東鳩王マルマイマー第22話「拓也と瑠璃子」(Aパート・その2) 投稿者:ARM(1475) 投稿日:9月24日(日)23時44分
【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】

「――柏木楓さんのほうはどう?」

 瑞穂と香奈子が特別治療室に駆け込んだ時、看護婦や看護士たちが、楓が眠るベッドの移送準備を続けていた。他の患者より時間が掛かっているのは、楓のベッドに一体化されたオゾムパルスキャンセラーが大きい所為だった。マルマイマーによって浄解されているとはいえ、楓の意識が完全に回復しない以上、また暴走しないとも限らず、予断は許されなかった。

「あと3分――いえ、2分以内に」
「1分で。わたしたちも手伝います。――――香奈子?」

 瑞穂は、隣にいた香奈子が窓のほうを見ているコトに気付いた。

「……変ね」
「何が?」
「あの巨大な飛行船――新宿襲ったアレでしょ?なのに何で攻撃を仕掛けてこないのかしら?」
「そういえば……」

 巡航形態のエクストラヨークが病院の上空に現れてから大夫経つというのに、エクストラヨークは滞空したままなのであった。

「避難する分には助かるけど――まさか、あたしたちの避難を待ってくれているとか?」
「まさか…………」

 瑞穂の推論に香奈子は肩を竦めるが、しかし内心、戸惑っていた。


 病院の敷地が見渡せる小高い丘の上で、瑞穂と同じコトを考えていた男が居た。

「……リネットは甘いですな、ワイズマン」

 滞空しているエクストラヨークを呆れ気味に見ていた〈ザ・サート〉は、直ぐ隣にいるワイズマンにそう言って見せた。しかしエクストラヨークを見ているワイズマンは何も応えなかった。
 そんなワイズマンの様子が少し気に入らなかったらしく、〈ザ・サート〉は拗ねて見せた。

「……1ヶ月も待たされて――月島瑠璃子の肉体がある場所をリネットが口にするのに、どうして1ヶ月もかかったんでしょうかねー?今回のといい、我が輩、プンスカものナリ」

 頭の足りないふざけた言い回しは、無論〈ザ・サート〉の嫌味である。しかしワザとそう言って見せたのは、ある種の誘導尋問であった。
 あまりにも不自然な行動であった。リネットに覚醒した初音なら、月島瑠璃子の肉体の在処は知っている。MMMバリアリーフ基地襲撃直後にその場所を強襲出来る余力はあったのに、リネットは昨日まで、思い出せない、の一点張りで、一ヶ月もかかってしまったのだ。

「…………仕方あるまい。リネットが初音との精神融合が不完全だったのだから」
「ならば――また言わせて貰うが、柏木楓の時と同じように、我が輩の擬示能力で……」
「それではまた心を傷つけ、暴走させてしまうだけだ。特にリネットはナイーブな娘だ。――我々の目的は人類の物理的大量殺戮ではない。人類種の進化昇華を目指したモノだと言うコトを忘れるな」
「へいへい」

 〈ザ・サート〉は渋々頷くと、自分の襟元を掴んでパタパタと仰ぎ始めた。

「ま、我が輩、逆境は一晩寝かせたカレーの次に大好きですからな。簡単にコトが運ぶより――味方の気まぐれにつき合うのもまた一興。はっはっはっ」

 のほほんと笑う〈ザ・サート〉を見て、ワイズマンは溜息をもらした。

 エクストラヨーク内では、操舵席に座る初音――リネットが、大モニタの下部で開いている望遠ウィンドゥに映る、病院の避難風景をじっと無言で見つめていた。
 どこか物憂げな眼差しであった。まるで自分の行いを嘆いているかのように。

【……リネット】

 そんなリネットの背後から、オゾムパルス体の月島瑠璃子が声をかけた。

【…………そろそろ、行くよ】
「――待って。あと少し…………みんな、避難してから」
【……何を待たせる?】

 瑠璃子が不機嫌そうに言うと、リネットは横目で瑠璃子のほうを見た。

「……あすこは抗オゾムパルス施設が充実しているのよ。示威するだけでもこんなふうに勝手に中にあるモノを持ち出してくれる。あなたの肉体だって、持ち出すわ」
【……ふん】

 瑠璃子はつまらなそうにいうと、正面を指した。

【呑気すぎるから、来たぞ】
「――――!」

 リネットは、周囲を映している大モニタを見るまでもなく、瑠璃子が指すそれを理解した。
 キングヨークを中心にした、MMMの戦術飛空挺が全艇、接近していた。

「……来たのね――仕方ない、瑠璃子さん、あなたの肉体は病院本棟の地下3階にあるわ。今言った抗オゾムパルス施設があるけど――」

 リネットがそう言った瞬間、エクストラヨークから一発の小型ミサイルが発射された。その目標は病院ではなく、敷地から少し離れた道路であった。ミサイルが着弾した道路には大きなクレーターが生じたが、近くに民家や避難する人は無く、人的被害は無かった。
 その代わり、病院内が一斉に停電した。

「――送電線を破壊したわ。直、予備電源に切り替えると思うけど、この混乱では時間がかかるハズ」
【判った。MMMのほうは任せる】

 そう言って瑠璃子の姿が消滅した。エクストラヨークから出ていったのであろう。
 瑠璃子が消えたのを確かめて、リネットは、はぁ、と深い溜息を吐いた。それから、唇を噛みしめ、改めてMMMの戦術飛空挺群を見た。
 その貌が泣いているように見えたのは何故か。閉じられた唇から、お願い、来ないで、と聞こえるのは何故か。
 その敵の本陣に居るのは、確かにリネットのハズなのに。


「……送電線を壊したのか」

 病院本棟の屋上に昇って待機していた霧風丸は、先ほどのエクストラヨークの攻撃を分析していた。

「……予備電源に切り替わるのに、現状ではおそらく3分――そうか!」

 霧風丸は足元を見た。無論、自分の足元を見たわけではない。

「月島瑠璃子の肉体をいよいよ奪いに来るか――させぬ!メルティング・ハウル、最大出力!」

 霧風丸は左腕を上げると、狼の顔をする左手を大きく開きて咆吼した。
 その口から全方域放射された高周波は、瞬時に、飛来してきたオゾムパルス体の瑠璃子の所在を感知させた。

【――うっ!?】

 瑠璃子は丁度、本棟の玄関手前で実体化し、仰け反っていた。突然の瑠璃子の出現に、避難していた人々は驚き、その場から蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

「今度は逃しません!」

 そこへ、霧風丸が屋上から飛び降りてきた。

「月島瑠璃子、あなたを捕縛させていただきます!メルティング・ハウル、ソリタリーウェーブライザーモード!」

 狼王の口から放射された、指向性を持った固有振動周波数帯衝撃波は、瑠璃子の身体を見舞った。すると瑠璃子は苦しみ始め、その場に蹲ってしまった。

「分解はしません。ミスタが――あなたのお兄さまや祐介さんが来るまでそこでそうして貰います」
「――それは困る」
「?!」

 突然、霧風丸の横から、疾風のように現れたワイズマンが伽瑠羅で斬りかかってきた。
 霧風丸は即座に避けた。

「――次郎衛門!」
「月島瑠璃子!行けっ!」

 ワイズマンは、ソリタリーウェーブ攻撃が消えた瑠璃子に、一喝するように言った。
 瑠璃子はゆっくりと立ち上がりながら、その姿を消した。

「しまった――むっ!」

 霧風丸は舌打ちするが、再び伽瑠羅で斬りかかってきたワイズマンの攻撃を、右腕に装備されている翼丸の空烈爪で受け流し、その場から飛び退いた。

「……行かせぬぞ」
「……次郎衛門」

 伽瑠羅を上段に構えて殺気を放つワイズマンを見て、霧風丸はフェイスガードを開いた。中から出てきた素顔は、とても哀しそうな顔をしていた。

「……エディフェル、邪魔はするな」
「……何故です、次郎衛門!何故、このようなコトを?!」
「大義だ」

 そう答えるとワイズマンは霧風丸に突進し、霧風丸に斬りかかった。霧風丸は反撃せず、飛び退いてそれをかわした。

「大義――その為にこんな酷いコトをするのですか!?」
「酷いコト?」
「あなたは――オゾムパルスで人の心を傷つけ、人類を滅びに導こうとしている」
「…………」
「――そして柏木賢治。あなたは、実の息子や、姪たちをその手にかけ、初音さんまで不幸に導こうとしている――リネットは、あなたの道具ではないのに!」
「リネットが望んだコトだ」
「戯言をっ!」

 今度は霧風丸が、クサナギブレードを引き出して斬りかかった。伽瑠羅ではそれを受け止めるコトは出来ないので、ワイズマンは飛び退いてかわした。

「――リネットは返していただきます!」
「無駄だ。あれは己の意志で我らに加わった」
「ならば――リネットも斬るまで!」
「出来るか?」
「エルクゥ皇族の誇りが許しません!」
「誇り――」

 それを聞いたワイズマンは、ぎりっ、と歯噛みし、

「愚かなっ!」

 激高するワイズマンは伽瑠羅を振りかぶり、飛び上がって霧風丸の頭頂を狙い振り下ろす。
 空かさず霧風丸はクサナギブレードでそれを受け止める。夥しい火花が伽瑠羅から放出されるが、ワイズマンは引かなかった。

「その誇りも――その想いも――その記憶も、しのぶ、お前自身のモノではないと言うのにっ!――お前は何者だというのだっ?!」
「なっ…………!」
「お前はエディフェルではない!エディフェルは死んだ!400年前に、次郎衛門の腕に抱かれて果てたのだ!――お前はその記憶を持ってしまっただけの機械人形に過ぎない!」
「――くっ!」

 霧風丸は伽瑠羅を押しのける。ワイズマンは宙でトンボを切って着地した。
 そしてワイズマンは、溶け欠けている伽瑠羅の剣先を霧風丸に向けて言い放った。

「お前の持つエディフェルのオゾムパルスは、エディフェルという哀しい女の記憶に断片だ。――記憶は、たましいではない。想いは、たましいには成り得ないのだよ!」
「黙れっ!」
「そしてお前は、その記憶に振り回されているだけの――哀しいこころの持ち主に過ぎない」

 時間が止まった。
 霧風丸は硬直していた。
 永い永い時間が過ぎ去ったように思えた。まるで400年分も。
 しかし霧風丸は、思わず放しかけたクサナギブレードを握り締め直した。

「――超必殺、クサナギブレード二刀流回転剣舞・百花繚乱!!」

 霧風丸は瞬時に全身をミラーコーティングで包み込み、急速回転を始めた。

「覚悟っ!」
「――愚かな」

 ワイズマンはゆっくりと腰を落とし、伽瑠羅を再生させて身構えた。
 だがその貌は、途方もなく哀しみに暮れていた。

「?!」

 霧風丸は回転しながらそのコトに気付き、戸惑った。

「……エディフェルも次郎衛門も、既に失いのだ。……受け継がれていくのは、こころだけだ」

 ワイズマンがそう言った瞬間、霧風丸は回転を止めた。そして呆けた顔をしてワイズマンを見つめた。

「……もう一度問う。――霧風丸、お前は何者だ?」
「…………」

 霧風丸は何も応えなかった。いや、応えられなかった。
 自分はエディフェル。――徐に、自分の身体を見る。機械仕掛けのその身体を。400年も昔に死んだあの鬼女の欠片など無い。
 敵は、次郎衛門。――柏木賢治の顔をした、少しくたびれた、シワが深くなった中年の男のどこに、次郎衛門の欠片などあろうか。
 そして霧風丸は気付いた。――気付いてしまった。

「…………まさか…………あなたは………………?!」
「退くのだ、霧風丸。――今のお前では、俺の相手には成らない。――自分さえも見失った機械仕掛けの人形ごときではな」

 次の瞬間、霧風丸は衝動的に突進していた。
 だが、ワイズマンはそれを吹き飛ばしていた。いつの間にか彼の手にする剣は、霧風丸と同じアルゴンガスレーザーブレードに変化し、鬼の力も加わって霧風丸の身体を薙ぎ払っていた。
 一瞬にして勝負は決まり、霧風丸は地面に大の字に倒れていた。その見開かれた目と僅かな唇の動きから意識はあるのは伺えるが、その顔は何が起こったのか判っていないようである。
 ワイズマンはそんな霧風丸を黙って見下ろしたまま、その場に佇んでいた。

     *     *     *     *     *

「勇者チーム、発進準備OK!」

 TH弐式の艦橋にいる智子は、管制オペレーターの報告を受け、マルチたちを発射するミラーカタパルトのアプリケーターポッドの準備が出来たコトを知った。

「よっしゃ。――藤田くん、ええか?」

 智子は、メインオーダールームのTHコネクターにいる浩之に応答を求めた。
 ところが、モニタに映る浩之は、何か考え事をしているように黙って俯いたまま、何も応えなかった。

「――藤田くん!何、ボサっとしとる!?」
『――あ』

 ようやく浩之は気付いた。

『す、済まん――マルチ』
『はいっ!』

 TH弐式のミラーカタパルトに居るマルチから、元気のいい声が帰ってきた。
 しかし今の浩之には、それがとても不安であった。

「行きます!ファントムマルー、イークイップ、アンド、フュージョン!」

 マルチの声に呼応して、鎮座していたファントムマルーが浮上し、変形してマルチと合体してメイマーになった。

「ゴルディはメイマーと一緒にポッドに乗りぃ!マルーマシンは随時発進、ファイナルフュージョンを空中で行う!ええな、マルチ?!」
「はいっ!」
「…………あ、ああ」

 智子も、妙にハイテンションなマルチに戸惑った。

「――え、ええっい!元気は良いコの証拠やっ!いったれっ!」

         Aパート(その3)に続く