まじかる☆アンティーク =Little stone=(12) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月23日(月)19時33分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオのネタバレを含んでおります。
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【承前】

「何、あの光――」

 健太郎たちの目前で青白い光が爆発し、中から10体ほどの黒い影が出現し、長老の家の前に殺到して、健太郎たちに襲いかかってきた。

「羅法使いの結界を越えてくるなんて――」
「三人とも、下がれっ!」

 クラナッフは両掌を合わせ、光の剣を造り出して構えた。そして最初に飛びかかってきた〈災禍〉の分身を一刀両断にした。

「この前は不覚をとったが、今度はそうはいかぬぞっ!」

 続いて、その直ぐ後ろにいた分身を二体、上下に分断した。魔力で造り出す光の剣は、魔力体の分身にはかなり有効的な武器であった。
 だが、続いて来た4体目が更に分身し、クラナッフの四方から襲いかかるが、次の瞬間、宙を駆け巡った光の線がバラパラにしてみせた。

「……あたしがいるコトを忘れちゃ困るわねぇ。ちなみに――」

 あいは右腕を大きく振り上げた。

「――家の周囲に〈霊糸〉の結界を張っていたのはご存じだったかしら?」

 次の瞬間、家を覆いつくさんと増えた〈災禍〉の分身を、いつの間にか絡め取っていた〈霊糸〉で全てバラバラにしてみせた。

「……なんで、こいつらが――うわっ!」

 ほっとするのもつかの間、先ほど、〈災禍〉の分身がやって来た森のほうを見ると、その方向から次々と〈災禍〉の分身が飛来してきたのである。

「結界のほころびでもあったのっ?」
「いや――ヤツは誕生の時、高位の魔法を使える魔法使いを取り込んでいる。結界を突破するコトくらい、簡単なのだろう」
「うー、しつこい男って嫌い〜〜」

 何、マセたコトいってるんだ、と健太郎は心の中で呆れたが、事態は呑気なコトを考えている暇を許さなかった。
 〈災禍〉の分身は次々と結界の中に侵入して来て、今にもこの羅法使いの里の空を覆い尽くそうとしていたのである。

「マズイ――このままじゃこの里が奴らに――」

(ここでOP「Little stone」が流れると思いねぇ)
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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第12話 「〈災禍〉は、ここでグエンディーナの悲劇を再現するつもりなのよ」

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 あいは駆け出し、門の上に飛び乗った。そして両手を振り回し始めると、その指先から出ている〈霊糸〉が編み始め、巨大な霊糸の網を作りだした。

「気休め程度だけど――」

 あいはそれで家の周囲を覆い尽くし、〈災禍〉の分身が敷地内に入って来ないようにした。
 だが、〈災禍〉の分身は、その網の目をくぐり抜けようと身体を細くし始めた。

「させぬ――Evu……Mre……Wiw…………Thd!」

 クラナッフが詠唱を終えるや、その指先から光の矢が雨のように放たれ、〈霊糸〉の網の隙間から侵入してくる黒い影たちを捕らえて粉砕していく。かなりの数を始末したように見えたが、増殖を続ける黒い影の群れには、焼け石に水のようであった。

「…………くっ。これではきりがない」
「クラナッフ!」

 健太郎の横にいたリアンが溜まりかねて飛び出した。

「私も闘います!」
「エル――いえ、リアン王女、それは――」

 クラナッフは、じっと見つめるリアンの決意にどう言っていいか戸惑った。

「――〈災禍〉との闘いは、グエンディーナの民を庇護する私たちアトワリア家の宿命です。スフィー姉さんが覚悟したように、私も――」
「しかし…………」

 迷っている暇など無いのはクラナッフも判っていた。リアンを闘わせたくないのは王家親衛隊隊長の意志であり、義務である。リアンは守るべき存在であるべきなのだ。
 だが、自分を真っ直ぐ見つめるリアンに、そんなコトを言っても説得など出来るハズもない。
 クラナッフは仰ぎ、そして直ぐに顔を戻した。

「……エル。力を貸してくれ」
「――ええ」

 リアンは嬉しそうに微笑んだ。

「――私の学んだ中で最大の広範囲攻撃魔法を使います――クラナッフ、10秒保たせて下さい」
「御意」

 頷くと、クラナッフはリアンを庇うように立った。同時に、リアンが詠唱を始める。
 空を地を、荒れ狂う〈災禍〉の分身たちを、あいが〈霊糸〉を網の隙間から放ち、次々と切り裂いていく。一方で網を張っている所為か、あまり多くを斃すコトが出来なかった。

「あいちゃん……くそっ!」

 健太郎は、目の前で繰り広げられている壮絶な闘いに、彼女たちの力にもなれない自分を心の中で罵った。
 スフィーに置き去りにされた悔しさ。健太郎を落ち込ませたモノこそ、無力な自分であった。
 遂にリアンの詠唱が終わった。するとリアンの周囲に光の粒が集まり、頭上に大きな光球が出現した。

「あいさん、網に隙間を――――Thv!」

 リアンが、黒い影の群れの中央にそれを放った。同時に、あいは網の一部に穴を開けた。そこから飛んでいった光球は、群れの中で大爆発を起こし、半分近くを消滅させた。

「…………くっ。姉さんみたいに攻撃魔法は得意じゃないから、威力が……」

 いや、たとえ威力が絶大だったとしても、空いた穴を補うように増殖を続ける〈災禍〉の分身相手には無力に等しいだろう。リアンが倒した半数は、直ぐに補充されてしまった。

「キリが無ぇ――、そうだ、あいちゃん、他の家の人たちは?」

 玄関に入って様子を伺っていた健太郎は、門の上に登っていたあいに訊いた。

「みんな西の畑のほうで昼の作業をしている頃だから、まだ被害は出ていないようだけど、そっちはそっちでやってもらうしかないわ。まぁみんなここに殺到しているみたいだから、ここが最前線みたいなもんよ――マズイなぁ、あたしの〈霊糸〉でも押さえきれないよぉ」
「どうすれば――」
「真打ち登場、ってところかのぅ」

 突然、背後から肩を叩かれて驚いた健太郎は、振り返ってみるとそこに長老ユンが居ることに気付いた。

「おじいちゃん!」
「爺さん!居たのか?」
「居ちゃ悪いか?」
「そーいう意味で言ったんじゃねぇよ」
「わかっとるわい、ほっほっほっ」

 長老ユンは笑いながら玄関を出ていった。

「「長老!」」
「ふん。客を入れようとした隙を見計らって入り込むとは、トンでもないワルよのぅ」
「客?」
「このままじゃ客も入って来れぬから、さっさと始末するか」

 さっさと、というが、この数はそんな副詞で片づけられるようなモノではないのは健太郎たちにも明白だった。
 いや、あいのみが、長老ユンのひょうひょうとした態度の理由に気付いていた。

「ぬしら、滅多に見られるシロモノではないからな――〈禁〉っ!」

 長老ユンがそう怒鳴って大きく瞠った瞬間、健太郎たちの周囲を取り巻く世界の光と影が反転した。
 一瞬だった。
 空を覆い尽くし、地を埋め尽くしたあの黒い影の大群が、消滅していた。
 突然の消失に、構えていたクラナッフやリアン、そして玄関から見守っていた健太郎は、呆気にとられたまま周囲を見回した。

「これが――空間を支配する羅法、〈絶対戒〉の威力……!?」
「……〈絶対戒〉?」
「巨大な結界みたいなモノじゃ」

 長老ユンは、何事も無かったかのように、こきこき、と肩を捻って見せた。

「もともとこの羅法使いの里は、儂が作った空間。この中では、儂の断りなしに存在するコトは許されない――あの化け物どもは全て存在を禁じさせてもらった」
「「なんと…………」」

 リアンとクラナッフは唖然となった。恐らく彼ら魔法使いにもこれほどの実力者はそう居ないのであろう。

「……ただのペドジジィじゃなかったのか」
「聞こえとるぞ、健太郎」

 振り向きもせず冷ややかに言われ、健太郎はびくっ、と竦む。

「……安心せい。孫を消すほど愚かではないわ。――ほれ」

 そういって長老ユンは、ある方向を指した。
 そこは、〈災禍〉の分身の群れがやって来た森のほうであった。そこから、二つの光球がゆっくりとやって来たのだ。

「まだ居たか――」
「待て待て。アレが、客じゃ――健太郎たちに用があるそうじゃ」
「へ?――あっ!?」

 戸惑う健太郎は、光球を凝らして見た。するとその光球の中に見覚えのある人影が居るコトに気付いた。

「――ましろさん!」
「おお、健太郎殿。一時はどうなるかと思いましたぞ。――流石は羅法使いの長、〈絶対戒〉が発動する場は初めて見ました」
「今じゃ滅多に使わぬ術じゃからな。見物料はぬしらの驚いた顔で充分じゃ。ところで、どうやら精霊界から直接来られたようだが……?」
「はい」

 ましろの妹が頷いた。

「――精霊界の長の遣いで参りました。この世界に、急激にマナが集まり始めている場所があるそうです」
「集まる?」
「魔力の施行で集まったモノではなく、まるで吸収されるように。その為に、自然界のマナのバランスが乱れ始めております」
「マナのバランス?」
「はい」

 ましろが頷いた。

「マナは自然界を構成する上で不可欠な力。自然界に存在する全てのモノは、マナの影響下にあるのです。マナは万遍なく存在するのですが、魔法の行使で一時的に集まることはあれど、直ぐに元に戻るのですが――今回のは、マナが大量に消費され続けているのです」
「大量に消費、って……まさか!」

 驚くクラナッフは、リアンの顔を見る。リアンは頷いてみせた。

「〈災禍〉か?」
「みたいね」

 あいは霊糸の網を解き、ましろたちを敷地内に入れた。

「尋常ではない速さで集められております。精霊界でもバランスの乱れから、混乱が生じてしまい、このままでは……」
「この世界の自然が狂い出す、と言うワケじゃな」
「それだけじゃないよ、きっと――」

 あいが不安げな顔で言った。

「それだけじゃない、って?」
「〈災禍〉が生まれた理由よ」
「?」
「もともと、〈災禍〉は、どうして生まれたか、覚えている?」
「えーと……」
「ある魔法使いが、体内に蓄積する低級マナを能動消費する魔法システムを鏡像反転させ、無限増幅させる実験に失敗したんですよね」

 リアンが答えた。

「そうだよね。――じゃあ、その魔法使いはどうしてそんな実験をしようとしたの?」
「それは――――!?」

 突然、リアンは、はっ、と驚いた。

「どうした、リアン?」
「…………その魔法使いは……まさか?」
「その、まさか。――自分たちを追いやったこの世界の人間たちに復讐する為だったんでしょう?」
「「あ――」」

 ようやく、健太郎もクラナッフも気付いた。

「最悪の推測が正解だと思う。――〈災禍〉がどうしてこの世界にやって来たのか、それで説明が着くし」
「……この世界の人間たちに復讐する気なのか?」
「多分」
「でも、どうやって?――確かに、あんな化け物を相手にしたら、人類もピンチかもしれないけど、対策ぐらいあるだろう?」
「そんな余裕はないわね」
「どうして?」

 するとあいは、はぁ、と忌々しげに溜息を吐き、

「人間も自然界の一部。魔法を使わなくても、少なからずマナの影響はある。人間の身体だって、低級マナはいくらか蓄積するようになっているの」
「本当?」

 健太郎はリアンのほうを見て不思議そうに訊いた。

「……我々は元々この世界の人間だ」

 代わりにクラナッフが呆れたふうに答えた。

「それとも何か、我々は化け物か何かか?」
「そ、そういう意味じゃあ……」
「クラナッフ、言い過ぎですよ」

 クラナッフに睨み付けられて困る健太郎に、リアンが苦笑しながら庇った。

「ま、まぁ、マナが人間の身体に蓄積するとして――――あ」

 健太郎はようやく、あるコトに気付いた。
 続いて、リアンとクラナッフも、あるコトを想い出した。

「想い出した?――〈災禍〉は、ここでグエンディーナの悲劇を再現するつもりなのよ」

 見る見るうちに青ざめている健太郎たちに、あいは神妙な面もちで言った。

「そして、このマナの異常集中と、スフィーさんが健太郎さんから〈賢者の星〉の欠片を奪ったコトから推測出来る結論は一つ――〈災禍〉は人類の体内にある低級マナの増幅をもう始めているのよ」
「なんだと……じゃ、じゃあっ?!」
「あとどれだけかは知らないけど――〈災禍〉は人類殲滅を始めてしまった。ほっとけば、低級マナの消費方法を知らない人間は全て、死滅する。スフィーさんの慌てぶりから、恐らくもう時間が少ないのでは?」
「!?」
「まるで、癌細胞じゃな」

 長老ユンも、切迫している事態を理解して、ウンザリしたように言った。

「癌細胞は遺伝子の変異で誕生する悪性腫瘍じゃ。大抵の癌細胞は正常細胞以上の高い増殖力を持っており、正常細胞を劇的な速度で食い尽くしながら、やがてその生命体を死に至らしめてしまうぞ――精霊殿、その異常集中している場所は何処かえ?」
「あすこです」

 そう言ってましろの妹が指した方向には、健太郎ばかりか、この日本に住む者達なら知らぬ者は居ないであろう、ある地形があった。

「マナを集めるのに最も適した、霊格の高い地として知られている霊峰――富士山」

          つづく

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