【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMMのマークがきらめく。)
「――〈鬼界昇華〉の邪魔はさせないっ!ブロゥクンマグナムっ!」
マルマイマー・シャドウはTH参式めがけて必殺の拳を撃ち放った。轟音と共に爆煙が流れる空を穿つブロゥクンマグナムは、TH参式の艦体を一撃で撃ち抜いた。
「――――うわっ!?」
突然の攻撃に驚くミスタ。
「フォロン!今の攻撃は――」
その訊いた時だった。ミスタは、正面のモニタに拡がる爆炎の中から、幾重もの閃光を目撃した。
「――メーザー砲っ!」
それは、TH参式の攻撃を受けたエクストラヨークからの攻撃であった。爆煙の中から見え始めていた、バトルモードに変型が完了したエクストラヨークの両手は、TH参式に向けられ、その指先に搭載されている10連メーザー砲から発せられたエネルギー衝撃波が、牙を剥いたのだ。
それは突然のコトであった。接近しすぎていた所為もあっただろう。だが何より、〈ザ・サート〉によって心臓を喪失していたミスタの衰弱は、補っていた精神力も遂に限界に来て、判断力を鈍らせていた。
更にマルマイマー・シャドウの不意の攻撃は、TH参式の推進システムを直撃していて、MMM戦術飛空挺一の機動力を持つハズの参式の回避運動は通常の四割も発揮できなかったのだ。
そしてその遅れた回避運動は、エクストラヨークに艦体を無防備にさらす結果を招いた。幾重ものメーザー砲はTH参式を次々と撃ち抜いていった。
そして一番最悪の結果が――一本のメーザー砲が、TH参式の艦橋を直撃した。
突然のコトに、メインオーダールームのメインスクリーンでその惨劇を観ていた浩之たちは、呆然と立ちつくしていた。
「…………TH参式…………撃沈、爆散……………………っ!」
そこまで報告して、泣き顔のレミィは唇を噛んだ。
「――――乗員は!?TH参式の乗員たちは――」
「……参式は、基本的にフォロンのオートコントロールで稼働している。…………稼働に必要な最低乗員数は一人…………艇長のミスタのみ」
狼狽する浩之の問いに、綾香が今にも爆発しそうな貌を堪えながら応えた。
「――じゃあっ!」
綾香のほうを見ていた浩之は、もう一度メインスクリーンのほうを見て、そこに拡がる爆炎を食い入るように見つめた。
「――ミスタは――脱出出来たのか――」
「――直撃だ」
TH壱式の艦橋にいた長瀬主査が、沈痛な面もちで言った。長瀬以外の艦橋にいたクルーは、TH弐式の智子たちも含め、絶句するばかりであった。
「……間違いなく、ミスタの座っている位置を撃ち抜かれてしまった。……あれでは、脱出ポッドも使う暇もない――――祐介」
一方、目の前で参式を撃沈された真超龍姫と撃獣姫は、爆散して地表に落ちていく参式の破片を呆然と見下ろしていた。
「……黒いマルマイマーに気を取られていなければ…………加速装置とプラズマジェットウィングで助けられたハズだった………………!」
そう呟いて撃獣姫は顔を両手で覆い、嗚咽した。
そんな撃獣姫とは対称的に、隣りに滞空していた真超龍姫は、険しい顔で周囲を見回し、何かを探していた。
やがて、空に流れている爆煙の中から、目的のモノを見つけると、真超龍姫は怒りに震えながらそれを指した。
「――――貴様っ!絶対――絶対――――っ!!」
(「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出てOPが流れる。Aパート開始)
地表から、真超龍姫たちを見上げていたマルチとゴルディアームは、ただただ唖然とするばかりであった。
『……マルチ』
そんな時だった。マルチの通信回路に、浩之の重々しい声が入ってきた。
「浩……之……さん」
マルチは仰いだまま、唖然とした顔で応えた。
『…………聞こえているな。…………判っているだろうな?』
「わかっ…………て、いる?」
『ああ――――』
次第に浩之の声が張り上がり、
『――――人一人、死んでいるんだぞ!マルチ、お前、何を迷うっ?!』
「迷う、って……」
『――俺には判っているんだっ!お前が、自分の心に迷いが生じているコトをなっ!――見ろっ!』
見ろ、と言われてマルチは迷ったが、しかし浩之が何を指しているのか、何故か判っていた。――自分が見上げているモノである。
黒い、もう一人のマルチを。
『――あれは、お前の心の迷いが生み出した、お前自身なんだっ!判るなっ!?いや、判っているハズだッ!』
浩之には確信があった。
MMM基地を襲った鬼界四天王との戦闘。その中で対峙した、生機融合体と化したエディフェル=柏木楓の暴走に、マルチが戸惑い恐怖していたコトを、電脳連結によって気付いていたのだ。浩之は千鶴を失ったばかりのマルチにその件を話すのは酷と思い、黙っていたが、それが今のマルチの不安定な感情を生み出す原因であると判っている以上、もはや黙っているコトは出来なかった。
『――――そんなに、人の心が怖いか?』
「……え?」
急にトーンダウンした浩之の声に、マルチは戸惑った。
『……急に、お前は人間だ、と言われて――怖いのか?』
「――――」
マルチの顔が強張った。
『……人の心に憧れていたお前が、何を怖がる?』
「…………それは…………その…………」
『――そんなに心が怖いか?――人の心を持った自分が怖いのか?』
「――――」
『……そのおびえが形となって――あいつを、黒いマルチを生み出したんだ』
「あれが…………?!」
マルチは、上空にいるマルマイマー・シャドウを探し、見つけた。マルマイマー・シャドウは、対峙していた真超龍姫と撃獣姫と既に交戦状態にあった。
二人を相手にしているマルマイマー・シャドウは、その攻撃に全く臆せず、笑いながら相手をしていた。
まるで、闘うコトを楽しんでいるように。
マルチはもう一人の自分の、そんな姿を見て酷く戸惑った。
「…………あれが、私?」
『そうだ。――――あれは、お前が人の心を――人の心の暗黒面を恐怖したあまり、お前自身の中にあると思ったその心の醜い部分を拒絶した結果――励起し、お前から分離した、お前自身の暗黒面そのものだ!』
浩之の指摘に、マルチは慄然となった。
――確かに、マルチには判っていた。あすこにいる黒いマルマイマーが、もう一人の自分であるコトは。
しかしそれを認めてしまった時、マルチは、自分の心に暗黒面があったコトも認めるコトになる。
――自分が、本当は人間であるならば、それが自分にもあって不思議ではない。
マルチは心の暗黒面を、醜い、と純粋に思った。――純粋すぎたから、その思いは激しい拒絶となったのだ。
憧れと拒絶。人は、様々な経験や他人の影響によってその二律背反を克服していく。
だが、経験らしい経験もなく、突然、自分は人間だと告げられた少女が、その二律背反に耐えうるハズもない。
マルチは浩之に指摘され、ようやくその二律背反に向かい合っている自分に気付いた。
形を成すマルチの二律背反は、哄笑し続けていた。
『――マルチ』
先ほどまでのキツイ口調ではなく、穏やかな言い方をした浩之に、マルチは、はっ、とした。
浩之は、マルチの心の迷いを全て見透かしていた。
『……お前は、今までどんな思いで人と接し、想いを巡らせてきた?』
「え――?」
『……お前は、多くの心を見て、そして接してきた。時には哀しく、醜いモノもあったろう。――だがそれが、俺たちと比べて僅かしかない経験であっても――――否定するに値するものか?』
「否定…………?」
『今のお前は、俺と初めて出会った頃と比べて、大きく成長していると思っていた。それは、今言ったように、多くの人間と巡り会い、そして時には立ち向かい闘って勝ち得た、今のマルチを築き上げた大切なモノばかりじゃないか――――それを今、否定して、何が残る?お前にとってそれは、ただのメモリーデータに過ぎないのか?』
「そ、それは――」
『嫌だから――リセットしたいのか?全ての記憶や経験を忘れて、何もかも一からやり直したいのか?』
「そ、そんなコトは――な、ないです……!」
マルチは浩之の言葉に酷く動揺した。
しかし浩之の詰問は終わろうとはしなかった。
『人間は――過去を否定したいからと言って、全てを無かったようにするコトは出来ない。――だからこそ、過去の全てを肯定する。それが、自分自身を作り上げてきた、“経験”という大切な宝であり、――心を紡ぐ大切なエネルギーなんだ』
「…………」
『たとえ醜い心だろうが、哀しい心だろうが――それをもたらした己に真っ向から立ち向かわなければならないんだ!――それが、生きる、というコトなんだ!機械だろうが生き物だろうが、そんなコトは関係ない!マルチ、お前が、真に心ある者ならば――この試練に逃げずに立ち向かえ!』
「試練――――」
『そうだ。お前が人の心をまだ信じているのなら――」
……じゃあ、今は、この手を握っててくれませんか?……浩之さんの温もりがあれば、わたし、眠れそうです。
「――心ある者であるコトを誇りに思えっ!それでも迷うなら、俺が導いてやるっ!』
「浩之さん…………!」
「……浩之ちゃん」
マルチがその名を口にしたのと同時に、メインオーダールームに居たあかりも、浩之が入っているTHコネクターのほうを見て呟いた。
(…………もう、誰も死なせたくありません)
それは、MMM基地に鬼界四天王が襲撃してきた時、来栖川邸にいた浩之が、来栖川京香に向かって言った言葉であった。あの闘い後、京香がその時の様子を綾香に語ったコトであかりも知るコトとなった次第だが、いかにも浩之らしい、と思った。
そしてその言葉は、あかりだけでなく、綾香や智子たちにも改めて決意させた。
その矢先の悲劇。浩之のショックはいかばかりか。しかし浩之は、心に迷いを抱くマルチを叱咤し、励ましている。
乗り越えているワケではないのだろう。
浩之を突き動かしているのは、怒りに他ならない。
マルチの不甲斐なさではなく、自分自身に対しての。マルチへの叱咤は、全てを気付いていながら、何も出来ずにいる自分の不甲斐なさを叱咤しているものなのだ。
だから浩之は、泣いていなかった。
あかりは、涙を拭うと、パン、と両掌で自分の頬を叩き、気合いを入れた。
何の偶然か、後ろのほうで同じ音が聞こえた。
綾香のものだった。
同じ行動を、同じタイミングでとってしまったあかりと綾香は、思わずお互いの顔を見合わせた。
やがてどちらからともなく、ふっ、と笑みをこぼし、頷いた。照れくささ半分、そして――。
レミィは顔を見合わせている二人の様子を戸惑いながら見ていたが、二人のそんな笑みを見て、ようやく何かを理解したらしく、うん、と頷いた。
「――もう、これ以上は――――」
マルチは、マルマイマー・シャドウの闘いを見上げていた。
そのうち、マルチは、ぎゅっ、と拳を握った。
「――!マルチのパラメーターが正常値に戻り始めたヨ!これなら、電脳連結も問題なくOKネ!」
「よっしゃあっ!マルチ!」
「――はいっ!」
元気良く応えるマルチに、隣で見守っていたゴルデイアームが驚いた。
しかしその元気さは、先ほどまでのハイテンションから来ているものではないコトは、ゴルディにもすぐに判った。
そこには、いつものマルチが居た。
明るく、優しく、そしてちょっと気弱だが――勇気ある少女が。
「――マルーマシン!」
マルチのかけ声と共に、電脳連結暴走阻止の為、マルメイマー緊急停止プログラム発動と共に分離していたマルーマシンたちが再び飛び上がった。
「綾香!ファイナルフュージョンの承認を!」
「判っている!」
浩之の要請に、綾香は頷いた。既に浩之はマルチとの電脳連結を再開していた。シンクロ率はピッタリ100パーセントをマークしていた。
「これは人類の命運を賭けた闘いであると同時に、全ての心ある者が、その心を賭けた闘いであると思うわ。この闘いに、浩之、マルチ、あなたたちの勇気を信じて――ファイナルフュージョンッ!承認ッン!!」
「了解っ!」
あかりは元気良く応えると、コンソールパネルを操作し、ファイナルフュージョンプログラムをロードする。
「マルメイマー、ファイナルフュージョンプログラムっ!」
そして右拳を高く振り上げ、それをコンソールパネルにあるセーフティアクリルに覆われたFFプログラム起動ボタンに叩き付けた。
「――ドラぁ――イッブッ!!」
『「ファイナル!フュージョンッ!!』」
マルチは上空に飛び上がり、超電磁竜巻による合体保護フィールドを展開する。
その渦の中へ、次々とマルーマシンが飛び込んでいく。
渦の中心では、装着しているファントムマルーのパーツを変型させたマルチの身体に、順序よくマルーマシンが合体していく。果たして――
『「マル!メイ!マァ――ッ!!』」
超電磁竜巻を吹き飛ばし、遂に新たなる勇姫王が――マルメイマーが降臨した。
「――ふむ」
遂にファイナルフュージョンを果たしたマルメイマーに気付いたマルマイマー・シャドウは、真超龍姫と撃獣姫の後方でエメラルド色に輝くそれを見て、感心したふうに言った。
「どこを見ているかっ!」
真超龍姫が左腕のドラゴンテイルで攻撃を仕掛けるが、マルマイマー・シャドウはそれを容易く避けた。そして、ジロリ、と二人のほうを見た。
「――ここまでだな」
「な、何を――――何?」
真超龍姫と撃獣姫が戸惑ったのは、マルマイマー・シャドウのその言葉ではなかった。いや、多少はあったかも知れない。
しかしそれを凌駕させるコトを、もう一人のマルチは行ったのだ。
それは、両手を正面に突き出し、拳を重ねる構え――
「「ヘル・アンド・ヘヴンだとっ?!」」
「違うね」
そう言ってマルマイマー・シャドウは、口元を横に広げた。
「――〈シャイニング・アンド・ダークネス〉!!」
一瞬だった。
余りにも一瞬のコトに、マルメイマーは目を疑った。
マルマイマー・シャドウが合わせた拳の先から発せられた、全てを溶かしてしまうような眩い発光と、全てを飲み込むような暗黒が、真超龍姫と撃獣姫を一撃で吹き飛ばしてしまったのである。
Aパート(その2)に続く