まじかる☆アンティーク =Little stone=(13) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:11月4日(土)00時38分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオ他のネタバレを含んでおります。
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【承前】

 奇妙な病気が世界中で確認されるようになったのは、健太郎たちが羅法使いの里にやって来た日の、その三日前ぐらいからであった。
 それは先ず、子供を中心に発症していた。そして追うように、体力的に弱い病人や老人たちにも劇的に拡がっていた。
 高熱もないのに悪寒や吐き気を訴え、やがて強度の倦怠感に見舞われて昏睡状態に陥るという、医師にも手が着けられない奇妙な症状であった。

 高倉財閥の会長、高倉宗純は、まだ乳飲み子の孫娘、雅(みやび)がこの奇妙な症状の所為で救急病院にかつぎ込まれたと言う連絡を、去年ある芸術家に嫁に出した娘のみどりから受けた時、会議中であったのにも関わらず、病院へ飛んでいった。

「――みどりっ」

 血相を変えて病室に現れた父を見て、原因不明の病気に苦しんでいる娘の前で途方に暮れていたみどりは、我慢しきれずに泣き出してしまった。頼みの夫は現在、欧州へ仕事に出ていて直ぐには帰って来られず、精神的にもかなり参っていたようである。

「お父様……いったいどうすれば……!」
「先生っ!頼むッ!孫を、孫を助けてくだされっ!金ならいくらでも出すッ!」

 いつもの威厳とした風格は何処へ置き去りにしたか、孫の一大事に狼狽える宗純だったが、担当医は全く原因が掴めない事、そして同じような症状で子供達が次々と倒れて病院にかつぎ込まれて大混乱しているコトを二人に告げた。
 そして担当医は、はぁ、と溜息を吐き、

「……まるで」
「「まるでっ?」」

 みどりと宗純が声を揃えて聞くと、担当医は少し困ったふうな顔をした。

「……いえ、数年前にその存在が確認されて、世界的規模で被害があったある素粒子の影響に良く似ているのです。しかし関係機関に問い合わせてみたのですが、その素粒子の反応は観測されていないそうで、現在も調査を続けているそうです」

 そう答えて医師は仰いだ。その視線は、壁を通り越し、直視など叶わない衛星軌道上にある、国連防衛機関の本部が設置されている宇宙ステーションに向けられていた。
 現在その防衛機関では、また一部の者達しか知られていない、世界各国で高密度の未確認エネルギー反応を観測しており、特に反応の大きいグリーンランドと、日本の富士山周辺に、調査班を乗せた特務飛空艦を送り込む準備が進められていた。

「……もし未知の素粒子が原因だとしたら、もはや我々では手の尽くしようが」
「そんなっ!?」

 宗純は思わず怒鳴った。

「医者のアンタがそんなのでどうするっ!――みどりっ?!」

 その時突然、みどりが倒れてしまった。傍で驚いた担当医が慌ててみどりの身体を支えるが、ふと、気になってみどりの額に手を当てると、熱があるようには見られなかった。疲労から来たモノかと思ったが、担当医は直ぐにそれは否定した。みどりの唇が小刻みに震え、悪寒を覚えている様子から、みどりも発症しているコトに気付いたのである。

「みどりっ!?」

 みどりまで倒れてしまい、宗純は見る見るうちに青ざめる。怒鳴っていた宗純に掌を返すように泣きつかれた担当医は途方に暮れてしまった。
 そんな光景は、今やこの病院ばかりか、世界各国の医療機関でも同様に見られていた。
 人類は今、その存在すら知らぬ脅威に復讐されようとしていた。だがその事実を知る者は、まだ指折り数えるばかりしか居なかった。

(ここでOP「Little stone」が流れると思いねぇ)
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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第13話 「――お前のその目利きの目で、今、お前に必要なモノをこの中から探し出してみぃ」

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「富士山…………」

 あいは複雑そうな顔をして、富士の頂きが望める方向を向いた。

「目と鼻の先、というか……こうなると、あたしたちに来い、って言っているような展開ね」
「――行こう」

 健太郎は富士山を睨んで力強く言った。

「スフィーひとりで片づく問題じゃない。俺たちも直ぐに――」
「お前が行ってどうなるというのだ、宮田健太郎?」

 健太郎を睨んでそう言ったのは、クラナッフであった。

「お前がスフィーの応援に行ったとして、何の力になれる?」
「力――」
「魔法使いでも何でもない男に、何が出来るというのだ?」
「――――」

 思わず反論しようとする言葉を詰まらせる健太郎。
 確かにクラナッフの言う通りである。健太郎は、スフィーを助けるための術など、一切覚えがなかった。

「はっきり言おう。宮田健太郎、お前は役立たず以外の何物でもない。後は我々に任せたまえ。お前はこの里で大人しく待っているがいい」
「クラナッフ……それは少し言いすぎですよ」

 余りにも容赦ない言い方に、リアンは少し困惑した顔でクラナッフに言い聞かせようとした。リアンにはクラナッフという男が思慮深い紳士だと思っていたが、健太郎の心情をあまりにも無視した言い方に、正直呆れてしまった。
 クラナッフはリアンに何も言わず、健太郎のほうを睨み付けたままであった。だがリアンは、そんなクラナッフを見ているうち、不思議と、まるで健太郎の反応を待っているような雰囲気があるコトに気付いた。
 そうリアンが感じた時、健太郎はついに口を開いた。

「――確かに!――確かに、俺は魔法も使えないし、腕っ節だって自慢出来ゃしねぇ。精々、骨董品の目利きぐらいしか威張れるものは無ぇ。――――あんたの言う通り、まるっきり役立たずだけど――」

 健太郎はそこまで言って声を詰まらせた。そして息をのんで深呼吸し、まだ自分を睨んでいるクラナッフをにらみ返して見せた。

「――それでも俺はスフィーのコトを愛しているんだ!あんたがスフィーの許嫁だろうが、スフィーにどんな恋愛感情を持っているか知らないけどな、――俺はそれ以上に、スフィーが好きなんだっ!そしてあいつも、俺と同じくらい俺のコトを好きだと信じている!それだけはあんたなんかに負けやしないっ!」

 言ってしまった、と健太郎はそこまで口にして思った。
 相手はスフィーの許嫁。本人たちの意志は関係なく約束された関係。しかしスフィーは異世界の王女。到底わがままなど言えるはずもない。
 こんな騒動が無かったとして、果たして自分はスフィーをこの男から奪い取れたであろうか。魔法王国の親衛隊の隊長というくらいだから、魔法も腕っ節も、この男に敵うハズもないのは自覚している。
 それでも、言わずにはいられなかった。
 「好き」だけで勝てる相手ではないし、解決出来る問題でもない。
 しかしいつかは、健太郎が決着を着けなければならない問題であった。
 そう。スフィーが好きだという自分に気付いている以上は。

「――――くくっ。――――あっははははははははっ!」

 健太郎が余韻に浸っているそんな時だった。突然、クラナッフは吹き出し、ついには大声で笑い出したのであった。
 あまりに反応に、リアンと健太郎ばかりが、二人のやりとりを黙って見守っていたあいたちもぽかん、となってしまった。長老ユンだけが独り、したり顔でニヤニヤとしていたが、誰もそのコトに気付いていなかった。
 二分ほどだろうか。クラナッフの笑い声だけが支配していた世界は、ようやくクラナッフが笑い止んだコトで静けさを取り戻そうとしていた。

「――勝手にしろ」

 そう言うだけ言って、クラナッフは家の中へ入っていった。

「リアン王女。30分後には出られるよう、支度して下さい」
「あ…………、は、はい」

 リアンはまだ呆然としたまま頷いた。

「……何なの、今のは?」

 あいが何とも言えない複雑な顔で健太郎に訊いたが、まだ唖然としたままの健太郎に答えられるハズもなかった。

「健太郎」

 そんな時だった。独りニヤニヤと笑っていた長老ユンが、健太郎に声をかけた。

「お前。――力が欲しいか?」
「……え?」
「スフィー王女を助けたい力が欲しいか、と訊いておる」
「――――」

 余りにも突然のコトに、健太郎は間抜けな驚き顔で固まってしまった。

「……長老。力、ってまさか羅法を健太郎さんに教えるの?」
「んなコト、今から出来るわけ無かろうが。――ついてこい」

 ちょいちょい、と長老ユンは健太郎に指を曲げて見せてから、家の裏のほうへ歩き出した。健太郎はぽかんとしていたが、あいに腕を引かれてようやく我に返ると、慌てて追いかけた。二人が行くのを見て、リアンと精霊姉妹たちもその後をついていった。
 着いた先は、裏庭にあった、古ぼけた、かなり大きな蔵であった。
 長老ユンは、蔵の大きな扉を塞いでいた閂を引き抜き、一気に開いて見せた。歳に見合わずかなりの腕力の持ち主であった。

「ほれ」

 そういって長老ユンは、健太郎たちに蔵の中に入るよう、顎をしゃくって見せた。
 言われるままに蔵の中に入った健太郎たちは、その中が色んな道具や書物が積み重なっているコトを知った

「ここは、羅法に関わる文献や資料を仕舞っておる。誇りまみれだが、どいつもこいつも貴重かつ重要なモノばかりじゃ」
「凄ぇ……一体どれくらい昔のヤツなんだ?」
「この里を作る以前からある。ここに里を開いたのは、この羅法の蔵があったからじゃ」
「へぇ。それでこんな辺鄙な場所に作ったんだ」
「まぁ霊峰富士の力を利用して、霊的障壁が容易に築けるという利点があったのも理由の一つだがな。――さて、健太郎」
「ん?」
「この中には、お前のような非力なモノでも、非道な力に対抗出来る“力”がある」
「へ?」
「つまり、だ。――この資料の中に、お前でも使いこなせる“力”があると言うコトじゃ。それをくれてやる」
「くれる、って…………」

 健太郎は唖然とした顔で蔵の中を見回した。

「但し、全部、と言うわけにはいかん。もっとも、全部持ち出せるわけではないがな。精々、二つか三つ――しかし」
「しかし?」
「それは、お前が本当に必要とするモノだけだ」
「え……?」

 戸惑う健太郎に、長老ユンは背を向け、蔵の中を見つめた。

「さっき、ゆったじゃろう?」
「?」
「健太郎。あの青年に向かって、“俺が威張れるのは骨董品の目利きだけだ”って」
「…………ああ」

 健太郎はばつが悪そうに答えた。大見得を切ったセリフが、今更ながら恥ずかしく感じていた。

「なら。――お前のその目利きの目で、今、お前に必要なモノをこの中から探し出してみぃ」
「探す、って…………!?」

 健太郎は驚いて蔵の中を見回した。
 探せ、と簡単に言われても、こんな年季の入った蔵の中から、いったいどうやって、――そんな時間さえあるのか。健太郎は途方に暮れた。

「ハナから見つからないと思っているから、見つからないんじゃよ」

 そんな健太郎の心を見透かしたかのように、長老ユンが穏やかな口調で諭した。

「心の目で見るんじゃ。フォースを信じるんじゃ」
「……長老、まだスターウォーズがマイブーム?」
「昨日、麓のツタヤで第2部全巻のでぃぶぃでぃを借りてきて徹夜で見とったんじゃ」

 ふぉっふぉっふぉっ、とまたもやバルタン星人笑いをする長老ユンに、つっこんだあいは呆れて肩を竦めた。

「フォースはともかく。――健太郎、お前が“力”を必要とすると思えば、“力”のほうから道を示してくれるはずじゃ」
「道……」

 そう呟くと、健太郎は蔵の中を見回した。
 この中に、スフィーの力になれる――スフィーを護ってやれる“何か”がある。
 そう思うと、健太郎は不思議と、心が躍った。
 根拠など無い。
 そんな“力”が、ここにあるのか。
 そんな“力”を、探し出せるのか。
 そして、自分に、本当にそんなコトが出来るのか。
 そんな疑念を、健太郎は暫し忘れた。
 無心、というワケではなかったが、健太郎は蔵の中を凝視し、集中した。
 リアンたちは、そんな健太郎を黙って見守った。
 暫しの静寂。
 健太郎の眉が、ぴくっ、と反応した。そのコトに気付いているのは長老ユンだけである。

(…………あれは)

 健太郎は、蔵の天井に近い所に、奇妙な発光物を見つけた。

「……何か、光っている」

 思わずそれを指す健太郎。しかしリアンたちは不思議そうな顔をするばかりであった。
 そう、その光は健太郎以外には見えていなかったのである。

「あれじゃな」

 長老ユンも、その光は見えていなかったが、しかしそのしたり顔は、健太郎がそれを見つけ出すだろうと予想していたようなふうであった。

「あい。その、お前から向かって直ぐ斜め上の棚にある朱塗りのお櫃を〈霊糸〉でとってみい」
「へ?で、でも〈霊糸〉は霊的な影響にないモノは掴めないんだけど……」
「いいから、ゆぅた通りにせい」
「はーい」

 あいは言われるままに〈霊糸〉を放ち、指示されたお櫃を捉えた。

「……あ、凄い、これ、〈霊糸〉で掴める」
「その中には、強い念が込められているモノが入っておるからじゃ。それと、その奥に、もう一つ同じような箱があるじゃろ?」
「……うん。あった」
「それも取ってみい」

 あいは頷くと、〈霊糸〉で掴んだ朱塗りのお櫃と箱を引き寄せた。そしてそれを健太郎の手元に送って渡した。
 お櫃も箱も、丁度菓子折ぐらいの大きさで、大した重さもなく、二つ抱えても苦にならなかった。そしてそれは二つとも、今だ健太郎には光って見えていた。

「一体、これは……」

 不思議そうに思った健太郎は、まず、上に乗っている、和紙で作られた箱のほうを開けた。
 その中にあるのは、縁を鳥の羽のようなデコレーションで覆われた鉄板だった。

「……これは、『魔鏡』だな」
「魔鏡?」

 リアンが不思議そうな顔をすると、健太郎はそれを取り出して翳してみた。

「鏡の一種――なんだけど、古代の日本で特殊な祭儀に使用された道具でね。見ての通り、顔を写し出すモノじゃなくって、ちょっとした仕掛けが施されていて、光を反射させるとこの中に仕込んである顔や絵が映し出されるんだ。……光は、と」
「そいつは、確かに魔鏡だが、光に当てても何も出てきゃせんよ。それより、その下のお櫃を開けてみい」
「う、うん」

 健太郎は魔鏡を脇に抱え、空の箱を置くと、今度は下に持っていた朱塗りのお櫃を恐る恐る開けた。
 蓋を取った途端、健太郎は思わず、櫃の中から拡がる光に眩んで顔を背けた。無論、その光は健太郎以外には見えず、健太郎の奇行にリアンたちは戸惑った。
 だが、健太郎が驚きつつも櫃の中に手を入れ、手探りで何かを掴み取った時、リアンはそれを見て驚いた。

「それは――――〈命の雫〉!?」

          つづく

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