【ご注意】この創作小説は『ToHeart』『雫』『痕』『こみっくパーティ』『WHITE ALBUM』『DR2ナイト雀鬼』『フィルスノーン〜光と刻〜』(Leaf製品)の世界及びキャラクターを片っ端から使用し、サンライズ作品『勇者王ガオガイガー』のパロディを行っております…って逆か(^_^;Leaf作品のネタバレも含みますのでご注意。
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【承前】
TH弐式のミラーカタパルトから、ミラーコーティング・ブリッドポッドに乗り込んだマルチたちが射出された、最大二人乗りのポッドは、円形のブリッドベースから突き出た四本のフレームの中に乗り込み、ミラーコーティング・アプリケーターによって弾丸型に変化する。それをカタパルトに乗せて射出するのである。
一番手は、DR2アルトの背に跨ったレフィ。その姿はファンタジー小説などに出てくる、巨大な竜に載った竜騎士を想起させる。
二番手は、ビーストモードの雷虎の背に跨った風姫。フィギュアモードではコートのような形状をしている翼を開いた姿も、アルトたちのようにファンタジー世界のそれである。四人とも、なかなか雰囲気があって印象的であった。
しかし三番手のマルチたちは、そんな雰囲気は毛頭も無かった。
「それっ!いきますよっ!」
「……マルチ姉さん、なんやそのハイテンションは(汗)」
「何を言うんですか、ゴルディ!気合いですよ、気合いっ!」
「ううっ、何かついてけへん……藤田の旦那ぁ、どないなっとんや?」
『……訊いてくれるな(汗)』
THコネクター内にいる浩之は、訊かれるまでもなくマルチのこのハイテンションぶりに辟易していた。
それは、精神的なモノだけではなかった。
『……マルチ』
「何ですか、浩之さん!?」
語尾に「?」だけでなく、「!」まで付いている。思わず悪いモノでも喰ったんじゃないかと思う浩之であった。
『……いや、その、だ。……もうちっと落ち着いてくれ。お前のメンタルパラメータが不安定すぎて、俺とのシンクロがうまくいかないんだ』
「そうなんですかっ!」
『……だから』
『浩之?』
溜まりかねて、THコネクターの直ぐ後ろに位置する長官席から、綾香が訊いてきた。
「シンクロできないんじゃファイナルフュージョンがうまくいかないじゃないの?」
「ああ。今まではマルルン、いや、千鶴さんがサポートしてくれていたから良かったが、今度からはマルチ自身が制御しなきゃならないんだ。……しかしこんな異常値では、俺とのシンクロが――――マルチ、少し落ち着け!」
『はいっ!落ち着きますっ!』
「……………………」
「……まるで漫才ね」
思わず綾香は長官席に頬杖を突いて呆れた。そして、THコネクターのほうを戸惑いげに見て、
「……ねぇ、浩之。どうしよう?」
「はぁ?」
綾香に訊かれ、浩之は酷く困惑した。
「おいおい、訊くなよ、俺にそんなコト……」
「え?――だ、だって……」
妙におろおろする綾香に、浩之ばかりかあかりやレミィたちも戸惑った。
「……あかり。綾香、何かヘンね」
「う、うん……」
レミィに耳打ちされ、あかりはコンソールパネルに向いたまま振り向けずに戸惑った。
「いつもなら、『足りないところは勇気で補いなさいッ!』なんていうんだけどネ」
「何かあったのかしら……え、智子、何?」
『布陣変更や!マルチたちはフォワードからバックスに移す!アルト、レフィ、雷虎、風姫はフォワードへ!キングヨークは作戦通り前面や!』
「あ……、ああ、わかったわ」
綾香は浮かされたように頷いた。
そんな綾香を、モニター越しにみた智子も酷く戸惑った。
『……何や綾香。そない頼りないツラしてないで、いつものようにシャキッとせいっ!』
智子は気合いを入れるつもりで怒鳴った。しかし今の綾香にはあまり効果が無かった。
「……あたしだって、誰かを頼りにしたい時ぐらいあるのになぁ」
「――おい、綾香」
愚痴る綾香を見て、溜まりかねた浩之が怒鳴った。
「な、何?」
「俺たちは、お前がしっかりしているから安心して居られるんだぜ!」
「…………」
「……だから、さ」
そう言って浩之は微笑み、
「…………頼むぜ」
綾香は、モニター越しに見えた浩之の笑顔に、ぽっ、と赤面した。
「…………う、うん――――」
次の瞬間、綾香は両手で自分の両頬を、ぱんっ、と叩いた。その大きい音に、あかりとレミィは作戦行動中であるコトを忘れて長官席に振り返ってしまった。
「――ゴメンね」
頬を赤くした綾香が、振り返った二人に、にっ、と笑ってみせた。いつもの、頼りがいのある指揮官の顔で。
「メイマーは電脳連結が安定するまで、ゴルディとともにバックスに!それ以外は変更無しっ!作戦開始っ!」
「了解っ!――発射!」
智子の号令で、変更した順番でミラーコーティング・ブリッドポッドを射出する。撃ち出されたミラーコーティング・ブリッドポッドは、射線上でミラー粒子を散らし、フレームも分解すると、DR2アルトと雷虎が大きな翼を広げて滑空した。
追って、メイマーとゴルディアームを乗せたミラーコーティング・ブリッドポッドが発射した。間もなくミラー粒子とフレームが散り、中から、ゴルディアームを抱き抱え、翼のように広げたスラスターリボンの推力で飛ぶメイマーが現れた。
「よしっ!このままエクストラヨークに向かいましょう!」
『やめろっつーのっ』
浩之は呆れて止めた。
『ゴルディ、お守り頼む』
「あいな。……ホンマ、シャレにならんでコレ」
ゴルディの応答を聞いて、浩之は、はぁ、と困憊気味に溜息を吐いてシートに背もたれした。
「……浩之ちゃん」
そこへ、あかりが訊いてきた。
「何だ?」
「……マルチちゃん、千鶴さんを亡くして、そのショックで……かな?」
「……多分。…………いや、そればかりではないのかも」
「?」
「千鶴さんを亡くしても、俺たちがマルチを大切にしている。千鶴さんの代わりになる自信は、あかりだってあるだろう?」
「うん…………」
正直、あかりは、母親である千鶴を亡くしたコトでマルチが酷いショックを受けて、それを忘れる為に頑張っているモノと思っていた。しかしそうでないと気付いたのは、浩之がマルチの姿に戸惑っているコトを知ってからだった。
浩之が、マルチの哀しみを理解出来ないハズがない。何よりマルチが一番頼りにしているのが浩之である。情緒不安定気味なところがあるマルチを何度、浩之がなだめすかしたコトか。そんな浩之が、マルチを持て余すなんて、あかりには信じられないコトであった。
そうなると、今回の事態で考えられるのは、マルチが、自分たちの知るマルチでなくなっている、と言うコトである。
マスターボディに戻り、完全な生機融合体になった。そんな物質的変化ではない。
マルチのこころに、何らかの変化が生じてしまったのであろう。しかしそれがいったい何なのか、あかりにも、そして浩之にも判らないのだ。
「……どうせエクストラヨーク相手では、マルチたちよりキングヨークに頑張ってもらわないと。――とにかく、だ。マルチ、お前は少し疲れているんだ。だから……」
『いいえっ!わたしは元気ですっ!』
『ああっ、あかんっ!マルチ姉さん、腕ぇ放したらあかんっ!』
恐らく、心配する浩之に応えてマルチがガッツポーズでもとってしまったのであろう。必死にマルチの腕にしがみつくゴルディの姿が目に浮かぶようであった。
『マルチ姉さんっ!アンタ、やっぱおかしいでっ!いったいどないしたンやっ!?』
「――壊れたのさ」
「「「「「「『?!』」」」」」」
突然、滑空するマルチたちの直ぐ横から聞こえたその声は、聞き覚えのあるものであった。
知らないハズはない。まさしくそれは、マルチ本人の声であった。
「お、お前は――――」
ゴルディは、自分たちの直ぐ横に飛ぶ存在を見て、慄然とした。
「――なんでマルチ姉さんがそこにいるんやっ?!」
「いや、それは――――」
最初にその正体に気付いたのは風姫であった。
「――――お前が、キングヨークの攻撃を防いだ、黒いマルマイマーかっ!」
まさしく――。全身が黒ずくめで、髪の色までも闇色に染まったマルマイマーがそこにいた。
「貴様――」
「……お前たちの相手は、このマルマイマー・シャドウだ――プロテクト・シェイドっ!」
マルマイマー・シャドウは左手を翳し、プロテクトシェイドを展開した。突然の湾曲空間に、滑空するメイマーたちはバランスを失い、吹き飛ばされてしまう。
「「シンメトリカルドッキング!!」」
「「メガ・ファイナル・フュージョン!!」」
DR2アルトとレフィ、そして雷虎と風姫は緊急ドッキングして真・超龍姫と撃獣姫になった。
「うわっ!――マルチ姉さん!」
墜落していたゴルディは、咄嗟にスラスターで降下したメイマーにキャッチされた。
「ご、ごめんなさいっ!」
謝っても、元気の良すぎるマルチであった。
「またキングヨークの攻撃を阻まれては適わないからな――ドラゴンテイル!」
「うなれ疾風!とどろけ雷光!――風虎牙(フォン・フー・ガォ)!!」
真・超龍姫は左腕に装着されている超振動ホイールが内蔵された伸縮自在の竜の尾を、撃獣姫は両腕から荷電粒子の衝撃波を、マルマイマー・シャドウに放った。
「無駄だ。――プラズマ・ホールド!」
マルマイマー・シャドウは左腕から電磁ネットを放ち、二人の身体を攻撃もろとも封じ込めてしまった。
「「うわぁっ!」」
「邪魔だ。墜ちろっ!」
マルマイマー・シャドウが左腕を下に振り払うと、電磁ネットに包まれた真・超龍姫と撃獣姫は、下で様子を見ていたメイマーたちの横を抜けて地上へ墜落していった。
「超龍姫!撃獣姫!?」
「――浩之さん!ファイナル・フュージョンしかありません!」
『し――しかし……!』
「しかしもカカシもありません!わたしでなきゃっ!わたしでなきゃっ!」
マルチは怒鳴るように浩之にファイナルフュージョンの実行を要求した。しかし浩之は戸惑ったままであった。
「――浩之!」
綾香が不安そうな顔で訊いた。こればかりは、浩之でなければどうにもならない問題であった。
「――判った。俺がマルチに合わせる」
「よし!ファイナル・フュージョン――」
それを聞いて驚いたのは、マルチと浩之のパラメーターをチェックしていたレミィであった。
「の、No、Kidding!そんなコトしたら、ヒロユキが――――」
「承認っ!」
「了解!ファイナルフュージョンプログラム、ドライーブッ!」
あかりは隣にいるレミィの驚きに気付かず、セーフティアクリルを拳で叩き割り、ファイナルフュージョンプログラムをスタートさせた。
「ファイナルフュージョン!」
マルチは両脚のアポジモーターを使って落下の加速を押さえられるように自己調整が済んだゴルディを手放し、ファイナルフュージョンをスタートさせた。超電磁竜巻でマルマイマー・シャドウを牽制しつつ、直ぐ背後から飛んでいたマルーマシンを取り込み、62.328秒でメイマーはマルメイマーにファイナルフュージョンした。
「マル・メイ・マーっ!――――」
その時だった。突然、マルチは激しい目眩を覚えた。
「これは――――」
「ヒロユキ!」
メインオーダールームで、レミィが悲鳴を上げた。
「浩之の生命維持限界突破!このまま電脳連結していると、浩之が死んでしまうワ!」
レミィの絶叫に、綾香とあかりが、浩之がいるTHコネクターのほうを見た。その中では浩之が、エーテル粒子のなかでもがき苦しんでいた。
「な、なんで?!」
「電脳連結ヨ!――マルチのメンタルパラメーターが通常値を凌駕しているから、ヒロユキがそれにシンクロさせるコトは自殺行為ヨ!」
「そんな――浩之、まさかアンタ、それを承知で!」
綾香は酷く狼狽した。そして、THコネクター内で苦しんでいる浩之の姿に釘付けになっていた。
「――あたしの判断ミスだ――落ち着いて考えれば、それぐらいあたしだって判ったのに!」
「…………るっせぃ」
苦しみもがきながらも、浩之は掠れた声で応えた。
「浩之!」
「ヒロユキ!」
「浩之ちゃん!」
「浩之さん!?」
マルチは電脳連結で浩之の苦悶を気付いていた。マルチに影響が出ていないのは、異常値を示しても、現在のマルチはその値で正常に機能するよう自己調整している為である。
「――ふふっ、判るぞマルチ」
「な……!」
マルチは、目の前で不敵に笑うマルマイマー・シャドウを見た。
「浩之さんは、お前と電脳連結した所為で苦しんでいるのだな」
「――ど、どうしてそのコトを?!」
驚くマルチに、マルマイマー・シャドウは頭を指した。
「驚くコトはない。――わたしは、お前なのだから」
Aパート(その4)に続く