東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Bパート・その3) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:12月8日(金)22時47分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【あらすじ】
 柏木初音がリネットに覚醒し、暗躍していた魔人〈ザ・サート〉もついにその姿を現したコトで、真なる鬼界四天王が揃ってしまう。〈鬼界昇華〉発動にあと一歩。人類に未曾有の危機が迫る中、MMMも最後の反撃に出る。母・千鶴を失ったマルチは、新たなる力、「マルメイマー」を手に入れる。しかし必要以上にテンションの高いマルチを見て、浩之は違和感を感じる。そんな時、ついに、封印していた月島瑠璃子の肉体を奪取せんと、〈クイーンJ〉を乗せたエクストラヨークと、謎の黒いマルマイマーが出現する……!

【承前】

「――お兄ちゃん。このまま――このまま、この力で〈クイーンJ〉を滅ぼして」
「瑠璃子――」

 拓也はそれが〈クイーンJ〉のフェイクではなく、自我を取り戻した瑠璃子の声であるコトを直感した。それは肉親としての勘なのかも知れないが、それでも拓也は確信していた。

「瑠璃子――」

 拓也は、正直、この力を続けて良いかどうか迷った。〈クイーンJ〉ばかりか、瑠璃子のオゾムパルスを破壊してしまわないかと、戸惑った。
 迷ったが直ぐに、拓也は力の行使をやめようとはしなかった。
 瑠璃子は殺させない。自分の全てをなげうってでも。
 あの夏の日の罪を、今度こそ――――

「仕方ないナリ」

 振動が突然収まった。
 ミスタは、その時、何が起こったのか直ぐには理解出来なかった。
 もっとも、理解しろと言われて、ハイそうですか、と納得など出来るハズもないだろう。
 しかし、この男ならそう訊くだろう。満面の笑顔で。

「月島拓也」

 いつの間にか拓也の背後に立っていた〈ザ・サート〉は、拓也の左肩に手を掛け、こう言った。

「突然で悪いが、キミの心臓を消滅させてもらった」

 〈ザ・サート〉に言われるまでもなく、拓也は自分の左胸から鼓動が感じられなくなっていたコトは気付いていた。

「……うっ…………!?」

 がっくりと膝を付けるミスタ。その背に、〈ザ・サート〉は何の感慨も抱いていないような眼差しを注いでいた。

「キミのポテンシャルは既に気付いていた。それを解放できなかったのは、妹への罪の意識がそうさせていたのだ。――長瀬祐介くらいに壊れていれば、キミは素晴らしい逸材であったのにねぇ。あらゆる意味でキミは人間過ぎた。……実に残念だよ」

 そういって〈ザ・サート〉はミスタに投げキッスをした。

「――さて、〈クイーンJ〉。“新しいお洋服”の着心地は如何ですか?」

 〈ザ・サート〉は振り返り、そう言った。
 そこには、カプセルを破壊してゆっくりと出てきた、全裸の月島瑠璃子が居た。

「…………筋肉がすっかりくたびれている」
「そうですか。――ほい」

 〈ザ・サート〉が指を鳴らした。すると、瑠璃子の身体は一瞬、ビクン、と痙攣した。

「筋肉を目覚めさせ、活性化させました。後は美味いモノでも喰って栄養をつければOKでしょう」
「ふふ。すまんな」

 月島瑠璃子はミスタの力で筋肉細胞を瞬間回復された時に生じ痛みで、少し顔をしかめていたが、苦笑いで応えて見せた。
 そして、俯せになって倒れているミスタに一瞥をくれると、ふん、と忌々しそうに鼻を鳴らした。

「これでもうここに用はない。行くぞ」
「ははっ」

 特別病室を出ていく〈クイーンJ〉の後を、〈ザ・サート〉は肩をいからせながらついていった。
 静寂。
 ミスタは死んだように動かなかった。


「――――ふむ」

 鬼化した梓と香奈子の攻撃を伽瑠羅で凌いでいたワイズマンは、何かに気付いたらしく、最後に梓の攻撃を払ってから後方へ跳んだ。

「……どうやら、月島瑠璃子が目覚めたようだ」
「「な――?」」

 驚いた香奈子は、思わず足元をみた。

「――隙あり」

 その隙を逃さず、ワイズマンは足元に気を取られていた香奈子に体当たりを仕掛けた。

「きゃあっ!」

 香奈子を転ばせ、ワイズマンはその背後にあった窓めがけて走り抜けた。
 窓の前には、鬼たちの闘いぶりに圧倒されていた瑞穂が立っていた。

「み、瑞穂っ!」

 香奈子が悲鳴をあげると、瑞穂は余計に身体が竦んで動けなかった。
 ワイズマンはそんな瑞穂に抱き抱え、そのまま窓を突き破って外へ出て行った。

「し、しまった!」

 慌てて梓と香奈子が窓のほうへ走った。そしてそこから外を見ると、地面に尻餅をついている瑞穂だけが残されていた。この病室が一階であったのが幸いしたのか、あるいは――瑞穂は無傷であった。

「……よかった」

 香奈子は胸をなで下ろした。そんな親友の顔を見上げていた瑞穂は、どこか呆気にとられたような顔をしていた。

「ワイズマン、どこへ行った?!」
「……あ、あっと言う間に……行っちゃいました」

 梓に訊かれ、ようやく瑞穂は我に返って応えた。

「ちい――――それより、月島瑠璃子が目覚めたって言ってたな」

 舌打ちする梓は、そこで逃走しようとしたワイズマンの言葉を想い出した。

「月島瑠璃子は地下三階の特別病室です。――香奈子、あたしは大丈夫だから」
「判っている。柏木さん、案内します!」
「判った。――藍原先生、楓を頼みます!」

 梓はそう言うと、ワイズマンとの死闘が繰り広げられた病室で眠っている妹の顔を見た。
 病室内の壁や床、医療機器はその殆どが大破しているのにも関わらず、楓が眠るベットは全く無傷であった。
 それが、梓を戸惑わせていた。

 梓と香奈子が楓の病室を出ていった後、瑞穂はゆっくりと立ち上がった。そして壊れた窓から病室の中へ入ろうとするが、しかし窓枠に残るガラスの破片に難儀した。
 そんな時だった。瑞穂は危うく頭を破片で切りそうになると、背後から伸びた鋼鉄の手が破片から守った。

「あなたは――」

 振り返ると、そこにはボロボロになった霧風丸が立っていた。

「破片を崩します。離れて下さい」
「え、ええ」

 瑞穂は霧風丸の指示に従い。窓から離れた。入れ替わるように立った霧風丸は、クサナギブレードを掴み、熱で窓枠に残っていたガラスの破片を溶かして除去した。

「まだ熱いところが残っていますので、注意して下さい――」

 そう言うと霧風丸は、がくっ、と膝を付けた。先ほどのワイズマンとの戦闘ダメージがまだ残っているのだろう。

「だ、大丈夫?」

 驚いた瑞穂が霧風丸に近寄り、支えようとする。もっとも霧風丸の重量を女一人の手で支えられるハズもなく、その重さに瑞穂は我に返った。幸い、霧風丸は膝をついただけでそのまま倒れる様子は無かった。

「……ご心配をお掛けしました」

 相変わらず生真面目というか素っ気ない口調でいう霧風丸だったが、今のダメージから考えれば至極当然なのかもしれない。しのぶから霧風丸へスーパーモードに変化している時は大量のエネルギーを消費する。浩之たちの協力で初めの頃よりシステムプログラムの改善や省電力サーキットの開発に成功したコトで、スーパーモードの稼働時間は増加していたハズだが、霧風丸は酷く疲弊していた。

(――お前は何者だというのだっ?!)

 霧風丸は、虚無感に見舞われていた。プログラムされた感情が――いや、エディフェルの記憶が、ワイズマンの一言に著しいショックを受けた為である。

(……そうだ。…………私は…………ただのロボットだ…………真似をしている……人のフリをしているだけ――本体は――TH参式のフォロン――多次元コンピューターの端末――――)

 度重なる、自身の喪失。霧風丸のアイディンティティは崩壊寸前であった。
 霧風丸の寂しげな横顔を、瑞穂は戸惑いげに見つめていた。

「……どうしたの?」

 思わず吐いた言葉。瑞穂はそんなつもりはなかったのに、つい、訊いてしまった。
 この武装化された来栖川のメイドロボットが、あまりにも人間のように見えてならなかった。

(あなたの10年間も、大切な人のために闘っていたんだね。……ごめん)

 香奈子が、月島瑠璃子の力による〈鬼界昇華〉で完全に鬼化しかけた闘いの中、マルマイマーが瑞穂に向かって言った謝罪の言葉。――今も残るそれは初音の言葉であったが、瑞穂には区別が付かなかった。数日後に、あの新城沙織をモデルにしたメイドロボットも、傍目では奇妙な出で立ちをした女性にしか見えなかった。
 オゾムパルスは、人の心の根源。長瀬祐介はその研究をそう締めていた。
 そのオゾムパルスに影響されて感情を作り出している、このメイドロボットたちを、瑞穂はどうしても機械には見えなかったのである。

「……何か、辛いコトでもあったの?」
「――――?」

 思わず、はっ、となる霧風丸。
 瑞穂はどうしてそんなコトを訊いてみたくなったのか、判らなかった。
 香奈子のような精神汚染によって心が傷つけられた患者たちを相手にしてきた医者の日々が、霧風丸の様子から覚ってしまったのである。
 霧風丸は驚いた顔のまま、瑞穂の顔を見るが、結局何も応えず俯いてしまった。
 本当は訊いてみたかった。自分は、いったい何なのであるのかと。
 エディフェルでも、柏木楓でもない。
 自分は、その二人の記憶と容貌を持ってしまっただけの、機械仕掛け。それだけのハズだった。
 黙り込む霧風丸に戸惑う瑞穂だったが、ふと、徐に後ろを振り返った。
 そこには、今だ眠り続ける柏木楓がベッドに横たわっていた。
 どうして振り返る気になったのか、瑞穂にもよく判らなかった。
 何となく――呼ばれたような気が。


「「――――――」」

 月島瑠璃子の肉体を保存しているカプセルが設置されていた特別病室に到着した梓と香奈子は、室内の惨状に絶句した。
 そして、部屋の中央で俯せになって倒れているミスタを見つけた時、香奈子は発作的に部屋の中に飛び込んだ。

「長瀬くん――月島さん!」

 慌ててミスタの傍に駆け寄り、その身体を抱き起こした香奈子は、月島拓也の素顔をさらしてぐったりとしたまま何も応えないミスタに戸惑った。

「……傷は見当たらない。気絶しているだけかしら――」

 香奈子はミスタの身体を見回しながら触れ、外傷が無いコトに気付いたが、それにも関わらず不安でならなかった。
 その理由を、見る見るうちに蒼白する梓が告げた。

「心拍音が聞こえない――――?!」
「えっ!?」

 言われて、香奈子は慌ててミスタの左胸に耳を当てた。
 確かに、心拍音がしなかった。

「心臓マッサージ!」

 香奈子はミスタの身体に跨り、両手で急いで心臓マッサージを行う。時には唇を重ねて人工呼吸を試みるが、まったく反応がなかった。

「まさか、死んで――」
「駄目っ!」

 香奈子が悲鳴をあげた。いつの間にかボロボロと泣いていた。

「――死んじゃ駄目ぇっ!――生き返って――生き返って――!」

 しかしこの時は二人とも、ミスタの心臓が〈ザ・サート〉の力によって心臓そのものを消滅させられているコトを知る由もなかった。
 なのに――――

「…………?」
「――――拓也さん!」

 香奈子は、ようやく目を開けたミスタに気付いて歓喜した。

「…………太田……香奈子…………くんか?」
「――――――!」

 香奈子の身体が一瞬竦んだ。目を覚ましたミスタは、あの月島拓也であると覚ったためである。
 香奈子の想いを利用して、自分ばかりか瑞穂や他の生徒会の仲間を陵辱し、人生を狂わせた憎い男。
 ――のハズなのに。

「…………よかっ…………た…………AH!」

 香奈子は目を覚ましたミスタの身体に抱きつき、大声で泣いて喜んだ。それが正直な気持ちなら――香奈子は否定しなかった。

 だって、本当にうれしかったから――

 梓はミスタが目覚めてホッとしたが、それでもまだ釈然としなかった。
 むしろ、募る疑問。――ミスタの心拍音は未だに聞こえていないのだ。

「……瑠璃子は?」

 ミスタは、香奈子に抱きしめられながら訊いた。

「瑠璃子――――!」

 言われて、香奈子は想い出したようにカプセルのほうを向いた。
 カプセルは、改めて見るまでもなく破壊されていた。月島瑠璃子の姿は既に無い。
 ワイズマンの言っていた通りであった。月島瑠璃子の身体は、取り戻された――いや、奪われてしまったのだ。

「これで――やつらの〈鬼界昇華〉が完成してしまう――――」
「……そんなことは……させない」

 慄然として言う梓に、ミスタは香奈子に支えられて起き上がりながら言った。

「〈クイーンJ〉がエクストラヨークと合流する前に叩く……!」

     Bパート(その4)へつづく


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