東鳩王マルマイマー第23話「勇姫王!嵐の決戦」(Bパート・その2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:12月19日(火)00時21分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「ヘル・アンドッ、ヘヴンッ!!」

 マルメイマーはTHライドを全開出力し、両手にブロウクンエネルギーとディバイディングエネルギーを凝縮させた。そしてゆっくりと両手を持ち上げ、掌を重ねていく。

「ゲル・ギル・ガン・ゴー・グフォ……!」

 ヘルアンドヘヴンを使う時に、マルチが無意識に呟く奇妙な言葉が終わった瞬間、両手はピタリと重なり、ブロウクンエネルギーとディバイディングエネルギーが一つになる。凄まじい放電が拳から発せられ、マルメイマーの全身を走り抜けた。
 すると背部のステルスマルーIIに内蔵されている12基の放熱口が開き、そこから吹き出された余剰エネルギーが12枚の光の翼を作り上げた。マルメイマーの身体はエメラルド色に輝き、THライドの全開出力を告げていた。

「悪あがきをっ!ゴルディオンフライバーン!ミートせんべいになっちまえっ!!」

 マルマイマー・シャドウは地上にいるマルメイマーめがけて活断ショックウェーブを放射した。大気に漂う微粒子は瞬時に沸騰し、光粒子に変換されて世界を光で穿った。

「――ウィータッ!!」

 無限加速の衝撃波が降る中、マルメイマーが絶叫し、重ねた拳を振り上げた。
 すると、その拳から凄まじいエネルギーが放射され、活断ショックウェーブと激突したのである。

「何――――?!」

 唖然となるマルメイマー・シャドウ。いや、現場にいた智子たちやメインオーダールー煙にいた綾香たちも唖然となった。
 その結果が判っていたように、平然としていたのは、TH4号の艦橋にいた鷹橋ぐらいか。
 何故か、THコネクターにいる浩之も平然とその激突を見ていた。

「……パワーは拮抗しているか」

 浩之は、ぼそり、と呟いた。すると浩之も両手をあげ、THコネクター内でヘルアンドヘヴンの体勢をとったのである。

「……クーラティオー」
「え?」

 最初に浩之の様子に気付いたのはあかりだった。メインスクリーンに移るヘルアンドヘヴンと活断ショックウェーブの激突に気を取られていた綾香たちの中で、偶然、浩之の奇妙な呟きが聞こえたのだ。
 そして、THコネクターがいつの間にかオレンジ色に光り輝いているコトに気付くと、あかりは思わず驚きの声を上げた。

「……テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ!」

 そう言い終えた瞬間、浩之のTHコネクターが爆発した。いや、正確に言えば、THコネクターが放出するオレンジ色の光が急激に拡がってそう見えただけであった。
 すると、エメラルド色に光り輝いていたマルメイマーも瞬時にオレンジ色の光を纏い、拳から放射するエネルギーを更に増大させた。

「バカな――――圧されているだとっ!」

 愕然とするマルマイマー・シャドウ。無限加速する衝撃波を押し返すエネルギーが存在するなどと、信じられなかったのだ。

「さ、させるかっ!グラビティゲイザー、最大出力っ!!」

 マルマイマー・シャドウも負けじと、ゴルディオンフライバーンの出力をあげた。地球の質量を利用した指向性重力波は、更にエネルギーを増幅させ、地上にいるマルメイマーに地球そのものの重みを攻撃エネルギーに変えて叩き付けた。
 それにも関わらず、オレンジ色に輝く――〈The・Power〉を発動させたマルメイマーのヘルアンドヘヴンエネルギーは、圧し返されるどころかゆっくりと圧し上げ続けているではないか。そればかりか――

「…………ぐ…………おっ…………」
「――しまった!ゴルディの制御が――分離などさせは――――」

 ゴルディのシステムを浸食していたマルマイマー・シャドウだったが、活断ショックウェーブのパワーを増幅するコトに気を取られていた為に、ゴルディアーム独自のAIが保有する防護プログラムを押さえられなくなっていたのである。

「この……やろ…………はな……せ……!」
「だ、黙れっ!分離などさせは――――」
「――では、断たせてもらいますっ!クサナギブレード二刀流回転剣舞・百花繚乱っ!!」

 疾風がマルマイマーシャドウの右肘を走り抜けた。するとゴルディアームと接続されている右腕が断面も鮮やかに切り取られ、物理的分離を果たした。

「何っ――貴様はっ!」
「『霧風丸っ!!」』

 その名を全員が声を揃えるように叫んだ。霧風丸は切断したゴルディオンナックルを抱えたまま、とんぼを切って華麗に着地した。

「ゴルディは返してもらいました」
「バカな――活断ショックウェーブが放射されている重力嵐の中を飛来したと――何?」

 唖然となるマルマイマー・シャドウは、そこで、霧風丸の全身がうっすらとオレンジ色の光に包まれているコトに気付いた。

「〈The・Power〉…………だとっ?!」

「フォロンを失ったコトで機能不全に陥った霧風丸をこうも完全復活させるとは……」

 TH壱式の艦橋にいる長瀬主査は、艦橋に用意されているTHコネクターを見て感心したふうに言った。
 THコネクター内には、初音が着ていたコネクタースーツに身を包んだ楓が乗り込み、霧風丸との電脳連結を果たしていた。

「各駆動部のパラメータも、いづれも従来のものを下回るどころか効率よく稼働しています。パワーパラメータが示す最大値をキープしたまま――柏木楓さんが電脳連結しただけで、霧風丸が持つスペックを凌駕するなんて、凄すぎですっ!」

 霧風丸の臨時オペレーターを務めていた宮沢隊員が、そのパラメータ反応値に歓喜していた。

「〈The・Power〉、これは凄いですよっ!」
「いや、そうではない」
「え?」

 長瀬主査が渋い顔をして首を横に振るので、宮沢は不思議がった。

「制御できるうちはこれほど心強いものはない――が、〈The・Power〉は万能ではない」


「おのれ――――!」

 右腕を失ったマルマイマー・シャドウは、背部に移していたブロウクンマグナムを切断面に当てて接合した。

「ゴルディオンフライバーンが無くったってっ!貴様如き斃せるわっ!!」

 そう怒鳴ると、シャドウは両腕を広げた。

「シャイニング・アンド・ダークネス!!」

 急速にシャドウの周りに光粒子(フォトン)と暗黒物質(ダークマター)が集まり、凝縮する。真超龍姫と撃獣姫を一撃で倒した必殺技で、マルメイマーに立ち向かおうとしていた。

「ゴルディ、マルメイマーにコネクト出来ますか?」

 霧風丸が、システムチェンジしたままのゴルディに訊いた。

「だ…………め――システム――G・system・error」
「駄目か……マルメイマー、ゴルディへの浸食が強すぎたようです」
「大丈夫です!」

 霧風丸が心配そうに言うが、マルメイマーはヘルアンドヘヴンの体勢のまま、シャドウを見据えていた。

「ここは――ヘルアンドヘヴンで決着をつけます!」

「マルチちゃん……」

 不安そうな顔をするあかりは、マルメイマーのパラメータチェックを続けていた。かつてヘルアンドヘヴンの多用でマルチのボディが破壊されてしまったコトを思い出していたのだ。

「浩之ちゃん――」
『大丈夫だ、あかり』

 訊かれて、浩之は、にっ、と笑ってみせた。

『マルチを信じろ――俺もな』
「……う、うん」

 戸惑いつつ、あかりも微笑み返した。

『行くぞ、マルチ!あいつに、お前の全てを叩き付けろ!』
「はいっ!ゲル・ギル・ガン・ゴー・グフォ……!」

 再びマルチは呪文のような言葉を呟き、ヘルアンドヘヴンの態勢をとった。
 同時に、マルマイマー・シャドウも着地し、自身のTHライドを全開出力させた。マルメイマー同様、12基ある背部の放熱口から、しかしこちらは黒い光を放出し、禍々しい黒き翼を広げて見せた。

「“天国と地獄”が勝つか、それとも“光と闇”が勝つか――」

 TH四号の艦橋にいる鷹橋が、二人のマルマイマーの対決を見て、感慨深そうに言った。

「「うおおおおおおおおおおっっっっっっっっっ!!!!」」

 ほぼ一緒にパワーが高まっていくマルメイマーとマルマイマー・シャドウ。
 かたや、空間を制御する力。
 そしてもう片方は、宇宙の根源とも言うべき物質を凝縮させて相手に叩き付ける力。
 勝者はどちらに――

「「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ――――――!!!!」」

 二人のマルマイマーは鏡移しに前へ飛び出した。
 互いの拳が激突するのに時間はかからなかった。巨大なエネルギーの衝突は、その周囲の大気を激しく震わせ、余剰エネルギーが稲妻となって四方へ飛び散る。そして互いの身体には激しい振動が見舞い、踏む地面を抉るように粉砕していった。


「黒いマルマイマーは宇宙そのものを武器にしている。――浩之がもたらしている〈The・Power〉が加わっているとはいえ、……マルメイマーは…………!」

 メインオーダールームの長官席にいる綾香は、マルメイマーの勝利を信じたかったが、しかしこの常軌を逸したエネルギーの激突には不安を隠しきれなかった。
 同じく管制席に座っていたあかりも不安になり、思わず両手を合わせて祈った。それをみたレミィも、十字を切って祈った。

 ゴルディを介抱していた霧風丸も、この激突に為す術もなく、見守るばかりであった。

「マルチ姉さん――」
『信じましょう』

 そんな時不意に、電脳連結している楓から声が届いた。

『マルチの――奇跡のこころを、信じましょう』

 そういって楓も手を合わせ、THコネクターの中で祈った。そのイメージが届いた霧風丸も、無意識に手を合わせた。

 二人のマルチの激突は、拮抗したままであった。
 だか、変化が生じていた。何とマルメイマーの両腕に亀裂が入ったのである。

「――あははっ!わたしは、貴様を今こそ超えて見せるっ!」

 それをみたマルマイマー・シャドウは勝利を確信した。
 だが――

「――シャドウ。あなたは、勝てない」
「何――――」

 両腕が砕け掛けているというのに、マルメイマーはまったく物怖じ一つしていなかった。

「何故なら――今のわたしは、もう怖くないから」
「怖い?」

 訝しげな顔をするシャドウに、マルメイマーはゆっくりと瞼を閉じた。

「……あなたは、元々わたしが、人の心に対する恐怖と嫌悪感から生み出してしまった存在――しかし、今のわたしは、もう何も怖くない」
「負け惜しみを――!」

 怒ったシャドウは、両腕に更にパワーを込めて押し込んでいった。

「わたしは――」

 マルメイマーも負けじと押し返した。

「浩之さんに叱られて――判りました。――こころはつくられるものだというコトを」
「作られる?」
「そう――決してこころは泡沫の泡のように突然生まれるものじゃない――初めは誰もが真っ新な白い心を持っていて――そこに、色んな考えの人たちと出会い、その人たちの持つ“こころ”にふれあい、記憶していきながら――――自分で作り、そして他人に影響されて作られていくもの――――」

 更にマルメイマーは押し返した。

「――――わたしは大勢の人たちと出会い、彼らの心に触れていきました。優しい人も居ました。時には哀しい運命にかき乱されてしまった昏い心の持ち主たちも――――」


「……うっ……マルチ姉さん」

 撃獣姫はマルメイマーから届いた放電のショックで目を覚まし、その闘いに気付いた。

『マルチ……』

 楓は祈りながら呟いた。

「…………雨?」

 TH参式の残骸の前でへたり込んで泣いていた香奈子が、空から降り始めた雨に気付き、大切な人を失い泣き暮れていた顔をゆっくりと上げた。

「…………」

 キングヨークの艦橋で、マルメイマーの闘いを見守っていた柳川は、黙ってそれを見つめていた。複雑そうな顔をしている彼の心に去来するものは何か。
 そこへふと、隣にいた芹香が、柳川の手にそっと自分の手を重ねた。

「……芹香」

 芹香は何も応えず、ふっ、と微笑んだ。その手から伝わる暖かさは、柳川には自分の思いを察した芹香の優しさのように思えた。


「――――わたしの力は心を癒すと長瀬主査や浩之さんがおっしゃっていました。でも、それでもわたしは、彼女たちの哀しみを全て癒すコトなんて出来ない。――だけどみんな、その哀しみを乗り越えてきたんです!」

 マルメイマーがそう怒鳴った瞬間、全身を包んでいる〈The・Power〉の光が増した。

「――――わたしの力は、彼女たちにきっかけを与えただけ――みんな――自分たちが持つ優しいこころが――それを作ってくれた“記憶(やさしいおもいで)”が――みんなを救った。――――わたしは、そんな“こころ”の持つ本当の強さを忘れていただけだったんです!」
「な――何――――――?!」

 マルマイマー・シャドウは、次第に増幅されていくマルメイマーのパワーを感じ、圧倒されつつあった。

「そんな――宇宙そのものをエネルギーにしているというのに――――?!」
「宇宙のエネルギーなど――――ひとのこころの強さで吹き飛ばしてみせるっ!!」

 更に高まるマルメイマーのパワー。遂に、マルマイマー・シャドウの両腕にも亀裂が生じた!

「ばかな――――」
「こころが、他人と触れ合うコトで作られるものならば――この力は――わたしが人と巡り会うコトで生まれ、そして巡り会った人たちが他の人たちから受けとり続け積み重ねられていた、無限大の想い(エネルギー)だっ!!」

 マルメイマーの絶叫。同時に、マルマイマー・シャドウの両腕が一気に粉砕された。

「な――――」

 余りのコトに絶句するシャドウ。しかしマルメイマーは躊躇いもなく、ヘルアンドヘヴンはシャドウの胸部にある凶悪な面構えのクマを粉砕し、その下にあったシャドウ本体の胸部に叩き込まれた。
 その破壊の衝撃波は、マルマイマー・シャドウの装甲を一気に粉砕する。本体と言うべき黒髪のマルチ以外、マルーマシンは全て粉々に吹き飛ばされてしまった。
 マルメイマーのヘルアンドヘブンは、黒いマルチの胸部に叩き込まれ、めり込んだ状態で上に掲げられた。

「か…………はっ…………!」
「……シャドウ。わたしは、浩之さんやあかりさんたちと出会い、人のこころに憧れ、そして人間に憧れた。――たとえ今、自分が本当は人間であったと知っても、その想いには変わりはありません。――人のこころがどれだけ複雑で、時には闇に負けるコトがあっても――そう、その闇も、光があるから存在出来るもの。哀しみは優しさに裏打ちされたものであるハズだから――――わたしは――――」

 そう言うと、マルメイマーは拳を放し、黒いマルチを優しく抱きしめた。

「…………わたしは、あなたを――わたしの心の闇を受け入れます」


     エピローグへつづく