まじかる☆アンティーク =Little stone=(17) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:11月20日(月)21時26分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)他(苦笑)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオ他のネタバレを含んでおります。
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【承前】

「先へ急ごう――」

 クラナッフがそう言った時だった。
 突然、先ほど見つけた落とし穴の中から、次々と〈災禍〉の分身が飛び出してきたのである。

「くどい念の入れようだな……!」

 健太郎が呆れたふうに言うと、先へ進もうとしていたクラナッフが庇うように立った。

「宮田健太郎、あい殿、リアン王女!この場は私に任せて先に!」
「クラナッフ!?」
「クラナッフさん!」
「急げ!」

 クラナッフは三人を急かした。そして両手を翳して〈災禍〉の分身めがけて光の矢を放ちながら、健太郎のほうを向いた。

「――健太郎!アトワリアを頼むぞっ!」

 そう言ってクラナッフは健太郎たちのほうに背を向け、〈災禍〉の分身の群れに立ち向かった。

「健太郎さん、リアン王女!急ごう!」

 クラナッフの背を戸惑い見つめる健太郎とリアンに、あいが怒鳴り声で言って見せた。
 驚く二人はあいを見る。
 しかし二人とも、あいに非情など感じなかった。その複雑そうな顔から、あいがクラナッフの覚悟と、そして彼の実力を計算に入れて、先へ進むべき気だと訴えているコトを直ぐに理解した。

「……わかった」

 頷く健太郎は駆け出す。しかしリアンだけは数歩進んだ所で急に止まった。

「リアン――」
「健太郎さん、あいさん、先に行って下さい」
「おい――」
「大丈夫です」

 リアンは、にこり、と笑った。

「私もいれば、クラナッフの負担も半分で済みますし」
「しかし――」
「わかった」

 戸惑う健太郎の後ろで、あいが頷いた。

「あいちゃん?!」
「二人がかりなら直ぐに追いつけるだろうしね。――リアン王女、頑張って」

 あいはにこりと微笑んでみせた。
 リアンはその笑顔に、何か理解したのか、少し頬を赤らめながら頷いた。

「さあ、行こう!」
「う、うん…………、リアン、無茶するなよ!」

 あいの言う通り前へ駆け出した健太郎は、心配で振り返り、声を掛けると、リアンは、うん、と頷いた。
 リアンは健太郎たちの背が洞窟の闇に消える前に振り返り、クラナッフが闘っている洞窟のほうへ駆け出して行った。

「……あいちゃん。大丈夫かな」
「大丈夫よ、健太郎さん」

 走りながらリアンの身を案じる健太郎に、横に並んで走るあいは笑って応えた。

「それ以上は野暮ってモンよ。――未来の王様と王妃様の始めての共同作業ってヤツかしら」
「はぁ?」


「――リアン?!」

 クラナッフは、戻って来て援護を始めたリアンを見て戸惑った。

「二人で相手をすれば早く決着が着くハズです!――きゃあっ!」

 駆けつけるなり、リアンは上空から襲いかかってきた〈災禍〉の分身に襲われる。しかしそれをクラナッフが光の剣で咄嗟に切り払った。

「あ、ありがとう……」
「当然のコトです。――私は王家の親衛隊隊長です」

 そう言ってクラナッフはリアンを庇うように立った。

「……全く無茶する。その辺りは姉上に本当そっくりだ」
「……済みません」

 クラナッフの呆れ声に、リアンは気恥ずかしそうに俯いた。

「しかし――」
「?」
「――今は、姉の婚約者と言う理由でその想いを秘めたままでいる、哀れな女性を護る男でありたい」
「え……?」

 きょとんとするリアンがクラナッフの横顔を見つめた。その横顔はどことなく赤らんでいた。

「……その男は朴念仁ではない。陰で見つめられているコトぐらい、とうに気付いている。――お陰で男も、彼女を気に掛けているコトがバレはしないか気が気でならなかった」
「クラナッフ――――」

 呆気にとられているリアンは、ようやくクラナッフが言っているコトが判った。
 判ったから、リアンは思わず泣きそうになった。無論、悲しいからではない。悲しくなくても、人は泣けるものである。
 それが、今までの想いが報われると知った時なら、尚更。

「――リム。そこまで覚悟しているのなら、共に闘おう。こいつらを蹴散らして、健太郎とアトワリアの許へ急ごう」
「――はい!」

(ここでOP「Little stone」が流れると思いねぇ)
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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第17話 「あたしの〈霊糸〉に斬られて死んじまえっ!」

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「――何よコレ?」

 洞窟を進む健太郎とあいは、新たな広間に出た。そしてそこに水平に拡がる、無数の出口の穴を呆れ返って見ていた。

「……また、きっと本物は一つで残りは幻影なんだろう」
「幻影、ってもねぇ……。霊糸で穴を探ってみても、全部本物の穴の感触はあるし」
「感覚まで騙しているのか」
「相手は人間の体内に蓄積する低級マナの集合体。おそらくはそれを介して、感覚にまで及ぼす幻影を与えているんでしょうね」
「今までの罠と言い、よくよく人を騙すのが好きなヤツだな」
「多分――」
「?」
「……確か、人間に復讐したがっていた魔法使いが取り込まれたって話だっけね」
「ん?……ああ、リアンがそんなコト言ってたな」
「恨み骨髄、ってヤツかしら。…………これは推測だけど、そこまで人間を恨むんだから、余程酷い目に遭わされたんでしようね。――やっぱり騙されたのかしら」

 どこから哀しげに語るあいの言葉に、健太郎は不思議と素直に納得した。

「……道理を理解出来ないからって怖がったりして排除する、なんてのは愚行よね。魔法使いは所詮、魔法の使い方を理解しているだけで、普通の人間と同じなのに。しかもそれを排除するために、騙したんだとしたら……酷すぎると思う」
「………………」

 健太郎は、沈痛そうな面もちで言うあいに、何て言えばいいのか迷った。あいの言うコトは推測の域だが、強ち間違ってはいないのでは――そう思うと、人間という立場で〈災禍〉と立ち向かっている自分に辛いモノを感じていた。
 そんな時、不意に健太郎の脳裏に、羅法使いの里で再会したスフィーの哀しげな顔が蘇った。
 スフィーは健太郎を巻き込みたくなかったのだろう。その時は何となくそう思ったが、今考えると、的を射ていたのでは、と思った。すべてを知っているスフィーなら、その辺りの事情にも明るいハズである。“人間”である健太郎にその事実を知られて辛い思いをさせたくなかったのだろう。
 そう思った時、健太郎は、悔しい思いと、情けない思いが同時に突き上げてくるような衝動感に見舞われた。

「――このままじゃいけない!」

 いきなり、怒鳴り声で言い出す健太郎に、物憂げな顔をしていたあいは驚かされた。

「……健太郎さん?」
「俺はスフィーを救いたい――が、これ以上、その魔法使いを暴走させてはいけない。止めなきゃ!」
「…………」

 あいは健太郎が単にスフィーを救いたい気持ちだけでいないコトに気付き、酷く驚いた。しかしそのうち、健太郎の気持ちが少し嬉しくなり、あいはようやく笑顔を取り戻した。

「……うん。そうだよね。――でも」

 あいは再び無数の出口のほうを見ると、複雑そうな顔で溜息を吐いた。

「……どれよ?」
「俺に聞かれても困――」

 健太郎が途方に暮れて穴を見回したその時であった。
 突然、右手首が熱くなったのである。驚いた健太郎は右腕をあげるが、別に赤みなど帯びてはいなかった。
 そして、右手首に通したままの、スフィーの腕輪も――いや。

「…………何だ、この赤い糸は?」

 それは、スフィーの腕輪から伸びていた。不思議に思った健太郎が、その赤い糸の伸びている先を見ると、幾つもある出口の奥へ続いていた。

「赤い糸?何それ?」

 健太郎の行動を不思議がるあいには、その赤い糸は全く見えていないらしい。

「赤い糸、ってゆうと普通は小指に付いているモンだけど――ああん、もしかしてスフィーさんの小指と繋がっているってノロケたいの――――」

 あいは揶揄してみせるが、次第にその意地悪そうな笑顔は真顔になり、健太郎が見つめている穴の一つのほうを見た。

「……どうした?」
「……健太郎さん。それ、強ち、間違いじゃないかも」
「え?」
「その赤い糸――本当にスフィーさんと繋がっているんじゃないの?」
「おいおい……」
「いや、赤い糸の伝説じゃなくって――確かそれ、魔力供給用に填めていた腕輪なんでしょ?」
「あ――、ああ」
「だとすれば、今も……」
「え?」
「だから――今もスフィーさんと腕輪越しに繋がっているんじゃないの?赤い糸は、魔力のケーブル線みたいなものなのよ!」
「まさか――」

 唖然とする健太郎は、腕輪と、赤い糸が消えている穴の奥を交互に見渡した。
 そして腕輪のほうをじっと見つめ、黙り込んでしまった。

「……間違いないよ。言われてみれば、目視は出来ないけど、僅かながらその腕輪から何らかの力の流れを感じる」
「マジかよ……!」
「マヂ。――だとすれば――どれ?どの穴に伸びているの?」
「あ――ああ、あの、少し丸みを帯びた岩がある真下だ」
「そう?じゃあ、そこが本物の出口よ」
「――そうか」

 健太郎もようやく気付いた。

「幻影は俺たちの視覚を騙しているが、魔力まではごまかせないか」

 健太郎は呆気にとられながら、やがて右腕の腕輪にゆっくりと左手を重ねた。
 未知の鉱物で出来ているそれは、いつもより少し暖かく感じた。健太郎はそれを、スフィーの温もりであると信じて疑わなかった。

「……絆、ってやつかな」

 ぽつり、と洩らした健太郎の言葉に、周りを警戒して見回していたあいは気付いた。そして健太郎のほうをみると、健太郎は気恥ずかしそうな顔で微笑んでいた。

「……うん。――素敵な絆」
「――って、そんなにニヤニヤしてないでくれよ」
「……だって、ねぇ。ちょっぴり妬けちゃうなぁ」
「?」
「んなコトよりっ!」

 顔を少し赤くしていたあいは、誤魔化すように怒鳴った。

「出口っ!急いで、スフィーさんの所へ向かうっ!」
「あ、ああ、そうだな。――急ごう」

 あいに促され、健太郎はあいと共に、赤い糸が伸びている、本物の出口だと見切った穴のほうへ向かった。
 健太郎が先に穴に飛び込んだ。本物かどうかの保証はなかったが、恐怖心はなかった。 やはり正解であった。

「――ビンゴ!――って、あいちゃん?」

 勝った、と思った健太郎だったが、その時になってあいが自分の横にいないコトに気付いた。
 慌てて振り向くと、あいは出口の穴の手前で、健太郎のほうに背を向けていた。

「あいちゃん――」
「先、行って」

 あいは振り向きもせず、言う。強張った声だった。

「何で――」
「……今までのパターンだったら」
「?」

 戸惑う健太郎は、次の瞬間、怖ろしい光景を目の当たりにした。
 先ほどから何度も見ていた光景。――幻覚と思っていた穴から、わらわらと飛び出してくる〈災禍〉の分身の群れが襲いかかってきたのである。

「――本物の穴を見破ったら、幻の穴からこんなふうに出てきたでしょ?今回もそうだと思ったから」
「ダメだ!あの数はハンパじゃない!一緒に逃げよう!」
「あたしだってバカじゃないよ。勝算はある。……そろそろ、殿の人たちも到着するハズだしね」
「しかし――」
「いいから行って!ここはあたしに任せて、スフィーさんの元に向かってっ!」

 あいは目一杯怒鳴って言った。

「健太郎さんは、スフィーさんを助けられる道具を幾つかお爺ちゃんからもらっているんでしょ?それで、スフィーさんを助けてあげてっ!」
「あいちゃん……」
「大丈夫っ!」

 そう言ってあいは、右手でVサインを作った。

「まーかせてっ!」

 あいが振り向かないのは、覚悟を決めた証拠であった。健太郎はようやく頷いた。

「……ダメだと思ったら逃げるんだぞっ!」

 健太郎は不安を堪え、穴の奥へがむしゃらに走っていった。とにかく早くスフィーの許について、〈災禍〉を封じる。それでみんなが助かる。その一心だった。
 健太郎の姿が穴の奥に完全に消えたところで、あいは、にやり、と笑った。

「……あたしだって、健太郎さんみたいなイイ男見つけるまでは死ねないわね――ほぅらっ、他人の恋路の邪魔をするヤツはっ!」

 あいは両腕を降り、迫り来る〈災禍〉の分身たちを〈霊糸〉で斬り裂いていった。

「あたしの〈霊糸〉に斬られて死んじまえっ!」


 赤い糸の終端は、意外と距離が短かった。三分ほど走ったところで、健太郎は新たな広間に到着した。
 今度の広間は、今までのモノよりも数倍広かった。そして、今までびっちりと壁に蒸している光苔が、地下世界に昼をもたらしていた。
 だが、健太郎は、そんな自然の美しさに目を奪われるコトはなかった。
 健太郎が凝視している一点。――みるみるうちに健太郎の顔が青ざめていった。

「――スフィー」

 健太郎の視線の果てに、ボロボロになって仰向けに倒れている、少女の姿をしたスフィーがあった。
 生気のない顔は、天井を見つめていた。
 そして遠くからも、その薄い胸の上下運動は感じられないのは判った。
 明らかに死の神が、健太郎が愛した女性を支配していた。

「――――スぅフィィィぃぃぃぃぃぃっっっっ!!?」

          つづく

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 やっとムック本の仕事が終わって一息付いたかと思いましたよあたしは。これで続きが描けると思っていたら…………もっと「予期せぬ大変な仕事」が来ちまって、ぴーんち(笑)
意訳:要するに投稿ペース落ちます(笑)<ぉぉぉ でも今月中には完結させます――完結させないと俺、嬉しい仕事に殺される(笑)

http://www.kt.rim.or.jp/~arm/