【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(バルーンマルーIIの映像とスペックが出る。Bパート開始)
「……私は…………誰なのですか?」
覚醒した柏木楓は、本体であるフォロンを失い、活動停止して倒れている霧風丸を見つめながら、そう呟いた。
「誰、って…………まさか記憶障害?」
それを聞いた瑞穂は、酷く戸惑った。
楓はゆっくりと霧風丸の顔に手を伸ばした。ワイズマンとの闘いで壊されていたマスクの下にある、楓とうり二つの顔は、まるで時が止まったように微動だにしなかった。
「――――何故、私が――――」
楓の脳裏には、次々と見覚えのない光景が拡がっていた。
見覚えのある顔――彼は――確か――東――博士――――君――
――降りしきる雨の中――彼は――本当の彼はこう言った――――
「鬼が――僕の中にある――鬼が――――あの時――――鬼をみた時――――――遭った時――――――あの少年が――――ダリエリが言った――――鬼が巣くっていると――――」
柳川裕也が鬼化し、警官を含めた大勢の人間を殺戮したあの夜、当時高校生だった東もまた、遭遇していた。
それを救ったのが、ダリエリだった。
ダリエリは少年の姿をしていた。襲われ掛けていた東を庇うように立つと、鬼をひと睨みした。すると鬼は突然、東を襲うコトを止めて闇の中に消え去っていった。
僕が追い払ったわけではない。――ダリエリは東を哀れそうに見つめた。
――きみの中に鬼が居る。恐らくは、きみも鬼の末裔――大昔、この隆山を鬼が襲った時、何人もの女性が孕まされていた――そのほとんどは鬼の因子を受け入れられず、胎児と共に母体も死んでしまっただろうが、中には適合していた女も――――隔世遺伝――柏木の人間たちと違い――――きみの中に鬼が目覚めた――但し――鬼化ではなく――エルクゥの持つエルクゥ波動が――――
東はダリエリの警告から、自分の中に、鬼がいるコトを知らされた。
だが、東はそれを拒絶できなかった。鬼の人格は残虐であったが、そして高度な人類原種の“記憶”を受け継いでいた。だから東は、その記憶を自分のものにする代償として、鬼の人格を受け入れざるを得なかった。――東は、鬼に負けてしまったのだ。
日増しに残虐になっていく鬼に恐怖する東は、その知識をあるコトに傾けた。
来栖川財団が開発していた戦闘用メイドロボ。その計画に参画した東は、三番目のメイドロボットの開発システムを改竄し、エルクゥの技術力をそそぎ込んで高度な戦闘マシンを作り出した。
それがしのぶ――霧風丸。
そしてそれは、たった一つの目的のために行われた。
「――霧風丸。僕を殺せ」
霧風丸は、命令通り、東を、自分を作った創造主を破甲手裏剣で指し貫いた。
霧風丸の顔を、柏木楓のそれをモデルに造ったのは、東の自己満足に過ぎなかった。
好きだった少女に、自分の罪を裁いて欲しい。その想いだった。
霧風丸は、息絶えた東を見下ろして、戸惑っていた。
自分は、彼を裁くためだけに作られたのかと。
自分は、自分を裏切った人間たちを呪うために甦ったのかと。
エディフェル、いや、エディフェルと思いこまされていた楓は、ワイズマンによってコピーされたマルマイマーたちを取り込み、生機融合体となって耕一たちを見下ろしていた。
好きだった男に、裏切られた怒りをぶつけたい。その想いだった。
生機融合体の身体を、マルマイマーたちをモデルに組んだのは、楓なりの皮肉であった。 生機融合体=楓は、命令通り、自分を裏切ったこの場にいる全ての“敵”を攻撃し始めた。
「これで役者が揃ったな――――茶番の」
ワイズマンは、ある人物を得るために、楓を狂わせた。
それが初音――リネット。
ワイズマンが目指す〈鬼界昇華〉。その計画のキーパーソンとして、初音の不安定な精神を乱し、エクストラヨークを完璧に動かすリネットを甦らせた。
そしてその道具として、楓は利用されていたのであった。
復讐など性分ではない優しいこころを持つ初音は、その二律背反に苦しんでいた。しかし全てを失ってしまった今、それを否定するコトなど出来ようもなかった。――それが初音の不幸であり、楓にとっても不幸であった。
エディフェルのTHライドで眠っていた間に、エディフェルの“記憶”を同化させてしまった楓は、ワイズマンの計画に都合の良いだけの道具に過ぎなかった。
「…………霧風丸」
楓は、心を失った霧風丸の名を哀れむように呟いた。
「…………そう。…………これは……あなたと私の記憶――――愛する人に利用されていた、哀れな“おんな”の記憶…………」
「……楓さん」
瑞穂は、楓が涙を浮かべているコトに気付いた。そして今の言葉から、楓は記憶障害に陥っているわけではないコトに気付いた。
「……もしかするとこの霧風丸というロボット……柏木楓さんをモデルにしていると聞いていたけど、……記憶も…………オゾムパルスが…………」
オゾムパルスの共有。柏木楓あるいはエディフェルというエルクゥの記憶を、この二人は共有しているのでは――瑞穂はそう思った。瑞穂は霧風丸のTHライドがエディフェルのものであるコトは知らない。しかしオゾムパルスが記憶媒体の一つという考え方から、顔もうり二つだし(無論、それに対する根拠は無い)、柏木楓が覚醒したコトで記憶の共鳴とも言うべき現象が引き起こされているのでは、と考えたのだ。この説自体、かなり直感的なもので、冷静に考えると瑞穂にも自分が何を言っているのか、と呆れるくらい無茶苦茶な論法であると判るハズであったが、何故か今の瑞穂はその冷静さが欠けていた。
霧風丸の頬に触れる楓の姿が、瑞穂にはとても神々しく見えてならなかったのだ。
「――えっ?」
初めは、錯覚かと思っていた。しかし瑞穂は、楓と、霧風丸の身体がうっすらと光り始めているコトに気付くと、神々しく見えたのは錯覚や思い込みからではないと覚った。
「これは――――」
二人を包み込むその光の色は、オレンジ色。瑞穂は、それが〈The・Power〉の発動であるコトを知らなかった。
楓は、霧風丸の頬を撫で続けていたが、自分たちの身体が光っているコトに気付いていない様子であった。いや、気付いていて、無視しているだけなのかもしれない。
「…………霧風丸。あなたも全てを失ったのね。…………だけど…………それでもあなたは…………」
――その誇りも――その想いも――その記憶も、しのぶ、お前自身のモノではないと言うのにっ!――お前は何者だというのだっ?!
「…………全てを否定されても…………」
――好きだから。――大好きな人を、守りたいから――――
「きゃあっ!」
突然、楓たちを取り巻く光が爆発したように拡がり、それに驚いた瑞穂が尻餅をついた。
眩い光の中心では、横臥していた霧風丸がゆっくりと身を起こしていた。その顔は相変わらず人形のように無表情であったが、直ぐ傍にいる楓の姿を見つけると、ようやく、にこり、と笑みをこぼして感情を取り戻した。
「…………柏木楓さん。…………あなたのこころが、見えました」
楓は無言で頷いた。
「…………私はワイズマンの言う通り、あなたでもエディフェルでもない。――しかし、あなたたちの記憶は――今の私を創り出してくれました」
「…………私だってそう。エディフェルの記憶に囚われて、柏木楓という私自身を見失っていた。――私が好きなのは、次郎衛門ではない。あの人――」
少し頬を赤らめた楓は、霧風丸の頬から手を離して、代わりに手を取った。
「――そして、霧風丸。私の顔をした、強いもう一人の私――あなたも」
「楓さん…………」
「――私、闘う。初音を助ける為に。――耕一さんやマルチちゃんたちを助ける。――みんな大切な、大好きな人だから――」
「あ…………!?」
端で眩みながら二人を見ていた瑞穂は、その光の中で霧風丸の破損個所が見る見るうちに再生されていく光景に驚いた。
「……いったい……この二人に……何が起きているの?」
瑞穂は〈The・Power〉の力を知らない。これが、フォロンを喪失した霧風丸の体内にあるTHライドに残っていたエディフェルのオゾムパルスが、直ぐ傍にいた楓の中に取り込まれ、楓の体内で楓と霧風丸そしてエディフェルの記憶が融合し、それによって発動した〈The・Power〉がそれを分けて霧風丸を復活させたなどと――いや、フォロンを失った霧風丸にとってはこれは、柏木楓のパーソナルマインドを受けて生まれ変わったと言うべきであろう。
二つの心は今、一つとなり――――。
引継の関係から一番最後に出場したTH四号の艦橋にいた鷹橋たちは、ようやく現場に到着した。ところが、そこで黒いマルマイマーがゴルディオンフライバーンを装備し、マルメイマーと対峙している光景を目の当たりにして、全員唖然となった。
「――来栖川長官!これはいったいどういうコトか?」
『そ、それは――』
『あの黒いマルマイマーが、マルチちゃんのコピーであった為に、ゴルディのプロテクトを突破して装備してしまったんです!』
まだ唖然としていた綾香の代わりに、あかりが鷹橋たちに返答した。
「何だとっ!」
それを聞いた霜川が素っ頓狂な声を上げて驚き、
「なら、何故直ぐ、ゴルディオンフライバーンシステム緊急停止プログラムを作動させないっ!?」
『それが――先ほどから――――!』
「……恐らくは」
ゴルディオンフライバーンを装備しているマルマイマー・シャドウは、動揺を隠しきれずにいるマルメイマーを見て、嗤いながら言う。
「今頃、このシステムを停止させる信号を送っているだろうが――無駄だ」
そう言うとシャドウは、ゴルディオンフライバーンで薙いで見せた。すると、ゴルディオンフライバーンが向けられた方にあった病棟が、一瞬にして光粒子に変換されてしまったのである。
『緊急停止プログラムが効いていないっ!――あかりっ!』
「だって――ゴルディが――信号を受け付けないんだよ!」
「――ツールコネクトと同時に、ゴルディのシステムをハックして外部信号を受け付けないようにしてあるのさ」
「『な――なんてコトを――!?」』
「あ――はっはっはっはっ!!」
完全にゴルディオンフライバーンを文字通り掌握してしまったマルマイマー・シャドウは、狼狽するマルメイマーを見て一層高笑いを始めた。
「――さあっ!死に物狂いで逃げないと、光に変わっちまうよっ!ほらほらっ!!」
邪悪な笑みを浮かべるシャドウは、マルメイマーめがけてゴルディオンフライバーンを振り払った。
慌ててプラズマジェットで上空へ逃げるマルメイマー。間一髪、入れ替わるように走り抜けた活断ショックウェーブは、その背後にあった病院の施設を光粒子に変換させてしまった。
「上、逃げたって無駄さっ!ほらほらっ!」
シャドウは、ブンブン、と金色のフライパンを振り回した。幾重も走る無限加速の衝撃波は、やがてマルメイマーの装甲を掠め、火花のような光粒子を大気に散らせた。
「うわあっ!!」
掠めたとはいえ、その衝撃波の一部を受けたマルメイマーは激しい勢いで吹き飛ばされ、病院の庭にあった噴水に激突した。
「拙い――このままでは、マルチが――どうした?」
「霧風丸からの信号です!」
マルメイマーの大ピンチに慄然としていた長瀬主査に、宮沢隊員が霧風丸が壱式に向かって移動中であるコトを告げた。
「THコネクターの準備を、と……何をする気でしょうか?」
「何を、って、そりゃあ…………まさか?!――霧風丸!まさか今傍に、彼女が――」
マルメイマーは激痛を堪え、急いで噴水から離れて飛び上がった。その2秒後、噴水周辺は瞬時に光を散らし、巨大なクレーターと入れ替わっていた。そしてそのクレーターのほぼ中央に着地したシャドウは、飛び上がっているマルメイマーの後を追って飛び上がった。
「ほらほらほらっ!楽には死なせないよっ!」
「ううっ……!どうすれば…………え?」
その時、突然入ってきた連絡に、マルチは目を丸めた。
「あなたは……?」
『こちら、TH四号の鷹橋だ!マルメイマー、逃げ回ってばかりでは埒があかないぞ!』
『そ、そんなコト言われても……』
浩之が鷹橋の通信に電脳連結回線から割り込んできた。
『藤田隊員だな?私は鷹橋という!いいか、これは100パーセント保証は出来ないが、――ゴルディオンフライバーンに対抗する唯一の手段がある!』
『しゅ――手段?』
『そうだ――』
鷹橋は一呼吸おいて、
『ヘルアンドヘヴンだ』
『な――』
『迷っている暇はない。――保証は出来ないがしかし――ヘルアンドヘヴンのエネルギーなら、活断ショックウェーブにある程度抵抗が出来るハズ――いや、マルチのスペックなら、――藤田浩之、キミがいるなら、互角以上の力を引き出せるハズだっ!』
「そんな――――リュウ兄ちゃ――いえ、鷹橋二佐!それは無茶やっ!」
鷹橋たちのやりとりをTH弐式の艦橋で聞いていた智子が、困惑したように言った。
「そんな根拠の薄いコトは認められへん!」
『――待った!』
浩之が怒鳴っていった。
『――鷹橋さんの言っているコトにも一理ある――可能性は高い』
「藤田クン――自分、そない無茶な――」
『わかった』
「――綾香!?」
メインオーダールームから、メインスクリーンで状況を分析していた綾香が、うん、と頷いてそう言った。
『――他に手はない。ならば――奇跡を起こしてきたマルチの底力に賭けてみるしかないわ!浩之、マルチ、いいわねっ?』
『もとより!』
「やってみますっ!」
活断ショックウェーブ攻撃を躱わし続けていたマルチは、先ほどの攻撃で生じたクレーターの中央に着地し、上空から追いかけてきたシャドウを見上げると、両手を大きく広げた。
「行きますっ!」
Bパート(その2)へつづく