○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)他(苦笑)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオ他のネタバレを含んでおります。
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【承前】
(OP「Little stone」イントロ開始)
どうして健太郎は、魔力体に変化したルベルクのほうへ進んだのか、よく判っていなかった。
何となく、であった。
朦朧とする意識の中、ふと、目に入った、右腕の腕輪。
スフィーと魔力を共有させるコトが出来る、グエンディーナ王が造った魔導具。
もしかすると、だった。
健太郎は、魔力の尽きたスフィーに、この腕輪から魔力を送るコトが出来るのでは、と思った。
そしてそれは、何もスフィーと自分の体内にあるモノだけではなく、外部のモノも――そう、思っただけだった。根拠も何もない。
それでも、やらずには居られなかった。
可能性の話に過ぎなくても、それでも健太郎は、試そうとした。
魔力体の中に、その腕輪を入れて、そこからスフィーに魔力を送るコトが出来ないかと。
(BGM「君が僕のこと好きな――♪」)
「駄目ッ!けんたろ、それに近寄っちゃ――――――」
スフィーが悲鳴を上げた時、既に健太郎が差し伸ばした右手は、膨れ上がる魔力体の外縁を貫いた。
刹那、健太郎の身体に魔力体の高エネルギーとの接触によって生じた放電が駆け巡る。同時に、スフィーの身体の中に、高純度の魔力が入り込んできた。健太郎の思いつきは当たっていたのだ。
「――けんたろっ!」
スフィーは健太郎の行動をようやく理解した。そして直ぐに回復魔法で全身の怪我を治し、更に隣で怪我をしているクラナッフも同時に治すと、スフィーは魔力を解放し、エネルギー体を全身に巻いて壁から飛び出した。
(BGM「涙よりも――♪」)
スフィーは宙を飛び、魔力体と接触して痺れている健太郎の身体をそこから引き抜き、健太郎の身体を抱き抱えながら地面を転がった。
「――けんたろ!?しっかり!」
「……はは。ちぃーと痺れた」
健太郎は無事だった。恐らくは、スフィーとの魔力交感によって魔力に対する耐性が付いていたお陰であろう。
ぐったりしているが辛うじて意識のある健太郎に、スフィーは、ほっ、と胸をなで下ろし、そして涙を浮かべて健太郎を睨んだ。
(BGM「君に会ーうと、いつも――♪」)
「――莫迦っ!なんて無茶すんの、あんたはっ!」
「……仕様がねぇだろ……」
「仕様、って――死んだら元もこうもないじゃないっ!」
「何だよ……助けてやったのに…………」
怒鳴るスフィーに、健太郎はむっとした。
暫く睨み合ったが、やがてスフィーが今にも泣き出しそうな顔をすると、健太郎は当惑した。
(BGM「お互いに――意地を――♪」)
「――――莫迦ぁっ!」
スフィーはそう言って健太郎に抱きついた。
「…………スフィー」
「無理しないでよ……もう…………いいの」
スフィーは、健太郎から魔力が送られても、もはやこの魔力体の暴走を止める術がないコトは判っていた。切なげに健太郎の顔を覗き込み、その腕の中で最後の時を一緒に迎えられるコトだけで満足であった。
そんなスフィーの顔を見つめる健太郎は、自分の腰に回っているスフィーの左手に、自分の右手を重ねた。
(BGM「寒い夜に――♪」)
「……けんたろ」
健太郎はゆっくりと頷いた。
思えば、こんな間近にお互いを感じたコトはあっただろうか。――昼間、再会した時に衝動的に抱き合ったぐらいか。お互い好きあっているのに、この三年間、勢い以外で抱き合ったコトもない恋人同士――もっとも、スフィーのなりがなりだけに、健太郎が退いていたのも事実ではあるが。
一方、スフィーの治癒魔法によって回復したクラナッフは、急いでリアンの元に駆け寄った。
リアンは気を失っていたが、致命的な怪我は見当たらず、クラナッフはホッとした。
「…………エル。よかった…………」
クラナッフはリアンの身体を引き寄せ、抱きしめた。
(BGM「SO 君の気持ちを――♪」)
「不甲斐ない…………惚れた女一人守れぬ男が、親衛隊の隊長など……」
「……そんなコト、ないですよ」
「――――?!」
クラナッフは、いつの間にかリアンが目覚めていたコトに驚いた。リアンは驚いているクラナッフの顔を楽しむように微笑んでみせた。
増大する魔力体。スフィーは〈核撃〉の詠唱が終わりに近づいているコトに気付いた。
「…………けんたろ。あなたと巡り会えて、幸せだっ――」
「スフィー!」
健太郎に口づけしようとしたその時だった。スフィーは背後から、聞き覚えのある怒鳴り声に驚き、振り返った。
「――これを使いなさい!」
そういって、広間の入り口に居た声の主が放り投げてきた、緑色のクリスタルを見て、スフィーは目を丸めた。
(BGM「君が僕のこと好きな――♪」)
「まさか――――!?」
スフィーは健太郎の身体から離れ、慌ててそれを受け取った。
かつて、ひとつの世界を創造した、奇跡の力。
「紛れもなく、〈賢者の星〉です!それを使いなさい!」
〈賢者の星〉を投げてきた声の主に、健太郎も気付いて、ふらつく頭で何とか入り口のほうを見た。声は若々しいモノだったが、妙に聞き覚えのある口調が気になった。
そして、僅かながら健太郎の目が瞠った。
幻覚かも知れなかったが、広間の入り口に立つその声の主が、あの長瀬源之介に見えたのだ。
「これなら――〈賢者の星〉の力があれば!」
スフィーは急いで魔力体のほうに向き、〈賢者の星〉を翳した。
「〈賢者の星〉よ――この魔力体の暴走を――――?」
(BGM「同じポケットに――♪」)
スフィーは、健太郎が自分のほうに腕を差し伸ばしているコトに気付いた。
「……スフィー!」
スフィーは健太郎が何をしたいのか判った。スフィーは健太郎の横に座り、その手を取って〈賢者の星〉を掴ませた。
そしてスフィーも、その手の上に自分の手を重ね置いた。
「――けんたろ。一緒に」
スフィーが微笑むと、健太郎は頷いた。
二人は魔力体のほうを見て、〈賢者の星〉を翳した。
(BGM「素敵な恋――♪」)
「「――〈賢者の星〉よ!汝に願うはただひとつ――――」」
(BGM「二人で咲かせよう♪」)
「「――――狂いし魂に、救いの安息をっ!!」」
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まじかる☆アンティーク
= Little stone =
第24話(最終回) 「 大団円 」
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ルベルクは、暗闇の中でぽつん、と座り込み俯いていた。
何もない、何もない暗闇だった。
この世界の色は、自分の心の中からにじみ出てきた色なのだ。――ルベルクはそう思わずにはいられなかった。
復讐をしたところで、フレイが甦るワケでもない。
弟のクリベルにそう説得され、納得したから、〈賢者の星〉が創造した世界、グエンディーナに渉ったハズであった。
納得したのに、勝手に独りで当たり散らし、挙げ句、魔法の研究に失敗して同胞を呪う始末。つくづく自分の愚かさを呪うフレイであった。
こんな暗く寂しい世界に独りでいるのは、当然の罰なのであろう。いつ果てるとも知れぬ罰を、ルベルクは甘んじて受ける覚悟を決めていた。
そんな時だった。
「……何?」
ルベルクは、自分以外居ないハズのこの昏い世界に、もう一つの気配を、直ぐ背後に感じた。
驚いて振り返ったルベルクは、そこに立つ者を見て、驚愕した。
「――――まさか?!」
「…………ここに居たのですね、ルベルク」
そう言って、フレイは嬉しそうに微笑んだ。
「……莫迦な……何故、ここにフレイが…………」
「わたし、探していたのですよ」
「え?」
当惑するルベルクに、フレイは少し寂しげな顔をして俯いた。
「…………ルベルクがいつまで経っても帰ってこなかったから…………」
「それは――――」
ルベルクは、今自分の前に立っているフレイが、フレイの魂だとようやく理解した。フレイは、この世界でルベルクを待っていたというのか。
――いや、違う。こんな昏い世界は、彼女に相応しくない。
――もっと、遠い――陽のあたる明るい世界。
――自分のような、独りよがりな男が居てはならない世界。
「……そんなコト、ないですよ」
「――――」
ルベルクは驚いた。フレイが、自分の心を見透かすとは――
「顔に、そう書いています」
「…………え?」
「……ルベルク。あなたは、本当は誰よりも優しいから、こんな昏い、哀しい世界で自らの犯した罪を律しようとしているのでしょう?――でも、もういいんですよ」
「……良くはない」
ルベルクは俯いた。
「――俺は、怒りに身を任せ、人間を、そして多くの同胞の命を奪った!怒りや憎しみが何ももたらさないコトは――人間たちが、恐れ戦き、お前の命を汚し奪った姿を見て判っていたハズなのに――――何も――何も判っちゃいなかっ――――――?!」
嘆き叫ぶルベルクの身体を、フレイがいきなり抱きしめた。突然のコトに、ルベルクは驚く顔を硬直させた。
「…………もう、いいのよ」
「……フレイ」
「…………帰ろう」
「……え?」
「…………村に」
「……村?」
フレイは頷いた。
「…………あたしたちの、村に」
フレイがそう言った途端、闇の奥が開けた。
そこには、ルベルクがフレイと巡り逢った、あのノルウェーの村があった。
「…………あの頃に…………帰れるよ」
「…………」
ルベルクの目は、闇の世界を穿つ、陽かり溢れる懐かしい想い出に釘付けになっていた。
そのうち、ルベルクは頬に伝う何かを感じた。
忘れていた、想いだった。
ルベルクは理解した。そして自分の身体に抱きついているフレイを抱きかえした。
「…………還れるんだな。……あの頃に」
「…………うん」
フレイはルベルクの腕の中で嬉しそうに頷いた。
「……フレイ」
「ん……?」
「…………ありがとう」
そう言ってルベルクは微笑んだ。
――ありがとう、君たち。
ルベルクは、フレイと共に、光が待ち受ける方向へ歩き始めた。
スフィーと健太郎が翳していた〈賢者の星〉は、全ての力を使い果たし、光の粒子に変わって散っていった。
「……創世するばかりか、使い方では全宇宙をも掌中に収めるコトが可能な強大な力を持つ伝説の石の力で、たった一人の、狂いし心を救うか。…………ある意味、〈賢者の星〉に相応しい仕事なのかも知れないな」
スフィーに〈賢者の星〉を投げ渡した主は、どこか満足げにそう言った。
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