東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Bパート・その1) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月14日(土)23時55分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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(新型スーパーメガメイド・メイマーの映像とスペックが出る。Bパート開始)

 生命の最小単位とはなにか。
 今もなお、学者たちの間で論議が熱く交わされている、真理が見つからない命題である。
 生命体の個体。
 細胞。
 中には、群体を指すモノもいる。人間とて、たった一人で何でもこなせるワケではない。相互協力によってようやく仕事を果たすコトが出来るのである。
 その命題に未だに答が見出せない一番の理由は、“いのち”とはいったい何なのか、に尽きる。そこまでになると生物学ではなく哲学の世界に入ってしまうのだが、生物学を追究すると、誰しもその命題に突き当たり、その理由に迷ってしまうものである。
 何より、人体を組成する物質が、もはや生きた生体材料でなくとも、合成されたもので代用できる時代と化している今、生命の定義が難しくなりつつある。
 機械の身体というものは、今やSF小説やアニメの世界のモノだけではなくなっている。人工心臓や、今では視力を持った人工眼球さえもが実用段階に入っている。そのうち、身体の全てが機械化された人類も出現するであろう。
 しかし、それは果たして“人間”と呼べるのであろうか。
 100%、機械の身体と、生きた人間との最大公約数は存在するのであろうか。
 たましい?
 それでは余りにも概念過ぎる。そもそもそれが、生命体を動かす中核部としても、一体人体にどのような機能を果たしているのか、説明出来るモノはいるのだろうか。魂と呼ばれるモノは、宗教文化のような形而上学的概念から完成した用語であり、それがなんだか判らないのに、そういうものだ、という概念で森羅万象の理を説明しようとするのは余りにもナンセンスである。
 ――正解は「記憶」である。

 そもそも、“いのち”とは何なのか。
 訊かれて、“たましい”や“こころ”のような概念的なもので語ってしまいがちだが、それらは本質の一切を語っていない。恐らくは、人間を構成する物質をかき集めて、100%同じパーツ構成を完成させても、それは飽くまでも「人間のモデル模型」に過ぎず、同じこころなど作れるべくもないだろう。
 何故なら人間は、思考の場である脳の構造は理解しても、その脳がいかにして“自我”を創り出し、どのように機能するのか、その一番肝心な所を未だに何一つ理解出来ていないのである。

 しかし、“自我”が構築されていく過程だけは別である。
 そしてそれは、脳医学者や心理学者でなくとも、誰もが知っているコトだろう。

 人を動かすのは、「記憶」である。

 火が熱いコトも、川の清水が冷たいコトも、そよ風が涼しいコトも。
 電化製品を起動させる為には電源スイッチを入れるコトも。無論、電源コンセントが外れていればそれが機能しないコトも。

 ――そう。見聞を積み重ねて作り上げてきた「経験の集合体」が、我々を動かしているのである。
 すべては、我々が見聞き、体験して“覚えたもの”である。初めからすべてを知り尽くしていた者など存在していない。
 そしてそれを忘れさえしなければ、人間は次からはそれが当然の如く認識・行動に出るようになる。
 その繰り返し。どれが正しくてどれがいけないコトか、そうやって認識していくのである。「人格」と呼ばれるものは、その「記憶」を拠り所にしてアクションを起こす、一種のプログラムといえよう。
 だから、たとえ機械の身体であっても、対象者の「記憶」を移植するコトが出来れば、その対象者を“再現”するコトが可能になるのだ。

 それが実現された時、人類はある意味――いや、本当の意味で“不死”を得られるコトになるだろう。
 子孫を残す行為の意味は、DNA情報の保全である。仮にDNAが生命体の最小単位だとすると既に不死の力を得ているだろうが、DNA自体は絶えず情報を書き換え、最初の情報は当に失われている可能性があるかもしれない。
 また、植物は「接ぎ木」によって、自身の細胞を維持するという不死を実現できる能力を持っている。しかしそれは、自らの意志によって果たすコトは出来ないので、完全な不死とは言い難い。
 とはいえ、生命体単体で不死の能力を持ったものは、今のところ確認されてはいない。〈神狩り〉のリーダーであるルミラたち〈不死なる一族〉たちですら、その二つ名に相応しい完全な不死の能力は持っていない。最初の人類である〈神祖〉によって、異常なまでの再生力と老化速度の鈍化を与えられただけで、しかも彼らの女性体には子を遺す機能が欠如しているのである。男性体が普通の人間の女性体と性交するコトでようやく種を残すコトが可能なのであった。

 話を戻そう。
 改めて問う。生命体の最小単位とは、何か?
 「記憶」である。
 「記憶」さえ保全できれば、生命体は永遠に自我を維持したまま生き長らえるコトが出来るのである。
 それを実現したケースを、我々は識っている。
 事故死した朝比奈美紅。柏木姉妹、柏木耕一。
 そして、エルクゥ皇女四姉妹のうちの、リズエル、アズエルそしてエディフェル。
 彼女たちは、自身のオゾムパルスをTHライドに残すコトによって、復活するコトが出来たのである。
 そのオゾムパルスを「たましい」で概念的には説明せず、もっともらしいモノで説明するとすれば――それこそ、長瀬祐介や月島拓也たちが自身のアイディンティティを求めた時に導き出そうとした“こころ”や“いのち”の正体であった。
 つまり、オゾムパルスとは、それ自身ではないが――「記憶」を保持する性質を持った、記録媒体粒子なのであろう。

 しかし、ひとつだけ、説明できない例があった。

 柏木千鶴と柏木耕一の娘である、千歳。
 つまり、マルチである。
 彼女は、両親が結ばれた当夜に萌芽した「いのち」である。
 数年前、長瀬たちの実験によって再起動するまで、一度たりとも千歳のオゾムパルスが収められていたダリエリのTHライドは稼働していないのである。本来ならば、芽生えたばかりのその命が、マルチという完成された少女の人格を直ぐに構築など出来るだろうか。その一ヶ月後には、自身の主人と認める藤田浩之との運命的出会いを果たすというのに、その僅か一ヶ月で浩之に近い年齢の少女の人格を得るコトが可能なのであろうか。マルチには、ゴルディアームのような人格移植は施されていないのである。ましてや、超龍姫や霧風丸のような、エルクゥの人格を元にしている様子はない。
 まず考えられるコトは、マルチのAI部に使用されている、バンドウイルカの大脳皮質なのだが、これが果たして人間に近い人格を得られるとは考えにくい。特戦隊に所属する、海洋学者の卵である姫川琴音が、大学でバンドウイルカとの同列コミュニケーションを図る研究を行っており、後に、マルチたちのデータを元に構築された新型AIシステムによって、イルカにも確認されたオゾムパルスとリミビットチャネルを使った人語会話に成功するのだが、今の時点ではまだ実用化は果たされていない。少なくとも、マルチはその大脳皮質が創り出した「人格」ではないのだ。

「…………これが千鶴お姉ちゃんなら…………いったい……あなたは…………誰なの?」

 かつて、生機融合体として復活した千鶴と再会した初音が、マルチに訊いた言葉である。無論、この時は初音は、マルチが千鶴と耕一の娘であるコトは知っていないので当然の疑問である。
 いったい、マルチとは“何者”なのであろうか。――何者の“記憶”を受け継いでいるのであろうか。

 ワイズマンと対峙する太田香奈子が保有する“エルクゥ人格”は、エルクゥ皇女四姉妹の乳母であり、リズエルが最も信頼を置いた二人の女性士官の一人であったカミュエルのオゾムパルスであるコトは、リズエルによって明らかにされていた。。
 柏木一族と違い、太田香奈子の祖にエルクゥの血縁はない。しかし今、太田香奈子は、梓たちのように鬼神(エルクゥ)化現象を果たしているのである。これは一体どうしたコトか。

「……まさか……彼女も柏木の血を…………?」
「違うな」

 ゆっくりと身を起こしたところで呆気にとられていた梓の疑問に、オゾムパルス体の月島瑠璃子の横に立っていたワイズマンが応えた。

「この女は、エルクゥ皇女の侍女の“記憶”を受け継いでいるだけにすぎん」
「受け継ぐ――」

 親友の突然の変貌に声を無くしていた瑞穂が、ようやく詰まった声を吐き出せた。

「……そもそも、人間は、エルクゥ――人類原種の肉体をマテリアルにして造り出された人工生命体。エルクゥ波動は受け入れられないが、オゾムパルスに変革したものなら、上書きするコトは可能だ」
「上書き、って……げふっ」

 そう訊いた梓は、先ほどのダメージで少し戻してしまった。

「そう、上書き。――エルクゥ波動を〈The・Power〉の力でオゾムパルスにコンバート出来たから、人類原種体として生きていた頃の記憶を対消滅されるコトなく人類種に移植出来たのだ。いわゆる、パソコンで言うシステムのアップグレードと言うヤツか」

 ワイズマンは可笑しそうに説明した。

「肉体そのものは、同じ素材出てきているから人類種も人類原種もそう差はない。だからこそ、柏木一族のような混血が可能だったのだ。つまるところ、その差は、“たましい”の差――肉体を動かすOSの性能差にあった」
「OS――」

 ようやく、胃の中のモノを全部吐き終えた梓は、白い顔をしてワイズマンを見つめた

「……そういえば……THライドは生体ユニットで組まれたAI回路に干渉するコトでこころを創り出した、と聞いていたけど――“心OS”」
「その通り」

 ワイズマンはまるで賢い教え子の正解を喜ぶような笑顔で頷いた。

「我々を動かす“こころ”とは、形而上学的概念な存在ではない。ちゃんとした、森羅万象の理に反った、歴としたギミックが存在している。――梓、お前なら識っておろう?」
「何が……」

 信愛する賢治の顔をした敵の質問に、梓は一瞬我を忘れて微笑みそうになった自分を恥じた。

「――“記憶”なのでしょう?」

 そう答えたのは、エルクゥ化した香奈子だった。

「私の“記憶”によれば――私はリズエルの乳母であった侍女、カミュエルだった。リズエルはTHライドを製作するにあたり、その目的を、時間に縛られない生命体の確立をめざしていた」
「時間に縛られない生命体……って」
「――不死者、ですね」

 瑞穂が応えた。

「滅びを知らない肉体を造り出すコトは、物理的に不可能です。しかし肉体を超越した所に答を導き出せるなら――人格や記憶をデータ化するコトでそれを実現するコトは可能です」

 データ化による不死。それは不可能なコトではない。事実、我々は既に、そのデータ化された情報によって生きているではないか。――前述した、DNAによって。

「……かつて、オゾムパルス研究の第一人者であった、長瀬君――長瀬祐介博士の研究で、オゾムパルスは意志の集合体と称していました。しかし、私は、その意志というモノが余りにも概念過ぎるきらいがあって、もっと具体的に――物質的に説明できないモノかと思ったコトがありました」
「…………」
「そしてわたしは、ある仮説に行き着くコトが出来ました」
「ほう。流石、長瀬祐介亡き後、新たな第一人者となっただけのコトはあるな、藍原瑞穂」
「――――!」

 ワイズマンはどうやら瑞穂のコトを知っていたらしい。ワイズマンはかつてMMMに籍を置いていたコトもあるが、それは祐介が肉体を喪失する以前のコトである。
 すると、鬼界四天王として暗躍していた時に、瑞穂の存在を警戒していたと考えられる。そのコトに気付いた瑞穂は、この鬼神を少し不気味がった。
 しかし話に聞いていた「神」ともいうべき人外の者達の会話に、わき上がる医学者としての興味が恐怖心を上回り、果たして瑞穂を冷静にさせた。

「…………私は、香奈子の治療を続けながら、その症状を分析してみました。すると、幾つか記憶に奇妙な混乱があったのですが――その混乱が、香奈子がオゾムパルスによって精神障害を受けた時に一緒に精神障害を追った同級生の記憶と奇妙な一致を見つけました。当初は同じ光景を見たモノと思っていたのですが、その一部に、意外なモノを見つけました」
「?」

 梓だけが不思議そうに首を傾げた。ワイズマンも、そして香奈子も、そのコトに気付いていたようである。

「――――それは、私が持っていたお父さんの想い出です」

 香奈子はそう言って深い溜息を吐いた。

「私しか知らないハズの、幼い頃になくした父との想い出を、香奈子たちはまるで目の当たりにしたように知っていたのです……私も、香奈子が障害を負った同時期、つき――いえ、ある男の人によってオゾムパルス攻撃を受けた過去があります。恐らくその時、意識の同化が生じて、香奈子たちの記憶にも止めてしまったのでしょう。――いえ、意識の同化ではなく、記憶の同化。私はそこから、オゾムパルスとは、人間の記憶をメモリーする性質を持っているコトに気付いたのです。そこから治療方法は一気に進歩しました。そうです、私は香奈子たちの治療を、過剰なオゾムパルスを防ぎながら、催眠術によって彼女たちの記憶を整理し、彼女たちが持つ本来の記憶を抽出し、固定させるコトで自我を取り戻させるコトが出来たのです」
「しかし、私だけはなかなかうまくいかなかった」

 突然口を挟んできた香奈子に、瑞穂はドキッ、とした。

「……治療中のコトは覚えているよ。瑞穂が一生懸命だったコトも、忘れては居ない」
「香奈子…………」
「妨げていたのは――別人の、比較にならない強い記憶が私の中に在った為。それも、人間ではない意識を持ったモノの記憶」
「それが、カミュエルか」
「カミュエルとやらの人外の記憶を、心が乱れていた私が理解出来るハズがないでしょう?上書きされてしまった彼女の記憶と私自身の記憶との分離が出来ず、よもや人外のモノの記憶を持っているコトに気付いていない瑞穂に、その混乱を修正するコトは叶わなかった」
「それを修正したのは、マルマイマーだ」
「マル――」

 瑞穂はワイズマンが口にしたその名を知らなかった。しかし、かつて香奈子がオゾムパルスブースターと化した時に香奈子を救った、あの緑色の髪のロボットのコトを指しているのだと言うコトはすぐに判った。

「マルマイマーの浄解能力は、暴走するオゾムパルスを沈静化させる――具体的に言えば、乱れた記憶を修復する力を秘めているのだ。パソコンで言うデータ構造の再構成、デフラグというやつか?――とにかくその力によって、月島拓也によってその構造を狂わされた太田香奈子の記憶とカミュエルの記憶を切り分け、最適な配分に構築し治したのだ」

 瑞穂はこれ以上何を言われても驚きはしなかったが、ワイズマンが月島拓也や香奈子のフルネームまで知っていた事実は意外だった。

「だからだよ――」

 ワイズマンは梓のほうを見ていった。

「――マルマイマーの力は、俺の目的の妨げになる」
「――――!」

(……次郎衛門の鬼界昇華は、リズエル姉さまが望んだものでないと判ったからだ)

 かつてアズエルが修復された超龍姫を前にして、観月に言った言葉である。アルトの中にいた梓はその言葉を覚えていた。

「――じゃあ、リズエルの真なる鬼界昇華って……あっ!」

 梓はそこでようやく、つい先ほどまでワイズマンの直ぐ隣りに滞空していたハズの月島瑠璃子の姿が消え失せているコトに気付いた。

「しまった――」
「追いかけさせはしない。――二人まとめて相手をしてやるぞ」

 そう言ってワイズマンは、右手に伽瑠羅を造り出し、ゆっくりと青眼に構えた。

「……あれは……次郎衛門の愛刀」

 香奈子は、今や共存が可能となったカミュエルの記憶から、その刀のコトを導き出した。

「柏木さん、わたしが先に出ます」
「しかし――」

 梓が静止しようとすると同時に、香奈子が飛び出した。それは人間とは思えぬ瞬発力であった。

「――ぬっ!」

 鬼神の剛腕に変化した香奈子の右手を、ワイズマンは伽瑠羅の峰で受け止めた。刃で斬りつける余裕すらなかったようである。

「…………これが、鬼界昇華を果たした人間のポテンシャルか!」

 ワイズマンは嬉しそうに言った。

「鬼界昇華――」
「人類をエルクゥ化するコトよ」

 唖然としながら呟く瑞穂に、梓が応えた。

「――人類の進化、いえ“神化”。太田さんはオゾムパルスブースター化によって自ら保有していたカミュエルの記憶と融合を果たし、エルクゥと同じポテンシャルの肉体を得たのよ」
「だがな――」

 ワイズマンは刀を振って香奈子を押し返した。香奈子は中でとんぼを切り、悠然と着地した。

「――リズエルがめざした、全人類全てを“神化”させる行為など、愚の骨頂なのだよ!」

     Bパート(その2)へつづく