東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Bパート・その2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:10月14日(土)23時54分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

 月島瑠璃子は、ワイズマンが梓と香奈子を引き付けている隙に、ワイズマンが掘った穴を通って地下の通路へ侵入していた。
 地下三階。そこに設けられた、特別病室の特殊カプセル内に、月島瑠璃子の肉体が眠っていた。オゾムパルス体瑠璃子は、その病室の扉の前に佇んでいた。
 通常は、抗オゾムパルス機器が作動し、オゾムパルス体が侵入するコトは叶わない。しかしワイズマンらによって電気系統の回線は切断され、非常電源も破壊されては機能を果たさない。瑠璃子は悠然と扉を通り抜けていった。

「――待っていたよ」
「?!」

 瑠璃子は、カプセルの前に立っていた、ミスタの姿を見て驚いた。

「非常電源まで破壊されては、後はここで待っているしかないからね。――大人しくてもらうよ、瑠璃子さん」
【……ふっ】
「?」
【……妾を捕らえられると思うたか】
「――――」

 ミスタは身構えた。
 今の瑠璃子は、〈クイーンJ〉に精神浸食され、〈ザ・サート〉によって操り人形と化している。口で言って大人しくするハズもない。

(……肉体的負傷より、精神的負傷のほうがダメージは遥かに大きい。出来る限り、無難に力を封じ――――?!)

 ミスタがそう考えた時であった。突然、瑠璃子から感じられるプレッシャーが膨れ上がり、ミスタを圧倒し始めたのである。

「これは瑠璃子――」
(違う)

 ミスタの頭の中で、拓也が応えた。

(瑠璃子のオゾムパルスとは波動が異なる――あれは、〈クイーンJ〉だ)
「そう――くっ!」

 ミスタは咄嗟にマスクを外した。自らのパワーを押さえるマスクを外し、オゾムパルスの力を開放して、このプレッシャーに対抗しようとした。
 ところが、瑠璃子から感じられるパワーは、以前対峙した時のものとは比較にならないくらい強大なものであった。ミスタは思わずマスクを落とし、後ずさりしてしまった。

「――〈クイーンJ〉のパワーが、これほどのモノとは――――――!!?」

 その時だった。突然、ミスタは、瑠璃子から放射されているプレッシャーが身体を通り抜ける感覚に見舞われ、続いて激しい脱力感に襲われて膝をついた。

「こ――これは――――」
【オゾムパルスの対消滅】
「な――――?!」

 ミスタは、うっすらと笑みを浮かべてあざける瑠璃子を見上げた。

【妾のオゾムパルスは、歴代〈クイーンJ〉のエルクゥ波動の集合体が変質したモノだが、その性質は前と変わらぬ】
「性質……?」
【妾のオゾムパルスは、他のオゾムパルスを同化する力を持っている――喰らうのだよ。妾のオゾムパルスは】
「なんだと……?」

 ミスタは驚き、そして同じような力を持った、ある男を思いだした。
 〈ザ・サート〉。反オゾムパルスとも言うべき性質のオゾムパルスを持つ男。彼のオゾムパルスは、他のオゾムパルスと対消滅する性質を持ち、それ故に人類の敵となったのである。

【月島瑠璃子のオゾムパルスは、妾と同化した――いや、している最中というべきかえ】
「何?」

 戸惑うミスタを見て、瑠璃子――いや、〈クイーンJ〉は嘲り笑った。

【――長瀬祐介、そして月島拓也。お前たちの存在が、月島瑠璃子との同化を妨げる。――お前たちにはこの場で滅んでもらうぞ!】
「さ――させるかっ!」

 殆ど同時に、二人はオゾムパルスを衝撃波に変換し、相手に放射した。二人の間にある漆黒が、粒子同士の激突を果たし、凄まじいスパークを上げた。

【パワーは互角――肉体が無い分、威力が落ちているのか】

 しかし実際は、ミスタは渾身の衝撃波放射であった。顔面ににじる汗は、その反動の大きさを物語っていた。

「……〈クイーンJ〉にすればそよ風か」

 ミスタは悔しそうに立ち上がった。――祐介は、これが自分の身体であれば、こんな醜態は晒さなかっただろうと思った。拓也はかつて、祐介の精神爆弾によって心が破壊され、そのダメージを肉体にも残していた。治療の結果、辛うじて再起するコトは出来たが、失われた体力は簡単には戻らず、不断はTH参式の艦橋にある艇長席に腰を下ろしているのである。

「……ハンデはお互い様だ。――瑠璃子さんは絶対、救って――――」

 そう言った瞬間であった。いつの間にかミスタに向けて差し伸べていた瑠璃子の右手の指先から放射された閃光が、ミスタの額を貫いたのである。
 しかしその電撃は、ミスタを死に至らしめるモノではなかった。

【――まずは長瀬祐介。貴様の全てを喰ろうてやる】


 雨が降りしきる中、祐介は濡れ鼠になっていた。
 つい先ほどまで、目の前に男が居た。
 男は〈七大罪〉の一人と入っていた。〈大食(GLUTTONY)〉の力を持つと入っていた男は、祐介を追い詰めた挙げ句、祐介の力を強める結果を招き、粉々に、塵ひとつ残らないほどに爆破されてしまった。
 ――人を殺したのだ。
 そう思った時、祐介は全身が泡立った。
 しかし、それは後悔ではなかった。
 快楽だった。人一人、素手で――常軌を逸した、自分の力で殺したのだ。その開放感は、今まで経験したコトのない、素晴らしいモノであった。
 その力で人を殺した。
 誰にも真似の出来ないその力で。

「……祐……くん?」

 そんな時だった。祐介の視界に、体操服から着替えた沙織がいつの間にか入り込んでいた。

「……どうしたの、そんなとこに座り込んで?」
「…………あれ?部活は?」

 沙織は少し驚き半分呆れた顔をして、

「……知らないの?校門のほうで凄い殺人事件があったから、生徒は全員帰宅だって」
「ああ、そうなんだ」

 祐介はそう答えて、腰を下ろしたまま仰いだ。
 雨はまだ降り続いていた。
 きっといつか、あの男の仲間は、自分を狙ってくるだろう。そう思ってうんざりする祐介は、無性にこんな空を見上げたくなった。


 雨は良いねぇ。雨は何でも洗い流してくれる。この世の汚れたものや血の色、そして血の色さえも。

「……ああ」
「…………祐くん?どうしたの?」
「雨は良いね」
「…………はぁ?」

 不安げな顔をする沙織に気付いた祐介は、やれやれ、と腰を上げた。

「こう言うのも、いいと思っただけ。帰ろう」

 ふっ、と笑う祐介を見て、沙織は、ほっ、と胸をなで下ろした。
 薄ら寒い笑みなのに、しかし沙織は、それを怖い、と思ったのに、どうして安堵したのか理解していない。
 祐介が”それを望んだ”からである。

 男の仲間は、直ぐに現れた。女だった。
 女は、祐介に色仕掛けで迫ってきた。そしてそれは女の〈毒電波(ちから)〉でもあった。祐介は女に抵抗できず、女の身体に溺れた。
 しかし、あわやと言うところで祐介は我を取り戻し、女を、殺した。
 精神爆弾で、一撃であった。
 祐介を救ったのは、他ならぬ祐介の中に芽生えていた――殺意であった。
 祐介は、他人を壊したかったのだ。

 次は小学生の少年だった。しかし少年は、自分の力が制御できず暴走し、偶々遭遇した祐介によって粉々に破壊された。
 少年は、自らが破壊される寸前に我を取り戻し、祐介に縋ってこう言った。

 …………おにいちゃん、たすけてよ。

 その言葉が祐介の癇に障った。その時点で少年は、自身の暴走で40人近くも殺害していたコトもあったのだが、その一言がきっかけとなり、祐介は少年の爪先から爆破させ、意識のあった頭部は一番最後に破壊した。
 その残忍ぶりを見て、少年の暴走に手を焼き、祐介と協力して暴走を防ごうとした〈七大罪〉の男は、とんでもない男を敵に回してしまったのでは、と戦慄した。
 祐介は、その時知り合った男と意気投合した。くだけた男で、自らか協力する〈七大罪〉の存在理由に疑問を抱くようになり、祐介にリーダー格の存在を告げ、その男を協力して倒そうと約束していた。5人目の〈七大罪〉は、男と協力して葬り去り、遂に祐介はリーダー格と対峙するコトとなった。
 ところが祐介は、そのリーダー格と闘って敗北した。祐介に協力していた男は、リーダーに操られていた祐介によって粉々に破壊されてしまった。
 リーダーは、自身が組織した〈七大罪〉をあまり信用していなかった。実際、祐介に協力するような裏切り者も居たし、祐介に能力者を斃されても、七つのカテゴリに分けた能力者の予備は大勢居た。
 リーダーが欲したのは、強大な力であった。祐介は、その彼のお眼鏡に適った数少ない存在であった。
 その数少ない存在の中に、異世界の魔人が紛れ込んでいたのが、リーダーの誤算であった。祐介を手に入れ、人類殲滅を図った彼だったが、魔人を追って時空を超越してきた、銀色の能力者と、そしてルミラの父親であるサンジェルマン伯爵に闘いを挑まれたのである。神に匹敵する二人の攻撃に祐介を奪われ、挙げ句復活した祐介の反撃を受けて魔人は斃されてしまい、リーダーが蓄電したコトで〈七大罪〉は壊滅した。
 祐介はその時、精神的にも肉体的にもボロボロであった。
 そんな祐介に、沙織は優しく接してくれた。次第に壊れていく祐介に戸惑いつつ、想いを寄せていた沙織だったが、祐介が別れ話を持ち出し、二人は別れた。
 〈七大罪〉との殺し合いが終焉を迎え、ギリギリの所で心を取り戻した祐介にとって、沙織の優しさは苦しいだけであった。
 祐介は、沙織にある負い目があった。
 沙織が負った心の傷を癒すために、祐介は自身の力を使い、その忌まわしい記憶を消し続けていた。時にはセックスを利用していたが、そのコトで祐介は沙織を妊娠させてしまったコトがあった。
 その時祐介は、妊娠に気付いていない沙織の精神に干渉し、その体内に宿っていた自分の仔を“処分”したのである。
 自分の子さえもモノも同然に躊躇わず殺せるほど、祐介の心は壊れてしまった。沙織は祐介との子供と共に、その記憶を破壊されてしまい、まったく知らないでいる。
 しかし祐介は覚えている。――殺戮の末に、大いなるモノからの救いの手を受け、ようやく正気を取り戻した祐介にとって、その記憶は悪夢以外の何ものでもなかった。

(人殺し)

 突然、祐介の頭に声が届いた。

(人殺し)

 〈七大罪〉の〈大食(GLUTTONY)〉の男の声だった。

(人殺し)

 祐介を誘惑した女の声だった。

(人殺し)

 助けてと泣いた小学生の声だった。

(人殺し)

 自分と協力して闘ってくれた〈七大罪〉の男の声だった。

(人殺し)

 沙織の声だった。

(――ひとごろし)

 そして、生まれることすら適わなかった、自分と沙織の子供の――――


「うわぁ――――――――――――――ぁっ!!」

 ミスタは突然絶叫し、その場に倒れ込んでのたうち回った。
 そんなミスタを見下ろし、瑠璃子はくすくす嗤った。

【……貴様のこころの暗部、みせてもろうたわ。成る程、貴様は、他人に優しくし、他人の為に尽くそうとするコトで、自分の罪を償おうとしているのだな。――貴様の正義は、偽善だな】
「が――――は――――あ――――――」

 激しくのたうち回るミスタを見て、瑠璃子は楽しそうに嗤った。

【――この女を救おうとするコトは、貴様のエゴにすぎぬ。愛情などではない。――愛など無い。貴様は貴様しか愛していない。――違うか?】

 訊いてみたところで、今のミスタに返答など出来るハズもなかった。無論、瑠璃子もそのコトは判って訊いているのだ。

【……所詮、貴様らの心など、紛い物にすぎん。愛だと?正義だと?そんなモノ、自分たちの視点でしか見ていない、自分勝手な思い込みだ。――妾の心の一部をコピーして造り出した〈オゾムパルス〉ごとき、心を愛し、論じようなどと愚の骨頂!おーほっほっほっ!――――何?】

 高笑いする瑠璃子を驚かせたのは、今まで激しくのたうち回っていたミスタがいきなり立ち上がったからであった。
 その突然の変化の理由を、瑠璃子は直ぐに気付いた。

【…………変わったか】
「………………」

 ミスタは青ざめた顔で瑠璃子を見つめた。

【……月島拓也だな】
「…………酷いコトをする」

 ミスタ――いや、祐介の精神と入れ替わった拓也が、瑠璃子を見て歯噛みした。

【長瀬祐介はどうした?自滅崩壊したか?】
「……これ以上、祐介を傷つけるコトは許さないぞ――瑠璃子を冒涜するコトもっ!」

 そう言った瞬間、拓也の全身から凄まじいスパークが発せられた。その勢いに、今まで圧倒していたハズの瑠璃子は思わず身じろいでしまった。

【こ――このパワーは――妾を上回るかっ!?】
「うおおおおっっっ!」

 拓也は瑠璃子に放電を続ける。まるでそれはマルマイマーのプラズマホールドに良く似ていたが、実際、拓也の放電はオゾムパルス体の瑠璃子を捕縛していた。

【こんな――――まさか、この男、これほどのパワーを持っていたとは――――】
「どうやら貴様は、心の隙間をついて、そこから相手の心を浸食し、同化するらしいな。――ゲスがっ!貴様如きには判るまい――愛する者を自分の手で傷つけてしまった者の慟哭などっ!」


 拓也は、妹の瑠璃子を愛していた。
 しかしそれは、肉親としての愛情で、それ以上でもそれ以下のものでもなかった。
 守りたいだけだった。
 愛しいという感情は、他人でも肉親でも変わらない。そこに肉欲を絡めてしまうのは、愛情というものを理解し切れていない証拠である。肉体関係は所詮種族保存本能の所業であり、時には身をなげうって庇う行為さえある感情の働きとは、本質的には別物なのだ。
 拓也にとって、瑠璃子は自分の存在理由であった。
 両親を早くに失い、家族と呼べる者は瑠璃子しか居なかった。
 屈折した伯父の存在は、拓也には眼中のない他愛のないものに過ぎなかった。無論、彼の淫靡な女性関係に悩まされても居たが、そのコトで瑠璃子が傷つけられてしまうコトだけは、拓也には我慢できなかった。もし伯父が瑠璃子に手を出そうものなら、伯父を殺すことを躊躇わなかっただろう。
 瑠璃子を守る。それが拓也のアイディンティティであった。
 そんな男が、自身を壊しかねない所業に出るだろうか。しかもその手で。
 それを狂わせたのは、根本的な理由は、女性関係にだらしなかった、養父の伯父にあったのかも知れない。
 しかし拓也を、狂気に引きずり込んだ直接的な原因は、あの暑い日、下校途中に偶然出くわした、あの男であった。

「…………真実が欲しいか?それとも、力が欲しいか?」

 意味不明な問いかけであった。だが何故か、拓也はその意味が判ってしまった。
 ――いや、そう思いこまされただけなのだろう。
 拓也はその日、狂気に支配され、瑠璃子を犯してしまった。

 その日から拓也は、心の片隅に微かに遺されたアイディンティティとともに、贖罪の日々を続けるコトとなった。肉体を失った祐介を取り込んだのは、祐介を助けたいという想いがもたらした奇跡であった。

「……あの男によって叩き落とされた、煮えたぎる狂気の中で、もがき苦しんでいた俺の理性は、瑠璃子の肉体と心を傷つけてしまった俺を呪い続けた。――それが、俺のこの力を引き出したんだっ!」
【お、オゾムパルスのパワーが増大し続けている――まさか、ミスタという男の力は、長瀬祐介ではなく、月島拓也のものだったのか――――】

 特別病室の天井や壁が、拓也から放出されるオゾムパルスの波動を受け、激しく振動する。やがて亀裂が生じ、所々崩れ始めだした。その破壊は、背後にある瑠璃子の肉体が眠るカプセルをも震わし、瑠璃子の顔が覗ける特殊ガラスにさえ亀裂を生じさせた。

【マズイ――このままでは、月島瑠璃子の肉体までもが破壊されてしまう――】

「……お兄ちゃん」

「!?」

 拓也は驚いた。

【バカな――月島瑠璃子の意識が――妾を凌駕したのかっ!】

 それは紛れもなく瑠璃子の声であった。

「――お兄ちゃん。このまま――このまま、この力で〈クイーンJ〉を滅ぼして」
「瑠璃子――」

 拓也はそれが〈クイーンJ〉のフェイクではなく、自我を取り戻した瑠璃子の声であるコトを直感した。それは肉親としての勘なのかも知れないが、それでも拓也は確信していた。

「瑠璃子――」

 拓也は、正直、この力を続けて良いかどうか迷った。〈クイーンJ〉ばかりか、瑠璃子のオゾムパルスを破壊してしまわないかと、戸惑った。
 迷ったが直ぐに、拓也は力の行使をやめようとはしなかった。
 瑠璃子は殺させない。自分の全てをなげうってでも。
 あの夏の日の罪を、今度こそ――――

「仕方ないナリ」

 振動が突然収まった。
 ミスタは、その時、何が起こったのか直ぐには理解出来なかった。
 もっとも、理解しろと言われて、ハイそうですか、と納得など出来るハズもないだろう。

「月島拓也」

 いつの間にか拓也の背後に立っていた〈ザ・サート〉は、拓也の左肩に手を掛け、こう言った。

「突然で悪いが、キミの心臓を消滅させてもらった」

 〈ザ・サート〉に言われるまでもなく、拓也は自分の左胸から鼓動が感じられなくなっていたコトは気付いていた。

     Bパート(その3)へつづく

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