まじかる☆アンティーク =Little stone=(11) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月22日(日)23時39分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオのネタバレを含んでおります。
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【承前】
 デンマーク領グリーンランド某所地底。
 北極圏の氷に閉ざされた世界の下に、楽園のような暖かい世界が拡がっている事実を知る者は少ない。
 ましてや、その地で銃撃戦が繰り広げられているとは――

「――くそっ!なんだ、あの黒い影はっ!」

 防寒服に身を包んだ宮田健吾とその妻、しのぶは、この地底世界の古代遺跡に侵入すると同時に背後から襲ってきた、人の形をした黒い影の集団に苦戦していた。
 健吾としのぶは、護身用にそれぞれ銃を持っていたが、拳銃ではなく、健吾はH&KMP5KA1、しのぶに至ってはコンパクトショットガン、ハイスタンダードM10Bのカートリッジを巨大なドラム式にして装弾数を3倍にしたM10DSを備している。何れも軍・警察用重火器として一般には流通していないものを、一介の骨董品店店主とその妻が所有しているのは何とも奇妙である。
 だがそれ以上に、白クマと対峙しても一撃で倒せる火力をもってしても、自分たちを襲ってきた黒い影の集団には一発も効いていないのである。撃った弾が全て通り抜けてしまうのである。

「……物理攻撃は効かないのね」
「どうやら、精神体の類らしい――ペンギンの幽霊かね」

 健吾は迫り来る影の群れに辟易して、突き出していたMP5を戻した。いくら撃っても無駄弾になってしまうだけである。

「あなたの昔の女性関係だったらタダじゃおきませんからね」

 しのぶは意地悪そうにいうと、腰の後ろに装備しているホルダーから二本の、刃渡り36センチもある巨大なナイフを引き抜いて構えた。ナックルガードまで刃が伸びているそれは、いくらしのぶが主婦とは言え、サバイバル用のナイフと思う者は居まい。

「無影刀で斬れる相手とは思えんが」
「ご自慢のマウザーが、寒さでオイルが凍って使い物にならないくせに、偉ぶらない」
「あーあ。俺も親父から羅法でも学んでおけば良かったなぁ――ほら、あんなふうに――」

 と、健吾が近づいてくる影の群れを指した。
 そして驚いた。
 影の群れの背後から、幾重もの閃光が走り、次々と影の群れを散らしていたのである。
 やがて、影の群れは左右に分かれ、背後へ振り返った。
 黒き魔海を分けたモーゼは、白きケープを纏った、中性的な美貌に穏やかな笑みを湛えている銀色の髪の青年であった。手にこそ十戒はしていなかったが、その手から放たれた光が、影を倒していたのである。

「やれやれ。弾が通過してくるからなかなか近づけなかった」

 白きケープの青年はそう言って、健吾たちに手を振って見せた。

「この者達は、ミミルの泉の守護者ではありません。〈災禍〉の分身の魔力体です。重火器などではとうてい太刀打ちできませんよ」
「そう言うコトは早く言ってほしいものだなぁ、魔法使いさんよ」

 健吾は、にっ、と笑う。どうやらこの白いケープの青年とは知り合いらしい。

「先へ急ぎなさい。こいつらは私がお相手しよう」
「おお、頼むぜ」

 健吾はしのぶの肩を叩き、その場から奥へ駆け出していった。影の群れの中には二人を追おうとした者が居たが、直ぐに、白いケープの青年が放った閃光によって倒されていった。

「…………邪魔はさせません。時間がないのです。それに少しばかり、私も貴様たちには腹が立っているのでね――」

 そう言うと、今まで微笑んでいた青年の顔に凄みが浮かび上がった。そして同時に、青年の周囲が光の風を巻き始め、影の群れを圧倒し始めたのである。

「――――容赦などせぬ。滅びよ」

(ここでOP「Little stone」が流れると思いねぇ)
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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第11話 「この前は不覚をとったが、今度はそうはいかぬぞっ!」

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 スフィーに去られた健太郎は、呆然とした面もちであいの家に戻ってきた。

「……川にでも落ちたのか?」

 門の前にいたクラナッフは意地悪そうに訊いたが、健太郎は振り向きもせず、ああ、と虚ろげな顔で頷いて見せた。その様子に、流石にクラナッフも不安になった。

「――何があった?」

 クラナッフがそう訊くと、健太郎は歩みを止めてその場に立ちつくした。とにかく、魂が抜けたような様子だったので、〈災禍〉が関わっているのか、と思わず身構えた。
 だが、〈災禍〉を想起したコトで、クラナッフはある可能性を思い浮かべた。

「――――アトワリアと逢ったのか?」
「………………ああ」

 そう答えて、健太郎はがっくりと項垂れた。

「どこで逢った?――アトワリアは無事だったのかっ!?」
「無事だったよ……怪我一つ無ぇ。…………ピンピンしていた」
「…………おい、宮田健太郎」
「…………」

 項垂れたまま振り向きもせず応える健太郎に、クラナッフは苛立ちを感じ、ゆっくりと近寄ってその右肩を掴んだ。

「――――それで、アトワリアは?どこへ行ったのだ?」
「…………わかんねぇ。…………多分、俺を魔法で眠らせて、俺のロケット、持っていっちまった…………」
「持っていった?」
「〈賢者の星〉の欠片が入ったヤツね」
「――キミは」

 いつの間にか外の二人に声を聞きつけたあいとリアンが、玄関から顔を出していた。

「前に、〈賢者の星〉が填め込まれていたドレスがスフィーさんを、一時的に元の姿に戻したコトがあったそうです。その石はあとで壊れてしまったそうだけど、それでも核の辺りにまだ魔力を遺してエメラルド色に光っていたものを、健太郎さんが大切に持っていたそうです。この石が何なのか、どこで見つかったものなか、色々聞き回っていたそうですけど、あたしに指摘されるまで何の手懸かりもなくって」
「〈賢者の星〉――そんなところにあったのか?」
「もっとも、だいぶ魔力を消費していたものらしくて、核以外はスカスカだったみたい。スフィーさんを一時的に元の姿に戻すぐらいしかパワーが残っていないんでしょう。――でも何でスフィーさんがそれを持っていったんです?」

 訊かれるが、健太郎は頭を横に振るだけであった。振ったが、理由に全く心当たりがないわけではなかった。
 それをみて、リアンが思わず、あっ、と言った。

「……リアンさん。何か思い当たるものでも」
「え……いえ、それは…………」

 妙に口ごもるリアン。あいはリアンが何か隠しているか、戸惑っているのだろうと直感した。

「――今は迷っている場合じゃないでしょう?スフィーさんを探さないと!」
「う、うん…………」
「……リアン」

 戸惑うリアンの様子に健太郎も気付き、顔を上げてリアンを見つめた。

「…………スフィーさんがあの石を必要とする理由でもあるの?」

 あいに訊かれ、リアンは、はぁ、と溜息を吐いて頷いた。

「…………もしかしたら、なんですが」
「うん」
「…………スフィー姉さん、〈賢者の星〉の欠片でお父様の仇討ちを考えているのかも」
「何ですって?!」」

 あいは素っ頓狂な声を上げて驚いた。

「……あり得ないことではない。……アトワリアの性格なら」

 既にそのコトは予想済みだったので、まったく動じていなかった健太郎の後ろで、クラナッフが複雑そうな顔で頷いていた。

「ンな無茶なっ!相手はグエンディーナの住人全てに呪いをかけてしまうような怪物なんだよ!」
「……アトワリアは昔から後先考えずに行動する悪いクセがあった」
「ああ…………」

 頷く健太郎も、そんなスフィーの性格を理解していた。一途な女と言えば聞こえはいいが、むしろスフィーは猪突猛進に近い、と言うかそのものであった。
 かといって、これは余りにも無茶である。いくら〈災禍〉を倒すためには〈賢者の星〉が必要とは言え、あんな小さな、精々スフィーを元の姿に戻すぐらいしか魔力が無い欠片で何が出来るのか。

「スフィー姉さんが、そこまで思い詰めていたなんて…………」

 リアンは今にも泣き出しそうな顔で洩らした。

「……スフィー姉さんは、お父様をとても慕っていました。お父様は厳しいお方でしたが、決して理不尽なコトを言うことはありませんでした。だから、姉さんや私がこの世界に残るといっても、怒りましたが、それでも私たちの言い分はちゃんと聞いていただきました。その上で、私たちがこの世界に滞在する条件を、私たちが納得するまで真面目に話し合いにも応じてくれました。…………そんなお父様だからこそ、姉さんは尊敬していたのです。…………だから、お父様が〈災禍〉に殺されたコトを知ると、初めは酷いショックを受けていましたが、直ぐに立ち直って、〈賢者の星〉を見つけようと――ああ、そうなんだ、初めから姉さんは自分の手で仇を討とうと決めていたんですね」
「……無茶しやがって」

 健太郎は呆れたふうに言った。

「……低級マナが人質に取られているコトを知っていた姉さんは、私たちが修行と称してこの世界にやってきた時に聞かされていた〈賢者の星〉が〈災禍〉を倒すのに必要だと言って、この世界に戻ることにしました。……まさか私たちの時代に〈災禍〉の封印が解けるとは思ってもいませんでしたから、〈賢者の星〉探しは二の次にして、純粋に修行していましたから…………きっと姉さん、真面目に〈賢者の星〉探しをしていれば、お父様を死なせてしまうコトもなかったともの凄く後悔しているのかも知れません。ずうっと思い詰めた顔をしていましたから」
「…………」

 リアンの話を聞いて、健太郎は、再会したスフィーの物憂げな顔を想い出した。きっとその通りなのだろう。健太郎は唇を噛みしめた。

「でも、あの〈賢者の星〉の欠片では、きっと太刀打ちできないと思うよ」

 あいは困ったふうに言った。

「お爺ちゃんたちがグエンディーナの人たちを助けようと、昔から〈賢者の星〉探しを続けていたのは判るよね?」
「ええ。その、コピー魔石も、自然な〈賢者の星〉の代わりにしようと作られた試行錯誤の品だと言うコトは、さっき読んだ資料で知りました。……あいさん、私、このまま姉さんを見殺しにしたくない!何とかなりませんか?」
「んー」

 あいは腕を持て余して唸った。

「…………お爺ちゃんに頼んで、日本中の羅法使いを召集して総力戦を図るのも手だけど…………」

 そこまでいってあいは、ううーん、と唸りながら傾げた。

「……何だよ、その困ったふうなのは」
「…………時間よ」
「時間?」
「だって――スフィーさん、焦りすぎていない?」
「焦る?」
「いくら親の仇で頭に血が上っているとはいえ、健太郎さんの魔石の弱さのコトは知っているハズだし、――――まさか」

 あいの顔が閃いた。しかしそれはどこか昏い面もちをあいの顔に拡げていた。

「……何?」
「…………待って。訊かれても、まだあたしも頭の整理がついていないの。――――〈災禍〉とやらが生まれた理由…………どうしてこの世界に…………この世界…………」

 ぶつぶつと言いながら、次第にあいの顔に不安の色が拡がっていく。そんなあいをみて、リアンと健太郎も不安になっていった。

「――とにかく、だ」

 クラナッフが言った。

「――スフィーが〈賢者の星〉を持ってどこへ向かった、かだ。宮田健太郎、スフィーの様子から、何か思い当たるコトはないか?」
「思い当たるコト、って言われたって…………!」

 訊かれて、健太郎は戸惑った。それこそ健太郎が知りたい話である。

「……今の話から、スフィーは〈災禍〉に向かっていったんじゃないか?」
「それは間違いない。恐らく、我々と別行動している時に何らかの手懸かりを見つけたのかもしれない」
「じゃあ、〈災禍〉とやらが居そうな場所、って判るか?」
「〈災禍〉の居そうな場所?」
「ああ」

 訊かれて、クラナッフは、ふむ、と唸った。

「……ヤツは低級マナをコントロールする魔法から生まれた魔力体。となると、魔力のありそうな場所に潜んでいる可能性はある。――宮田健太郎、該当する場所を知らぬか?」
「知るワケないだろう……。俺はタダの骨董品店の店主代理だし」
「じゃあ」

 と、クラナッフはあいのほうをみた。
 するとあいも首を横に振り、

「……限定するのは難しいと思う。魔力の集まる霊格の高い場所、って意外な所にあるから。例えば、都会のど真ん中にある五月雨堂とか――――あれ?」

 あいがそう答えた時だった。向こうの森から、奇妙な青白い光が接近しているコトに気付いたのである。

「何、あの光――」

 その瞬間、青白い光が爆発し、中から黒い影が無数に出現してきたのである。

「これは――――」
「あ、あれは〈災禍〉の分身ですっ!」

 思わずリアンが悲鳴を上げた。出現した黒い人影は、10体ほどだっただろうか。それが長老の家の前に殺到し、健太郎たちに襲いかかってきたのである。

「羅法使いの結界を越えてくるなんて――」
「三人とも、下がれっ!」

 クラナッフは両掌を合わせ、光の剣を造り出して構えた。そして最初に飛びかかってきた〈災禍〉の分身を一刀両断にした。

「この前は不覚をとったが、今度はそうはいかぬぞっ!」

 続いて、その直ぐ後ろにいた分身を二体、上下に分断した。魔力で造り出す光の剣は、魔力体の分身にはかなり有効的な武器であった。
 だが、続いて来た4体目が更に分身し、クラナッフの四方から襲いかかると、クラナッフは自身の窮地を覚った。
 それを救ったのは、いつの間にか分身した4体をバラバラにした光の線であった。

「……あたしがいるコトを忘れちゃ困るわねぇ」

 飛び出したあいが、クラナッフの横に立った。

「ちなみに――」

 そう言ってあいは右腕を振り上げた。

「――家の周囲に〈霊糸〉の結界を張っていたのはご存じだったかしら?」

 次の瞬間、家を覆いつくさんと増えた〈災禍〉の分身を、いつの間にか絡め取っていた〈霊糸〉で全てバラバラにしてみせた。

「……なんで、こいつらが――うわっ!」

 ほっとするのもつかの間、先ほど、〈災禍〉の分身がやって来た森のほうを見ると、その方向から次々と〈災禍〉の分身が飛来してきたのである。

「結界のほころびでもあったのっ?」
「いや――ヤツは誕生の時、高位の魔法を使える魔法使いを取り込んでいる。結界を突破するコトくらい、簡単なのだろう」
「うー、しつこい男って嫌い〜〜」

 何、マセたコトいってるんだ、と健太郎は心の中で呆れたが、事態は呑気なコトを考えている暇を許さなかった。
 〈災禍〉の分身は次々と結界の中に侵入して来て、今にもこの羅法使いの里の空を覆い尽くそうとしていたのである。

          つづく

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