東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Bパート・その5) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:12月10日(日)22時08分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 ミスタを肩車しながら歩いていた香奈子は、ようやくTH参式から降ろされている乗降用アンカーを見つけた。

「月島さん、あれですね」
「……ああ」
「…………大丈夫ですか?」

 か細い声で応えるミスタの様子を心配した香奈子は、不安げに訊いた。

「……色々あって疲れたからね」

 ミスタはオゾムパルスキャンセラーマスクを外して、月島拓也の素顔をさらしていた。血の気のない白蝋のような顔はまるで死人のようであったが――事実、未だに心拍音が聞こえずにいた――、受け答えはちゃんとしていたので、香奈子はどうしたものかと迷っていた。

「……やはり、病院に戻った方が」
「駄目だ。……瑠璃子を、いや、〈クイーンJ〉を止める方が先だ」

 拓也はそういって唇を噛んだ。香奈子はそんなミスタを見て、複雑な気持ちになった。
 瑠璃子のコトは、瑞穂や、かつて自分が暴走した際に調書を取りに来たMMMの関係者――ルミラ、という名の美しい女性であった――の話から聞いていた。
 かつてのクラスメート。
 この月島拓也の、妹。
 そして、拓也の暴走を防いだ人物。香奈子は狂気の世界に閉じこもりながら、瑞穂たちを助けてくれた長瀬祐介を導いた大きな力の主が、瑠璃子であるコトを気付いていた。
 その彼女が、人類存亡の鍵を握る存在であるコトを、ルミラから知らされていた。だから、瑞穂たちは、意識のない瑠璃子を厳重に「監視」していたのだ。
 だから香奈子は、ミスタが自分のダメージも省みず、瑠璃子がエルクゥたちの手に落ちた以上、全力を尽くしてそれを防ごうと必至になっているのだというコトも理解していた。
 その他にも、妹を救いたいという想いが突き動かしているのであろう。

 かつて、その恐るべき力を暴走させ、香奈子たち生徒会の女子生徒らを陵辱し、瑞穂を、新城沙織をそして長瀬祐介を襲った、忌まわしい男。

 なのに、正気に戻った今も、香奈子は拓也に対して怒りがひとつも湧かなかった。

 いや、判っていたのだ。正確に言えば、薄々感じていたと言った方が良いだろう。
 拓也もまた、何か巨大な力によって狂わされていた、哀れな被害者だと言うコトを。
 しかし香奈子には、それがいったい何なのか判らなかった。香奈子は〈ザ・サート〉の存在を知らないのだ。

 そして今、拓也はその力と戦っている。――そう思いたかった。
 あの時の、狂気に支配されていた頃の拓也は居ない。
 頼れる、優しかった先輩の、あの穏やかさか、今のこの男から感じられるのだ。
 それが、長瀬祐介の精神が拓也の中に入っていた為だと思っていたが、香奈子はそれだけではないと思っていた。元々、月島拓也はこういう男なのだ、と。
 何故だか判らないが、今、この男からは、長瀬祐介を感じなかった。何かあって彼の意識が消えてしまったのかも知れない。先ほどからずうっと月島拓也で居る理由を、香奈子はそう納得していた。正直、祐介の行方も気になるが、それ以上に拓也の様態が心配であった。
 もしかすると、このまま無理をすれば、拓也は――――

「……ありがとう。着いた」

 香奈子は、はっ、と我に返った。思いに耽っていた間に、TH参式の乗降アンカーの前に着いていたのだ。

「後は、乗降用リフトを降ろすだけだ。……柏木楓を頼みます」

 そういってミスタは香奈子に頭を下げ、身体を離した。
 離れた瞬間、香奈子はミスタの腕を思わず取っていた。

「香奈子くん――――」

 驚くミスタの顔を見て、香奈子は我に返り、そして自分の突然の行動に驚いて慌ててその手を放した。
 ――つもりだった。何故か、香奈子は、ミスタの腕を掴む自分の手を放さなかった。
 離せなかった。

「…………拓也さん」

 つぅ、と香奈子の頬を、冷たいモノが伝い落ちた。

「……どうしたんだ?何故、泣く?」
「え……?」

 香奈子はそこで自分が涙しているコトに気付いた。そして、空いている手で、涙が伝い落ちる自分の頬に触れてみた。
 その瞬間だった。
 香奈子の脳裏に、奇怪なイメージが過ぎった。
 同時に、香奈子はミスタの腕を掴んでいる手に力を込めた。

「……………………行かないで下さい」
「え?」

 香奈子の奇妙な様子に、ミスタは戸惑った。
 当の香奈子も、自分で何を言っているのか判らなかった。

 ――何となく、だった。

 しかし、その“何となく”が、今の香奈子の心を支配していた不安を一気に膨らませた。

「…………駄目。…………行ったら…………行ったら、拓也さんが――――」

 不安が、香奈子の中で弾けた。そして、香奈子はミスタに抱きついていた。

「――もう止めて下さい!このままじゃ、拓也さん、――拓也さんが――――?」

 自分でも理解出来ない不安が香奈子を支配した。
 そんな香奈子を、ミスタは優しく抱きしめた。

「…………大丈夫だ。俺たちは勝つ。瑠璃子も、祐介も…………」

 宥めるようにいうミスタだったが、香奈子は怯えるように身体を震わせていた。
 そんな時だった。ミスタの視界に、遂に動き出したエクストラヨークの姿が入った。
 そして、その中から、瑠璃子が放つ気配も感じ取った。

「――行かなければならない」

 ミスタは香奈子の肩を掴み、その身体を放して言った。

「これ以上――誰も不幸にさせたくない。その為の闘いだ」
「…………」

 ミスタは微笑んで、そう言った。
 泣き顔でくしゃくしゃになっている香奈子は、その笑顔を見て、ミスタの決意が翻らないコトを理解した。
 それでも、引き留めたかった。

「…………拓也さん。――――」

 やはり、それ以上言葉にならなかった。悲痛な想いは香奈子の唇を弱々しく震わせるだけであった。
 そのうち、上空のTH参式から、乗降用リフトが降りてきた。

「行くから…………」

 そう言ってミスタは香奈子から離れようとした。
 だが、リフトのほうを向いただけで、ミスタは立ち止まった。
 その背に、香奈子の哀しげな眼差しを感じた為なのか。

「…………」

 やがてミスタは、振り返り、香奈子のほうに近づいた。

「…………拓也さん?」

 戸惑う香奈子だが、微笑むミスタが黙って頷くのを見て、その意味を理解した。


 ――去来する想い。
 確かに、この男に、自分の人生を狂わされてしまった。
 ――しかし、狂気に蝕まれていた間も、香奈子はそれを不幸と感じていなかった。
 狂気がそれを忘れさせていたとは想いたくなかった。
 ――今も、想いは変わらなかった。

(頑張っているね)

 黄昏に染まった生徒会室で仕事をしていた香奈子は、人望の厚い優等生の生徒会長にそう誉められた。
 憧れの先輩。――想いを寄せていた男性。そう言われた時、世界が赤く染まっていたのは幸いだった。
 生徒会の仲間という付き合いが、男女の交際に変わり、そして――
 彼に初めて抱かれたのは、彼が狂気に蝕まれた頃だった。
 獣のようにのし掛かる男。
 怖かったのに、その心が、泣いているように見えてならなかった。
 他人の心が判る力なんて、もっているワケでもないのに――それが判った。

 この人になら、壊されてもいい。――それが、この人の救いになるのなら――

 瑞穂は、自分は正義感の強い人間だと言ったが、香奈子はそうは思っていなかった。
 自分は優しくはない。
 いつも何かに不満を持っていた。
 両親。
 学校。
 友人。
 ――瑞穂は自分に懐いてくれるが、正直それが疎ましく感じる時もあった。
 決して自分は聖人君子ではない。
 みんなに優しくされたい。自分の思いのままになりたい。
 何もかも、ぶち壊したい。

 ――誰もが、そう言う吐き気のする思いを押さえつけて生きているだけだ。
 偶に、それが限界を超えると、人は壊れる。
 偶々、自分は自らの意志でその限界を超えてしまう機会がなかった。

 拓也も、偶々だったのだろう。
 ――正直、羨ましいと想った。だから、壊してもらいたかったのかも知れない。
 こんな自分が嫌だったから。――

(頑張っているね)

 夕映えの中、彼は私を誉めてくれた。
 誰が言っても必ずしも嬉しいわけではない。
 彼だから。他ならぬ、彼だから。

 壊したい衝動はあっても、壊されたい衝動に駆られるコトは、まず無いだろう。
 それがあるのが、その感情なのだ。
 壊されるコトに価値を見つけた時、それはエネルギーとなる。滅びさえも恐れぬ、強き想い――。

(だから私は、あなたに壊されたコトを、後悔はしていない――今も――)


 香奈子は、たった6文字の想いを、告げた。
 それで、拓也を引き留められるのなら。――無理と判っていても。

 拓也は、ゆっくりと香奈子の顔を寄せ、そっとキスした。

 刹那のようで、しかし久遠の時が流れたような気がした。初めて交わしたキスと同じ感じを、香奈子は想い出していた。
 既にミスタは、乗降リフトに乗り、TH参式の中へ吸い込まれていった。

 拓也さん。

 香奈子は上昇するTH参式を見上げながら、もう一度愛しい男の名を呟いた。


 エクストラヨークが動き出した途端、MMM艦隊の主力であるキングヨークとTH弐式も動き出した。火力の皆無な壱式は、後方でエクストラヨークの分析に徹していた。最悪、エクストラヨークからオゾムパルスが放射された場合、壱式を中心にオゾムパルスキャンセラーを最大出力にして防ぐ戦術で居た。

「主査!エクストラヨークがバトルモードへ変型します!」
「キングヨーク!」

「判っている!メガ・フュージョン!」

 キングヨークに乗り込んでいる柳川たちも、キングヨークをバトルモードへ変型させた。
 すると、エクストラヨークは変型しながら、同じく変型を開始しているキングヨークにミサイル攻撃を始めたのである。

「キングヨークの変型を守れ!ミラー粒子砲斉射!」

 智子の号令で、TH弐式はミラーカタパルトからミラー粒子弾を発射してキングヨークの変型を援護した。
 ところがである。攻撃を続けていたエクストラヨークは途中で変型を止めてしまったのである。

「何だ――――まさか」

 長瀬主査の脳裏を、戦慄すべき推論が過ぎった。

「――オペレーター!オゾムパルス反応は――」
「――オゾムパルス反応増大!」

 オペレーターに訊こうとする長瀬主査の声が、悲鳴をあげたオペレーターの声と重なった。

「――オゾムパルスブースター現象――〈鬼界昇華〉現象です!」
「しまった――――」

 まさにそれは、長瀬主査が戦慄したそれであった。

「いかん!このままでは、人類全員が精神浄化され、〈クイーンJ〉の意識の支配下になってしまう!」

「――そうはさせんっ!!」

「参式、高速接近!」
「ミスタっ!」

 智子は、TH参式がようやく合流したコトを知るが、しかし最大速度でエクストラヨークに突進しているコトに気付き驚いた。

『ミスタっ!前へ出過ぎだ!』
「駄目だっ!力ずくでも止めなければならないっ!」

 長瀬主査の制止を振り切り、ミスタはTH参式でエクストラヨークに突進した。

「フォロン!参式全砲門斉射!目標は、エクストラヨークっ!!」
「了解」

 ミスタの号令で、フォロンは参式の全砲門を開き、攻撃を開始した。メーザー砲、ミサイルが一気に発射され、エクストラヨークが爆炎に飲み込まれた。


「うわっ!」

 病院上空での大爆発に、避難の途中だった病院の人間たちは衝撃波を受けて次々と倒れる。
 無論、マルマイマー・シャドウと交戦していた真超龍姫たちも例外ではなく、衝撃波に驚いて怯んでいた。

「――無茶しすぎだ!非難が完了していないのに!」
「いや――――」

 怒鳴る真超龍姫たちに、マルマイマー・シャドウは、その攻撃の意味を判っていた。

「――始まったのだ。〈鬼界昇華〉が、な」
「な――――」

 マルマイマー・シャドウに言われて、撃獣姫たちもようやく気付いた。

「月島瑠璃子が奪還されたのか――――?!」
「ふふふ。……もはや、お前たちを引き付けているまでもない」

 マルマイマー・シャドウは邪悪な笑みを浮かべると、スラスターに火を入れて、上空へ跳んでいってしまった。

「「ま、まてっ!」」

 真超龍姫と撃獣姫は翼を広げ、プラズマジェットで飛び上がり後を追って行く。しかしマルマイマー・シャドウの行動が速く、直ぐには追いつけそうになかった。
 飛び上がったマルマイマー・シャドウの目的は、TH参式。

「――〈鬼界昇華〉の邪魔はさせないっ!ブロゥクンマグナムっ!」

 マルマイマー・シャドウはTH参式めがけて必殺の拳を撃ち放った。轟音と共に爆煙が流れる空を穿つブロゥクンマグナムは、TH参式の艦体を一撃で撃ち抜いた。

「――――うわっ!?」

 突然の攻撃に驚くミスタ。

「フォロン!今の攻撃は――」

 その訊いた時だった。ミスタは、正面のモニタに拡がる爆炎の中から、幾重もの閃光を目撃した。

「――メーザー砲っ!」

 それは、TH参式の攻撃を受けたエクストラヨークからの攻撃であった。爆煙の中から見え始めていた、バトルモードに変型が完了したエクストラヨークの両手は、TH参式に向けられ、その指先に搭載されている10連メーザー砲から発せられたエネルギー衝撃波が、牙を剥いたのだ。
 それは突然のコトであった。接近しすぎていた所為もあっただろう。だが何より、〈ザ・サート〉によって心臓を喪失していたミスタの衰弱は、補っていた精神力も遂に限界に来て、判断力を鈍らせていた。
 更にマルマイマー・シャドウの不意の攻撃は、TH参式の推進システムを直撃していて、MMM戦術飛空挺一の機動力を持つハズの参式の回避運動は通常の四割も発揮できなかったのだ。
 そしてその遅れた回避運動は、エクストラヨークに艦体を無防備にさらす結果を招いた。幾重ものメーザー砲はTH参式を次々と撃ち抜いていった。
 そして一番最悪の結果が――一本のメーザー砲が、TH参式の艦橋を直撃した。


 ………………香奈子くん…………済まない………………。

 ――――祐介、そこに居たのか――――――――瑠璃子――――――!


 香奈子は、思わず振り向いた。
 そして、見た。
 そこに、拓也が乗っていたハズだった。乗り込む姿を、確かにその目で見ていた。
 確かに、呼ばれたような気がした。

 上空で、大爆発が起きたその時、ようやく再起動できて、楓の搬送を手伝っていた霧風丸が突然、絶叫を上げてその場に倒れ込んだのを見て瑞穂は愕然とした。


「――――拓也さんっ!!」

 炎に消えた想い人の名を、香奈子は涙を流して張り裂けんばかりに絶叫したが、今だ続く、撃沈され爆散するTH参式の爆発音に全てそれはかき消されていた。

(画面フェードアウト。ED:「それぞれの未来」が流れ出す)

          第22話 了

【次回予告】

 君たちに最新情報を公開しよう!

 エクストラヨークの容赦ない攻撃に、爆炎に消えるTH参式とミスタ。祐介の運命は?
 そしてもう一人の自分であるフォロンを失い、倒れた霧風丸は果たして復活できるのか?
 敵はマルチ。マルマイマー対マルメイマー!真の勇姫王はどっちだ!?
 〈鬼界昇華〉の危機が迫る嵐の中、心を賭けた最後の闘いが始まる!

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!

  第23話「勇姫王!嵐の決戦」!

 次回も、ファイナル・フュージョン承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「コネクタースーツを纏った柏木楓」

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/