【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】
マルマイマー・シャドウが真超龍姫と撃獣姫を〈シャイニング・アンド・ダークネス〉の一撃で吹き飛ばしたその時、その背後でも変化があった。
正確に言えば、先ほどから。――エクストラヨークがTH参式を撃沈してからであった。
エクストラヨークは、参式を撃沈してからまったく沈黙していたのである。
参式を撃沈された時、弐式はミラー粒子砲の斉射を続けていたが、そのうち、全く反撃もしない様子に気付いた智子が攻撃を中止させた。この場合、攻撃中止は戦略的に間違いであるが、反撃もしない敵の様子に、得体の知れない不気味さを感じたためであった。
「…………奴ら、何を考えている?」
戸惑う智子は、エクストラヨークの艦橋で起きていた騒動までは想像がつかなかった。
「――ふおおおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!」
爆散する参式を目の当たりにして唖然となったリネットは、次の瞬間、背後から聞こえた絶叫によって我に返った。
リネットが振り返ると、艦橋に〈ザ・サート〉と共に戻ってきた月島瑠璃子が藻掻き苦しんでいたのである。
「何が――――〈ザ・サート〉!」
「拙いな」
〈ザ・サート〉は蹲って苦しんでいる瑠璃子を見下ろしながら、困ったふうに言った。
「……どうやらあの戦艦には、月島拓也が乗っていたようです」
「乗っ――――」
それを聞いたリネットは絶句した。顔色も見る見るうちに青ざめていく。
「月島瑠璃子の身体は、今は〈クイーンJ〉に支配されていますが、根元的なところではまだ月島瑠璃子のもの。そして、攻撃を指示したのは――」
TH参式の総攻撃を受けて、エクストラヨークが押された時である。
「――おのれっ!リネット、反撃しろっ!」
攻撃を受けて転んでしまった〈クイーンJ〉は、その怒りを敵にぶつけようとした。しかし、
「――駄目です。目標が爆煙に邪魔されて……」
「構わぬ!メーザー砲全門、正面斉射ぁっ!」
その直後、正面から凄まじい爆発音が聞こえ、それが敵艦を撃破した音だと知ると、〈クイーンJ〉は邪悪な笑みを満面に浮かべた。
――苦しみだしたのは次の瞬間からであった。
「……月島瑠璃子が、自分の兄を手にかけてしまったコトを察知したのでしょう。ああ、なんたる悲劇か」
大仰に嘆き悲しむ〈ザ・サート〉であるが、決して本心からではないのは確かである。そもそも拓也の心臓を消し去ったのはこの男ではないか。
「月島瑠璃子の意識を封じるためには、我が輩のような第三者が始末するコトが最適だった。しかし、自分の手で始末してしまっては、――これでは月島瑠璃子が完全に内に籠もってしまう。精神のヒッキーですかな。――〈クイーンJ〉、お判りかな」
〈ザ・サート〉は訊いてみるが、月島瑠璃子の身体を乗っ取っていた〈クイーンJ〉は遂にのたうち回り、応えられるふうには見えなかった。
「……〈ザ・サート〉」
不安になったワイズマンが訊いた。
「このままでは〈クイーンJ〉は……」
「死にはしない。――ただ、月島瑠璃子の力がその意識に全て持って行かれようとしている。〈クイーンJ〉が苦しんでいるのは、同化しているオゾムパルスが吸い取られているからだ」
〈ザ・サート〉の目には、月島瑠璃子の身体の奥に、一つの光点が見えていた。その光点に、月島瑠璃子の身体を象った精神体がもの凄い勢いで吸い込まれようとしていた様子が、その目にハッキリと見えていた。
「……全部持って行かれることはないでしょう。――しかし、これでは〈鬼界昇華〉に著しい影響をもたらす」
「影響?」
「ええ。本来ならば、月島瑠璃子のパワーを乗っ取った〈クイーンJ〉が、エクストラヨークを使ってそのパワーを増幅させ、全世界に居る哀れな子羊チャンどもに命令デンパをもれなくノシつけて送りつける予定でしたが――肝心のパワーがこれでは。少なくとも、今は無理っしょ」
そういって〈ザ・サート〉は、やれやれ、と肩を竦めて見せた。
「……撤退、やむなし、か」
ワイズマンはそう呟いて瞑った。どことなく、安心したふうに見えるのは気のせいか。
そして、操艦席にいるリネットも。リネットは、ほっ、と胸をなで下ろしていた。
「――リネット」
ワイズマンはリネットのほうを見た。
そして、気付いた。
「…………リネット。お前――――」
ワイズマンは気付いていたが、あえて言わなかった。
「……撤退ですね」
リネットはそう言うと、コンソールパネルを操作してウインドウを展開し、月への退路を分析し始めた。
時折、頬を伝う涙を拭い、すすり泣きながら。
「――あ!あかんっ!奴ら、ESドライブを始めよった!ミラー粒子砲、斉射!」
智子は慌てて攻撃再開を指示するが、エクストラヨークは悠然とESウインドウを上空に開き、バトルモードのまま、飛び込むようにその中へ消えて行ってしまった。
「……ワイズマン。シャドウは残していく気ですか?」
〈クイーンJ〉を介抱していた〈ザ・サート〉は、思い出したように訊いた。
するとワイズマンはゆっくりと首を横に振り、
「……元々アレは予定外のモノだ。それに、ヤツは闘いたがっているようだしな」
ワイズマンは何の感慨もないふうに言った。偶然とはいえ、ワイズマンの力が作り出したもう一人のマルチである。そしてそのマルチは、ワイズマン=柏木賢治にとっては孫に当たる存在、肉親であるハズだった。
〈ザ・サート〉は、ワイズマンの考えを今ひとつ理解出来なかったが、しかし言っているコトももっともだ、と思い、それ以上は訊かなかった。何より今の〈ザ・サート〉には、最悪の場合――〈クイーンJ〉が月島瑠璃子の力を得られなかった場合を想定した、〈鬼界昇華〉の手段をどうするか、そちらのほうが重要であった。
「…………ふん。逃げたか」
真超龍姫と撃獣姫を一撃で破ったマルマイマー・シャドウは、撤退していくエクストラヨークを見ながら、唾棄するかのように言った。
「……まぁ、これで無粋な奴らが居なくなったし、――心おきなく闘えるな、マルメイマー?」
ファイナルフュージョンを終えたマルメイマーは、滞空しながらマルマイマー・シャドウと対峙していた。撃墜された真超龍姫と撃獣姫のコトが気になっていたが、今、この強敵を警戒しなければ危険であった。
幸い、撃墜された真超龍姫と撃獣姫は何とかスラスターを使って着地出来たと連絡が入っていたのだが、二人ともそのまま伸びてしまった。
全身のパワーを装甲ごと吹き飛ばされたような感覚だったらしい。二人とも、仰向けに伸びたまま、上空にいる二人のマルチの対峙を見守るしかなかった。
「……ちぃ。せめて、あたしがTHコネクターで超龍姫と電脳連結出来ていれば!」
コネクタースーツに着替えていた梓が、壱式の艦橋で長瀬主査の横に立ち、悔しそうに言って舌打ちした。マルマイマー・シャドウの〈シャイニング・アンド・ダークネス〉は、梓がTH壱式に乗り込んだ直後に受けてしまったのである。
「……二人の自己修復には時間がかかりそうね。何とか回収には行けないの?――長瀬主査?」
「――あ?」
呼ばれて、長瀬主査は、はっ、と我に返った。
それを見た梓は、ようやく長瀬主査の今の心情を覚った。
死亡したミスタ=月島拓也の身体の中には、長瀬主査の甥である、長瀬祐介の魂が入っていた。4年前に死んだハズの祐介は、オゾムパルス体となって存命していたが、ミスタの死によって、今度こそ本当に死んでしまったのであろう。そのショックから簡単に立ち直れるハズもなかろう。
そう考えた時、梓はふと、初音のコトを思い出した。
家族を、そして想いを寄せていた従兄を目の前で失ったショックはいかばかりか。更にそれが、初音の中にいたリネットを覚醒させてしまったのだ。梓は複雑な想いに駆られてしまった。
「――梓くん。しのぶのコトだ」
「……え?」
長瀬主査にいきなり言われて、梓は、ドキッ、とした。
「TH参式が撃沈されたと言うコトは、あれに搭載されていたフォロンを喪失したコトになる。――フォロンは、もう一人の、いや、しのぶの本体なのだから」
「あ――――」
梓はようやく思い出した。
そう、TH参式を撃沈されたと言うコトは、ミスタを失ったばかりではなく――
藍原瑞穂は、突然倒れてしまった霧風丸を見て、呆然としていた。
「……まるでパソコンがフリーズしたみたいに止まったわね。…………もしもし?」
突然のコトに瑞穂は混乱気味であった。霧風丸に降りかかった最悪の災いは知る由もなかったが、しかし只ならぬ事態になっているコトだけは判っていた。
「……もしかして…………壊れちゃったの?――ど、どうしよう?」
おろおろと、辺りを見る瑞穂であったが、病院の人間は殆どこの棟からは避難が済んで誰も居ない。香奈子はミスタを連れて行ってしまい、戻ってきていない――ミスタが言っていた船が、さっき撃沈した飛行艇であったのが少し気になっていたが、最悪な考えはしていなかった。――残るは自分くらいしかいない……
「――あ」
瑞穂はようやく、自分がここにいる理由を思い出し、背後へ振り返った。
そこには、オゾムパルスキャンセラーを搭載した特殊ベッドに寝ている、柏木楓が居た――ハズだった。
「…………あれ?…………柏木さん?」
見る見るうちに瑞穂は瞠った。
ベッドで昏睡しているハズの柏木楓の姿が消え失せていたのだ。
「そ、そんなっ!?まさか、目を覚ました――あれ?」
と驚いた瑞穂は、やがてベッドの掛け布団のめくれ具合から、楓の身体が反対側に落ちている可能性を思い付いた。先ほどの爆発の衝撃波でベッドから落ちたとでもいうのか。
「……えーと」
恐る恐る、瑞穂はベッドの上に乗り、その奥を覗き込んだ。
予想通り、楓の身体はベッドから転がり落ちていた。見た目ではあったが、一緒に毛布にくるまれて落ちたコトが幸いし、外傷らしい外傷は見当たらなかった。
「……よかった。今、ベッドに戻しますから」
そう言ってベッドから降りた瑞穂は、楓の身体を抱き起こそうと手を延ばした。
その手を、いきなり楓が掴んだ。
「――か、柏木楓さん!」
「…………ここは?」
掴まれたとはいえ、大した握力でもなかった。反射的に身体が動いたのか、奇跡的に回復した、そのおぼろげな意識が楓の手を動かしたのかも知れない。とうの楓も、瑞穂の手を掴んだ理由など判ってはいないだろう。
「……よかった」
その安堵は、医者としての瑞穂ではなく、正直な気持ちからであった。精神的に深い傷を負い、目覚める保証もなかった患者だっただけに、こんな非常事態下であってもその回復は喜ばしいコトであった。
「……柏木楓さん。ここは病院ですよ」
「……病院?」
まだ思うように身体を動かせないのか、楓は目を動かして辺りを伺った。
「……妙に風通しの良い病院ですね」
「ま、まあ、確かに今は(苦笑)」
直ぐ真横では、先ほどまでの騒動で病室の壁には大きな穴が空いていた。楓は頬にあたる風からそう言っただけで、別に嫌味を口にしたわけではない。
そのうち、ゆっくりと意識がハッキリとすると、楓は身体の自由を取り戻し、瑞穂に支えられながら身を起こした。
「…………どうして、病院なんかに……?」
「少し前、楓さんは酷い事故に遭われて、昏睡状態だったんです」
瑞穂は、楓が鬼界四天王の一人として暴れていた事実をあえて伏せ、事故で、というコトにした。今までのコトを覚えていなければそれに越したコトはないし、覚えていたとしても、今それを告げてしまえば精神的負荷を与える原因となるだろう。ゆっくりと、時間を掛けて楓の心をケアするつもりだった。
だが、起き上がって最初に楓の視界に飛び込んできた、壁の穴の向こうで、自分と同じ顔をした鎧を着込んだ人物が、仰向けになって凍り付いたようにピクリとも動かず倒れている姿を見て、楓は、はっ、とした。
「…………霧風丸?」
「あ…………!」
瑞穂は、失敗した、と思った。楓はどうやら今までのコトを覚えているようで、その記憶を呼び覚ます原因となる存在を隠せなかったコトを後悔した。
これで楓が錯乱でもしたら、と瑞穂は狼狽したが、意外と、霧風丸を見つめる楓の反応は落ち着いたものであった。
「……どうしたの?」
「え?」
「……彼女、まったく動いていない」
「彼女――?」
言われて、瑞穂は楓が霧風丸を言っているのだというコトに気付いた。
「あ……、ええ、何か急に……止まっちゃって…………エネルギーが切れたのかしら?」
「…………いえ、違うわ」
「?」
「…………まるで抜け殻…………魂が抜け落ちたみたいに…………」
「魂?」
瑞穂が不思議そうに訊くと、楓は、霧風丸の傍まで連れて下さい、と言った。瑞穂はそれに従い、楓を支えながら壁の穴を抜け、霧風丸の傍に近寄った。
楓は、微動だにしない霧風丸をしげしげと見つめ、何度か呼んでみた。
「私も試してみましたが、応答がなかったわ」
「……いったい、いつから?」
「いつ?――え、ええ、先ほど…………MMMの飛行艇が巨大なロボットの攻撃を受けて破壊されてから……かな?」
「破壊――――」
それを聞いた楓は瞠り、慌てて上空を見回した。
既にエクストラヨークの姿はなく、すぐ上空にはバトルモードのキングヨークとTH弐式が平行して滞空し、その向こうにはゆっくりと壱式が飛行していた。
「…………参式は?」
「さんしき?――ああ、じゃあそれかしら。ミスタさんがそんなコト言っていましたから」
「ミスタ――――」
楓は呆然となった。
「…………まさか、ミスタ――――え?」
そこまで言って、楓は困惑した。
「…………どういうコト?…………私は柏木楓…………のハズなのに………………?」
楓を困惑させているモノは、次々と脳裏を過ぎる奇怪な光景であった。
黒髪のロボットと闘っている光景。
自分の指先から伸びている糸が、新宿上空に達している光景。
――そして、狂笑する柏木楓と闘っている光景を。
「……楓、さん?」
「……私は…………誰なのですか?」
Aパート(その3)に続く