東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Bパート・その4) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:12月10日(日)22時09分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 病院敷地内では、真超龍姫と撃獣姫が、マルマイマーと闘っていた。
 ――邪悪な気を発する、黒いマルマイマー=マルマイマー・シャドウと。
 しかし、闘うと言っても、先ほどから睨み合っているばかりである。
 戦闘力を強化された真超龍姫だけでなく、マルマイマーを強化した撃獣姫の最大の技、ブロゥクンファントムすら、プロテクトシェイドで弾き返し、ブロゥクンマグナムやプラズマフォールドで二人を翻弄していた。
 そして、肝心のマルマイマー、いや、マルルンが失われ、新たなサポートマルーマシン、ファントムマルーによってマルメイマーになれるマルチは、ゴルディアームに引き留められていた。

「わたしも!わたしも、闘います!」
「あかんあかん!マルチ姉さん、あんた今、藤田の旦那と電脳連結が解除されとるんやで!ただのメイドロボに等しい状態ではナンも出来ンわ!」

 そんな二人を、真超龍姫はちらっ、と呆れ気味に見遣りつつ、撃獣姫と二人がかりで相手をしているマルマイマー・シャドウを警戒した。
 マルマイマー・シャドウは、自ら打って出るコトはなく、全て真超龍姫と撃獣姫の攻撃を凌ぐばかりであった。

「…………攻撃したら返す。まるっきり私たちと闘う気が無いみたい」
「狙いは恐らく――」

 撃獣姫は不安げな顔でマルチのほうを見た。

「しかし、何故――」

 真超龍姫は、もう一人のマルチを見つめ、戸惑った。MMM基地が鬼界四天王たちに襲撃された際、自分たちのコピーロボットが暴れ回った話は聞いていたが、その生き残りがマルマイマー・シャドウだとして――

「……あいつから、マルチ姉さんと同じ反応を――オゾムパルスを感じる?」


「……浩之?」

 メインオーダールームで指揮を執っている綾香は、先ほど、マルチとの電脳連結の暴走で死にかけた浩之が、再度電脳連結を試みようとしているコトに驚いた。

「――無茶よ!今のマルチが、あんたには手の終えないじゃじゃ馬だってコトは――」
「だから、だよ」

 浩之はまだ先ほどのダメージが残っていて顔色が少し悪かったが、そればかりではないようである。

「……このままでは、みんなが危ない。…………多少のパラメータ補正でなんとか制御してみせる」
「無理ヨ!」

 レミィが驚いて言った。

「明らかに今のマルチは、自分の感情のコントールが出来ていないのヨ!まるで心が壊れているみたい――感情回路がショートしているのヨ、キット!」
「マルチの心はプログラムじゃない――柏木耕一と千鶴さんの娘の魂がもたらしているものだ」

 浩之は念を押すように、強調して言った。

「機械でも数値でもない――――数値でも――――?」

 そう言った途端、浩之は作業する手をピタリと止めた。

「……浩之ちゃん、どうしたの?」

 不安げな顔で浩之に従って電脳連結の再接続作業を行っていたあかりが、浩之の様子に気付いて訊いた。
 すると浩之は、急にあかりのほうを向き、

「……今のマルチ、確かにいつもと違うよな」
「……え?う、うん」

 何を今更、とあかりは不思議がった。

「……いつものマルチなら、奮起はしても――闘うコトに躊躇いはどこかしら残っている」
「うん……。確かにいつもなら、張り切ってみせても、怯えているような……」
「……で、だ。――具体的に、どう暴走しているように見える?」
「どう?」
「ああ。――具体的に判らなければ、――喜怒哀楽」
「喜怒哀楽……?」

 二人の話を聞いていた綾香が不思議そうに言った。

「その基本的感情のうち――どれが欠けていると思う?」
「欠けている?」

 あかりはてっきり、感情のどれかが突出しているか、と訊いてくるものと思った。

「そうだ、欠けている――まるで、何かがマルチから抜け落ちてしまったような」
「………………What’s?」

 浩之の言わんとしているコトに最初に気付いたのは、レミィだった。

「……ヒロユキ……まさか、あの黒いマルマイマーは?」
「そのまさか、だ――確証はまだ無いが」
「どういうコトなの、レミィ?」

 意味がまだ掴めていないあかりが怪訝そうに訊くと、レミイは手元のコンソールを操作し、中央のモニタに新しいウィンドゥを開いた。それは、マルメイマーのパラメータウィンドウであった。

「待って――」

 続いて、レミィは操作を続けた。

「今、サテライトネットワークから、あのマルマイマーのデータを検出してみるから――Finish!」

 そう言ってレミィがENTERキーを打った。
 次の瞬間、マルメイマーのウィンドウが左半分に縮小し、空いたウィンドゥ部に新しいパラメータデータが表示された。

「――偶然じゃない。同じ、信号――たとえハードをコピーしていても、THライドの波動は――――」

 そこに新たに映し出されたのは、マルメイマーとウィンドウと同じデータであった。
 唯一違うのは、名前が「EXTRA・MULMAIMER」、つまりマルマイマー・シャドウから検出されたパラメータデータであるコトを告げていた。

「――――波動の数値まで一致している――マルチちゃんが二人存在するの?」

 余りのコトに、あかりと綾香は絶句した。

「……Anbelieve!?Why?」

 自分で推測して分析したにもかかわらず、レミィはその結果に慄然とした。

「……しかし、正確に言えば、マルチが二人存在しているのではない」
「……どういうコト?」
「よく見ろ。測定されている二人のマルチのパラメータ変動値の反応を」

 言われて、あかりたちはパラメータウィンドウを見た。
 しかし、それを見た限り、二人のマルチがそこに存在しているコトを数値で証明する以外、判らなかった。

「――判らないか?――息がピッタリ合って居るかのように――全く同じ変動を起こしているコトを」
「え?………………あ、――」

 ようやくあかりがそれに気がついた。

「さっき、電脳連結が暴走した時、俺はマルチに持って行かれそうになったが――まるで二つに裂かれそうな気分だった」
「二つ?」
「そうだ。――だから、もしかしたら、と思ったが、どうやら的中したらしい。――綾香」
「な、何?」

 綾香はどきっ、とすると、浩之は次の言葉を口にするのを躊躇い、ややあって口を開いた。

「…………あの黒いマルマイマーは、マルチの外部端末なんだ」
「はぁ?」
「つまり――黒いマルマイマーは、恐らくオゾムパルスによって無線連結を果たしているもう一体のマルチなんだ――いうなればあれは、マルチの一人芝居なんだ」
「一人芝居――?!」

 綾香は半ば呆れ気味に絶句した。

「マルチが好戦的なのは、好戦的なもう一人に感情を引っ張られている為なんだ。但しそのコトは、マルチ自身も意識していない。気付いていないのだ」
「何でそんなコトが――」
「それは俺にも判らない。――判らないから、もう一度電脳連結して調べるしかないんだ」
「でも浩之ちゃん、そんなコトしたら浩之ちゃんの意識がまた――」
「大丈夫。それが判っていれば、ある程度は対抗出来る。特に今のマルチは、喜怒哀楽の怒りの感情が突出している――まるで怒りの感情がもう一人のマルチに吸い尽くされているような――――いや――――」

 そこで浩之は、ある可能性を思い付いた。
 あまりにもバカバカしい可能性だった。だからあえて口にしなかった。

「とにかく、今のマルチを何とか押さえなければならない、無理は承知だ。頼む――」

 そこまで浩之に言われ、あかりもレミィも綾香も、もうこれ以上引き留められないと思った。
 そんな時だった。TH参式が、病院の近くに着陸しようと降下を始めた。


「…………ミスタ」

 霧風丸は、梓と香奈子に支えられながら、楓の病室に戻ってきたミスタを見て、唖然となった。

「……今のあなたの身体には異常なデータがあります。先ず心拍音が――」
「……そんなコトはどうでも良い。参式は呼んだな?」
「は、はい…………敷地内は無理ですので、向かいの坂に乗降用アンカーを降ろしています」
「判った。――梓さん」
「――あ、え?」

 梓も、ミスタの心拍音が聞こえない異常さに気を取られていた。

「真超龍姫が苦戦しているらしい。急いで弐式に戻って電脳連結してやるんだ」
「しかし――――」
「今はまだ、どんな事情か知らないが、エクストラヨークは牽制のみで攻撃に転じていない。だが瑠璃子が敵の手に落ちた以上、時間の問題だ。――急いでくれ」
「でも…………」
「月島さんなら、私に任せて下さい」

 迷う梓に、香奈子が頷いて言って見せた。

「…………」
「迷っている暇は無いハズでしょう?――急いで!」

 香奈子はどこか躾けるような口調で梓に言った。すると梓は、びくっ、と驚いて慌てて背筋を伸ばした。まるで香奈子が梓の母親のような――

「「……あれ?」」

 その反応に、梓ばかりか、香奈子本人も驚いた。

「……なんか……昔こんなふうに叱られた気がする」
「…………変、ねえ。…………何故か懐かしい気がする」

 不思議そうな顔で打開の顔を見つめる梓と香奈子。

「おそらく、エルクウの記憶だろう」

 ミスタは気付いていた。

「太田香奈子くんは、リズエルと共に地球にやって来た、恐らくはカミュエルと呼ばれる、エルクゥ四皇女の乳母にあたる存在のオゾムパルスを受け継いでいる。……それが影響を及ぼしているのであろう」
「……ふうん。…………何となく、判るような気がする――いや、わかった」

 梓は戸惑いを捨て、笑ってみせた。

「――行く。――ミスタ、気をつけて」
「ああ」

 ミスタが頷くと、梓は開かれている窓から飛び出し、腕時計に仕込んである通信機からTH弐式の艦橋にいる智子へ乗降する旨の連絡を入れた。
 梓が去った後、ミスタは霧風丸の様子を見ていた。

「……ダメージが酷いか」
「……破損率63パーセント。再稼働に必要な自己修復に要する時間は推測平均489秒。主要フレームおよび制御用サーキットにはダメージはありません」
「わかった」

 ミスタは頷くと、霧風丸の頭を優しく撫でた。

「……補正修復ルーチンが完了するまで、霧風丸はここに残れ。後は、私がやる」
「月島さん…………!」

 ミスタを肩車していた香奈子が驚きの声を上げた。

「何をなさるのですか?」
「太田さん。……済まないが、途中まで指定した場所へ私を運んでくれないか?」
「運ぶ、って…………」
「向かいの坂に、私の艦がある。幸い、本格的な艦隊戦にはなっていない様子だから、今のうちに」
「でも…………」

 困ってしまった香奈子は、思わず瑞穂のほうを向いて目で訴えた。
 訊かれて少し迷った瑞穂の視線は香奈子とミスタの間を行き来する。迷ったが、頷くしかなかった。

「……わかった。柏木さんのコト頼むね。月島さん、行きましょう」

 香奈子はミスタを肩車して病室を出ていった。
 瑞穂は二人の背を見つめて見送った。
 何故だか判らなかったが――不吉な予感が瑞穂を掠めていた。

 香奈子は、病棟の玄関を出た時、ふと、背中で静かにしているミスタに呼びかけた。

「……月島さん。大丈夫ですか?」
「……あ、ああ」

 どうやらミスタは少し眠りかけていたらしい。
 香奈子は、不安な気持ちで一杯だった。だからいつの間にか引きずる形になっていても気付かなかった。神化によって備わった怪力は男一人、楽に片手で持ち上げる力があった。
 香奈子もまた、神化によって強化されている聴覚によって、ミスタの心拍音がまったく聞こえていないコトに気付いていた。にもかかわらず、ミスタが正常な反応を示しているのだから、いったいミスタに何が起こっているのかとても知りたかった。

「……済まない。ここから先はは……」
「いえ。どうにも変な力に目覚めちゃってみたいですから、ちっとも重く感じませんよ」

 そういって香奈子は微笑んだ。
 ――かつて自分を滅茶苦茶にした男に向かって。
 香奈子は、辺りを見て、坂のあるほうに停泊している、巨大な飛行船を見つけ、そちらへ向かった。エクストラヨークは丁度反対側に滞空しており、何故だか判らないが攻撃を始めないのを不思議に思った。

「……急ぎましょう」

 香奈子も、得体の知れない不安に戸惑った。その時はそれが、視界に入ったエクストラヨークが暴れ回った時のことだろうと思ったが、本当は心のどこかでこれから起きる悲劇を予期していたのかも知れない。

     Bパート(その5)へつづく