【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】
「おーい、綾香ぁ」
不意に、浩之の呼ぶ声が聞こえ、綾香は、はっ、と驚いた。THコネクターから出てきた浩之が、いつの間にか長官席にまで寄って自分の顔をのぞき込んでいるコトに気付き、思いに耽って気付いていなかったコトを理解した。
「な、なに、浩之…………?」
「何、驚いてるんだよ」
「い、いや、ちょっと今夜のオカズのことを……あわわ」
綾香は慌てて誤魔化すが、大財閥のお嬢様らしからぬ訳の分からぬ言い訳をして浩之を戸惑わせた。
「……夕飯のコト、って」
「ゆ、夕飯……そ、そう、タ、タマには、外食も良いかなぁ、って思ったのよっ!――浩之もつき合う?」
「……悪いが先約があるんだ。今日はそれで早く、あかりとフケたいんだが」
「あかり?」
「今日、な」
そう言うと、浩之は、オペレータ席で事後処理を続けているあかりを目で見やった。
すると、綾香は、ああ、とあるコトを思い出した。
「今日だったわね。――あかりの誕生日」
今日は、2月20日。神岸あかりの誕生日であった。
「こんな、ゴタゴタがなけりゃ、みんなで祝ってあげられたのにねぇ……あれ?」
綾香が済まなそうな顔であかりの背を見つめていた時だった。TH弐式と接続されているスピーカーから、聞き覚えのあるメロディが流れてきた。
「……ハッピーバースディ?」
『Hay、アカリ!HappyBirthday!』
そのメロディに合わせるように、レミィの歌声がスピーカーから零れてきた。続いて、追うように智子の声も聞こえてきた。
「……ハッピ、バースデー、トゥーユー」
それに気付いたマルメイマーも、回収し、心が備わったコンパニオンロボのきょとんとする顔に見つめられながら唄い始めた。続いて、会議棟に閉じ込められていた人々を救出していた真超龍姫たちも声を揃えて唄い出す。やがて、事情は判らないが、何となく嬉しくなったコンパニオンロボも、どこで憶えたのか、あるいはマルメイマーたちの唄に合わせて何とか出来るのか、ハッピーバースディの唄を唄い出した。
会議棟からようやく脱出できた人たちは、そんな、自分たちを救ってくれたロボットたちが、まるで歌姫のように見えてならなかった。中には、彼女たちに合わせて何となく口ずさみ、終いには安堵感が高揚感を増して一緒に唄い出す者達も現れた。
つい数分前まで凄まじい戦闘が繰り広げられていた有明に、呑気すぎる歌声が拡がっていった。それが、必ずではないが、結果的に一人の女性に向けられている唄となった。問題の当人は、余りのことにぽかんとしたままであった。だが、零れ出した嬉し涙は、それを見ていた者達に、先ほどまで心の中にあった殺伐とした気持ちを一気に霧散させる、そんな暖かみがあった。
「そう言うことなら、あかり、あとはあたしが代わりにやるわ」
綾香に言われ、あかりは涙を拭いながら、えっ、と振り向いた。
「浩之とゆっくりしてらっしゃいな。――何なら二人とも、明日は休みにしても良いわよ?」
「お、おい」
綾香のいやらしそうな笑顔に、浩之は少し戸惑った。
「いーじゃないの」
そう言って綾香は笑う。そんな笑顔を、ここしばらく浩之はよく見掛けていた。以前からお嬢様らしからぬ気さくさが浩之の綾香に対する好感度を高めていたが、こんな笑顔は、好意的なだけでは説明しきれないものがあった。
昔から綾香が浩之に好意を抱いていたコトは、浩之も知っていた。しかし綾香と知り合った頃には既に自分にはあかりがいた。
もし、あかりがいなかったらどうなっていただろうか。――ところが浩之は、そんなコトは考えたコトもなかった。
あかりがいつもそばに居る。それは浩之にとって生まれついた頃からの日常であり、あかりの居ない日常こそが非現実的なものに思えてならないのだった。
そのあかりは、先ほどまでの浩之との営みで疲れ果て、浩之の隣でぐっすりと眠っていた。
……あかり。今日、お前疲れていないか?――だってほら、EI−27戦でさぁ。……疲れているなら別に…………いや、そうじゃなくって…………
「……浩之ちゃん?」
夜、あかりの誕生祝いに予約を取っていた品川ホテルパシフィックのレストランで食事した時のコトを思い出していた浩之は、不意に、同じベッドの隣で寝ているハズのあかりに呼ばれて我に返った。
「な、何?」
「…………何、考えていたか当てようか?」
「別に、考えてなんか……」
「――綾香のコト」
浩之は、びくっ、とした。
「べべべ――別に俺は浮気なんかっ!」
「あー、あやしい」
あかりは目を細めて浩之を冷ややかに睨んだ。
「お、おい」
「…………くすっ」
そんな浩之が困っている顔を見て、あかりは、にこり、と笑った。
「……お前ぇ」
「判っているよ。浩之ちゃん、綾香と仲良いけど、――偶に、あたしよりお似合いかな、って思うコトもあったけど」
「おい……」
どこか寂しげな顔をしたあかりに、浩之は戸惑った。
「――でも、そういうお似合いじゃないんだよねぇ」
「……?」
「何となく、ねぇ。――何となくだけど、――んー、何て言ったらいいかなぁ………………」
「何だよ、もったいぶって」
「――そうじゃなくって、適切な言葉が思い当たらなくって――うん。そうだ、――浩之ちゃんと綾香、って似ていると思うの」
「似ている?綾香と?」
「……何かいやそうな顔するのね(汗)」
「俺、綾香みたいに喧嘩強かぁないぞ」
「そうじゃないって――浩之ちゃんも綾香も、ほら、何でもこなしちゃうじゃない?」
「何でも、って……」
「天才肌っていうやつかな?ほら、高校の時もエクストリーム大会初出場でベスト8入りしちゃったじゃない?」
「あれは、葵ちゃんという優秀な先生がいたからだよ」
「そーかなぁ?浩之ちゃん、昔から、コツを掴んだらもの凄い勢いで取得しちゃうじゃない?大学だって、20歳で飛び級で大学院入りしちゃったじゃない。あれは異例中の異例だって、大学の先生たちみんな驚いたんだよ」
「そんなもんかねぇ……」
「綾香だってそうなのよ。MIT在学中は首席を譲らなかったって智子が――」
「もう綾香のコトはイイって」
浩之は肩を竦めて見せた。
「それに、そんなコトを考えていたんじゃねぇよ」
「?」
不思議そうに首を傾げるあかりは、憮然とする浩之の顔を寝そべった姿勢で見上げた。
暫しの沈黙。浩之がどう言うか迷っているようだった。
やがて、浩之は口を開いた。まるで観念したかのように、しかしどこか嬉しそうな笑顔で。
「…………結婚するか」
あかりは、えっ、と言って驚いたつもりだったが、それは声にもならなかった。
「……ほら、観月さんトコもこの間お目出度だってゆってたろ?……」
それは先週、観月主任の奥さんが妊娠したという話であった。笑えるコトに、妻の沙織がそのコトに気付いたのはなんと妊娠5ヶ月目。計算から、二人が初めて結ばれたあの夜の子供らしいが、つわりさえ、何となく気分が悪かったような、と感じたくらいで、ようやく腹が出てきた辺りから受胎に気付いたというのである。事実、妊娠したからと言って直ぐにお腹が大きくなるとは限らず、観月夫妻のように半年近く経ってようやく判るというケースもあるのだ。
「…………俺は、ゆっくりとした、平穏な家庭で俺を待ってくれるあかりが見たいんだ」
見る見るうちに顔を赤らめるあかり。お互い、身体の隅々まで知り尽くしている関係だというのに、あかりは掛けていた毛布を鼻の辺りまで引き上げて恥ずかしそうに隠れた。
「……あかり、前々から思っていたんだけど、もうMMM辞めろ。多分、もうじき決着が着く。――着けてやる。マルチたちも頑張ってくれてるから。そうしたら、俺、貯金全部使って、みんな呼んで盛大に結婚式やろう。それから、武装解除したマルチと一緒に家事やってくれてさ。…………幸せにしたいんだ」
淡々と、しかし正直な想いが浩之の口から零れ出てきた。それはあかりにも充分判っていた。
暫しの躊躇いの後、あかりは毛布に隠れたままで、こくん、と頷いた。頷いた時、目に溜められていた嬉し涙が溢れ出て、紅潮する頬をゆっくりと伝い落ちていった。
「…………ありがと、な」
浩之は、自分でも照れくさい告白を黙って聞いてくれたあかりがとても愛おしかった。だから、少し力任せに毛布をまくり上げ、生まれたままの姿のあかりの身体を見ずにはいられなかった。
「ひ、浩之ちゃん!」
「俺たちも子供、作ろか」
惚けた口調は、浩之の照れであった。
あかりは、恥ずかしげに頷いた。
丁度その頃、マルチは渋谷にある、柏木梓と楓が住むマンションにいた。今夜は浩之たちは帰ってこないであろうと予想した梓が、マルチをお泊まりで招待したのである。
「……まったく、あんたって娘は、似ないでいいっていうか似ちゃ人としてマズイところを似ちゃってるんだからぁ」
と、真っ黒焦げになったフライパンを見て梓が呆れた。今夜、梓はマルチに柏木家の家庭の味をマルチに教えるつもりで呼んだのだが、相変わらずの料理下手に、亡き姉のあの恐るべき料理を思い出してしまった。
「でも、味付けは悪くないよ」
と楓が、マルチが焦がしたモノの、余り焦げ目のないところを食べて言ってみせた。
「は、はいっ!あかりさんにしっかり教えてもらいましたからっ!」
マルチはガッツポーズをとって言った。
「神岸さんか。……うん、家庭的な人だしね。アルトの中に居た時の記憶でもその辺り、良く憶えている」
「アルト?あの巨大な龍?」
「ああ、そうだったわね。楓は知らないのだろうけど、昔はアルトはバイクに変型する小型だったのよ」
「綾香さんたちが、バイクのクセに料理が出来るって、アルトに対抗意識を燃やしていましたっけ」
「そんなコトもあったわね。今じゃ流石にあのガタイじゃ家事手伝いなんて無理だろうけど…………」
笑いつつ、梓はマルチの顔をじっ、と見つめながらやがて笑いをやめた。
「梓さん?」
「…………マルチ」
「はい?」
「……訊きたかったんだけど、あんた最近、耕一とは会っていないの?」
訊かれて、マルチは戸惑った。
耕一。――柏木耕一。
柏木梓と楓の従兄。
そして、マルチ――柏木千歳の父親。母親は、梓たちの姉である千鶴であった。
千鶴の魂が失われてから、半年が経った。
あの闘いを今も後悔する楓は、その話題になると昏い表情を隠しきれないで居る。暴走する自分を、千鶴は、肉体を失い魂となったその身で救ってくれたのである。だから、梓もマルチも、千鶴の件は楓の前では口にしない。
しかし、楓は、耕一の話イコール千鶴に直結する頭を持っていた。
だがそれは、いつか必ず楓が乗り越えなければならない過去でもあった。最近の楓は、耕一の名が出ても何とか笑っていられるよう努力しているコトを、周囲の者達は気付いていた。だから、梓は、躊躇わずにその名を口にした。
「……はい」
マルチは済まなそうに頷いた。
それを見た梓は、やれやれ、と肩を竦めた。
「……あの薄情者め。父親失格ね」
「そ、そんなコト言わないで下さいっ!」
「マルチ……」
「お――お父さんは、初音さんを助けたい一心なんです。柳川さんも言ってました。オゾムパルスブースターが出現するたび、戦場に危険を省みず走り回って探しているって……わたしも幾度か見掛けました」
「ああ、あたしもな」
頷く梓の横で黙っているが、楓も霧風丸との電脳連結でその姿を認めていた。
「……何も始終一緒に居ろ、って言っているわけではないのに、まったく」
「別に構いません」
「マルチ……」
梓は、元気に微笑むマルチを見て少し戸惑った。
「あ――いや、別にお父さんのコトを嫌いではありません。ただ、――そう、これも与えられた仕事なンだな、って」
「仕事……」
「はい。――わたしがマルメイマーとして戦うように、お父さんも――自分の宿命にうち勝つ為に必要な仕事ではないかと」
「……初音を助けるコトが?」
「はい!」
マルチは元気良く応えた。まるで誇らしげに――いや、実際にそうなのであろう。
そんな笑顔に、梓は複雑な想いがした。いじらしいという反面、哀れな気がしてならないのだ。
両親が愛し合い、人として生まれ落ちた身体は機械仕掛け。しかも、メイドロボットという人に奉仕する機械人形として、である。挙げ句、人間を身を挺して護る為の鎧を身に纏い、死地に赴く戦士として、今まで生きてきたのだ。優しい――自己犠牲さえも厭わぬ優しすぎるその性格は、母親譲りであり、父親譲りでもあった。
血の繋がりはもはや無い。それでも梓は、マルチを愛おしく感じていた。
「……まったく、そんな頑固さは、耕一と千鶴姉ぇの両方から受け継いじゃったのかしらねぇ」
「それがマルチらしくていいんじゃない?」
珍しく、楓が微笑みながら言ってみせた。
「耕一さんは、マルチのコトを良く判っているから、一人にしても大丈夫と思っているのよ、きっと」
「そうかしら……」
「うん、だって、――千鶴姉さんの娘でもあるのだから」
「……それが心配なのよ」
梓は呆れたふうに言うが、しかし直ぐに苦笑した。
「――だからこそ、千鶴姉ぇの悪い点は直してやんないと。マルチ、柏木家の女として、柏木家代々の家庭の味を今夜はみっちり教えるから、覚悟しなさいねっ!」
「は、はいっ!」
思わず堅くなるマルチを見て、梓と楓は一緒に吹き出した。
同時刻。
洗い晒しのGパンと紫のフリースの上にアーミーコートを羽織った柏木耕一は、有明でのEI−27戦で破壊された残骸の中を歩き回っていた。現在も警察や消防庁が現場検証を続けていたが、耕一はMMMの諜報部に所属する遊撃隊員としての身分を利用し、関係者たちから被害状況を確認しながら、恐らくこの近辺でコンパニオンロボを暴走させたエルクゥ波動を放った鬼界四天王――恐らく耕一の父、ワイズマンこと柏木賢治の足取りを探っていた。
約5時間近く、マルチたちが引き上げてからずうっと捜索を続けていた耕一だったが、結局目撃者もなく、その足取りを掴むコトは叶わなかった。
「……くそっ」
苛立つ耕一は足元の鉄骨を蹴った。鬼神の力で蹴ってしまったために、衝撃波で周囲の瓦礫もまとめて吹き飛ばしてしまった。
「……その様子では手懸かり無しか」
不意に、背後から浴びせられた嫌味混じりの声に、耕一は驚いて振り返った。
背後に見える瓦礫の山の頂に、スーツ姿の柳川裕也が腰を下ろしていた。
「柳川か」
「まるで置き去りにされて拗ねている子供のようだな」
「……うるせぇ」
そう言って耕一は柳川に背を向け、その場から立ち去ろうとする。
「娘をいつまで放っておく気だ?」
訊かれて、耕一は足を止めた。最後に踏んだ足音の大きさは、耕一の動揺を著していた。
その3へつづく