○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオのネタバレを含んでおります。
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【承前】
「本来マナは、希少な物質。自然界のバランスを維持するために使われているのですから。――しかし、息をするように、定期的に人間全てがマナの入れ替えをしていると言うコトは、空気のようにマナが世界に当たり前のように溢れ返っているのでしょう。先ほどの〈災禍〉は、マナを増幅する力を持っていたと言っていましたから」
「……驚いたな。その通りだ、マナの濃度はこの世界の比ではない。だから我々はマナの交換に不自由していなかった。しかしスフィーは、マナが少ないこの世界で、いつもの調子でマナを使いまくっていたのだろう、だからいつまでも子供の姿のままなのだ」
「そうか……、あ、そういえばあいつ魔法を使っているうち、体力不足で倒れたコトがあったが、あれは疲労じゃなくって、マナが足りなくなったからか」
「この世界がグエンディーナと同じつもりでやっていては、いつまでも元の姿に戻れるハズもない。――――本当にそうならばな」
そういってクラナッフは健太郎のほうを、じろり、と睨んだ。
いきなり睨まれた健太郎は、何かマズいコトでも言ったのか、と戸惑った。
「……あ、もしかしてスフィーを倒れるまで働かしちゃったコトを怒っているとか?」
「…………そんなコトではない」
そういってクラナッフは横を向いた。健太郎はクラナッフがヤケに自分に冷たい態度を取る理由をどうしても思い当たらず、首を傾げるばかりであった。
「それはともかくとして――クラナッフさん」
あいが訊いた。
「何だ?」
「〈災禍〉はマナを支配した、っておっしゃってましたよね?」
「ああ」
「そもそもそれは、力の弱い低級マナを増幅させる魔法の失敗が暴走し、誕生したものとおっしゃってましたよね」
「確かに」
「そして封滅した――にもかかわらず、クラナッフさんやリアンさんを操った」
「?!」
「――〈災禍〉は何故、今も存在するのですか?」
(OP「Little stone」が流れる)
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まじかる☆アンティーク
= Little stone =
第7話 「23年の腐れ縁を持つあたしとの関係以上に――強いんだから」
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「それは――」
急にクラナッフが口ごもった。何か言いたくないコトでもあるのか。
「――〈災禍〉を封滅するコトはどうしても出来なかったのです」
「リアン――」
健太郎たちは、リアンがいつの間にか目を覚ましていたコトにようやく気付いた。
「もう身体は大丈夫?」
「はい……」
心配そうに聞く結花に、リアンは力なく微笑んで応えた。
「リアン王女――」
「クラナッフ、ここからは私に説明させて下さい。……あなたの――」
そういってリアンはあいを見た。見つめられて、あいはまだ彼女に名乗っていないコトを思い出した。
「あたしは七瀬あいと申します、プリンセス・リアン。――ヘイムダル・アズ・ゲーイン・クリエール。その名の意味をお判りですね?」
その名を口にした途端、クラナッフが思いっきり瞠った。
「な、何故その名を――――?」
そして、クラナッフはリアンのほうを見た。
リアンは対称的に、全く動じて居なかった。動揺がないコトから、リアンはあいがその名の人物と知り合いであるコトを既に知っていたようである。
「……そうですか。あのお方のお知り合いなら、安心して話せます。――健太郎さん、結花さん、なつみさん。これからお話しするコトは、他言無用で願います」
「他言……」
結花は戸惑うが、健太郎となつみが察して黙って頷いたのを見て、慌てて頷いた。
「……あいさんの言う通りです。わたしたちは結局、〈災禍〉を滅ぼすコトが出来ませんでした――いえ、〈災禍〉が滅びると、我々も滅びてしまうからです」
「え?どういうコトだよ?」
「〈災禍〉は魔法で昇華できない低級マナで構成されています。だから、高位レベルの魔法で使用される純度の高いマナを取り込むコトが出来ません。――そこで〈災禍〉は、我々グエンディーナの人間たちに呪いをかけたのです」
「呪い……生体エネルギーとマナの使い方を逆転させたアレ?」
「そうです――我々が魔法によってマナを消費し、残留したマナを体内から排出するべく、低級魔法を使用するのですが――〈災禍〉はそこに付け入りました」
「付け入る?」
「リアン――」
溜まらずクラナッフが口を挟むが、リアンは、大丈夫、と制した。
「――低級マナと同化した〈災禍〉は、それを消費する低級魔法を効かなくしてしまったのです」
「効かなく?」
「〈災禍〉は、グエンディーナに存在する低級マナと常時同化するコトで、低級マナを自らの支配下に置いてしまった。――わたしたちの体内に残留している低級マナさえも」
「じゃあ…………!」
「はい。いくらそれを消費しようとしても、〈災禍〉がそれを妨害してしまうのです。その為、残留する低級マナが体内から排除できず、多くの人々がマナ中毒で死んでしまいました。わたしたちの先祖は〈災禍〉を倒すべく全力を使いましたが、既に時遅し……、〈災禍〉は、低級マナを人質にしてわたしたちを支配下に収めてしまったのです」
「何だって…………?!」
「国民たちは、〈災禍〉は倒されたモノと信じています。〈災禍〉が低級魔法の行使を妨害しなくなったのですが、封滅結界によって強制干渉しなくなっただけで、依然、〈災禍〉の支配下にあります。無論、低級マナによる弊害の存在は、一部の者を除いて知らせれておりません」
「そんな……!じゃあ、リアンたちは今も〈災禍〉の支配下に――」
「それは違う!」
クラナッフが怒鳴るように否定した。
「それは飽くまでも概念上の話だ。グエンディーナはリアン王女たち王家が正しく統治なされている!〈災禍〉などの思い通りにはなってはおらん!事実、〈災禍〉は確かに封滅され、国民たちに手も足も出せずにいる!」
「でも、低級マナとの同化状態は封滅出来ませんでした……」
「うっ…………!」
「無論、〈災禍〉を完全に封滅しないかぎり、グエンディーナに真の平和はもたらすコトが出来ません。――だからわたしたちは、その手段を見つけるべく、この世界へやって来ているのです」
「「「……やって来ている?」」」
「はい」
健太郎たちに訊かれ、リアンは頷いた。
「健太郎さん。わたしたちがこの世界にやってくる理由は、スフィー姉さんから聞かされていると思いますが……」
「ああ。スフィーの家系が、半年の間、魔力のない世界へ出て、見聞を広める、って義務づけられているって…………」
「本当は、それだけではないのです。――見聞を広めるのではなく、この世界にあると言われている、あるモノを見つけ出す為にこの世界にやってきているのです」
「それが〈賢者の星(リトルストーン)〉なワケね」
あいがそういうと、クラナッフは思わず飛び上がった。
「何故、それを――――それは!?」
クラナッフを一層驚かせたのは、あいの胸元で輝く、〈賢者の星〉のコピー魔石にようやく気付いたからであった。
あいは、クラナッフが何に驚いたのか気付き、魔石を指すと首を横に振った。
「……これは〈賢者の星〉のコピーで、リアンさんたちが探し求めている純粋な〈賢者の星〉の魔力には足元にも及びません」
「そんな…………!」
「でもご安心を。わたしたち羅法使いたちは、ヘイムダル・アズ・ゲーイン・クリエールの依頼で〈賢者の星〉を探しております」
「……そのコトは、わたしも父王から聞いております。こちらの世界で、〈賢者の星〉探索に力を貸していただいている方々が居られると――そうですか、あなたたちだったのですか」
「探している…………?」
健太郎は、あいとリアンの話を聞いていた時、何か記憶に引っかかるモノがあった。しかしそれが何なのか、どうしても思い出せなかった。そして思い出そうと必死になった時、ようやく肝心なコトを思い出したのである。
「――そうだよっ!リアン、スフィー!スフィーはどうしたんだっ?!」
「スフィー姉さん……?」
訊かれて、リアンはクラナッフのほうを不安げに見た。
「……どうやら、アトワリアは――いえ、スフィー王女はここには居られないようです」
「やっぱり一緒に来たのか?」
「?」
「あんたが俺を襲ってきた時、スフィーはどこだ?って訊いてきたんだ!一緒じゃないのか?」
不安げに訊く健太郎を見て、クラナッフは戸惑って黙り込むが、やがて覚悟を決めたように頷いた。
「……この世界に来た時までは一緒だった。……しかし、〈災禍〉が我々の後を追ってきて、いきなり襲ってきたのだ」
「襲って――、って、身動き取れないようにしたんじゃあ?」
「……一ヶ月前、〈災禍〉にかけた封滅結界の……魔法の効果が切れてしまった……のです」
リアンが声を震わせて応えた。
「…………父王……お父様が何とか封滅魔法を重ねようとした時でした……〈災禍〉はそれを虎視眈々と伺っていたのです――施行しようとしたお父様を、〈災禍〉は手にかけ、そのまま逃走してしまったのです――――aHっ」
リアンは溜まりかねて泣き出してしまった。そう、リアンとスフィーの父親は、復活した〈災禍〉によって殺されてしまったのである。
「王国親衛隊が総力を挙げて〈災禍〉の行方を追ったが、ヤツを見つけることは出来なかった」
リアンに代わって、クラナッフが応えた。
「このまま野放しにしては、グエンディーナ滅亡に繋がる――そこでスフィー王女は、私とリアン王女を伴い、この世界へ〈賢者の星〉を見つけるべく次元を越えてきたのだが――ヤツが我々の荷物の中に紛れていたコトには気付きもしなかった」
「何だと……?!」
「スフィー王女は、我々を逃すべく、ひとり〈災禍〉に立ち向かって行かれた。…………逃げて見たが、結局〈災禍〉に捕まり、〈災禍〉に操られてしまった……そこまでしか覚えていない」
「じゃあ――スフィーも!」
「それはないと思う」
健太郎の驚きに、あいが否定した。
「だって、〈災禍〉は、スフィーさんはどこだ?、って訊いてきたんでしょ?」
「――あ、そうか。奴らの掌中にあるのなら、そんなコトは訊く必要もないか」
「それに、スフィーさんがまだ無事だってコトも」
なつみは健太郎にそう言って頷いた。
「……そう……だよな、うん、そうだっ!スフィーはまた無事だ!そしてこの世界に還って来てるんだっ!ははは………………、そうか、そうだよなっ!」
健太郎は嬉しさの余り笑うが、どこか覇気のない笑顔であった。
確かにスフィーは無事らしいが、〈災禍〉とやらに狙われている事実は変わっていない。
やがて健太郎は黙り込み、俯いてしまった。
「……このマナの少ない地で、マナを必要とする我々が生存するのは非常に難しい。だから、滞在も半年が限界だったのだ。この店のように、高純度のマナが骨董品に蓄積されているような場所ならともかく、普通の場所では徐々に体力を失い、低級マナによって死――」
「――――そんなコト無ぇっ!」
クラナッフの話に、健太郎は激高して顔を上げた。
「死ぬわけないだろう?――いーや、死なせねぇっ!スフィーは、俺が死なせないっ!」
健太郎の剣幕に、クラナッフばかりか、あいたちも圧倒されて呆然としてしまった。
やがて、女性たちが、ふっ、と照れくさそうな顔で微笑むと、皆、申し合わせたように頷いた。
「……そう。スフィーは死なないわ」
結花はそう言って腕を持て余し、クラナッフを見た。
「健太郎とスフィーの繋がりは、23年の腐れ縁を持つあたしとの関係以上に――強いんだから」
にっ、と不敵に笑う結花に、クラナッフは戸惑った。
言った健太郎は、顔を真っ赤にして口を真一文字に引いていた。しっかり照れているようである。なつみが横から健太郎をつついてからかっていた。
そんな健太郎を見て、泣いていたリアンも嬉しそうに笑っていた。
クラナッフは、健太郎と、その仲間たちを見て、暫し黙っていた。不思議そうにしていて、しかし何かを覚ったような、聡明な光が次第に、健太郎を見るクラナッフの目に宿っていくコトを、あいは気付いていた。
「……健太郎さん」
「?」
あいに呼ばれ、顔を真っ赤にしている健太郎が照れくさそうに向いた。
「……スフィーさんは恐らく、〈賢者の星〉を探しに行っているのだと思います。今一番大切なことは、〈賢者の星〉の魔力を使い、完全に〈災禍〉を封滅し、低級マナの呪いから人々を救うことですから。ここに戻ってこないのは、健太郎さんたちに迷惑をかけないためでしょう」
「え…………?」
戸惑うも、あいの言うコトにも一理あると思った。
「……そ、そうかもな。…………でも、……」
「探しに行きましょう」
「はぁ?」
するとあいは胸を張って、ニパッ、と笑う。
「どこへ行ったのか分からなくても、スフィーさんが〈賢者の星〉を探して居るのなら、あたしたちもそれを探しに行けば逢えるハズです」
「まぁ……そうだが……」
「その手懸かりが無くもありません」
「手懸かり?」
クラナッフは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「――羅法使いも〈賢者の星〉を探しているのです。だから、あたしのおじいちゃん――いえ、長老ユンに話を聞きに行きましょう」
「話……?」
「はい。――羅法使いの里。そこで何か手懸かりが得られると思うのです。だから――」
つづく