まじかる☆アンティーク =Little stone=(4) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月17日(火)23時27分
○この創作小説は『まじかる☆アンティーク』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを使用しており、スフィーシナリオのネタバレを含んでおります。
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【承前】

「――熱っ!」

 触った途端、結花は魔石が異常に熱くなっているコトに驚いて悲鳴を上げた。

「熱い……?」

 ところが、同じように石を持っていた健太郎とあいは、結花が驚いたような熱さを全く感じていなかったのである。

「言うの忘れてた。これは魔力を持っていない、あるいは魔力の干渉下にない人には触るコトすら出来ないの」
「魔力――」

 結花は目を丸めて健太郎を見た。

「あんた、いつから魔法使いに?」
「し、知るかよっ!」
「それ」

 と、あいが指したのは、健太郎が左腕に通していた――

「……あ、もしかしてこれか――スフィーから預かった腕輪」
「強い魔力を感じます。恐らくそれが」
「でも、どうしてこの魔石が――」
「それは、このペンダントにはめている魔石と共鳴し合っている所為でしょう」
「魔石――」

 健太郎はあいのペンダントに釘付けになった。

「でもこの魔石は、オリジナルのコピーです。――オリジナルが近くにあると、共鳴してこんなふうに光るんです」
「オリジナル?」
「ええ」

 あいは頷いた。

「その名も、〈賢者の星(リトルストーン)〉」

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   まじかる☆アンティーク

    = Little stone =

         第4話 「……アトワリアはどこだ?」

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 スフィーがグエンディーナに戻ってから、一週間が過ぎた。
 スフィーもリアンも、一向に戻ってくる気配はなかった。

「……まるで抜け殻みたいですね」

 健太郎をそう評したのは、五月雨堂の常連客である牧部なつみであった。

「スフィーさん、まだグエンディーナから帰ってこないのですか?」

 なつみはスフィーが魔法使いだと知っている、数少ない関係者の一人であった。
 というより、なつみ自身、グエンディーナ人とのハーフであった。五月雨堂に足げく通うなつみと知り合いになった健太郎たちは、なつみから魔力を感じ取り、死んだなつみの父親の残した遺品から、なつみの母親の手懸かりを得た。死んだと思われていた実の母は、なつみを生んだ後グエンディーナに帰還していたのである。
 現在は、事情を知ったスフィーとリアンらによって説得された国王に帰化を許可され、なつみは母親と一緒に暮らすコトが出来るようになっていた。そんなコトもあって、なつみは健太郎たちに恩義を感じていた。

「……お母さんも、グエンディーナの王様が亡くなられたコトは聞いているのですが、それ以上詳しい話は……」
「そら、なつみちゃんのお母さんの所に聞き及ぶ程度の話なら、こっちにだって入るしな……」
「お役に立てなくて済みません……」
「あ――、いや、良いんだ。逆に心配かけちゃって……」
「大丈夫ですよ」

 と、落ち込んでいる健太郎に、割烹着を着て棚の叩き掛けをしていたあいが声をかけた。

「スフィーさんは帰ってくるって言ったんでしょう?――信じて上げなきゃ」
「……うん。そうだよね。――ところで」

 なつみは健太郎に耳打ちした。

「……どなた?」
「ああ。長瀬さんの知り合いで、七瀬あいちゃん。今、スフィーの代わりに店を手伝ってもらっているんだ。――彼女も一応、魔法使いらしい」
「魔法?」

 なつみはあいをみて目を丸めた。

「……つーか、俺はその“羅法”とやらを行使した姿を見てはいないんだ――」


 ――一週間前。「HONEY BEE」で健太郎と結花の心を読み取った不思議な力は見ていたが、あいの力は、読心術は自身の“羅法”の初歩的な応用で、本来の力ではないと言った。

「……この〈賢者の星(リトルストーン)〉のコピー魔石は、羅法使いの証。羅法使いは自身の羅法力をこの魔石で増幅させ、行使します」
「〈賢者の星〉?」
「魔法の文献を紐解くと、必ず出てくる物質、賢者の石。でもそれは、あくまでも触媒であり、それ自体には何の力は持っていない。しかし、長きに渉り、自然の力のみで生成し結晶化したそれを、魔法使いたちは〈賢者の星〉――Little stone(希少な魔石)と読んでいます」
「Little stone……?それって、人工的に作れるのか?」
「賢者の石を触媒に、フレイヤの黄金涙石、宇宙樹ユグドラシルの葉、ソーマの花粉、リンガムとヨーニが結合した時にしみ出てきた愛液――えーと、あとどれくらいかなぁ」
「…………世界中の伝説がまざってねーか、それ?」
「そりゃあ、そうですよ。自然界の力が偶然造り出すモノを、人工的に作るのは、並大抵のコトじゃありません」
「ていうか、世界中の伝説ってみんなマジ?」
「あ、あと、ヨグ・ソトホーの呻き声が生んだヴァイアやダゴンの尾鰭の粉末とかも」
「うわぁ、胡散くせー(笑)」

 健太郎は呆れつつ、摘んでいた〈賢者の星〉の欠片を蛍光灯の明かりに翳して覗き見た。

「……でもこれは、自然に創られた……」
「このオリジナルを見つけた人は、恐らく天文学的確率で見つけ出したのでしょうね。惜しむらくは、この〈賢者の星〉の本当の力を知らなかったコト。それだけでも、これを見つけた幸運など霞むくらい不幸ですね」
「そこまでいうか」
「ええ。だって、この〈賢者の星〉があれは、理論上――全宇宙を支配できます」

 健太郎と結花は思わず口をあんぐりさせた。

「――あ。間違えた」
「「おいおい…………」」
「全次元を支配できます」

 思わず仰ぐ健太郎と結花。

「かつて実際、この〈賢者の星〉を使って、世界を二つに分けて平行世界を創造したコトがありました」
「「…………マジ?」」
「マジです」

 あいはそう答えて、乾きかけた喉をオレンジジュースで潤した。

「……その昔、この世界は、魔法が共存していました。しかし、魔法を恐れた人々が魔法使いたちを弾圧したのです。この国に根付いていた私たち羅法使いたちは、結界を張って人目を避けて生きるコトが出来ましたが、欧州のような狂信的な宗教家、というより、宗教を利用して人心を支配しようとしていた時の権力者たちの横暴によって、徹底的に弾圧されました。魔法使いたちは平穏な生活を望んでいただけで、決して権力など欲していなかったのに、理解出来ない力に恐怖を抱いて皆殺ししようとしたんですよ。本当、酷いコトです」
「……魔女狩り、ってヤツか?」
「まともに機能していたのは最初の頃だけ。あとは、魔法使いでも何でもない普通の人たちまで皆殺し。あれは人類史に残る汚点です――が、宗教絡みになる事件は常に被害が甚大で、後悔ばかりが残るモノばかりでした。人を救うはずの宗教が、実は史上一度たりとも平和などもたらしたコトはなく、そして一番、人類に常に災いや諍いをもたらしている原因となっているだってコト、いったいいつになったらみんな、気付くんでしょうかねぇ」
「なんかスゲー危険な発言だと思うが、大宇宙の意志は発動しないのか(笑)」
「それはそれとして。――そこで、女賢マーリンが、大勢の魔法使いと時間をかけて見つけ出した〈賢者の星〉を使い――世界を二つに分けました」
「分けた、って……」
「いわゆる、『平行世界』と言うヤツです。〈賢者の星〉は、魔力を増幅させる他、人の意志を現実化させるコトが出来るのです」
「意志を現実化――」
「女賢マーリンは、魔法使いが平和に暮らせる世界を〈賢者の星〉に願いました。それを確実に、理想通りの世界を作るために、凄まじい精神力を必要としました。その為、女賢マーリンと、彼女の精神力を魔力で支える為に幾人かの魔法使いがこの世界に残りましたが、残りの魔法使いたちは無事、あちら側の世界へ移り住むコトが出来るようになったのです」
「そんなコトがあったのか…………あ」

 急に、健太郎の頭に閃くモノがあった。

「――まさか、グエンディーナって!?」
「恐らく」

 あいは頷いた。

「……以上のコトは、昨日、慌てて行われた羅法使いの“儀礼”で長老ユンから口伝されたコトなので、これ以上、子細なコトはあたしも知りません。グエンディーナには一度も訪れたコトはないので、どんな世界なのかはさっぱり」
「……なんか、トンでもなくスケールの大きい話ねぇ」
「まぁ、納得の出来るところはあるが」


「――同じ人間でなくっちゃ、なつみちゃんのご両親が結ばれてなつみちゃんが生まれるコトは出来なかっただろうに」
「?」
「あ――い、いや、ちょっと思い出し独り言」
「あー、店長さん、アブナーイ(笑)」

 そういってなつみはクスクスと意地悪そうに笑ってみせた。

「ダメですよぉ、毒電波の受信は」
「んなもん受信するかっ!――――あ」

 なつみに怒鳴ったその時、突然、健太郎の顔が固まった。

「――うそっ?健太郎さん、本当に受信しちゃったの?」

 驚き半分苦笑するなつみの前で、健太郎はゆっくりと首を横に振った。

「…………あんたは」

 健太郎は、店の前に立つ、見覚えのあった人物に気付いただけであった。
 それも、酷く驚かされる存在。

「…………クラナッフ……?」
「?」

 健太郎がその名を口にした時、なつみはようやく店の前に誰かがいるコトに気付いて、そちらへ振り向いた。
 店の入り口には、面識のない、白いインバネスに身を包んだ美形の男が居た。
 その左手には、剣のような形をした光のような物体を握り締められていた。

「…………」
「?」

 健太郎は、無言で自分たちのほうを見ているクラナッフの様子がおかしいコトに気付いた。何か呟いているようであった。

「…………」

 もう一度、クラナッフが何かを呟いた。――何かを訊いているようだった。

「…………アトワリア………ど………だ?」
「?」

 健太郎は驚いた。確かに今、酷く小声であったが、クラナッフは、アトワリア、と言っていた。アトワリアとはスフィーのミドルネームであった。

「…………スフィーが……どうかしたの?」
「…………アトワリアはどこだ?」

 ようやく、健太郎はクラナッフの言葉を全て聞き取れた。しかし――

「……アトワリアはどこだ?」
「……はぁ?」

 健太郎が不安げな顔で首を傾げた。スフィーはどこだ?と訊かれても、あれから音沙汰もないし、戻っているのなら――

「――スフィーがこちらに戻ってきているのか?」

 健太郎がそう訊いた時であった。
 ダッ!突然、クラナッフは店内に飛び込み、健太郎めがけて、光の剣で斬りかかってきたのである。

「――なっ!?」

 事態が掴め切れていなかった健太郎だったが、クラナッフの様子があまりにも不気味だったのに不安を感じていたコトもあり、光の剣を振りかざした瞬間、あわててそばにいたなつみを抱き抱えて飛び退いた。クラナッフの光の剣は、健太郎たちが居た後にあったレジカウンターを一刀両断にし、レジからはお札と硬貨が噴き上がった。

「な、何すんだよ、いきなりっ!?」

 健太郎は怒鳴って文句を言ったが、健太郎のほうを見たクラナッフの目には、正気の色が全く伺えなかった。

「な……何だよ、俺、あんたに恨まれるようなコト――――うわっ!?」

 文句を言い続ける健太郎めがけて、クラナッフがまた斬りかかってきた。しかし今度は、なつみといっしょに床に転がっていた所為で、直ぐには避けられそうにはなかった。

「――ええいっ!」

 その危機を救ったのはなつみだった。――なつみがクラナッフに体当たりを仕掛けたのである。
 しかし、健太郎もなつみを抱き抱えていた。

「――なつみちゃんっ!」
「健太郎さん!早くっ!」

 抱き抱えているなつみに急かされ、健太郎はクラナッフにしがみついているもうひとりのなつみを見つめながら起き上がった。
 魔法使いを母に持つなつみも、ある程度魔力が使えるコトを、健太郎は思いだした。なつみは魔力によってもうひとりの自分を作り出すコトが出来るのである。いわゆる「ダブル(ドッペルゲンガー:二重存在)」なのだが、伝承にあるような、もうひとりの自分を見てもそれが死を告げるコトはない。
 だか、このクラナッフの様子は尋常ではなかった。ヘタをすると本当に死を告げる存在になってしまうかも知れない。――健太郎までも。
 ダブルのなつみが必死にクラナッフに食らいつくが、所詮はか弱い女性の力。直ぐに押し飛ばされ、光の粒になって消えてしまった。

「ああっ!」
「なつみちゃん、急いでここから逃げるんだっ!」
「で、でも――あっ!?健太郎さん、後ろっ!」

 なつみの悲鳴で振り返った健太郎は、直ぐ間近に、健太郎の頭を狙って剣を振り下ろしていたクラナッフの姿を目撃した。

「うわぁっ!!」

 死を覚悟した健太郎は目を瞑った。

 五秒経っても、痛みも何も感じない健太郎は、ゆっくりと瞼を開けた。
 意外な光景がそこにあった。
 クラナッフは、健太郎に剣を振り下ろそうとする姿勢で、空中に停止していたのだ。

「……な、なにが?」

 空中にいるクラナッフは、必死にもがいていたが、床に落ちるコトすらも適わずにいた。
 そんな奇妙な光景に健太郎は、ゆっくりとわき上がってきた冷静さのお陰もあって、以前、似たような光景があったコトを思い出すコトが出来た。

 あいに飛びついた結花が突然、バンザイの格好をして身動きがとれなくなった――

「――あいちゃんっ!?」
「間に合ったね」

 奥の倉庫に掃除に行っていたハズのあいは、クラナッフの後に立っていた。
 そして健太郎は、ようやく気付いた。
 クラナッフの全身にまとわりつき、店内に蜘蛛の巣のように張り巡らされている、光の糸の存在に。
 その光の糸は、あいが突き出している右掌から出ているコトに。

「……羅法究極奥義『聖封魂(ピュグマリナー)』の羅法使いが繰り出す『霊糸(れいし)』は、簡単に外せるとは思わないでよね」

 あいは、この時を待っていたかのような、そんな満面の笑みを浮かべていた。

          つづく

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