東鳩王マルマイマー第23話「勇姫王!嵐の決戦」(Aパート・その3) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:12月16日(土)20時41分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「あの攻撃は――」

 TH壱式の艦橋から、マルマイマー・シャドウと、真超龍姫&撃獣姫コンビの闘いを観ていた長瀬主査は、マルマイマー・シャドウがヘル・アンド・ヘヴンの構えで行った奇怪な攻撃に驚いた。

「…………マルマイマーのヘル・アンド・ヘヴンに非常に似ていて、どこか異なる――宮沢」
「わかっています。既に今の光の正体は分析――出まし…………あ」

 TH壱式の分析班主任隊員である、艦橋クルー紅一点の宮沢は、マルマイマー・シャドウの奇怪なヘルアンドヘヴン攻撃を目撃して直ぐに分析を開始していた。そしてその結果を見て、彼女は酷く戸惑った。

「どうした?」
「……トンでもない攻撃です。白黒の光の正体ですが、白は光粒子(フォトン)でしたが、黒が――暗黒物質(ダークマター)です」
「暗黒物質――――宇宙を構成する、目に見えないが存在するあれか」
「はい。暗黒物質は地表でもある程度の量は存在します。あのパチモノマルマイマーは、光粒子と暗黒物質を取り込み、対消滅のような手段で高エネルギーを得て、それを放射したものと思われます。恐らくは、マルマイマーのヘル・アンド・ヘヴンに匹敵――いえ、それを凌駕するエネルギー量と思われます。…………外見はマルマイマーですが、スペックはまるっきり桁違いですね」
「それは違う」
「え?」

 否定する長瀬の言葉に、宮沢はきょとんとした。

「…………マルマイマーも、その気になればそう言うコトは可能なスペックを持っている。但し、マルチ本人の精神的な負荷を考慮して、パワーを押さえているだけなのだ。我々の筋肉や頭脳が全開にならないのと同じように、朝比奈部長が設計時にゆとりと安全性を考慮したためだ」
「そうなんですか……、するとあのパチモノは、自滅を覚悟で力を揮っているのでしょううか?」
「さぁな」

 長瀬主査は頭を振った。

「――ただ、あいつはその力を持ってマルチを狙っている――自分自身を。いわば自殺志願の具象化というやつか。ドイツの民話に、ダブル、という、もう一人の自分と遭遇すると死んでしまうというものがある。ドッペルゲンガーと言った方が一般的か。まさにそれだな」

 そういうと長瀬主査は困ったふうな顔をした。

「でも――」

 宮沢は分析結果を表示したモニタを閉じ、

「僥倖にも、今のマルチは、マルマイマーの強化型、マルメイマーです。それに、あの藤田隊員も付いている。勝算が全くないわけではないのでしょう?」
「もっともだ」

 長瀬主査が感心すると、宮沢は、くすっ、と笑った。

「――しかし、問題はまだある」
「問題、ですか?」
「ああ」

 不思議そうに訊く宮沢に、長瀬主査は頷いた。

「マルチが、あのもう一人のマルチを――――」


 マルマイマー・シャドウは、真超龍姫たちが無事と知ってホッとしているマルメイマーを見て、嘲笑っていた。

「……仲間が無事で、ホッ、としたか」
「…………」

 マルメイマーは、目の前にいるもう一人の自分を見て、戸惑っていた。

「わたしにはあの二人がどうなろうと知ったコトはない――お前さえ苦しめばな」
『……何?』

 電脳連結を通じて、浩之が、かちん、と来た。

『――何を言うか。お前はマルチの負の感情によって生まれ、今もマルチ本体と同調しているんだぞ。言うなれば、自分自身を追い詰めているコトになる。――正気か?』
「正気ですよ、浩之さん」

 マルマイマー・シャドウは、にぃ、と不敵そうに笑った。

「それと――お前ではなく、わたしにはマルマイマー・シャドウという名があります」
『「マルマイマー・シャドウ?』」
「そう。――わたしは、マルチの影。マルチ自身が抱えていた、心の闇が励起し、具象化した存在」

 そういうと、マルマイマー・シャドウは自分の左胸を指し、

「――そして、マルチの闇の心を持つ者。――わたしには判る。マルチという“にんげん”が持つ、エゴや醜いこころを――――だからわたしは、お前を許さない」
『何だと?――何故、マルチを許せないのだ?』
「判らぬか、マルチ?」

 訊かれて、マルチは戸惑った。
 そんなマルチを見て、マルマイマー・シャドウは、はん、と忌々しそうに溜息を吐いた。

「――――判っているクセに。――――マルチ、お前は、わたしを否定した」
「『――!?」』

 マルチは、はっ、と驚くが、浩之もその意味を判っていた。

『……やはり、そうなのか』

 マルチは、自分が人間であるコトを知った。それによって、精神的レベルに変調をきたし、妙にハイテンションになったのだろうコトは予想していたし、このもう一人のマルチの出現も、自分でも制御できない感情を排他した結果、偶然、ワイズマンが作り出したコピーマルマイマーと同調を起こしたのだろう。そしてマルチの生真面目さ、いや、潔癖さが、自分自身の心の闇を肯定出来ず、物理的な分裂症を引き起こしたのだろう。浩之はそう考えていた。
 だが、排他した感情は人格となり、個別した存在になるとは。マルチが自分自身の心の闇に対する迷いがまだ振り切れていないだけなのかも知れないが、あるいは――

『――オゾムパルス――の仕業か』

 浩之はそう考えた時、ふと、マルマイマーのヘル・アンド・ヘヴンの仕組みを思い出した。マルチのTHライドの出力を全開にして、暴走するTHライドを沈めながら、その中にあるオゾムパルスを書き換える。それによって暴走するTHライドを内蔵するメイドロボットは、自我を萌芽させるのであるが、これも一種のヘル・アンド・ヘヴンなのだろう、と考えたのだ。

「理由はそれだけだ――――」

 そういうとマルマイマー・シャドウは右拳を振り上げた。

「ブロウクン・マグナムっ!?」
『マルチ!迷うなよっ!』
「はいっ!」

 元気良く返事したマルメイマーは、攻撃に転じるかと思いきや、動かしたのは左腕であった。

「テリオス・リングっ!」

 そう叫んで、左腕のプロテクトシェイドシステムを発動させ、発生させたものは、防壁用歪曲空間ではなく、マルメイマーの胴体ぐらいはあろう直径のエネルギーリングであった。

「プラスっ!」

 エネルギーリングが生じる僅か前に、マルメイマーは右腕を振り上げ、ブロウクンマグナムの発射態勢をとった。しかしよく見ると、通常は右回りに回転するところを、この場合、左回りに回転していた。

「ブロウクンマグナムっ!!」

 マルマイマー・シャドウがマルメイマーめがけてブロウクンマグナムを撃ち放った。
 それに僅かに遅れるように、マルメイマーもブロウクンマグナム発射態勢をとった。

「――『ブロウクン・テリオス』!!」

 マルメイマーのブロウクンマグナム、いや新必殺ブロー、ブロウクンテリオスは、正面に生じていたエネルギーリングを通り抜けた。
 するとエネルギーリングはブロウクンテリオスの回転に巻き込まれるように回転を始め、そのまま一緒に飛んでいった。
 リングを纏ったブロウクンテリオスは、ブロウクンマグナム以上のスピードを持ち、後手やモーションの遅れのハンデを一気に取り戻し、両者の剛腕爆砕拳は、その距離のほぼ中間点で激突した。
 ブロウクンマグナムとブロウクンテリオス。鏡写しで同じ方向へ回転するそれは火花を散らして圧し合う。威力も互角かと思われたそれは、ブロウクンテリオスがブロウクンマグナムの回転速度を僅かに上回り、遂に粉砕したコトで決着した。
 そればかりか、ブロウクンテリオスは勢いが衰えず、そのまま一気にマルマイマー・シャドウ目がけて飛んでいった。

「何ッ――――うおっ?!」

 驚くマルマイマー・シャドウの胴体を、ブロウクンテリオスが一気にぶち抜いた。皮一枚で繋がっている胴体は仰け反り、シャドウはそのまま地表へ墜落していった。
 シャドウの胴体をぶち抜いて消滅したテリオスリングを除き、撃ち放った右腕がマルメイマーに戻る。歪曲空間を作り出すディバイディングエネルギーをブロウクンエネルギーに変換させ、破壊力を増加させるブロウクンテリオスは、撃獣姫のブロウクンファントムをヒントに、浩之が歪曲エネルギーをそのまま攻撃力に利用するコトを思い付いた、マルメイマーの必殺ブローであった。

「おのれ――――」

 マルマイマー・シャドウは悪態をつきながら墜落するが、地表にあった、撃沈されたTH参式の残骸を見て、にやり、と笑った。
 マルマイマー・シャドウは、今だ燃えさかる参式の残骸の中に落ちた。

『――斃したか?――何?』

 マルメイマーは降下して確かめようとした時、残骸の中から何かが飛び上がってきた。

『「――マルマイマー!?』」

 マルメイマーを驚かせたのは、マルマイマー・シャドウが再生していたコトだけではなかった。

「……でかくなっている」

 そう。先ほど闘った時のシャドウは、マルマイマーのコピーだけあって、マルチの身長より少し大きい程度で、システムの大幅な変更によって真超龍姫と同じ2メートル強になったマルメイマーより一回り小さかったが、TH参式の残骸から飛び上がってきたマルマイマー・シャドウは、外見はそのままに、しかしマルメイマーと同じ身長に変わっていた。

『そればかりじゃないな』

 浩之は、シャドウの細部がオリジナルと微妙に変わっているコトに気付いた。

『右腕はマスターマルマイマーのブースター付きになっている。両脚は真超龍姫のそれとミックスしたような形になっている。左腕もよく見ると、霧風丸とミックスしたような――腕部が狼の顔をしている』
「胸のマルルンも、強暴な面構えになっています。つり目で、爪先が尖って立っています」
『…………この間、葵ちゃんがセリオ連れて遊びにきた時、お前、ザラブ星人の回のDVD観ていたよな』
「あ、はい」
『……成る程』
「?」

 浩之は状況が状況だけに、必死に笑いを堪えていた。

「……さぁ、第二ラウンドだ」

 マルマイマーシャドウは、不敵な笑みを浮かべていた。

『……笑っている場合じゃねぇな。マルチ、一気に決着をつける!ゴルディオンフライパーンだっ!』
「判りました!ゴルディ!」

 マルメイマーに呼ばれ、墜落していた真超龍姫と撃獣姫を介抱していたゴルディが振り向いた。

「――おおっ!待ってましたっ!」


 ゴルディが応えるのと同時に、メインオーダールームにいた綾香が、胸元からゴルディオンフライバーン起動承認キーを引き抜いた。

「ゴルディオンナックルシステム、発動承認っ!」

 綾香が承認キーをスロットに差し込むのを確認して、あかりも懐から取り出した解除信号発信用プリズムカードを引き抜いた。

「了解!――ゴルディオンナックルシステム、セーフティプログラム、リリーブ!!」

 あかりが正面のコンソールにあるカードリーダースロットにプリズムカードを差し込み、一気に引き下ろす。カードの解除キー信号を読んだオペレーションプログラムは、瞬時にゴルディアームにセーフティプログラムの解除信号を受信した。


「うおおおおっ!システムチェェェェェェンジッ!!」

 ゴルディはバーニアに火を入れ、マルメイマーめがけて一気に上空へ飛んでいった。
 ところが――――

「……これを待っていた!ははははは!」
「『?」』

 マルマイマー・シャドウは、上昇しながら変型するゴルディアームを見て、勝ち誇ったように笑い出したのである。

「――マルチよ!これで貴様も終わりだっ!」

 そう叫ぶと、何とマルマイマー・シャドウはゴルディアームめがけてプラズマホールドを放ったのである。

「何っ!?」

 唖然となるマルメイマー。ゴルディオンナックルに変型していたゴルディアームが、何とマルマイマー・シャドウに捕縛されたばかりか、それを引き寄せるとシャドウが右腕を外し、コネクターに右腕を差し込んで合体してしまったのである。

『ばかなっ!ゴルディオンナックルを取り込んだだとっ!?』

 浩之は思わず絶叫して驚いた。

「なんでゴルディオンナックルを装着出来るの!?あかり!」

 驚いた綾香が、Gツールシステムを管理しているあかりに問い質した。
 あかりは、Gツールシステムを管理するウインドウを見て、思いっきり瞠って唖然としていた。

「そんな――システムは正常に作動しています!」
『何だと?何でそんなコトが――まさか』

 あかりの返答に浩之が困惑したが、直ぐにあるコトに気付いた。

「そうか――――」

 綾香も、この異常現象の理由に気付いた。

「――あの黒いマルマイマーは、マルマイマーのコピー。だからゴルディアームのプロテクトシステムが、あいつもマルチと認識してしまったとしたら――――」


「――その通り」

 マルマイマー・シャドウは、ゴルディオンナックルからゴルディオンフライバーンを外し、それを掴んで悠然と身構えた。

「――わたしもマルマイマーとして認識されていたのだ。マルメイマー、これで貴様は終わりだっ!!」

(Aパート終了:ドリルマルーIIの映像とスペック表が出る。Bパートへつづく)

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