「まじ狩る☆ハンティング Second Stage(4)」 投稿者:ARM(けだもの属性) 投稿日:1月20日(土)21時23分
○この創作小説は『痕』および『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しています。
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【承前】

 結局、梓は部屋の隅で打ちひしがれている柳川を残し、家に戻るコトにした。
 鉛のような重い失望感は、行くあての無いさすらいを与えたかに見えたが、いつの間にか自宅の前に戻っている自分に気付くと、梓は無意識に溜息を吐いた。

「……あれ?うちの中、変に静かね?」

 梓は門をそっと開けて邸内を伺ってみたが、母屋はひっそりとしていた。しかしまだ夜9時を回ったばかりだというのに、灯り一つ無い。不思議がる梓は、恐る恐る中へ入ろうとした。

「あ、梓お姉ちゃん」

 それは紛れもなく妹、初音の声であった。梓は酷く驚くが、“酷く”の要素は、その声が自分の背後から聞こえたからであった。

「――初――って、なんであんたらそこにいるのっ!?」

 振り向いた梓は、自分の背後に自分の姉妹と耕一、そして見覚えのある数名を含んだ大人数をみて戸惑った。

「あんたら――確か江藤さんにスフィーちゃん」
「こんばんわー」

 スフィーは能天気に挨拶した。
 その直ぐ横で、見覚えのない青年と並んで立つ、あの江藤結花が、ぺこり、とお辞儀してみせた。
 江藤結花。姉の千鶴が、本物の柏木梓だと言い張るLeafワールドの新人(ルーキー)。
 今の梓にとって、逢いたくない存在の双璧の一人であった。もう一人は言うまでもなく、その説を主張する実の姉なのだが。

「あらぁ?梓のパチモノさぁん、まだこんなところウロウロしていたワケぇ?我が家はご覧の通り、本物の柏木梓が見つかって、万々歳なんですのよ。さぁ、とっとと東京にいる本当のご家族の元に行かれたらどぉ?」

 ――と梓は、そんな千鶴の嫌味が聞こえたような気がして、たまらず俯いてしまったが、それが幻聴であるコトに直ぐに気付いた。
 千鶴は、予想外にも当惑した顔で梓の顔を黙って見つめていた。

「「……どこ行ってたの?」」

 と梓が訊いた途端、千鶴も全く同じコトを訊き、偶然にも一字一句重なってしまった。その一致ぶりに、梓と千鶴は思わず顔を赤くした。

「……と、東京よ。――それより、梓、あんた今までどこにいたの?」
「そ、それは――」

 訊かれて、梓は柳川の家に転がり込んでいたコトを話しかけ、慌てて噤んだ。下手に話して、行くところまで行きかけたコトを話してしまったら大事である。ましてや、耕一が居る前で――

「……梓ちゃん、顔赤いけど」

 楓が狼狽えている梓を不思議がった。

「べ、別に男の所に居たワケじゃない――あ」
「「男…………?」」

 それを聞き逃さなかった千鶴と耕一の顔に、たちまち当惑の色が広がった。その反応をみて、梓は狼狽えた。

「ななななな――なワケないでしょっ!友達ン家よっ!」
「……日吉さん家には行ってなかったようだけど」
「進んで蜘蛛の巣にハマりに行くバカがどこにおるっ!」


 くしゅんっ!とくしゃみした、蜘蛛呼ばわりされた梓の後輩は、梓の写真からこしらえた抱き枕に抱きついて今宵も妄想に浸っていた。


「――それより、あんたら、そんな団体さんで何してンの?!耕一まで呼びつけて……!」
「そ、それは――」
「お客よねー♪」

 スフィーが呑気に答えた。

「千鶴さんが結花を迎えに来たから、あたしたちもついてきたの。温泉温泉〜♪」
「え……?」

 陽気なスフィーを見て、梓は戸惑った。

「迎えに来たって……」
「うん。結花が梓だってゆってた」
「お、おい、スフィー!そうじゃなくって……!」

 本当は、結花=アズエルが、梓に会いたいと言った為である。どうやらスフィーは人の話を聞いていなかったか、あるいは端折って聞いていた様である。健太郎は思わず仰いだ。

「そう…………なんだ」

 そう言って梓は、がっくり、と項垂れた。

「ほらほらっ(汗)梓さん、勘違いしちゃったじゃないか!――梓さん、今のは――」
「そーなんだっ!やっぱり、あたしのこと、用無しなんだぁぁっっ!うわぁぁぁんっ!!」

 梓は真に受けてショックし、大泣きしながらその場から駆け出してしまった。

「ああっ、梓っ!待ってっ!」

 驚く千鶴が叫んだ。

「了解〜〜」

 それに応えてスフィーが前に出た。

「それっ――まぢかるさんだー!!」

 梓を追うように向けられたスフィーの指先が閃き、夜の帳を水平に稲光が走る。魔法の電撃は一瞬にして逃走する梓を捉えた。

「きゃあああっっ!!」

 電撃を受けた梓、骸骨を露わにする古典的な表現で感電し、道路に突っ伏した。

「スフィー、お前やりすぎ(汗)」
「でも今のが確実だし。ほら、相手は鬼だから、電撃ぐらいじゃ死にはしないでしょ?」
「鬼でも死ぬわ」
「えー?でもこの間、TVに出ていたの虎縞ビキニの鬼娘は平気で電撃放っていたけど」
「ありゃあ漫画だ(苦笑)――あれ?」

 ふと、健太郎は、突っ伏している梓がむっくりと起き上がってこちらのほうを向いていることに気付いた。

「ほら、無事」
「…………無事じゃねぇって」

 健太郎の目は、怒りに燃える梓の顔に釘付けになっていた。

「……怒ってる」
「…………そーか」
「?」

 何を合点したのか、と梓の様子を伺う一同。
 梓は、スフィーのほうを指し、

「その魔女っ娘は、千鶴姉ぇがあたしを抹殺に連れてきた殺し屋ねっ!!」
「おいおい(汗)」
「ふっふーん。バレちゃしかたないわね」

 そう言ってスフィーは腕を持て余し、

「このミラクル魔女っ娘スフィーが居る限り、この世に悪は栄えた試しは無いッ!!」
「ばかもーんっ!事態を好き勝手にこじれさす気かっ!」

 胸を張って言うスフィーの後頭部を、健太郎はどこから取り出したか、巨大なハリセンで叩いた。

「……だって、この間TVでかっこよくやっていたから……いっぺんやってみたかったんだ」
「TVかぶれもいーかげんにしろっ!」

 スフィーの無茶苦茶ぶりに、健太郎は呆れて叱った。

「でも、あっちはその気みたいです……」
「え――」

 と、リアンに言われた健太郎が振り向いた瞬間、放物線を描いて飛んできた梓の、鬼化した右拳が健太郎の直ぐ脇をすり抜け、その拳圧で巨大なクレーターを道路に作った。

「殺られる前に殺ってやるっ!」
「スフィーのバカタレっ〜〜〜〜ぇ!」

 健太郎はその衝撃で吹き飛ばされ、柏木邸の中に落ちていった。梓の狙いだったスフィーと、その隣にいたリアンはすんでの所で飛び退き、結花=アズエルも鬼の力で千鶴たちと共に飛び退いていた。

「このこのこのっ!みぃぃぃぃんなっ、ブチころしてやるぅぅぅぅぅ!!世界はみんな、あたしの敵だぁぁぁぁぁあっっっっっ!!!」
「ああっ、逆上して手が着けられないっ」
「梓さんの固有羞恥周波数って判る、リアン?」
「さ、さぁ(汗)」

 飛び退いたスフィーとリアンが、鬼化してキレている梓を包囲する。

「ちょ、ちょっと!あなたたち……!」
「梓お姉ちゃん、落ちついてっ!」

 千鶴たちは梓を宥めようとするが、逆上している上にスフィーたちを敵と認識している梓には、その声が全く届いていなかった。

「アズサ!落ちついてっ!」

 結花=アズエルが説得を試みるが、鬼化している梓は完全に狩人(ハンター)モードと化している。猫科のような狩猟による捕食を得意とする生物の集中力は凄まじく、一点に集中したまま、その点が移動しても追い続けるコトが出来るという。まさに今の梓は、その状態にあった。ちなみに目標は、スフィーの頭に跳ねている触覚髪であった。

「いてまえっ!!」
「へっへー(笑)まぢかるさんだー、ほーみんぐしょっと!」

 スフィーは両手を上げ、広げた指先の全てから電撃を発した。まるでそれは電撃の網である。
 それを、梓は素手で弾き返した。

「うそっ!」

 無論、生身の腕で通電しないハズがない。しかし鬼化した梓は、それを本能で交わす方法に気付き、実行していた。

「凄い……!電撃の威力を、手刀の高速移動によって生じた真空の断層で封じています!」

 リアンは、梓が振った手刀によって空間断層を造り出したコトに気付いた。無論、それで完全に電撃を封じるコトは出来ないが、破壊力を大きく殺ぐコトは可能である。

「ぬぅおぅりゃあああっっつ!!」

 電撃を手刀によってレジストした梓は、その手刀で今度はスフィーに襲いかかった。

「なんのっ!必殺!まじかるこれだー!」

 スフィーは両腕を振り上げた。そしてなんと、梓の手刀を白刃取りで受け止めて見せたのである。

「何――――?!」
「鬼の怪力を、あんな細腕で!?」
「――――?!」

 千鶴たち以上に、一番驚いていたのは梓だった。何故なら、突き出した手刀が、スフィーの両手の間で、何も触れずに止まったままだったからである。

「これは――――」
「低温超伝導による電磁防壁――そうらっ!」

 スフィーが叫ぶと、梓の手刀を挟んでいる両手から電撃が放たれた。感電するかと思い慌てて手刀を引き戻そうとした途端、指先から凄まじい激痛を感じた。――続いて、凄まじい冷気。

「電磁波によって常磁性イオンの配列を制御し、エネルギー消費によって急速冷却する――断熱消磁によって絶対0.00001度まで冷却出来るってご存じ?――くらえっ!」

 スフィーは手刀を挟んでいる両手から凄まじい電撃を放つ。その放電にそって、梓の身体が徐々に凍り付き始めたのである。

「……スフィーさん、なんでそんなあたしも知らないような難しいコト知ってるんですか?」

 健太郎には、梓が凍り付くコトよりも、スフィーが低温物理学に精通していたコトが大変衝撃的であった。

「んーと、このあいだ教育テレビでやってたの」

 健太郎は呆れつつ、テレビっ子(死語)の極みを見せつけられたような気がした。

「何はともあれ、掴まえたー」
「つーか、凍死しそうなんですけど彼女(汗)」


「――――へっくしょんっ!」

 スフィーに凍り漬けにされた梓は、鶴来屋本館の大浴場にかつぎ込まれて無事解凍された。鬼化していた所為もあって、解凍された途端のこのくしゃみに、一同はほっ、と胸をなで下ろした。

「…………これで頭も冷えた?」

 凍らせた責任で一緒に風呂に入ったスフィーに言われ、梓は柳川の忠告を思い出した。文字通り冷やされたわけだが、あまりの力業に、梓はすっかり怒る気力が殺げていた。
 やがて、スフィーと共に風呂から上がった梓は、服を着替えて、鶴来屋本館のロビーでくつろいでいた耕一たちの元に現れた。

「……アズサ」

 梓の姿を見つけると、結花が梓を呼んだ。

「江藤さん……」

 梓は戸惑いつつ、スフィーと共に結花の元にやって来た。

「……実は今、わたしはアズエルなんです」
「あず……える?」
「梓お姉ちゃんの前世――なんだけど、何故か結花さんの中にいるの」
「?」

 梓は初音の言葉が理解出来ていなかった。唯一、前世の記憶に目覚めていない梓に、アズエルの存在は理解の範疇外であった。

「あれ?前、言わなかったっけ?あたしたち姉妹は、前世、エルクゥ四皇女っていう雨月山の鬼の姉妹だったってコト」
「え…………っと、…………何か聞いたような聞かなかったような」
「……やっぱり」

 全く要領を得ない梓を見て、千鶴は溜息くようにもらした。

「…………梓は、あたしたちのような前世の記憶は持ち合わせていない。それは他ならぬ柏木一族の血を引いていないと言う証拠――」
「いえ、確かにアズサは柏木の――アズエルの生まれ変わりです」
「え?」

 結花=アズエルの言葉に、千鶴がきょとんとした。

「どうして私がアズサの中に居ないか、真相をお話しします――――」


               最終回につづく

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