まじかる☆アンティーク =Little stone=(16) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:11月6日(月)23時56分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)他(苦笑)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオ他のネタバレを含んでおります。
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【承前】

 グリーンランド地下。
 そこにある、超古代文明人の遺跡、ミミルの泉で、一つの決着がついていた。
 砲身が吹き飛んだマウザーを右手に握り締めいた宮田健吾は、妻のしのぶに支えられながら遺跡の出口を目指していた。お互い、遺跡内の戦闘でボロボロになっていた。

「……神様殺すにゃ刃物は要らぬ、……ってか」
「まだ、減らず口叩く元気はあるようね」
「おうよ。……見ての通りだ、これで危なっかしい仕事は廃業だ」

 そう言って壊れたマウザーをしのぶに突き付けた。
 しのぶは、永年、夫が愛用していた拳銃の果てた姿を、なんとも言えない顔で見つめた。どことなく、ご苦労さん、と言っているようであった。
 “神の弱点”を呼び寄せた代償であったが、健吾もしのぶも悔いはなかった。そのお陰で、ようやくこの世界の危機を救うためのある物を手に入れるコトが出来たのだから。
 それは、健吾たちの先を進んでいた銀髪の青年の手の中にあった。青年は、ようやく見えた洞窟の出口に立っていた。洞窟の外でこ、轟々と吹雪がうねっていた。
 不意に、洞窟の外から飛び込んだ眩い光が、青年の輪郭を溶かし、健吾たちを眩ませた。

「……お迎えですよ」
「お迎え?――しかしこの吹雪じゃあ、ここへ来る時に使ったアーカムのヘリも……」
「アーカム財団ではありません」

 青年は、光のほうへしゃくって見せた。

「こんなコトもあろうかと、来栖川財団にご協力願いました。――世界に三艇しかない、極輝最導推進機関、レプトントラベラーエンジンを搭載した、世界最速のディビジョン艇を用意しました」

 猛吹雪の中を、物怖じもせずにゆっくりと着陸しようとするその飛行艇は、水平に張りだした四基のエンジンと、本体部についた二基の巨大なメインスラスターを備えた、30メートルはあろう巨大な物体であった。その機体に描かれているハート型のマークは、かつてこの地球の危機を救ったある組織のマークであるコトを、健吾もしのぶも知っていた。

「――宮田ご夫妻と、ヘイムダル・アズ・ゲーイン・クリエールさんですね!」

 突然、ハッチの一つが開き、その中から女性の姿が見えた。

「国連防衛機関UUUの要請でやって来ました。乗船をお急ぎ下さい!」
「乗りましょう。どのみちコレではヘリも無理です」

 青年に促され、健吾としのぶは頷いた。
 このディビジョン艇を保有する組織は現在、海洋開発を中心とした研究機関に変わっており、国連防衛機関UUUに二艇配備されている世界最速艇の同型艇を一艇、調査用に保有していた。武装を外し、代わりに最新の分析システムを搭載し、潜水能力も持った最新鋭の万能機動船である。長期の調査を目的としている為、艇内は居住性も考慮して、多くの機材が収まっている割にこぢんまりとしていた。お陰で怪我を負っている健吾としのぶは落ち着いて席に着くコトが出来た。
 そんな二人に、先ほどの女性が近づいて敬礼してきた。

「ディビジョン艇〈ジンベイ〉にようこそ。私、MMM機動隊長、柏木梓と申します。丁度、北極海の海中資源調査で近くにいた所を、要請を受けてやって参りました。――先ほど、この地底100メートル辺りで、もの凄いエネルギー波を観測したのですが、まさか核爆発でも?」
「似たようなモンです」

 疲弊している健吾たちに代わって、銀髪の青年が応えた。

「核爆発ではないから放射能の心配はありません。それより、富士山へはどれくらいで?」
「ざっと20分――レプトントラベラーで北極点をパスして直進します。GはWAサーキットの慣性制御システムがキャンセルしてくれますから、ジャンボのファーストクラスの乗り心地を保証しますよ」

 柏木梓と名乗る女性はそう言って微笑んだ。

「20分、か」
「遅すぎますか」
「いや、足んねぇ。――速すぎて体力なんか回復しそうもねぇ。後、おめーに任すわ」
「はいはい。お疲れさま」

 青年が頷くと、健吾はそのままがっくりと項垂れ、膝の上に乗せていた壊れたマウザーを握り締めたまま、高いびきを掻いて眠ってしまった。しのぶに至っては既に健吾の隣で熟睡していた。

「……何があったんですか?」
「いえ、ね。神様を一人、殺してきたばかりで」
「はぁ?」

 きょとんとする梓の前で、青年は握っていた、エメラルド色の水晶石を取り出してみせた。青年はそれをまじまじと見つめ、ふふっ、と微笑んだ。

「……さぁて。これからが正念場ですよ、健太郎、スフィー」

(ここでOP「Little stone」が流れると思いねぇ)
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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第16話 「骨董品の鑑定みたいなモンだ」

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「――後は、〈災禍〉のクランブルポイント(構造的弱点)を見極め、そこに指向性法術を送り込むだけ。……不完全な〈賢者の星〉と圧倒的な差がある魔力のハンデを補い、勝利するにはそれしかない――――!」

 スフィーの狙いは、〈災禍〉を構築するルーン文字の中で、最も組成の薄い点であった。ルーン文字の羅列で構成される〈災禍〉の身体は、完全に埋め尽くされているわけではない。元々はそれは一次元的システム、つまり一列になっているものである。その終点でありルーンが途切れている句読点こそが、〈災禍〉のクランブルポイントなのである。スフィーは〈災禍〉の中から、その句読点を見つけ出そうと必死になっていたのだ。
 次第に巨大化し、スフィーの張っているシールドを浸食し始めた〈災禍〉を睨み付けていたスフィーは、やがてその闇のような身体のある一点に注目した。

「――見つけた!」

 スフィーは空かさず、〈賢者の星〉の欠片を上に放り投げた。すると、〈賢者の星〉の欠片は放物線を描いて光を放ち、スフィーの頭上で、ピタリ、と静止した。
 同時に、〈賢者の星〉の欠片が自転を始め、輝きを一層増した。

(欠片ほどしかない〈賢者の星〉の魔力では、直接〈災禍〉を押さえるだけのパワーは無い。でも――)

 〈賢者の星〉の欠片が輝きを増す度、スフィーの周囲に滞留する魔力が次第に濃度を増し、ついにはその魔力の持つエネルギーは目に見えるようになった。スフィーの魔力が〈賢者の星〉によって増幅、強化されているのである。

(一点集中の一撃必殺――――これしか、〈災禍〉を滅殺する方法は――――?!)

 そう思った時だった。
 スフィーは、顔の正面に開いている、〈災禍〉を構成するマナを呪式に変換表示しているウィンドウを見て慄然とした。

「――――そんなっ!」

 スフィーがウィンドウ内に見つけた、〈災禍〉のクランブルポイントは、異質な捻りがあった。その形はまるで、メビウスの輪を思わせる構造だったのである。

「そんな――呪式の句読点が、見えない!呪式の始めに繋がっている――クラインループ化っ!?まさか、呪式が変質しているとでも――――」

 あり得ないコトではなかった。〈災禍〉は、最初、魔法使いを取り込み、先にはグエンディーナ王の意志も取り込んでいた。それにより恐らく、自身の構造的弱点と、それを理解する思考能力――“自我”を得てしまったのだろう。まるで抗体に免疫を得て変質したウイルスである。スフィーは慄然した。

「これじゃ――〈災禍〉を斃せない!」

   *   *   *   *   *   *

「……ここは?」

 富士山の地下洞窟を進んでいた健太郎たちは、やがてまた新たな広間に出ていた。先ほどの襲撃もあって、警戒しつつ、広間を見回した。
 広間の中に岩壁には光苔が蒸しており、幻想的な青白い世界を創り上げていた。

「……〈災禍〉の手先は居ないようですね」

 リアンがホッとして言う。

「ここはどこいらへんだろう?地図も無しに来ちまったけど……」
「あ、それなら心配ないよ」
「?」

 あいの言葉に健太郎がきょとんとすると、あいは指先を健太郎に突き付けた、

「通ってきた道に〈霊糸〉を張って置いてあるから、少なくとも道に迷うコトはないよ。それに道順をぜーんぶ頭の中に叩き込んであるから」
「そいつは助かるが……でも、どこにスフィーが居るのかさっぱり」
「誘っているかのような一本道だ。このまま進めば問題あるまい」

 クラナッフが、広間の左奥に見える穴を指した。

「でも、普通洞窟というと、こんな開ける場所って自然には出来ないんだよね」
「人工的に作られたモノか……」
「あるいは」

 あいはそう言って、広間の左奥に見える穴へ、〈霊糸〉を放って見せた。
 するとその先端は、あろう事か穴の手前で弾かれてしまったのである。

「――あの穴、まやかしよ」
「何だと?――よし」

 クラナッフが手を翳し、光の矢を穴めがけてはなった。すると光の矢は穴に突き刺さり、四散してしまったのである。

「……岩壁だ」
「ここが行き止まりか?そんな?一本道だったから間違っちゃいないハズだぜ?!」
「健太郎さん、慌てない。道は間違いなく一本道。自然に作られた洞窟を、恐らく〈災禍〉が利用してワナを張っている。この広間の先に間違いなく、進むべき道はあるハズだよ」

 そういってあいが先んじて広間に立ち入った。

「お、おい」
「大丈夫。〈霊糸〉で探ったから、広間の床にワナはしかけていないわ――そこ」

 そういってあいが指したのは、まやかしの穴が見えた左奥と丁度反対側の、右奥の岩壁であった。

「……成る程。鏡像反転で生み出されただけのコトはある。視角を反転させる結界でも張っているのだろう」
「視角を反転?」
「えーと」

 リアンが広間の中をざっと見回し、やがて入り口の天井に注目した。

「――これです」

 そう言ってリアンは天井の一点を指し、そこから稲妻を発した。
 稲妻が命中した所が突然燃えだし、そこからひらひらと燃えカスが落ちてきた。
 するとどうだ、広間の光景が突然ぐるぐる回り始め、やがて、まるで鏡に映ったかのように、広間の姿が左右逆になったのである。

「うっひゃあ……!凄い結界だなぁ」
「通常はこれに、落とし穴などのワナを使うんですが……」
「タダの時間稼ぎだろう。いくぞ」

 そういってクラナッフが出口の穴のほうへ進み出した。

「時間稼ぎ、ねぇ」

 そう呟いて健太郎も進み出したが、ふと、あるコトが気になり、出口の穴と反対側のほう、つまり先ほどまやかしの穴が見えたほうへ駆け出したのである。

「何をしている?そっちには何もないぞ」
「だから、さ」

 健太郎は岩壁に張り付くと、こんこん、と岩壁を叩き始めた。

「何やってんの健太郎さん」
「いや、ちょっと――ちょっと、な」

 あいとクラナッフに呆れられながら健太郎は岩壁を叩いているうち、やがて叩く手を止めた。

「……どうしたのですか?」
「リアン。丁度この辺りを、魔法で攻撃してくれないか?」

 そう言って健太郎は岩壁を指した。

「何をやっとるか……」
「わかりました」

 リアンが頷くと、クラナッフは思わず仰いだ。

「離れて下さい――えいっ!」

 そう言ってリアンが翳した掌から発射された光の矢が、健太郎が指した岩壁に命中した。
 すると、その岩壁に亀裂が入り、やがて粉々に崩れて新たな穴を出現させたのである。

「なんだと……?!」
「まさか――」

 あいは慌てて、進もうとしていた穴のほうへ〈霊糸〉を放った。するとその穴も、手前で〈霊糸〉を弾いてしまったのである。
 そればかりか、今度はその穴の手前の床に、大きな穴が空いているコトにようやく気付いたのである。

「……落とし穴がある」
「何だと?――くそっ!」

 驚いたクラナッフは、進もうとしていた穴の上に注目し、そこに僅かながら魔力を感じ取った。そしてそこへ光の矢を放つと、なんと穴の上の岩が燃えて、ゆっくりと穴が床へと移動して行くではないか。

「また視角を狂わすワナだったの?」
「あのまま進んでいたら、確実に引っかかっていたな。――宮田健太郎、どうして判った?」
「骨董品の鑑定みたいなモンだ」
「鑑定?」
「骨董品の売買は偽物がまかり通る世界だ。何でも疑って視ないと損するのは自分だしな。こんなワナを張るような奴が相手だから、考えられるだけの警戒はしないと、と思った。それに、ほら、岩壁の光苔。この岩壁の光苔が、他と違って薄くなっていた。自然に創られたはずなのに、微妙に不自然だったから」
「言われてみれば…………」

 あいは穴の周囲を見回し、ううむ、と唸った。

「流石、骨董品店のご主人ですね」

 リアンが嬉しそうに言うと、健太郎は照れくさそうに鼻の頭を掻いた。

「俺は魔法は使えないけど、鑑定には自信がある、って言った手前、洞察力でみんなの役に立たないと」
「……あたりまえだ」

 クラナッフは相変わらず突っ慳貪な態度を取った。
 だが何故か健太郎は、それを腹立たしく感じなかった。それは先ほどまでの悪態にはみられなかったある変化に、健太郎が気付いたからである。僅かながら、クラナッフの口元は上を向いていた。

「先へ急ごう――」

 クラナッフがそう言った時だった。
 突然、先ほど見つけた落とし穴の中から、次々と〈災禍〉の分身が飛び出してきたのである。

「くどい念の入れようだな……!」

 健太郎が呆れたふうに言うと、先へ進もうとしていたクラナッフが庇うように立った。

「宮田健太郎、あい殿、リアン王女!この場は私に任せて先に!」
「クラナッフ!」
「クラナッフさん!」
「急げ!」

 クラナッフは三人を急かした。そして両手を翳して〈災禍〉の分身めがけて光の矢を放ちながら、健太郎のほうを向いた。

「――健太郎!アトワリアを頼むぞっ!」

          つづく

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