「まじ狩る☆ハンティング Second Stage(3)」 投稿者:ARM(けだもの属性) 投稿日:1月18日(木)22時47分
○この創作小説は『痕』および『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しています。
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【承前】

「さぁ、みなさん」
「お手を拝借ぅ」

 パパンがパン!

「いやぁぁぁぁぁっっっっ!!」

 生まれたまんまの姿でのたうち回る結花に、パタフィー&リアン部隊(註:単数形)のソリタリーウェーブ攻撃は続いていた。もっともそれは、結花にその弱点を作った健太郎にも少なからず影響を及ぼしており、赤面しつつ、もういいから、とスフィーの背を叩くその手は小刻みに震えていた。ちなみにパタフィー&リアン部隊(註:単数形)のビジュアルはうちのサイトの「あやしいギャラリー」のトップを飾っているので参考にしてもらいたい<ぉ

「もう、結花の鬼化は収まったから……頼む、かんべんしてくれ(汗)」
「流っ石、効くわね、クックロビン音頭」
「結花の固有振動周波数ならぬ固有羞恥周波数というところですかね、姉さん」
「……いや、それはあんたたちも一緒だと思うんですけどつーか何故平気?」
「「?」」

 健太郎に訊かれて、きょとんとなる魔法使い姉妹。リアンに至ってはネコミミモードになっている。

「何で?」
「…………いや、その」

 本気で不思議がるスフィーとリアンに、健太郎はどう説明すればよいのか困ってしまった。

「ねぇ、そんなコトより、結花に何か着せて上げないと」
「あ」

 スフィーに言われ、健太郎はようやくすっぽんぽんで伸びている結花のコトを思い出した。

 いかん、と泰久はあわてて店の中に戻り、自宅から結花の服を取りに行った。健太郎が辺りを見ると、千鶴たちが結花が飛び出した時に壊した壁に掛かっていたカーテンを取り上げ、それで結花の身体と、同じく鬼化によって服が破けた耕一の身体にかけようとしていたところだった。

「済みません、柏木さん――」

 やれやれ、と健太郎は身体についた埃を払おうと、掌で叩いたその時だった。
 突然、スフィーとリアンがその場にうずくまり、ううっ、と呻き始めたのである。

「おい――?」

 気分でも悪いのか、と思い、二人の顔を覗くと、何故か二人して顔を赤らめていた。気分が悪いどころか、紅潮して興奮しているのである。

「まさか、今頃になって、さっきのクックロビン音頭で自滅し始めたんじゃ――」

 と、もう一度健太郎は自分の身体に着いた埃を払おうと、掌でパンパンと――

「「ああっ!だ、駄目ぇっ!」」

 途端に、スフィーとリアンが艶っぽい喘ぎ声を上げる。
 それを訊いた途端、健太郎の頭に何かが閃いた。
 そして、もう一度、身体に着いた埃を払おうと、掌でパンパンと叩いた。
 同時に、スフィーとリアンがいやらしい悲鳴を上げる。健太郎たちの騒動に集まった野次馬たちはその声にどよめいた。

「…………成る程。スフィーたちの固有羞恥周波数は、これか」

 溜息く健太郎だったが、責任の一端を感じつつ呆れていた。恐らくはグエンディーナ人とこちら側の人間との体質差なのであろう。

「……結花さん!」

 そんな時、結花をカーテンで包み抱き抱えていた千鶴のほうから声が聞こえた。どうやら結花が目覚めたらしい。

「ん…………」
「よかった……。正気に戻ったみたいね」

 千鶴の横で、結花の顔をのぞき込んでいた初音が、ほっ、と胸をなで下ろした。

「…………あれ?」

 その後ろで、カーテンで下半身を覆った耕一に寄り添うように立つ楓が、結花の方を見て戸惑ってみせた。

「……結花さん、何か、変」
「?楓ちゃん、何が?」
「…………」

 楓は疑問を口にしたものの、それが何なのか、楓自身今ひとつ理解していない様子であった。
 だが、その異変に、千鶴もようやく気付いた。

「……結花さん?」
「えっく…………ひっく…………よかったぁ…………!」

 カーテンで身体を包まれている結花は、千鶴の顔を見ながら突然しゃくり始め、そして千鶴に飛びついて泣き始めたのである。

「結花さん……」
「――――よかった!やっと!やっと逢えたっ!リズエル姉様にっ!」

 結花の涙は歓喜の涙であった。そして結花が口にした言葉の中にあったある単語は、千鶴、初音、楓そして耕一を硬直させた。
 リズエル。
 それは、エルクゥ四皇女を前世にもつ柏木姉妹と次郎衛門の生まれ変わりである耕一のみが知る名前であった。
 それは、千鶴の前世であるエルクゥ四皇女の長女の名であった。

「あなた、まさか――」
「はいっ!アズエルですっ!――やっと、やっと現世でお逢いできました!」
「そんな――」

 唖然とする初音が、呻くように洩らした。

「――だって、アズエルは梓お姉ちゃんのほうでしょう?――――千鶴お姉ちゃん?」

 唖然とする一同の中で、ゆっくりと大きくなっていく声が辺りを支配し始める。
 笑い声であった。それも、勝ち誇ったような歓喜の声。

「――――おーっほっほっほっ!やっぱり!やっぱり、そーじゃないのっ!結花さんが本物の梓だったのよっ!あたしの説は、やっぱり正しかったじゃないっ!」

 不断の千鶴を知る者が見れば、まるで別人のようなその姿に固まるコトは間違いない。事実、耕一たちは、ぴたっ、と時間が止まったように立ちつくしていた。千鶴のこのタカビー笑いは、千鶴本人ではなく、恐らくはエルクゥ四皇女の長女リズエルのパーソナリティによるものと思われるが、不断から抑圧されている千鶴の本性という可能性が否めないのはなんとも。

「……あの」

 笑い続ける千鶴に、泣き顔で戸惑っていた結花が声をかけてきた。

「……リズエル姉様……ちょっと……」
「――ん?何、何?なぁ〜〜んでもおっしゃいなさい!」
「…………実は」
「ん〜〜?週刊実話がどうしたって?」
「……実はわたし、柏木梓じゃありません」
「うんうん、梓じゃない――そうよねぇ、江藤結花さんが本物の柏木梓だったんだもんねぇ」
「……いや、そうじゃなくって……」

 結花=アズエルは、困ったように鼻の頭を掻き、

「……いえ、江藤結花は柏木の人間じゃありません」

 結花=アズエルがそう言った途端、千鶴は真っ白くなった。

「――はぁ?」
「話せば長くなるのですが…………まずは、あたしを柏木梓の元に連れていって下さい」
「梓……お姉ちゃん?」

 真っ白くなって固まっている千鶴の隣でようやく我に返った初音が、戸惑いながら訊いた。

「ええ、リネット。あたしを梓の元に――」
「えーと……梓お姉ちゃんは、今、家出しちゃって行方が……てっきり耕一お兄ちゃんのところに行って入るんだと思って東京に来たんだけど、やっぱり居なくって……」

   *   *   *   *   *   *

 柏木梓は、まだ隆山市内に居た。
 それも、意外な人物の家に転がり込んでいた。

「…………まだ、帰らんのか?」

 今日の勤務を終え、自宅のマンションに戻ってきた柳川裕也は、フローリングの居間に用意されていた、梓が用意した夕飯の暖かさに戸惑いつつ訊いた。

「まだ。――あのバカ姉貴の頭が冷えるまで」

 そう言って梓は、居間の奥で柳川に背を向け、TVを体育座りで観ていた。TVに映っている番組は、毒舌をウリにする関西の中堅コメディアンコンビが司会する歌謡番組で、ゲストの森川由綺とのトークの真っ最中であった。そんな梓の背を見て、頭を冷やさなきゃならないのはお前のほうだろう、とぼやき、帰りに買ってきた缶ビールを呷った。

「お前ンとこの長女のボケは今に始まったコトではないだろうに」
「……世の中には言って良いコトと悪いコトがある。千鶴姉ぇはそれが判っちゃいない」

 柳川は肩を竦めて見せた。

「それにしても――何度も訊くが、何故、俺のところに転がり込んできた?」
「…………」

 梓は黙り込んでしまった。

「……もっと他にもあるだろうが。ほら、お前の“彼女”の所とか」
「誰が“彼女”だっ!あたしゃかおりとはそんなんじゃないっ!――あ、何だ、その目はっ!?」
「目つきが悪いのは生まれつきだ」
「煩いっ!――あぁ、あんたまであたしをレズ扱いかいっ!このっ!」

 キレている梓は、柳川のほうへ振り向くと、柳川が手にしている缶ビールをひったくってそれを一気に呷った。

「おい――お前、未成年だろうが。警官の前で良い度胸だな」
「煩い、ホモ」

 ばぎぃん!瞬時に鬼化した右手が、ちゃぶ台を粉砕する音が、柳川の堪忍袋の緒が切れる音だった。

「――どぅわれぇがぁ、ホモだっとぅえぇっ?!」
「あんた」

 アルコールが少し効いて目が据わった梓は、柳川の鼻先にしれっと人差し指を指した。

「だって、男の子囲ってたじゃない」
「保護していたんだっ!隣のヤクザにいいようにされていたから、可哀想に思って保護したんだっ!」
「何、ムキになって……ひっく」
「お、おまえこそっ!毎度毎度、あのレズ娘に追い回されておきながらっ!ちゃんとあいつに、レズじゃないって面と向かってゆったコトあるのかっ!?本当はその気があるから、追い回されているコトを喜んでジラしているんじゃないのかっ!?」
「どぅわぁれがっ、ジラす、だってぇっ?!」

 梓も右手を鬼化して、フローリングの床に拳を叩き付けた。

「大学に進学して、やっと振り切ったと思ったら、しっかり張り付いてストーカーと化したレズ娘に苦労している女の苦労を判ってたまるもんですかっ!――そーか、あんた、彼氏がまだ入院したまんまだから、寂しいんでしよう?」
「だからっ、違うっつーのにっ!」
「どーだか」
「……だから、ビール呷るのやめろっつーの」

 しかし梓、気にせずビールを飲み干す。呆れる柳川は、仕方なく、脇に置いていたコンビニの袋から、後で飲もうと買ってきたもう一本のビールを取り出して飲んだ。
 梓はアルコールがまわり、何が楽しいのか、けらけらと笑っていた。対称的に、柳川はぐびりぐびり、とビールを飲むが、アルコールには強いので顔にも出ていなかった。
 そのうち、梓は笑いを止め、憮然としている柳川の顔を、座った目で見つめ始めた。

「……何だ?」
「……一つ、訊いて良い?」
「ああ」
「……男の目から見て、…………そんなにあたし、魅力ない?」
「はぁ?」

 戸惑う柳川は、口に含んでいたビールを思わず一気にのみ、げっぷした。

「……だってさぁ…………耕一、千鶴姉ぇとかにベッタリかと思ったら、楓とか初音にもベッタリな時もあるし…………」
「歳の問題だろう。千鶴は年上だし、楓と初音は妹みたいなモンだ。しかしお前は歳が近い所為もあるんだろう。俺から見れば、お前ら姉妹と耕一は充分仲が良いように見える」
「でもさぁ!――あたしと接する時と、楓たちと接する時の耕一、何かさ――何か、違うんだよ」
「……何が?」
「…………正直に言うと、耕一、あたしを女と見ていない」
「だからそれは……」
「見る目が違う!楓と初音を見ている目で、千鶴姉ぇを意識しているし!なのに、あたしの場合はまったく――まるで同性を見ているような」
「気の所為だろう」
「――じゃあ、あんたはどうなのさ」
「?」

 きょとんとする柳川は、梓の顔が赤いのは酔いの所為ばかりでないのに気付いた。傍目でも仕草が酔いによるものとは違う微妙なものがあった。

「……ど、独身の男の家に、と、年頃の女が転がり込んでいても平然としているし………………」

 柳川は、何を言うか、と心の中で呆れた。

「…………やっぱり、あんた、ホモなんだ」
「だから、どーしてそうなるっ!」
「わ、悪い……!――で、でも、」
「歳こそ近いが、俺は、お前らの叔父に当たる男だろうが」
「で、でも――少しは、その気に――」
「ならん」
「…………やっぱり、ホモなんだ」
「殴るぞ」

 柳川は相手にしてられない、とばかりにビールを呷った。

「じゃ、じゃあ――――なんであの時、初音や楓を襲って、あたしは襲わなかったの?」

 柳川、思わず口にしていたビールを吹いた。

「ほら――あんたがうちを襲撃するシナリオで、楓や初音レイプしたあと、千鶴姉ぇ殺す展開」
「こらこらこら(笑)パラレルワールドの概念を無視するな」
「いーじゃん。ほかにもさ、あたしと耕一がかおり探してあんたんちに乗り込んだら、あたし縛り付けて耕一と無理矢理ヤらせても、あんたはあたしに手ぇださなかったし」
「それはそれ、これはこれだ(汗)」
「だから思ったんだ。――あんたも、あたしを女と見ていないって。だからホモかと」
「それ以上ゆうと血が出るまで殴るぞ」
「じゃあ、なんであたしに手を出さないのよ?」
「それは――――」

 返答に窮する柳川。なにやら、核心を突かれたようで、本心から困っているようである。
 そんな柳川の様子に、梓は何かに気付き、照れて俯いた。

「……ほ、ホモじゃないなら…………ノーマルなら………………」
「もう、その話題から離れろっつーの」
「……そんなに、あたし、魅力ない?」
「……ンなワケないだろう」
「本当?!」

 歓喜する梓が、柳川のほうに飛びついた。

「じゃあっ!証明してよっ!」
「……はぁ?」

 戸惑う柳川に、梓は少し俯き、はにかむように目を反らして言う。

「…………してよ」
「?」
「…………ホモじゃないなら……魅力感じているなら…………しよ」

 凍り付く柳川。

「おおおおおお、おまえ、酔っているだろっ!?おおおおお、おちつけっ!」
「酔ってないっ!ひっく」
「それが酔っているつーの」
「煩いっ!大体、健全な若い男女が一つ屋根の下に居て、何も起きないのが間違いなのよっ!――それともあんた、本気で、骨の髄までソドムなワケ?」

 酔っぱらいの酔った勢いの言葉とはいえ、流石にソドム呼ばわりされては柳川もキレないワケはなかった。

「――手前ぇ、いい加減にしろよなっ!」

 キレた柳川はそのまま梓を床に押し倒した。

「よーしっ!望み通りヤったろうやないかっ!」
「なんで関西弁?(笑)」
「ノリじゃノリっ!俺様のものごっつうええモンで、ヒィヒィゆわしたるわっ!!」
「あーれー(笑)」

 梓にのし掛かる柳川。

 ……ただ今、オトナタイム突入中です。…………

「…………あれ?」

 柳川の激しいがしかし上手なテクニックに未熟な性感帯が一斉に励起し、梓の理性は滅茶苦茶になっていた。しかし、遂に最後の一線を越えようとした時に、梓は柳川のものを受け入れる状態になっていたのにも関わらず、一向に柳川は梓の中に侵入しようとしなかった。そのうち、梓は朦朧とする意識の中で、奥の方に見える柳川のものが、まったく張り切っていないコトに気付いた。

「…………どう、したの?」

 梓が不思議そうに訊くと、柳川は俯いたまま、溜息を吐いた。

「…………駄目、なんだ」
「……?……まさか、不能?」
「そーじゃなくって…………俺も、男なんだ」
「?いや、そんなモノ持ってて女とかゆわれたら……」
「……いや、そーじゃなくって」

 柳川はもう一度溜息を吐き、

「……俺もLeafキャラの男…………」
「?」
「…………貧乳にしか萌えないんだ」

 梓、痛恨の一撃。ある意味、破瓜の痛みよりも痛い一言が梓の全身を走り、やがて衝撃は炎と化して梓の身を包み込み、灰になってしまった。

「…………だから俺、貧乳組しか襲えなくって…………胸が、胸が嫌なんだっ!あの脂肪の塊が怖くて――だから俺、男にも興味を――――しくしくしく」

 終いには柳川、梓の厚い胸の上で泣き崩れる始末。

「…………泣きたいのはあたしのほうよ、トホホ」

 途方に暮れる梓は、スタジオDNA刊「まじかる☆アンティークアンソロジー」の冒頭を飾った「うーちのオヤジはペドーフェーリアー♪」((c)結城心一氏)を口ずさむばかりであった。

    話はサイテイな展開(笑)のまま、つづく

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/