、セーフティプログラム、リリーブ!!」

 気を取り直したあかりは、正面のコンソールにあるカードリーダースロットにプリズムカードを差し込み、一気に引き下ろす。カードの解除キー信号を読んだオペレーションプログラムは、瞬時にゴルディアームにセーフティプログラムの解除信号を受信した。

「よっしゃあっ!システム、チェェェェンヂッ!」

 一気に上昇を始めるゴルディアームは、変型して巨大な拳となり、右腕をステルスマルーIIIの主翼部に仕舞ったマルメイマーとドッキングを果たした。そして高速回転を始めると、霧風丸が検出した高エネルギー部であるEI−27の頭部めがけて降下突進した。

「『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!ナックル、ヘルっ!」』

 黄金の拳骨がEI−27の頭部を殴打し、火花と閃光を全方向に散らせた。そしてゴルディオンナックルがもたらす空間歪曲効果によって、EI−27の外殻を抉り、核部である暴走コンパニアンロボを剥き出しにさせた。

「『――――コア確認っ!ナックル、ヘヴンっ!!」』

 マルメイマーは回転を止めたゴルディオンナックルを広げ、巨大な掌で暴走コンパニオンロボを掴んだ。

「コアの後ろにエネルギー炉があります!冷暖房設備のボイラー器が変化したものです、それも引き抜いて下さいっ!」
「はいっ!」

 霧風丸の指示を受け、マルメイマーはコアを押し込んだ。そしてその奥に感知された高熱体も一緒に掴んで見せた。コアである暴走コンパニオンロボは、高熱を発するエネルギー炉によって融解してしまうと思うだろうが、そのボディを構成する物質の分子が、THライドの暴走で生じている量子レベルの位相現象によってナノレベルの断層を起こし、熱が伝わりにくくなって居るため、溶解する心配はない。

「『――――それっ!!」』

 マルメイマーは掴んだコアとエネルギー炉を一気に引き抜いた。そして、コアであるコンパニオンロボとエネルギー炉を指先で切り離すと、エネルギー炉のみを上空へ放り投げた。

「『――あとは頼みます、芹香さんっ!」』

 マルメイマーは、ゴルディオンナックルで暴走するコンパニオンロボのTHライドを静めてるコトにして、爆発する恐れがあるエネルギー炉は、最後の勇者ロボに任せるコトにした。
 それは、芹香を艦長とする、MMM最大の武装、キングヨークであった。キングヨークはマルメイマーたちの闘いを後方支援で見守っていた。巨大すぎる武装は、あくまでも対エクストラヨーク用であった。

「――目標確認」

 キングヨークの主任管制官である姫川琴音が、キングヨークの索敵用モニタにマルメイマーが放り投げたエネルギー炉を捉えた。

「反中間子砲で無力化します!葵、良い?」
「ええ!反中間子砲砲頭、開放!!」

 操艦士である松原葵が、キングヨークの胸部を開き、砲門を露わにする。照準は琴音が既に固定してあり、最後に、キングヨークの艦橋に搭載されているTHコネクターにいる芹香が、相変わらずのか細い声で、発射、と言うと、キングヨークの胸部より、轟音と共に発射された中間子の反物質弾は、臨界点に達していたエネルギー炉に命中した。
 すると、エネルギー炉を構成する全ての分子に含まれる中間子を対消滅させ、爆発エネルギーごと一気に破壊してしまった。結果、有明上空に一時的に極めて小規模の恒星が発生し、EI−27の上面を僅かに焦がしてみせた。マルメイマーはプロテクトシェイドによってその熱エネルギーを免れていた。更なる被害を想定していた真超龍姫がイレイザーヘッドの準備もしていたが、それを使用するまでもなく、恒星は2秒も維持できずそのエネルギーを一気に喪失して消滅した。

「――敵エネルギー炉の消滅と、暴走コンパニオンロボのTHライドの沈静化を確認。EI−27、鎮圧完了」

 レミィの報告に、あかりと綾香は同時に、ほっ、と胸をなで下ろした。メインオーダールームのメインスクリーンに映る、戦場となった有明臨海副都心は、マルメイマーたちの活躍で被害は、ビックサイトを象徴する会議棟をEI−27との融合で全損と、TRCビルやゆりかもめの高架線路の一部など、周囲200メートルの建造物が破壊されたに留まった。

「…………あらあらあら。夏までには復旧出来るのかしら?」

 と不安げに言ったのは、昨年秋から、組織再編によってTH弐式の主任管制官へ配置換えとなった宮内レミィの後任として着任した牧村南研究部主任管制官であった。

「これじゃあ、大庭さんも猪名川さんも困ってしまうわねぇ……まぁあのコたち、来年卒業だし、卒論や就職活動に専念するのに丁度良いかも知れないわね。わたしもタマにはお盆はゆっくりとしたいし……」
「?どうかしたの、牧村さん?」
「あ、いえ、何でもないです……さあさあ、被害状況をまとめないと」

 不思議がる綾香に、南は少し顔を赤らめて惚けて見せた。キングヨークの主任管制官である琴音の大学の先輩で、国連の海洋工学研究所に勤めていた南は、工学博士の称号を持つ才女で海洋開発技術の第一人者である。半年前、MMMが国連の一機関として日本政府から移管された際、国連機関からも多くの技術者が出向してきたのだが、南は琴音の推薦でMMMに登用された。海洋牧場の開拓技術を研究していた南は、潜水艇や海底作業重機の構造や操舵技術に精通してるのだが、それ以上に、情報処理管制能力に長けた人物でもあった。
 それを証明したのが、約一年前に起きたEI−06、EI−07との東京湾上戦である。海上自衛隊の護衛艦と融合したEI−07の76ミリ砲で下半身を破壊され、海中に沈んでいくマルマイマーの回収に、琴音が持ち出した、大学で開発していた海中機動作業艇の管制を引き受け、大砲が行き交う嵐の中をその長けた情報処理能力によって無事に果たしたコトが評価されたのだ。その才能は、かつてペンタゴンから指揮能力を評価された保科智子をして、軍人になったら素晴らしい指揮官になるであろう、と言わしめたほどである。もっとも当の本人は、

「ただ、当たり前のことを、当たり前のようにやっているだけなのに、そんなに凄いのですか?」

 と、自身の才能をまったく評価していない。時代が時代なら、歴史に残る軍師か指揮官になっていたかもしれない彼女は、そう訊かれるたびに眼鏡の下にある日向のような笑顔で不思議がり、周囲を和ませていた。その笑顔だけでも、西海岸の太陽のような笑顔を持つレミィの後任に全くもって適任の人物といえるだろう。余録だが、その才能が発揮された問題の事件で、琴音と南は、後にMMMの強力な味方となる、特殊能力を持った“存在”と関わるコトとなるのだが、それはまた別の話である。

「……さて」

 綾香は、気の抜けたような顔で長官席の机に頬杖を突き、ふぅ、と溜息を吐いた。

「……今回も、エクストラヨークは出刃って来なかったわね」
『ああ』

 浩之が応えた。

『……TH参式を喪失後、一気に〈鬼界昇華〉を仕掛けてくると思ったが、何故かオゾムパルスブースターを焚き付けて来るばかり。コレで通算、27体目。月に2体の割合で出現している計算になるな』
「そうだね。なんで仕掛けてこないんだろう?」

 あかりが不思議そうに首を傾げて見せた。

「まぁ、何ンせよ、被害が少ないに越したコトはないわね。幸い、参式の穴はTH五号のフィルスノーンがサテライトシステムの管理を引き受けてくれているから、オゾムパルスブースターが出現しても15分以内に現場へ到着出来るし」
「TH四号に新たに搭載した新型機関、レプトントラベラーエンジンのお陰ですね」
「ええ…………」

 南が参式のポジションに収まった高速巡航空艇TH四号のコトを言うと、急に綾香は暗い顔をして溜息くように答えた。まるでその話題が綾香には疎ましいようであった。
 それは半分正解であった。件のレプトントラベラーエンジンは、長瀬主査ら研究部の面々がかねてより開発していた、正式名称は極輝最導推進機関とよばれるウルテクエンジンである。しかしこれはまだ完成形とは言えない試作機で、想定されている出力の20パーセントも出ていない、現在も運用試験中であるのだが、それでも最大巡航速度は光速の42パーセントもある。
 だがこれを実用段階までにしたのは、あの鷹橋龍二であった。自衛隊から出向してきたこの幕僚は、長瀬たちが苦労してきた出力の問題をいとも簡単にクリアし、実戦投入のレベルにまで引き上げさせた張本人であった。物理学、機械工学で博士号を持っていた鷹橋の参画を研究部の面々はこの件で心から喜んだのだが、一人だけ、芳しくない表情をする人物がいた。
 それが、長瀬主査であった。綾香は、彼から、鷹橋には注意したまえ、と警告されていたのだ。
 はじめはその理由が判らなかった綾香だったが、先日、昨年暮れから体調を崩し、自宅の自室で床に伏せている母親、来栖川京香に呼び出されて告げられたある事実を知って、全てを理解したのだ。
 鷹橋龍二は、あのリズエルの父、ダリエリの転生した存在であるというのだ。

「――そんな?じゃあ、浩之は――」

 京香から告げられたその話に、綾香は戸惑った。

「……ダリエリは何かを考えているようですが、人類に害をもたらすものとは思っていません。むしろ彼は、人類原種の暴走を憂い、その為に行動していると思います」

 ベッドに横たわりながら、戸惑う娘を見つめる京香は、ふっ、と微笑んでみせた。最近は体調が少し回復してきたらしく、倒れた頃と比べてだいぶ顔色は良くなってきたが、それでも残る病的な青白さは、見守る者に不安感を与えてしまっていた。

「でも…………」
「もしもの時は、浩之さんとマルチがいます」
「……お母様」

 綾香は、その名を母が口にする度、やりきれない気持ちになっていた。

「…………本当に…………浩之に、本当のコトを話さなくっていいの?」

 何を押さえきれないような不安な顔で綾香が訊くが、京香はゆっくりと首を横に振った。

「…………知らなくて良いコトもあるんです」

 いつもと同じ答え。綾香はやはり、今日も何も言えなかった。
 まもなく京香の自室を辞した綾香は、廊下で姉の芹香と出くわした。

「……姉さん」
「…………」

 辛そうな声で言う綾香に、芹香は、こくん、と頷いた。この部屋からこんな顔をして出てくる綾香の気持ちを、彼女はもう何度見掛けたことだろうか。
 作られた姉。〈門の守護者〉として永劫に生き続けている母のマトリクスを受け継いでいるクローン的合成人間。それ故に感情がどこか欠けてしまった哀れな存在。
 しかし綾香には、それらの事実を補ってもなお余りある、常に自分のことを気遣ってくれる、掛け替えのない姉には変わりなかった。
 だから、綾香は力なく微笑み応える。心配をかけたくない一心だった。

「……姉さん」

 もう一度、綾香はその名を口にした。しかし今度は張りがあった。

「……会長職との兼業、辛くない?…………無理にMMMの仕事はしなくて良いのよ」

 しかし芹香は首を横に振った。

「でも…………柳川さんが、姉さんが出場するのをあまり快く思っていないし…………」

 柳川の名を持ち出され、芹香は少し困った顔をした。もっとも、その変化さえ、普通の人間には見分けることが出来ないくらい微妙なものであった。それが出来るのは、来栖川の人間でない者では、芹香を幼い頃から面倒を見てきたセバス長瀬と柳川、そして浩之だけである。

(そう、浩之――)

 綾香は心の中で咀嚼するようにその名を口にした。

     その2へつづく